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異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。  作者: ヨルベス
第3章 水の街

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第105話 スバラシキミニクイセカイ


 少女は天井を見つめていた。


 頬を伝っていた涙の筋はもう乾いている。シンジが出た後に気付いたことだが、初めて与えられた寝床はなんとも暖かい。


 ただ、胸の奥がざわついている。消えかけた火がちろちろと燃え残っている。

 暗い天井、無の静寂は嫌でも思い出させる。自分が此処でやったことを。


 また、ビィビィは怪物となった。


 自分を見失った。暴走を起こしてしまった。

 この手で、この牙で他人を傷付けようとした。大事にはならなかったが、シンジを傷付けてしまった。


 気分が悪い。思い出すのが辛い。

 彼は赦してはくれたが、あの場にいた人達は……自分の秘める凶暴な片鱗を目撃した者は未知なる者(じぶん)に寄り添おうとはしないだろう。


 だが──


『……できるかな』


 これで諦められない。自分に出来ることはまだある。


 彼は一つの道を示した。明日は謝ろう、と。

 謝る、ということを行動に移す。それが今の自分に必要なことだ。


 ヒトは……嫌いじゃない。


 仲良くなりたい。触れ合いたい気持ちはある。

 水面からヒトを見ていた。遠くからヒトを眺めていた。

 

 憧憬があった。願望を抱いていた。

 願いは叶った。シンジと接触したおかげでヒトと交流することができた。

 こんな機会を手放したくない。


 言うべき言葉は「ごめんなさい」。これで自分は赦してくれる。

 ありがとうは言えたとシンジは褒めてくれた。ならば謝ることもできるはずだと保証もしてくれている。


 恐れるものはないが……怖がってないといいなという気持ちも潜んでいる。

 決意の中に不安も入り混じる。もし上手くいかなかったら……。


『ご、ごめんなさい。ごめんなさい』


 暗中にビィビィは呟いた。


 誰にでも伝えるでもなく、弱々しく唱える。

 これはシンジが教えてくれた言葉。赦しを乞い、犯した過ちを贖う言葉だ。

 この言葉を言えば、きっと元通りになる。仲直りができる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……』


 言葉はより確かなものになる。

 忘れないように、間違えないように、自分に馴染ませるように呟く。新しいものを覚えるのは心地が良い。あの子達(、、、、)に教えたい。


 あの人達にしっかりと伝えるんだ。

 自分は、自分は……。




 その時──キイ、と。


 静寂が濁され、ソーラダイトの淡い光が扉を割る。

 そこから訪問者が身を出して姿を現す。それはビィビィの予想を裏切った。


『まだ起きていますか?』


 息を多めに費やした声で訊ねるのは、テレサだった。


 退室したシンジを見送った──自分の知らない女の匂いについて問い質したものの誤魔化され逃げられた──後、テレサはビィビィの居る部屋を訪れたのだ。


 目的は一つ。ビィビィという存在を、シンジに心を許した少女を理解したい。その心持ちで会いに来た……寝床を借りているロザリーヌを避ける目的もあったが。

 まだ眠っていないとわかるや、テレサは安堵を見せた。


 一方、ビィビィは緊張に包まれている。両者の間に噛み合わぬ温度差があった。


『あなたは……ビィビィ、ちゃんですよね? 先程ぶりですね』


 家の前でシンジを待ち迎えた人が自分を見つめている。

 暴れていた自負から怖くもあり、ビィビィは掛けられていた毛布に縋るように全身を覆い隠す。そこから半分だけ顔を出して警戒する。


『あ……あ……』


 いる。ヒトがそこにいる。シンジ以外の人間が。

 別のヒトとの接触。シンジは居ない。此処を離れている。


 そうだ。まず言うことがある。この人に謝らないといけない。

 この人に会ったら自分は……自分は……。



 あ、だめだ。



 うまく言えない。頭の中がかき乱される。

 身体が強張っている。謝ろうという気持ちがかき消されそうになる。


『どうかしましたか?』


 テレサが相手の仕草に何かを感じ取っている。それですらビィビィを焦らせた。


 何をしに来た? どうして来た? ビィビィの前に何故来た?

