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新入部員、朝倉浮羽!の巻

そこにしびれる、憧れるぅ!

 …


 僕の名前は早良和輝。十六歳の高校二年生。見た目は地味で、ゲームとアニメオタクな以外には何の取り柄もありません。しかし、ひょんなきっかけから転校生の黒崎健吾くん、学級委員長の久留米理沙さんと一緒に『新撰部』という部活動をやる事になりました。部長まで任されちゃって、穏やかなまま過ぎていくはずだった僕の高校生活は、変わってしまったのです…


 ガチャン。


 放課後、部室である校舎の屋上へとやってきた僕。すでに黒崎くんと久留米さんはやって来ていた。


「りさっくま!あの、あれなんだっけ?あのキャラの名前…子供チャレンジ的な、しましまトラのかわいいやつ」


「え?あー…とらじろう?」


「それそれ!とらじろうだ!スキスキスキップ~」


 ちょっとそれ名前違うよ!?男はつらい人だよ!?いつからチャレンジ島は葛飾区柴又に引っ越したんですかね!?


「あはは…えーと、二人とも。ごきげんよう」


「ごきげんよう~!クラス同じだから、さっきぶりだけどね」


 僕の到着に、久留米さんが微笑んでそう返してくれた。あぁ…癒される…


「バカか和輝、お前!」


「へっ?」


「ごきげんようの奴はライオンちゃんだろうが!今はとらじろうの話をしてたんだからな!」


 あ、その話題もう大丈夫なんで。


「ところで朝倉さんは?まだ来てないのかな」


 新入部員の朝倉浮羽さんは、今日からこの新撰部の仲間になる。


「まだみたいだぜ。いきなり社長出勤とは、なめやがって!ビシバシしごいてやるとするか!」


「ねぇ。朝倉さんって、だれ?」


 先日のイベントに参加していなかった久留米さんが首を傾げる。うおっ!その困った顔いただき!りさっくまマジかわ。

 あ。りさっくマジかわ。


「黒崎くん、話してないの?」


「ストライクショット!」


 話していないようです。



「お、遅くなりました!」


 数分後。階段から屋上につながる鉄扉が勢いよく開いた。


 金色に輝く長いブロンド。澄み渡るような蒼い瞳の美少女、朝倉浮羽さんだ。


「おせーぞ、新入り!」


 ガラ悪くヤンキー座りをキメる黒崎くん。今の今までスマホいじってましたよね?


「やぁ、よく来てくれたね」


 そういう僕もパイプ椅子に座り、脚を組んでカッコつけていたりする。ワイングラスでも持っておけば完璧だったな。


「はい!今日からよろしくお願いしま…」


「きゃあーー!!お人形さんだーー!!」


 ややっ!?突如、久留米さんが黄色い声を上げながら朝倉さんに抱きつきましたぞっ!


 こ、これはたまらん!


「あ、あの…」


「はっ!ごめんなさい!か、かわいくて…」


 うんうん。その気持ち分かるよ。美人だよなぁ…


「え!?そんな、私なんて…あれっ!まさか、ハイスクールクイーンの久留米理沙先輩ですか!?」


 ハイスクールクイーン?なんでしょうかそれは。


「おっ!君!あたしの事を知っているのか!しかし、かわいい後輩ちゃんだ…くまぁ…」


 朝倉さんに抱きついたまま、自然とふわふわしちゃいました。


「あれ…あの…?」


「あー、気にすんな。おい!りさっくま!くまってんじゃねぇぞ!」


 へー、この状態『くまってる』って言うんだね。


「朝倉さん、ハイスクールクイーンって?」


「知らないんですか!?地元の雑誌が各高校のナンバーワン女子高生を読者投票で決めるんですよ!それで去年、久留米先輩は二階堂高校の女子高生人気第一位に選ばれたんです!有名人ですよ!」


「くまぁ…」


「そうなんだ…雑誌はよくわからないけど、学内ではアイドルだよね」


 本人は夢心地ですが。


「学内どころじゃないですよ!そこら中の女子高生達の憧れなんです!」


「その憧れの先輩はお前にくまってるけどな」


「くまぁ…」


 くまってる久留米さんのトランス状態が正常化され、僕達四人は白いテント下の椅子に座った。長机も用意したので、さながら体育祭の運営本部!みたいな感じですね。


「そ、それじゃ…今日は朝倉さんの歓迎って事で、みんなでブラックモンブランでも食べながら自己紹介をやろうか?」


「おっ!いいじゃねーか!」


「あたしも賛成くまぁ!」


「ブラックモンブランですか!私も大好きです!それから『うきは』でいいですよ、早良先輩!」


 えぇ!?よよよ…呼び捨て!?しかも下の名前で!?妹の彩名くらいしか呼び捨てた事ないよ!?さすが国際派…フランクなんだなぁ。


「う、うん。じゃあ、買ってくるからみんな待ってて」


「私も行きます!一緒に行きましょう、部長!」


 い…イイ子すぎる!他愛も無い事なのに、僕は感激です!生まれてきて良かった!


