あの日見た豚の名前を僕たちはまだイベリコ。
話のタイトルとか概要はまったく本編と関係なかったりあったり…だいたい無い。
…
「いぃや!そこだけは譲れないよ!ロリと巨乳はセットにしちゃいけないんだ!」
「あぁ!?貴様にはロリ巨乳のギャップのたまらなさが分からんのか!ヘスティア・ファミリアには入れて上げません!おっぱい万歳!」
「えっ!?ぼくっ娘…いやしかし、貧乳こそ正義なのだ!ちっぱい万歳!」
こんにちは。僕の名前は早良和輝。ゲームとアニメとロリと貧乳をこよなく愛する高校二年生さ!そして、さっきからロリ巨乳とかいう邪道な生き物大好き発言を繰り返すこの金髪男は僕のクラスメートで同じ部活動に所属する、黒崎健吾くん。何でも大きければいいとか、マジないっすわー。
数分前から、僕達の部室である学校の屋上で、アニメのキャラクターの好みによる第三次世界大戦が勃発しておるのです。
「うるさぁぁぁぁい!このっ、変態男どもがぁぁぁ!!」
ひぃぃ!?この声は!もう一人の部員。学内のアイドルで、クラスの学級委員長の久留米理沙さんがやってきてしまった!しかし許してくれ、久留米さん!君には理解できないだろうが、男には必ずおっぱいの好みで意見が食い違い、命をかけて戦う日がやってくるのだ!おっぱいに好みを求めるのは間違っているだろうか!?
「止めるな、りさっくま!コイツ、貧乳好きとか言って、お前をバカにしてるんだぜ!?」
「ひゃいっ!?あたしっ!?」
久留米さんが自らの胸を両手でおさえて隠し、僕を睨みつけてくる。うわ、確かに結構大きいな…
「えっ!?いや、ちが…っしゃあぁぁぁぅ!?」
彼女の飛び蹴りが華麗に僕の顔面に決まりました。呆気なく一撃で地面に倒される僕。めっちゃ弱い…スペランカーの主人公より弱い…
「ひょ、ヒョウ…柄…ぐふっ」
「…はっ!バカぁ!何で見るんだよ、和輝くんのドスケベ!エッチ!のび太!」
ゲシッ。ゲシッ。顔を踏みつけられる。うふふ…痛いけど幸せ…かも。
ゲシッ。ゲシッ。うふふ…はぅぅ。
ゲシッ。ゲシッ。いたた…ちょ、まだ蹴ってるの…?痛い痛い、死んじゃうってば。命かけて戦うとか言ってすんませんでした。
…
「これを見たまえ、諸君!」
そう言って、彼女が取り出したのは、新入生歓迎デモンストレーションなるイベントのチラシ。でも、こういう勧誘活動って大抵は四月にやるんじゃないのかな?変わった学校だなぁ。
「なになに、求む!若い力!かぁ。どこかの企業の求人広告みたいだな…」
よく見たら右下に生徒会の印鑑が捺してある。あの人が考えたのか。各部活動に加え、生徒会も同イベント内で新入生の勧誘をするらしい。
「イベントは来週らしいな。体育館のステージ上で、各部活動の代表者(最大で三名)は五分間のPRをする…まぁ、いいんじゃねーの?ウチは仲間を増やす事自体が活動に含まれてるって言っても過言じゃねーし。なぁ、部長?」
「そうだね。一年生のクラスにもつまらない諍いはあるはず。それを緩和する手助けが出来そうだ」
「じゃあ頑張れ、部長」
はい!?あの、最大で三名なんじゃ…
「頑張ってね、和輝くん!」
おいおいおい!おかしいだろ!
「ぼぼ、僕は!自慢じゃないけど極度のあがり症なんだ!大勢の目の前で、しかも一人だけでスピーチするなんて、絶対無理だよぉ…!」
「なーに言ってんだ。お前は勇者ロトの血をひいている」
ひいてないよ!?早良家だもん!?確かにドラクエはクリアしたから百歩譲ってそうだとしても、あがり症と全然関係なくね!?
「く、久留米さん…助けてよぉ!固まっちゃってみんなの笑い者になるだけだよ!」
「えー…少なくともあたしは笑い者になんかしないけどなぁ。多分、その場にすらいないし」
こらこらこら!このチラシ持ってきたの誰でしたかね!?
「お困りのようだねっ!」
バンッ!
派手に鉄扉を開け、屋上に登場してきた人物。銀縁のメガネに三つ編みをした長い髪。生徒会長、三年一組の飯塚さおり先輩だ!でも、なんで?
「先輩?」
「やっほー」
にこやかな笑顔を向け、僕らが居座るテント下に彼女はやってきた。
「誰だ?」
学級委員長である久留米さんはもちろん彼女を知っているが、黒崎くんはまったくの初見だ。
「ぼくは、生徒会長の飯塚さおりだよっ!君は、転校生で問題児の黒崎健吾くんだなっ!?はじめましてこんにちは!」
「こんにちは…」
訝しい顔で睨んでたけど、やっぱり頭はちゃんと下げるんだね。エラいぞ!黒崎くん!