 帰って。離れて。早くいなくなって。今すぐ此処から出ていって。

 自分はあなたにとって危険なモノ。また傷付けるかもしれない。


 露にした凶暴性から遠ざけようとする声は届かない──が、


『……私が怖い、でしょうか?』


 眉が寂しそうに傾いた。

 会ってから時はまだ短い。信頼は築けていないというのに馴れ馴れしく近付いたのは尚早だったのではと、テレサは自惚れに恥じてもいた。


『あ……』


 哀しげな雰囲気が肌に伝わった。


 苦しい……。


 ビィビィの中でまたチクリ。明確な痛覚は出ていないが痛みを覚えた。

 傷の無い痛みは塞がらず、何もできなくて困ってしまう。


 違う、と声無く否定する。


 あなたが怖いんじゃない。怖いと思ったのは、あなたを傷付けてしまいそうになるから。自分はヒトではないのだから。


『でも……怖がる必要はありません。怖いものはありませんから』


 そのヒトは尚も近付いた。

 拒絶の意思を見せたのに、自分は怖いはずなのに、相手に畏怖はない。


『可愛い顔ですね』


 ソーラダイトの光が照らし、隣に立つテレサの手が頬に触れる。

 赤子に触れる手つきで、異形なる者の顔形を確かめる。ビィビィは何が何だか分からなくなった。


『あ、あっ……こ、こわくないの?』

『怖くなんてありませんよ。私のお父さんもあなたと同じようなものだったので』

『おとうさん……?』

『はい、私の家族です』


 お話を聞いてくれますか? とテレサは持ち掛ける。

 奇妙な話にビィビィは惹かれ食指が動く。両者の距離は進展した。





 ココルで起きた出来事は、冒険のような衝撃があった。

 テレサの亡くなった父が自分に近い存在として現れたこと。シンジがテレサの父を救ったこと、それらの体験談はビィビィに新しい風を送る。喜怒哀楽の全てを。


 シンジを好きになった。テレサを理解した。

 そして……悪行でシンジ達を苦しめたロギニはやっぱり嫌いだということを改めて抱いた。


『そういう事があったのでシンジさんはビィビィちゃんを気に掛けていたんです。私も……』


 だから怖くはない。恐れることはないのだと。自分に触れる芯を彼らは持っている。

 ソーラダイトの薄光はテレサの笑顔を映しだしていた。


 話を聞いているうちに緊張は解けている。テレサの身はビィビィの隣に身を寄せていた。

 寝床は両生類に近似するビィビィの体表を伝う粘液で湿り、その被害はテレサにまで及んでいるが小事と彼女は耐えに徹する。気にすることはないのだ。


『──』


 打ち解けることのできたビィビィは考え、この際にと決意する。腹に抱えていた事を口に乗せる。


『あ、あのね、お、おねえちゃん……っ』

『はい、なんでしょう?』

『ご、ご……ごめんなさいっ』


 言えた──。


 言われていたことを実践する。たどたどしいが謝罪の言葉を言いきってみせた。

 対するテレサは目を丸くし、その後に真意を汲んだ。


『よしよし。謝れて偉い、偉いです』


 微笑むテレサの手が頭に置かれる。

 善意に応え、慈しみを向ける。ビィビィの謝罪を受け、その行動を称賛する。


 謝罪の意は受け取ってもらえた。最良の形で。


 意外にも簡単で、悪いのは自分のはずなのになんと嬉しいことか。

 嬉しい。曇天としていたものが晴れていく。熱いものがこみ上げていく。


『触られるのは嫌ですか?』

『ううん、嫌じゃないよ。びっくりしただけ』

『そうですか。私のお母さんがこうやって撫でてくれたもので……こうすると落ち着くんです』

『お、かあさん……』


 なんだろう、この温かさは。

 シンジもテレサも温かい。自分が持っていなかったものを与えてくれる。共に居られることがこんなにも心地良い。


 これをあの子達(、、、、)にも分けてあげたい。この気持ちを教えてあげたい。


『フィンチさんもきっと仲直りできますよ。急なことでびっくりしただけ。難しく考えることはありません』