 売店がある一階まで、階段を二人で下りながら歩く。デートでも無いのに、妙に緊張しちゃいますね。


「そうだ。入部届、持ってる?預かるよ」


「ありますよ。はい、これです」


「ありがとう」


 受け取った入部届を学ランの内ポケットにしまう。後で門司先生に提出しておくとしよう。


「ブラックモンブラン、お好きなんですか?」


「え?そうだね。ウチはみんなでよく食べてるかも。黒崎くんなんか、ブラックモンブラン部にするか!とか言ってたし」


「あははっ!アイス食べるだけの部活動になっちゃいますよ!」


 口に手を当て、クスクスと笑う朝倉さん。リアルの女の子も捨てたもんじゃないんだなぁ…

 二次元もいいけどね!


「生徒会には行ってみた?飯塚先輩が遊びにおいでって言ってたよ」


「あ、行きましたよ!あちらもお手伝いさせてもらう事になってます!大丈夫ですよね?」


「もちろん!気にせず掛け持ちしてくれてイイよ!」


 すでに行ってたか。こんな明るい子なら、あっちでも人気者間違いなしだな!


「着いた着いた。おばちゃん、ブラックモンブラン4つください」


「あいよー」


 ビニール袋にそれを入れてもらい、お釣りを受け取る。はっ!?なんか、自然とおごってしまってないか!部費としていくらか生徒会に請求せねば、僕は破産してしまいます!お小遣いは毎月三千円なんだからね!


「持ちましょうか?」


「いや、このくらい大丈夫だよ。戻ろうか」


「はいっ。えへへ」


 …む?屋上に向かうのはいいんですが…なんか、腕に温かくて柔らかい感触が…


 チラッ。


 …って、あれぇ!?朝倉さんから腕を組まれちゃってますけど!?なぜにホワイ!?そして胸!胸が当たっておりますゆえ!!


「あの!?うきは!?突然いったい何をしてらっしゃるのかな!?」


「あ、すいません。迷惑ですか?」


 迷惑ではないですが、たどり着く前に失血死しますよ!?


「あ、ほら、アイスが溶けちゃうし…」


「あっ!そうですね!すいません!」


 彼女がパッと腕を放し、僕は解放されました。ふーっ!危ないところだったぜぇ…鼻血だらだらで現れては、黒崎くん達のイイ笑いの種だ!しかしやわらかかったな…デュフフ…


「私、一人っ子なもので。なんとなく、早良先輩がお兄ちゃんみたく感じちゃいました」


「そ、そうなんだ。お兄ちゃんか…」


 チッ。


「すいません、なぜか急に甘えたくなっちゃいまして。きっと先輩が優しくて落ち着いてるからなんでしょうねっ!」


「いえいえ、結構なお手前で…」


 ふ、深い意味は無いんだなっ!?本当だなっ!?久留米さんの告白の時も、盛大な勘違いをしたからね。僕は簡単には騙されないぜ!はっはっは!…はぁ。疲れた。


 再び新撰部、部室。つまり屋上。


「おっ!待ってましたぁ!」


 パチパチと拍手をしながら久留米さんに迎えられる。あれ?黒崎くんいないんだけど。


「んーふーふー」


 はっ!?僕と朝倉さんの背後から怪しげな笑い声がっ!?


「見たぞ見たぞー?かーずーきーくーん?」


 ぎゃぁぁぁぁぁ!!黒崎くんではないですか!


「み…見たって何をさ!」


「ノンノン、とぼけたって無駄さ!」


 人差し指を立てて左右に振り、ニタニタと笑う黒崎くん。これは…腕を回されていたのが確実にバレている!?一番知られてはいけない人物にっ!


「なになにー?和輝くんがどうかしたの?」


 あぁっ!久留米さん!あまり突っ込まないで!


「いやぁ、先ほどわたくし、お手洗いに行っておりましてなぁ。その帰り際の出来事でございます」


「わわわっ!そんなことより、ブラックモンブランが溶ける前に食べちゃおうよ!?」


 助けて!神のアイスクリームっ!


