いつの間にか『~の巻』ってつけるようになってた!の巻
「はい、もすもす?」「あ、間違えました」
…
僕の名前は早良和輝。高校二年生。一言でいえば、目立った取り柄もないザ・普通な少年です。目の前にいる金髪オールバックの不良少年は黒崎健吾くん。僕の同級生で、ヤンキーとオタクのハイブリッドな変わり者。僕たちがいるのは新撰部という部活動の部室。まぁ、学校の屋上なんですけどね…
バキッ!
「うぉっ!?」
黒崎くんのジャブが僕のわき腹にめり込む。今日ものっけから大波乱の予感です…
「げほっ!げほっ!ひ…ひどいじゃないか!黒崎くん!いきなり殴るなんて!」
「バカ野郎!ゴッド・ドラえもん様を呼び捨てるとは、神への冒涜だ!」
「神…?」
「そうだ。あの御方は日本のアニメ界を引っ張ってこられた三大神に含まれる」
またわけわかんない俺ルールが炸裂しちゃってますね…
「ドラえもん様、アンパンマン様、サザエ様。これが日本のアニメ三大神である」
最後の人、タイトル自体が変わっちゃいますよ。
「ちびまる子ちゃんは?」
バキッ!
「はぉあ!?」
「無礼者!ちびまる子様を含めた四天王への冒涜だぞ!」
増えてる!?
ガチャン。
この屋上へ来るのに必ず通らなければならない、階段からの鉄扉が開いた。
「やっほー、二人とも。やってるねぇ」
「お、お疲れ様です。早良先輩、黒崎先輩」
二人の美少女。小柄な身体、セミロングヘアを二つ結びにしているのが、学内一のアイドルこと久留米理沙さん。もう一人の長い金髪で蒼い目を持つ美少女は、一年生でイギリス人とのハーフの朝倉浮羽さんだ。彼女たち目当てに、ちょいちょいこの部室を訪れる男子生徒も少なくない。
「では、部活動を開始します」
部長の僕の号令で、今日も新撰部が始動いたします。黒崎くんや久留米さんはスマホを取り出してゲームに興じ始めていますな。うんうん。仲がよくてよろしい。うきはが手にしているのは、倫理の参考書かな?関心関心…
ん?えっと…
「あの…僕たちって、まだ大して活動してなくないか?」
失念していた!学内の不仲を取り持ち、明るい学校にしていくという目的をっ!
「活動してんじゃん」
「ゲームだろぉ!?」
「あの、それなら一つ、提案してもいいですか?」
うきはが手をあげた。
「はい!うきは!」
ビシッと指をさす。
「ありがとうございます!えっと、ケンカや諍いとは少し違うんですが…私のクラスに変わった男子生徒がいるんです!」
「変わった生徒?」
「はい。百聞は一見にしかずと言いますから、ちょっと私のクラスまでご足労願えませんか?」
「なんだ?もう放課後なのに教室にいるのかよ、ソイツは?」
黒崎くんがスマホをしまった。面白そうだと思ったのは間違いない。
「いるというか…とにかくお願いします」
…
一年六組の教室。生徒の姿はなく、目立っておかしなところもない。
「ん~?誰もいないねぇ」
久留米さんが適当に選んだ机の上に座り、ぶらぶらと脚を揺らしている。
うほっ!?ぱ、パンツが…くっ!見えない!って何考えてんだ僕はっ!?
「見ろよ!この席、ノートパソコンおきっぱなし!あぶねーなぁ!盗まれちまうぜ?」
「あ、黒崎先輩。その席の生徒なんですよ!」
「あー?」
確かにパソコンを机の上に置いて帰るなんて不用心だけど、何がおかしいんだろうか?
黒崎くんがノートパソコンをパカッと開く。あーあ、勝手に触っちゃって。
『なんですか?』
「のわっ!?」
ひっ!?パソコンから男の声が!?なんだなんだ!?