『ほんと? ほんとうにほんと?』

『ええ、本当です。だってビィビィちゃんは良い子なんですから』


 優しくも頑なものを感じる。それが証拠。

 そのとおりかもしれない。できる気がする。だってシンジが、テレサもできたと言ってくれたのだ。


『明日は今日よりも素晴らしい日にしちゃいましょう』


 シンジの知らない二人だけのひとときは、テレサがくれた勇気の魔法で締め括られた。






















 ………………暗い。




 幻影(ゆめ)は現実に蝕まれ、霧散する。

 ただ一人。此処は誰も居ない。


 お日様は差してこなくて、じっとりとした湿度は気持ちが悪くて、無音に近い空間は自分から出る音しか聞こえない。

 時の刻む感覚も失う孤独にずっと閉じ込められたまま。


 暗い場所は慣れている。けれど怖くて寒い。

 此処は、地獄だ。


『────、──』


 表向きには隠されていた空間。バルガーネが蒐集用、その中でも一際特別に設けた地下室にそれ(、、)は収容されていた。


 ヒトの園の中心に広がる水はない。あるのは冷たい石と鉄の牢獄。

 その中で縮こまり、怯え、震え、慄き。瞳は虚ろに沈み、嗚咽は憤怒にかき乱されていた。


 バルガーネに捕らえられた、かの者は愚行を被った。

 奇異の眼差しを浴び、刃を向けられ、切り刻まれ。常人が目を瞑るような蛮行を一身に受け、嘲笑と観賞の肴とされた。


 あまりに酷い仕打ちから、それ(、、)は内に潜む別の側面へ変わろうとしていた。


 言葉を忘れかけ、辛うじて発音を繰り返しているだけ。ヒトとしての意識は摩耗しかけている。

 絶やしてはならない。消してはならない。その理由さえ忘れそうになりかける。


 心の拠り所にしがみついて、しがみついて……しがみつく? いったい何に? 

 自分には何も無い(、、、、)のに?


『ああ、アア……』


 わたしは、わたしは……。




 ワタシハ、ダレ──?




 大事なものを忘れている気がした。

 薄れ、掠れ、ぼやけている。それが何であったか、濁りに濁りきった記憶の奥底からは取り出せない。


 ワタシハダレダ? ワタシノナマエハ……ナンダ?

 オモイダセナイ。ワカラナイ。ジブンハイッタイナニモノナンダ?


 ダレカガ、ヤサシクシテクレタ。ヨリソッテクレタ。ナニカヲアタエテクレタ。


 ……ワカラナイ、ワカラナイ。

 ワカラナイノニ、クルシイ。ワカラナイノニ、カナシイ。


 思い出すことですら、ぼんやりとしている。何を考え込んでいたのかが黒ずんでいく。掴もうとしていたものは黒の中へ消えていった。



「──よお、バケモンさんよお」



 重々しい扉から光が差し込む。その光はかつて見たものとは遠いものだった。

 ヒトだ。ヒトがいる。鉄格子の向こうでヒトが立っている。


「エサの時間だ。どうせ食わんだろうがな」


 男が二人。彼等は討伐を本業としていながらバルガーネに雇われた者達だ。

 その手に持っているのは給餌用の食事。飢えさせてはならんと雇い主の命令を受け運んで来ていた。


「おらよっ!」


 運んできた食事はすぐに地面に投げつけられる。何度やっても食事に手をつけず、この行動に無駄を感じていたからだ。


「本当に変わってんなあ。こんなバケモンなかなか見ねえよ」


 男達が異形の生命を凝視する。

 そこに理解と懇親は微塵もない。あるのは醜形な者への蔑みだけ。


「あの貴族サマもえげつない趣味してるよな。こんなバケモノを捕まえておくなんてよお」

「止せよ。俺らの雇い主にそんな事聞かれたらクビにされちまう」

「えげつねえのは間違いねえよ。だってコイツを痛めつけるんだからな。こうやって……なあっ!!」

『アギッ……! アァァァァ……ッ!!』


 男が弓を持ち、矢を放つ。矢は怪物を的として狙い留めた。


 イタイ、イタイ……!


