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どっきどき!?バス旅行!の巻

混浴の温泉にはババアしかいない罠。

 …


 皆さんこんにちは。毎度おなじみ、早良和輝です。

 ただ今、大型バスの車内で揺られております。

 本日は、二階堂高校二年三組の職場見学バス旅行!旅行とはいっても、県内の工場や企業をウロウロして回るだけの日帰りツアーなんだけどね。


 それはさておき。


「おらぁ!全員おとなしくしないとぶっ殺すぞ!」


 はい。なぜか凶悪犯にバスジャックされてます。


「きゃあ!こ、来ないで!」


「落ち着いて下さい!」


 突如乗り込んできた刃物を持った男に、車内は騒然。ぼ、ぼぼ…僕だって怖いですよ!?


「運転手!空港だ!空港に向かえ!」


「は、はいっ!」


 犯人は車内前方。ドライバーの真横でナイフを突きつけています。要求は謎だけど、早く解放して欲しい…生徒達は当然、みんなガタガタと震え上がって、身動き一つ取れない。


「よっしゃ!ガチャで超レアな奴ゲットしたぞ、和輝!」


 隣にいる金髪のガラが悪い同級生、黒崎くんだけゲームに夢中で気づいていませんが…


「は…はは…良かったね…」


「なんだよ?具合でも悪いか?」


「…あれ」


 震える手で前方を指差す僕。


「あ…?」


 黒崎くんが、ようやくバスジャック犯に気づいた。


「はははは!なんだありゃ!?虚無僧!?もじぞー、そのコスいけてるじゃねぇか!」


 大笑いする黒崎くん。それもそのはず。バスジャック犯は、金色の袈裟をかけた黒い装束、顔には円筒形の籠…なんで虚無僧の格好なんですかね…


「く、黒崎!静かにしろ!」


 運転席のすぐ後ろの席、門司先生が立ち上がり、振り返って注意してくる。


「あれ?もじぞーいんじゃん。アイツ誰?」


「おらぁ!担任!動くなっつったろ!?」


 ビュッ!!


 ナイフが門司先生の腹部に突き立てられる。う…嘘だろ…!?女子生徒の悲鳴がいくつも上がった。


 パキィン!


 確実に大怪我を負わされる!誰もがそう思ったが、なんと、ナイフが大きな音を立てて折れてしまった!ど、どういう事ですか!?


「な!?なんだお前!?」


 ゴッ!


 次いで、ナイフが折れた事に驚いた虚無僧が門司先生の顔を殴りつける!お願いだからやめてください!


「うぉげぁふ!?」


 ボタボタボタ!


 血!血が!先生の口から血がすごい出るんだけど!刃物が効かないのに打撃に弱いとかわけわかんないよ!?


「ゆ…輸血…」


 先生の卒倒を確認!


「ん?何を怒ってんだアイツ?てか、誰だよあの虚無僧コスは?」


 まだコスプレだと思ってるんですか…


「バスジャック犯だよ…!ナイフ折れちゃったし、黒崎くん倒せないの!?卍解(ばんかい)とか使っちゃってさ…!」


「黒崎だけに!ってか?それよりモンストやろうぜ」


 バスジャックの意味わかってますかあなた!?


「おい!そこの二人、うるさいぞ!黙れ!」


 ぎゃぁぁ!


 最後部の僕たちに、虚無僧が怒鳴り散らしてます!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!


「ふん…」


 前を向いてくれました。助かった…


「だからアイツ誰?」


「し、知らない人だってば…バスジャックされてるんだよ…?」


 小声で諭すように黒崎くんと話す。籠を被っているからか、視覚も聴覚も鈍っているらしい。

 このくらいの声のボリュームならば、気づかれる事はない。


「なんで虚無僧が?」


「知らないよ…」


 僕が訊きたいくらいですよ!なぜ聖職者である僧侶が罪を犯すのか!


「おい!マスク・ド・虚無僧!」


 え!?とうとう他人にまで妙なあだ名つけ始めちゃうの!?ていうか、何してるんですか!呼びかけるなんて!


「あぁ!?なんだ、ボウズ!」


「坊主はてめーだろうが!虚無僧!」


 上手い!座布団一枚!って、こらこら!


「なめやがって…!」


 あぁぁぁ!とうとうこちらに向かって来ちゃいましたよ!