『誰ですかあなた』
「はっ!?俺!?なんだこのパソコン!」
『わが輩のラップトップPCです』
会話出来てる…?パソコンを開いた時にセンサーが働いて、画面上部のカメラが映っているのか。僕はパソコンは専門外だけど、なんてハイテクな…
「ごめんなさい。こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないの…」
黒崎くんが綾波レイの名ゼリフで返してる!?
『笑えば…いいと思うよ』
成立したぁぁぁ!いやっふぅぅ!
「で、お前だれ?」
『一年六組の大牟田翔平。出席番号四番』
「俺は二年三組の黒崎健吾だ。出席番号は…忘れた」
出席番号を自己紹介に含むルールなんてありましたっけ。
『先輩でしたか、失礼』
「翔平、これどうなってんだ?すげーな、おい!」
じろじろとパソコンを見回しながら黒崎くんが言った。目がキラキラと輝いてるよ!まるで幼い子供のようだ!
『なんてことはありませんよ。触れられたら自動で音声通話が立ち上がる仕組みです。それをわが輩はスマートホンか自宅のデスクトップPCから応対出来る』
「すげぇぇ!自分でこのプログラム組んだのか!天才だな!」
『それで、何か用ですか。あと、顔近いですよ』
あ、やっぱり向こうからは見えてるんだ。僕らには真っ黒な画面しか見えないけど。
「おぉ、そうだった!うきは!」
「はい、彼…大牟田くんは、授業中もずっとこんな感じなんですよ。ちゃんとパソコンを介して受講はしてるみたいなんですけど、ほとんど姿が見えないから心配で」
マジすか!?確かにカメラは黒板側にも向けられてもう一台ついてるみたいだけど…黒崎くんのバイクもだし、この学校なんか緩すぎませんかね!?
『だいたいは校内の男子トイレにいます』
出て来いや!そこまで来たんなら!
「何か理由があんのか?イジメでも受けてるんなら俺達が力になるぜ!」
これは心強い言葉だ!見直したよ、黒崎くん!
「そ、そうだね!大牟田くん、だっけ?僕は二年三組の早良和輝。僕らは新撰部といって、学内で困っている生徒の手助けをしているんだ」
『新撰部なら知ってます。確か…学内の二大ヒロインをエサに、男子生徒の目の保養をするボランティア団体ですよね』
違う違う違うっ!しかしそんな噂が流れてんのかよ!?
「目の保養…?おう、あながち間違ってねぇな」
「二大ヒロイン?あたしたちが?えへへ…く…くまぁ…」
そこぉぉぉ!容認するんじゃぁない!
「違うよ!?本当にイジメやケンカが無いのか調べてるんだよ!大牟田くんは平気なの?わざわざトイレから授業を受ける事を望んでいるのかい?」
『おかまいなく』
「かまうよ!まだ、入学して1ヶ月じゃないか!その…理由くらい聞かせてもらえないかな?」
僕達は一人でも多く、この学校を笑って卒業出来る生徒を作らなければならないのだから。
『イジメや嫌がらせを受けているわけではありませんよ。ただ…』
「ただ?」
『人と話すのが苦手でして』
えーと…今すっごい喋ってますが。
「あ、面と向かって話すのが難しいって事なのかな?電話の声だとそうは感じないからさ」
『そうです』
「今のままで学校が楽しいんなら、僕らからしてあげられる事はないけど…」
重要なのは本人がどうしたいのか、である。僕達が大牟田くんに何かを強要するのは間違っていると思うから。
「あの…大牟田くん。私、同じクラスの朝倉浮羽です。分かりますか」
『こんにちは、朝倉さん』
うきはが僕に代わって話し始めた。
「ごめんね。今回、先輩方にお願いしてここに呼んだのは私なんです」
『構わないさ。でも、どうしてわが輩なんかの事を気にかけるんだい。放っておけばよいものを』
少し間をおいて、深呼吸をする。
「私は…ずっと一人だったの」
『まさか。冗談だろう。わが輩にはそうは見えないが』
うきはは人気者である。少なくとも彼女を狙っている男子生徒には、だけど。
「ううん。今だってまだ途中なんだ。私は目立つから、確かに言い寄ってくる男子は多いかもしれない」
ぐはっ、ごめんなさい。今まさにそれ考えてたんですよね。
「でも、どこにいても何をしても誰もが私とは距離を置いている気がするの。あの子は特別だから…って。私の場合もそれはイジメや嫌がらせでは無かったけれど、心はいつも一人だった。…でも、ここにいる先輩方は、そんな私を普通に扱ってくれたんだ。新撰部は勧誘イベントのPRの通り、本当に新撰部だった。早良先輩や黒崎先輩は、他の男子みたいに言い寄ってきたりしないし、久留米先輩は私を妹みたいに可愛がってくれる。差別の無い付き合いって、逆に言えば特別扱いをしないって事なんだけど、それって本当に大事なことなんだと思う」
う…うきは…なんだろう、目から汗が出そうです。しかし、新撰部ってそう考えると哲学的ですなぁ…
「よっしゃぁ!またまたレアな奴ゲットぉ!」
こらこら!今イイ話してますけど!?