「そうですよ、黒崎先輩!せっかく部長が買ってきて下さったんですから、早く食べましょう!」


 ナイスフォローだ、朝倉さん!でも、こうして絡まれてるのも君のせいだけどね!


「ふーん?まぁ、いっか」


「そうだった!早く食おうぜ!当たりが出ねーかな!」


 よしよし。なんとか二人の気をそらせたぞ。ありがとう、あさく…ブラックモンブラン!!

 ちなみにこの神アイス、黒崎くんの言うようにアイスクリームの棒に当たりと書いてある事があるのも魅力だ。特に五百円、千円という高額当選があるから侮れない!


「えー、それでは。新入生の朝倉浮羽さんの入部を記念いたしまして…乾杯…?」


「かんぱぁい!くまぁ!」


「何で疑問系なんだよ?」


「先輩方、よろしくお願いしますね!」


 うーん…アイスぶつけるって行為は、乾杯なのかな?


「では、あらためまして。部長の早良和輝です。趣味は本を読んだりテレビを見たり…」


 出来る限りライトに伝えていかねば!本はゲーム雑誌や同人誌、テレビとは大抵ゲームやアニメの事だが、決して嘘をついているわけではない!


 続いて朝倉さん…じゃなくて、うきはの番だ。


「は、はじめまして!…ではないですね。朝倉浮羽と言います。えーと、母がイギリス人なので、こういう見た目なんですが…新撰部の、差別や争いを無くしていくという活動目的に胸をうたれました!生徒会との掛け持ちですが、どうぞよろしくお願いします!」


「やっぱかわいいー!」


 あーあ。久留米さん、またうきはに飛びついてる。次はあなたの番なんですけど…


「ちょ!先輩!どこ触ってるんです…かっ…!」


 ややっ!?よく見えないけど、どさくさに紛れて胸を揉むセクハラを!?うきは!その場所、僕と代わってくれてもいいですよ!


「むほっ!ロリ娘にいじられるハーフ美女!画になるぜぇ…」


「う、うん…」


 的確だよ、黒崎くん。紳士として、ここは見守ろうではないか!


「…はっ!早良先輩、黒崎先輩!見てないで助けて下さいよっ!」


「ぷにぷにくまぁ…」


 いいぞもっとやれ。



「さて、次は久留米さんだね」


 鼻の穴にティッシュをつめた僕が仕切り直した。おっぱいには殺傷能力がある。異論は認めない。


「バカ面して、しまらねーなぁ」


 なぜ君は涼しい顔が出来るのかね!?僕はきっと数日間落ち着いて眠る事も出来ませんよ!刺激が強すぎる!ほら、うきはだってぐったりしちゃってるじゃないか!


「はいはーい。久留米理沙です!新撰部は見ての通り人が少ないんだけど、賑やかで楽しいんだよ。仲良くしようね、うきはちゃん!」


「はぁ…はぁ…はい…よろしくです…」


 もう、なにもかもエロいです。助けて下さい。


 そして最後は黒崎くんですね…


 ガタッ!


 勢いよく立ち上がる。


「やあ!僕はアラジン。旅人さ!」


「…先輩?」


 はい。どうもありがとうございました。


「笑えよ…和輝ぃ…!」


 ゴゴゴゴ…!


 いやいやいや!襟を掴まれて脅されてもですね!?僕もマギ好きだよ!?好きだから放してっ!?


「く…くるし…」


「…チッ!黒崎健吾だ!昨日も話したけど、よろしくな!うきは!」


「はい…」


「で、お前らもうキスとかしたの?」


 あぁ…キスねぇ…ふぁっ!?なんですと!?


「なになになに!二人はそんな仲なわけ!?」


「あぁぁぁ!違うんだよ久留米さん!ほら、うきはもなんとか言ってよ!?」


「はぁい…」


 戦力外通告だ貴様ぁ!


「いや、さっき仲むつまじく腕なんか組んで歩いてたからよ」


「違うんだってば!き…きき…キスなんて、するはずないだろぉ!」


「あー?なんだよつまんねー。キスしたら入れ替わったとか、そういう面白い話は無いもんかねぇ」


 どこの七人の魔女ですかそれは!


「た、たまたま腕が当たっただけだから!いかがわしい事なんてございません!」


「へぇ~?怪しいけど、そういう事にしといてあげるよ!かわいいうきはちゃんに免じて!」


「そりゃどうも…」


 ふぅ。話が妙な方向に進んじゃったけど、これで一通り、自己紹介は済んだな。


 ガンガンガン!