 檻の怪物は痛みに呻き、のたうち回る。しかし、それでは死ねない。

 常人であれば致命傷になり得る負傷も苦しませるだけのものにしかならなかった。


「ひゃはははっ!! お前サイテーだなっ! 怒られちまうぜえ!!」


 男達は慈悲も後悔も抱いていない。鉄格子を隔てた向こうにいるのは、バケモノという認識。

 自分達のやっている事は、獣に石を投げ当てるのと同等。ストレスを解消し、嗜虐心が愉悦を生む。


 さながら見世物。笑い声が苦悶を上塗り、観賞と言う地獄(ごらく)に変える。


『ッ……』


 歯が食いしばり、ギチギチと軋んだ。



 …………ユルサナイ。



 自分の中で何かを繋ぎとめていた糸が切れだす。


 ユルサナイ。オマエタチモ、ナニモカモユルサナイ。

 キズツケルモノハ……ケス。


『コ────』


 苦痛に転げまわっていた身体が、ゆらりと立ち上がる。

 ぼそぼそと動く口は一定の音を繰り返し、檻の外で笑い転げていた敵に身体を向ける。


『────シ──ヤル』

「あ? なんだ?」


 オマエラハ、キライダ。ダイッキライダ。

 ■■■■ヲイジメルモノハ、ケシテヤル。


 コロス、コロス、コロス。


『コロシテヤル──!!』


 繋げていた糸が切れに切れ、最後の一本がとうとう切れた。




 ■■■■は怪物となった。




『──────ッ!!』


 地下室全体が耳を塞いでしまうほどの叫喚で震える。鉄格子を膂力をもって檻を捻じ曲げる。


「ひっ……!!」

「バケモンが……出てきやがった!!」


 シネ、シネ。シンジャエ──!!


「おげっ……!!」


 檻から飛び出してすぐに一人を殴り飛ばし、だらんと動かない人形に。

 すかさず、矢を放とうとしていた二人目に掛かり、反撃を許さない状態に追い込む。


 ……嘲笑に塗れていた表情が怯えに怯えている。


 助けてくれ、とか、やめてくれ、とか言ってきたが、そのような訴えは耳に届かない。猛獣が獲物を仕留める時、鳴き声を聞いて止めるものか。

 命乞いに意味は無い。尤も、理解することもない。


 怪物はグチャグチャにしてやった。

 四肢を捥ぎ、内臓を撒き散らし、形を失うまで手先を動かす。どんな痛みも感じることなく。


『────』


 形のあったものが形を失っていることに漸く気付き、無意味と手を止める。

 だが、真っ赤な怪物は止まらない。次なる敵を求めて通路を目指す。


 扉が突き破られる。進んでいけば、ギラギラとした飾りと調度品が目に入った。



 ──なんという悪趣味で、目につくもの全てが醜いんだろう。



「な、なんだ……!?」

「脱走か!?」


 異音を聞きつけ、人間がぞろぞろと駆け込む。これらもバルガーネの手下たちだ。


 ジブンヲイジメルモノハ、ユルサナイ。

 キエロ、キエロ。シネ、シンデシマエ。

 オマエラハ、キエテモイイソンザイ……ナンダ──!!


「うぎゃあっ!!」


 鮮血が飛び散る。一人、また一人。

 肉を裂き、骨を断ち、その命を潰す。動ける者がいなければ敵を求めて動く。その身は憎悪と狂乱に突き動かされていた。


 怪物は疾走する。自身を閉じ込めた者達を

 怪物は害する。自身を傷付けた者達を。


 走って、見つけて、傷付けて、命を潰す。誰であっても関係ない。


「なっ、あぎゃっ……!?」


 ニクイ、ウラメシイ。

 コイツラガユルセナイ。ニンゲン(、、、、)ガユルセナイ。


 イナクナレ。イナクナッチャエ──!!


