第17話 問答
「それで、シンジはどこから来たの? どうしてこんな所に居たの?」
「え?」
お互いの呼称が決まったところで、フィーリがある事を尋ねてきた。
「その格好……旅人や討伐者にしては装備やアイテムが見当たらないし、武器を持っていない状態でこんな所に居るのっておかしい話だよね」
彼女は、何も持っていない上に此処に居た俺に疑念を抱いているらしい。
周辺は民家一つも無い自然の真っただ中。そこで人が倒れていりゃ、事情を知りたくもなるはずだ。
おかしいと言われても、目が覚めたらいきなりこんな場所に居たしなあ。「現実世界からやって来た」なんて言っても彼女は信じないだろうな。
さっきだって俺がオリジンだーって言っても信じてくれなかったし。
でも質問に答えないと、怪しい奴と思われてしまうかもしれない。
助けが欲しい。自分の創った世界とは言え、此処の知識は薄い。右も左もわからず、孤立無援の状態で単独行動をするのは危険を招きやすい行為だ。
だからこそフィーリの助けを得る為、まず彼女の警戒を解いておく必要がある。
「俺は東の果てから旅してきたんだ」
「東……? 大陸の東かな? どんな名前の場所?」
そうきたか。まあこの流れなら普通に聞かれるよな。
うむ……どう答えようか。
「…………日本、です……」
「ニホン?」
正直に出身地を言ってみると、フィーリは首を傾げた。
「んー、聞いたことない。パニティアの東にそんな変わった名前の場所あったかなあ?」
あるはずがない。日本はこの世界に存在しないからな。
適当に言ってもどうかと思って素直に言ってみたけど、微妙な反応だ。
「でもそこから来たんだ? 食料とかお金は? 持ってないの?」
フィーリに問われ、身の周りを確かめる。
どこからも所持品はいっさい出ない。財布、携帯ですらもだ。
「……持ってないです」
「持ってないの? どうして?」
「どうしてと言われてもな……」
手ぶらでトールキンに転移されたんだ。何も持っているはずが無い。
一切所持品が無いのは厳しいものがある。武器も無いし、お金も無いんじゃ異世界に来てもロクな生活が出来やしない。
この世界の神なんだからチート能力やアイテムぐらいあっても悪くないと思う。
「どこかに落とした? それとも野盗に盗られた?」
「どっちも違う、と思う……」
「変なの。旅人というより放浪者じゃん。よくそれで旅できたよね」
「うぐ……っ」
遠慮なしに出て来た単語に、心をちくりとやられる。
ほ、放浪者か。神様なのに放浪者と言われるのはちょっと心が痛いなあ……。
「もしかして、辛い事があったから着の身着のまま彷徨ったとか? いずれにしてもモンスターがうろついている場所を歩くのは自殺行為ね」
返す言葉が出てこない。
「んー、なーんか怪しいなー」
すごく怪しまれている……!
見極めるようなフィーリの視線がちくちくと刺さってくる。不審なものの正体を探ろうとする目だ。
嫌な汗が滲み出てくる。苦笑いすら逆効果になりそうで浮かべられない。
マズい状況だ。不審な奴だと思われて放置されるのだけは勘弁願いたい。
「じぃー……」
そんな目で見ないでくれ。このままだとライフポイントがゼロになってしまいそうだ。
「…………ま、いいか。それじゃ、そろそろ行こうか」
しばらく張りつめていた空気は途端に緩み、何やら身支度を始めているフィーリ。レトにも呼びかけると、それに応じるように吠え返した。
この状況に遅れているのは俺だけだった。尋問はもう十分なのか?
「ほら、シンジも一緒に来て」
「一緒に来てって、どこへ行くのさ?」
「街だよ。君を保護して私たちが住んでる街へ連れて行くの」
保護? それに街へ連れて行くだって?
「俺を助けてくれるのか?」
「そうだよ。こんな所に置いていくわけにはいかないもん。だから助けるの」
「でも……さっき会ったばかりの赤の他人だぞ? しかも変な奴に見えるだろ? どうして助けてくれるんだ?」
「確かにシンジは変だし不審だけど……困ってる。違う?」
「……違わないな」
現にお金も何も持ってない。あるのは、いつの間にか着ていたこの服装だけだ。
「じゃあ助けが必要なんじゃないの。それとも、困ってる人を助けるのはおかしい事?」
困っている人を助ける。それはごく当たり前の事だ。俺だって助かったと感謝の念すら覚えている。
でも、だからと言ってどこの馬の骨かわからない相手にそこまでしてやれるものなのか?
「おかしくはないと思う、けど……」
助けてもらう立場でありながらも反論を覚えたが、口にするのは憚った。
気のせいか、彼女が崇高で……その姿が眩く見えたからだ。
何だろう。フィーリの内側からひしひしと出てくる、暖かみを感じるあの輝きは……。
後光にも似たそれは幻のようだったが、幻覚や見間違いとは違う気がした。
「余計なお世話だったら無理強いはしないよ?」
「いや……一緒に行くよ。助かった」
今は誰かの助けが必要だ。その手段が欲しかったのだからありがたい。
フィーリが見つけてくれなかったらこの先ずっと彷徨っていたかもしれない。そう思うと背筋が寒くなる。
「んじゃ決まりだね。ここは夜になると真っ暗だし、今もモンスターがそこら中に徘徊しているから長居は危険なんだ」
うげっ、こんなのどかな場所にモンスターがたくさんいるのか。
襲われるのは嫌だな……あっ、実際俺襲われているじゃん……。
「死にたくなかったら私にしっかりついて来て。街はあっちの方向にあるんだ」
フィーリは、さっきも見た一際高い山のある方向を指し示す。
だがその道は見通しが悪く、先に鬱蒼とした木々が立ち塞がっていた。
「……どうしてもあれを通らないといけない?」
「仕方ないよ。他に道は無いもの」
「…………」
心配だ。途中でモンスターに遭遇しないだろうか?
ついて来てとは言われたけど、もしモンスターに遭遇したらどうするのか? 俺は武器や戦う力を持っていないし、彼女には失礼な話だがあの隻腕と盾でどうやって駆逐するのか?
「じゃ、行こう」
「あ、ああ……」
不安が拭えないが、俺にはどうする事も出来ない。大人しくフィーリの後をついて行く事しか出来なかった。
「キュオ……」
その際レトが横から見上げてきたが、フィーリに気付かれない程度に軽蔑を送ってやった。