「うふふ…おかしいでしょう?でも、こんな感じが普通のお友達だと思うんだよね」
いや…多分その人は普通じゃないです。
「大牟田くんは私とは状況は違うかもしれないけど…学校って、いろんな人と普通に接するチャンスを与えてくれる、数少ない場所だと思うんだ。大人になったら、何十年も毎日同じ人達と働くって事も少なくないだろうし」
『わが輩はプログラマー志望だ。そうなる未来は手に取るように見えるな』
なるほど、しっかりとした夢はあるんだな!応援するよ、大牟田くん!
「新撰部に入らない?」
『えっ…』
「そ、そうだよ!大牟田くん!僕も人付き合いが苦手で、友達なんかいないままで卒業してもいいやって思ってたんだ!今も、どちらかというと苦手…それでもさ、なんだか分からないけど、今は今で楽しい気がする!曖昧でごめん!」
うきはに比べてつまらない言葉しか出てこないんだよなぁ…つくづくボキャブラリーに乏しいよ…
『なぜ、わが輩なんですか?たとえ入部したところで、力になれるとは思いません。お互いにデメリットしかない』
「あ、うーん…えっと…」
返す言葉が見つからないぞ!なんて情けないんだ!
「あなたとお友達になりたいからだよぉ!それだけなりぃ!」
『え!?…わが輩と!?』
久留米さん!素敵だ!わが輩っていう大牟田くんに合わせたのか、ちょっとコロ助っぽかったけど!
「翔平。お前、ブラックモンブラン好きか?」
『はい?まぁ…たまに食べますが』
「ウチの部室まで食いに来い。だいたいみんなで食ってる」
黒崎くん!?イケメンすぎる!
「大牟田くん。プログラミング、授業でも少し習うし、私にも教えて欲しいな…?」
『う、うん…少しくらいなら』
うきは!それむしろ友達通り越してキュンキュンさせちゃうよ!?まぁいいかっ!僕も何か伝えなきゃ!
「うーん…普通の友達ってさ、思ってる以上に大事な宝物になると思うんだ。だから僕達と…」
ガラガラッ!
はぅ!?このタイミングで誰か教室入って…!?はずかしっ!
「わが輩は…変われるだろうか」
えっ…?お、大牟田くん…なのか?
背は低いが、がっしりとした体つき。短い髪をところどころ赤く染めたオシャレさんなんだが…何にしろ男前だな畜生!それで友達出来ないなんて贅沢ですぞ!?しかも僕のセリフ聞いてなかっただろ絶対!
「変わるんだよ」
ガシッと黒崎くんが彼の右腕を掴み、みんなの前に連れてくる。
「大牟田くん!」
うきはが笑う。くっ…かわいいっす…
「翔平だっけ!あたし、久留米理沙!」
久留米さんが彼の左腕に手を回す。これはもう逃げられないぞ!
「大牟田…翔平です…よろしくお願いします…」
「和輝!」
「うん!新撰部へようこ…」
「アイス買って来い!」
「は、はい…」
こうして僕達は、五人目の部員、大牟田翔平を迎え入れる事になった!
…部長はパシりじゃありませんよ。