「…このクソガキ!」


「それっ!」


 パコッ…


「あ…」


 黒崎くん…籠取っちゃいましたけど…


「はにゃっ!?なななな…何をするの!?み、見ないで!お願いだから見ないでっ!」


 顔を露わにしたのは、やはりツルツル頭のお坊さん。歳は三十代前半といったところか。しかし…素顔になった途端にオネエっぽい喋り方になっちゃいました。なにこの人…


 パコッ。


「おらぁ!ぶっ殺すぞ!」


 パコッ。


「いやぁん!そんなに見ないでってばぁ…」


「くっ…そ、おもしれぇぞ…コイツ…!らんまみてぇだ…!」


 笑いをこらえ、プルプルと肩を震わせながら籠を被せたり取ったりする黒崎くん。あの…状況を理解するのに、僕の頭では追いつきません。



「えーと…つまり、この籠が、お前をおかしくしたって?カマ坊主」


 ひとまず大型車が入れるコンビニの駐車場にバスを停車してもらい、車内で黒崎くんによるバスジャック犯への聴取が始まった。なぜすぐに警察に届け出ないんでしょうか…


「籠じゃないわ!天蓋(てんがい)よ!」


「正式名称なんてどうでもイイんだよ!この籠が何だってんだ!?」


 クラスメートや運転手さんが見守る中、そんな会話が続いていきます。倒れているのか姿は見えないけど、門司先生大丈夫かな…


「この天蓋は呪われているらしいのよ!あたしの寺に保管されていたのだけれど、興味本位で被っちゃったの!」


「それがバスジャックする動機になんのか?わけわかんねー」


「この天蓋は…被った主の性格を真逆に変えてしまう、逆転の天蓋と呼ばれる仏具なのよ!」


 しーん…これ、どうリアクションしたら…


 パコッ。


「何回も言わせんなおらぁ!」


 パコッ。


「きゃん…!だから、遊ばないでちょうだい!」


 つまり、なよなよして女々しいオネエのお坊さんがこれを被り、暴力的で荒々しい犯罪者になってしまった…?


「おめー、ふざけてんだろ?」


「ち、違うわよ!試しに誰かに被せてごらんなさいな!」


「誰か…?りさっくま!」


 唐突に黒崎くんがクラスの学級委員長で学内一のアイドルである、久留米理沙さんの名前を呼んだ。


「えー?やだよぉ」


 数列前の席から、ぴょこっと顔を覗かせた久留米さんが首を横に振る。あぁ…いつ見ても小柄で愛くるしいなぁ…


「いいからいいから!よっ!学級委員長!」


「もぉ!ちょっと被るだけだからね!」


 頬を膨らませ、彼女が最後部の僕たちの席へとやってきた。でも、久留米さんの真逆に当たる性格ってなんだろう?想像もつかないな。


 パコッ。


「あのか~ね~うぉぉぉぉ~!鳴らすのは、あな~た~!」


 はっ!?本当におかしくなっちゃったぞ!そしてこの男勝りな低音ボイスと、この曲はぁっ!ロリ娘の真逆の性格として、ピンポイントであの芸能界のドンをご指名だとぉっ!?


 パコッ。


「はっ!あたし、なにしてんだろ…」


「マジかっ!?すげーぞ、この籠!」


 久留米さんがふざけている様子は無い。どうやら本当にこの籠がオネエ坊主を極悪虚無僧へと変えてしまったようです。呪いこぇぇ…


「和輝、お前も被ってみろよ?真逆になれるらしいぜ?」


「い、いや!いいよ!遠慮しとくよ!」


 むりむりむりむりかたつむり!性格が変わるとか恐ろしすぎるよ!


「うるせぇ!被れっ!」


 パコッ。


 あああっ!…って、あれ?


「なんだ?何も変わらねーな…」


「う、うん…」


 あの、視界が悪くなった以外、特に変化が無いんですが…


「あなた!普通なのよっ!」


 お坊さんが僕を指差して騒ぎ出した。


「普通?」


「普通の性格の人には、真逆なんて無いでしょう!?なんっにも特徴がなくてつまらない性格だから、この天蓋を被ってもなんっにも変わらないんだわっ!」


 えー…超失礼なんですが…まぁ…いいか。とことん普通で取り柄の無い性格なんだと確認できましたよ。とほほ…



 結局、お坊さんは籠を被っていたせいでおかしくなっていたからこのまま帰すことになりました。もちろん黒崎くんの独断でございます。もう勝手にして下さい…


「それじゃ、あたしが責任を持ってこの天蓋は焼却しておくわね!」


「なんだよ、おもしれぇから欲しかったのによ!」


「うふっ。おイタはダメよ、ボウヤ?しかしあなた、よく見たらイイ男じゃないの?番号教えてくれないか・し・ら?」


 この期に及んで黒崎くんを逆ナンパしてるよ、このオネエ坊主…いや、逆ナンパ?あれ?順も逆もないのかなこの場合?あぁややこしいっ!


「いいぜ」


 そして教えるのかよ!?おかしいだろそれ!?


「いやー楽しかったな!職場見学も捨てたもんじゃねぇぞ!」


 帰り道。バスに揺られる二年三組は、はしゃぐ黒崎くん以外はぐったりの様子です…


「はは…色々騒がしい旅行だったね…」


「面白い奴の番号も手に入れたし、今度アイツの寺に職場見学ってのも楽しいんじゃねーか?」


 それは本気で勘弁して!そう思ったのは僕だけではないでしょう。



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