 遭遇した者は手当たり次第に刈り取り、血と肉の世界が作られる。もはや数では怪物を抑えられなくなっている。

 バルガーネの耳に届くのも時間の問題だった。


「あれ? お前……」


 そんな時だった。


 前方、突き当たりの角から顔が覗き、また一人現れる。

 男は怪物を見て驚いていた。


 彼もまたこの家を徘徊する者。ならば、敵。

 敵は殺す。コロシ──



ビィビィ(、、、、)!? なんでお前がいるんだ!?」



 反射的に硬直する。

 ■■(なまえ)を呼ばれた気がした。


 男は今まで殺した者達と違い、奇妙な言動で接触を図ろうとしている。そこに敵意も殺意も無い。


 頭が痛い。胸の内側が痛い。ナニカが痛い。


 ある男に付けられた原初の祝福。誰もが最初に与えられる形無き宝。

 その名前を呼ぶのは、自分を愛してくれる者達。怯えず、震えず、優しい言葉をかけてくれた者達──もう、その顔を覚えていないが。


『アア、アア──』


 混乱する■■■■(かいぶつ)。しかし、次の瞬間には憤りを覚えていた。


 ダレダ、オマエ……!?


 ヤメロ、ヤメロ。

 ソレデヨブナ。オマエガヨンデイイモノジャナイ。

 フユカイダ。キエロ、ウセロ。


 シラナイ。オマエナンカシラナイ。

 オマエナンテ、オマエナンテ……。


『オマエナンテシラナイイイイイイイイィィィィ──ッ!!!!』


 搔き消すように轟かせ、足が地面を蹴った。


「待て、ビィビィ──」


 小さな身体がその身に詰まった怪力をもって顔の知らない男に接近する。爪で薙ぎ、胴を切り裂いた。

 妙な言動をした男は壁際に背中を打ち、頭を垂れる。


 …………妙に手応えが悪かった。


 感触が悪いのではない。漠然とした気持ちの悪さ。

 これまでと同じ。ただ嫌いなニンゲンを殺しただけ……なのに後味が妙に悪い。


「のおっ!? これはいったい……何が起きている!?」


 一度は理性の戻りかけた目が、くるっと通路の先に立つ男に誘引された。


 惨状を見て顔色を変えたのは、でっぷりした体型でこの家の何よりも醜い者。

 檻に閉じ込めた、この家の主のバルガーネだ。



 アノカオ、オボエテル──。



 憤怒が熱を上げる。

 曖昧とした記憶に強く残り、写し出されたものと合致する。

 自分を傷付けた一番の原因だ。


 一歩、赤い足跡を残す。バルガーネに向けて数を増やす。

 赤い指先があの男の血潮を求めている。


「おい、早くコイツを捕らえろっ!! 脱走しておるぞっ!!」


 非常な事態にあってもバルガーネは愚かしいまでに捕獲を喫緊としていた。


 アイツ、ヒドイニンゲン。

 トモダチヲツカマエテ、キズツケタヤツ。■■■■ヲツカマエテ、キズツケタヤツ。


 アイツニヒドイコトサレタ。トッテモヒドイコトサレタ。

 ニクイ、ニクイ。ニクラシイ。


 オマエモ、コロシテヤル──!!


 殺す。殺す。なによりも惨たらしく殺してやる。

 これまでにない殺意に燃え上がる。狂乱の爪が、図らずも怪物を仕上げてしまった張本人に及ぼうとしていた。


『ガッ……!?』


 バルガーネを亡き者にしようとした爪は届かない。身動きが突然と停止した。

 それはプルプルと震えながらも全身で怪物を止めている。おぞましい力を発揮するその身体を必死に止めている。


 相手は自分の手で殺したはずの男。だが、その顔はさっき見たものとは異なっていた。



「やめろ──」



 その男は、シンジだった。



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