 ちょうどその時、鉄扉をノックする音が響いた。誰だろう?


「なんだぁ?お客さんか?」


「どうぞぉ?どちらさまですかくまぁ?」


 ガチャン。


 鉄扉が開いた瞬間。それはやってきた。


 ドドドドッ!!!


「入部させてくださぁぁい!!」


「俺も俺も!!」


「おい、押すなよ!俺が一番乗りだ!」


 おわぁぁぁぁ!!!


 嵐のように押し寄せてくる大量の入部希望者。それも男子生徒ばかりである。


「きゃぁああ!」


「げっ!なんだコイツら!?」


 さすがの黒崎くんもこれには慌てている。なにやら鼻息荒い、脂ぎった男衆だな!


「あの!入部したいんですけど!」


「新撰部ってここですよね!?」


「わぉ!本当に久留米理沙ちゃんも朝倉浮羽ちゃんもいるぞ!」


 屋上の隅のフェンス際に追い込まれる僕たち四人。なるほど…この人達はウチの二人の女神が目当てだなっ!?


「あ…あの…この人達は?」


「はぅぅ!健吾ぉ、和輝くん、暑苦しいよぉ!」


 畜生!二十人はいるぞっ!?どうしようどうしよう…!


「うぉらぁぁぁぁ!」


 バキッ!


「うわっ!黒崎くん!なにしてんの!?」


「あっ。やべ。何かコイツら押し寄せてくるからうざくて…テヘペロ」


 また…殴っちゃいましたねこの人は…


 そしてその後ごちゃごちゃあって、結局…


「はい!みんな、整列だよぉ!はい!その場で体育座り!」


「はい!」


「イエッサー!」


 久留米さんが号令をかけると素直に従ってくれました。さすがハイスクールクイーンですね。


「はい!さっきウチの用心棒に殴られちゃった可哀想な子はぁ?」


「はい!僕です!」


 一人の男子生徒が挙手する。あれ?よく見たら昨日のファットボーイ…?なぜ…


「おー、よちよち。痛かったでしゅねー」


 頭をなでなで。…んなにぃ!?これは嬉しいご褒美でござる!拙者も欲しいでござる!


「ふごふご!」


 うわ、興奮しすぎておかしくなってる。きも。あ、ごめんなさい。いや、だがお前は去ね。

 でも久留米さんにばかり頑張ってもらうわけにはいかない!部長は僕なんだ!


「それで…君たちは全員、入部希望者なのかな?」


 はい!と一同から元気な返事が返ってくる。


「どうすんだよ、和輝」


 これは収拾がつかなくなるな…確かに、ハイスクールクイーンと新入生の美少女が揃ったらこうもなっちゃうか。


「でも、拒否するわけにもいかないよね…」


「いらねーよ。動機が不純すぎんだろ」


「うーむ…」


 入部希望者、そして新撰部の面々の視線が僕に集まる。


「よし…それじゃ君たち!新撰部恒例の入部テストをやろうか!」


 そんなものありゃしませんがね。彼らには酷だが、無理難題を押しつけて諦めさせるしかない!新撰部はかわいこちゃんとイチャコラする為にあるわけではありません!


「先輩!テストとは?」


 いや、君は確か二年生じゃないか?まぁいいや…


「ズバリ!1対1で僕にゲームで勝つか、この黒崎くんにケンカで勝つか!どちらかだ!」


 これでどうだ!ハードルはとてつもなく高いぞ!


「あー?なんで俺がタイマン張るんだよ」


 口を尖らせる黒崎くんに小声で謝る。ごめん、協力してくれ!


「ゲーム…?絶対勝てない仕組みだろ、それ…」

「ケンカか…チッ」

「なんだよ、少数でやってるだけあって狭き門なんだな…」

「仕方ない、別のアプローチを考えるか…」


 渋々といった様子で、入部希望者達が帰っていった。


「ふごふご」


 ファットボーイを除いて。


「なんだコイツ?りさっくまが甘やかすからイカレちまったぞ」


「ふぇぇ…ごめん、健吾ぉ」


「あの、聞こえますかー?」


 耳元でうきはが彼をこの世に呼び戻そうと試みるが、反応はない。


「どうする、和輝くん?」


「幸せそうだし、ほっとこうよ。そろそろ帰んなきゃだし」


 無視の方向で。



 その日の夜。警備員さんが屋上でふごふご唸り続ける謎の物体を発見したのは言うまでもない。



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