「で、何の用…ん!?ぼ、ぼ、ぼぼぼ…ぼくっ娘だぁぁぁ!」
ガシャアァァン!
大変だ!黒崎くんが歓喜のあまり、椅子から激しく吹き飛んで屋上を囲むフェンスにぃ!わかるっ!わかるぞぉ!友よっ!
「なにしてんのあれ」
久留米さんぽかーんですわ。
…
「えぇーっ!?生徒会に入る新入生がいたら、その子達には部活動は新撰部を推奨するーっ!?」
なんでなんで?一気に部員が増える可能性が見えてきたよ!そんな美味しい話、何か裏があるんじゃないですかね、これ?
「裏なんか無いよ、早良くん?」
「ちょっと!心の中に入ってこないでくださいよ先輩!」
なんだこの人!?マインドスキャンのスキルを習得しているだと!?ぼくっ娘こわっ!
「冷静に考えてくれたまえよ」
コツコツ、とチラシを人差し指で叩く飯塚先輩。
「新撰部の活動目的は、学内の不仲を取り持ち、活性化を図る事だと聞いた。…さっき」
さっき…?まぁいいや。
「生徒会も同じく、様々な企画を通してだが、学生諸君のコミュニケーション、果ては学生生活を楽しんでもらう事を最大の目的としているわけだ。だから、今期の一年生で生徒会に入る者には、普段は君たちの下で活動をしつつ、学内の状況把握や色んな企画を思いつく力を学ばせたいのさ。生徒会は毎日機能しているわけではないからね。運動会や文化祭…そういう事が何も無い時は手持ち無沙汰だ。普段は問題なく部活動に専念出来るよ」
なーんか…適当な人だと思ってたけど、案外マジメに考えてるんだなぁ…ちょっと感心しちゃいました。飯塚先輩、かっこいい!
「そ、そんなに誉めても、ぼくは君に身を委ねたりしないんだからねっ!」
「はぁ!?だからその読心術なんとかなりませんかね!?」
「と、とにかくだっ。新入生の勧誘イベントでは、新撰部の番にぼくも壇上に立とう。生徒会と合同でPRをするんだっ」
「助かります!ありがとうございます、先輩!頑張りましょう!」
右手を差し出す。
「ひぁっ!?じゃ、そういうことだから!さらばだっ!」
バタバタバタ…ガチャン!
「あれ?逃げちゃった?」
「ほほぉ…和輝も隅には置けませんな、婆さんや」
「えぇ、お爺さん。若いってのは、えぇですねぇ」
何か老年夫婦コントが始まっちゃいましたけど。
「…??」
「はっはっは!青春を謳歌しようぜ、和輝!」
「しようしようー!」
「???」
うぅむ。どうしちゃったんだろう、黒崎くんと久留米さん。それに会長も。
…
新入生勧誘イベントの当日。新一年生にとっては入学から1ヶ月が過ぎている。部活動に所属していない一年生は強制参加らしく、およそ四十人のフレッシュマン達が体育館に集められていた。
「うわわ…すごい数だな」
「そうか?一年ボウズ全員ってわけじゃねーんだし、こんなもんだろうよ」
部活動紹介の為のカンペを持つ手がガクガクと震える。しっかりしろ、僕!壇上には飯塚先輩も上がるんだし、黒崎くんもこうして応援にかけつけてくれてるじゃないか!それより久留米さんマジで来ないんだ…
「おっ!来たねー!」
「先輩」
生徒会長、飯塚さおり先輩が僕らに手を振る。
「どうしたのかな?緊張状態が最大値かな?かな?」
かな?が一個多いです…おぇぇ…何か気持ち悪くなってきちゃいました。うまく話せるかな、かな…
「大丈夫!ぼくにどーんと任せておきなよ!」
「は、はいっ…!よろし…」
「ひぁっ!?」
頭下げようと近寄ったらなぜ避けるし…まぁ、頼りにしてるのは本当ですよ!
しかし、さっきから新入生も、ちらほらといる上級生も、飯塚先輩をすっごい見てるな。「生徒会長だ」「かっこいいな」なんて声も聞こえたりするし、なんだかんだ、みんなのリーダーってだけの事はある。
「次は、生徒会、新撰部のPRです」
響き渡る放送部員のマイク。着々と部活動の紹介が行われる中、ついに僕らの順番が来てしまった!
「いっくよー」
「はい…」
板張りのステージに飯塚先輩が進む。僕も二、三歩後ろをついていった。
「…」
ひぃぃ…みんなめっちゃ見てるよ…あ、一番後ろで黒崎くんが画用紙にカンペを書いて見せてきている。
『もちつけ』
あ、はいはい…『おちつけ』ね。飯塚先輩はスタンドマイクを握った。
「皆さんこんにちは!ぼくは生徒会長の飯塚さおりです!今日は部活動紹介に混ぜていただき、生徒会への勧誘に参りました!」
会場がざわつく。主に、正面に座らされている一年生諸君である。ふふ…ぼくっ娘の破壊力に圧倒されているな!
「現在、我が生徒会は三年生がぼくを含めた三人と、二年生が二人という少人数の体勢となっております!アットホームな雰囲気の中、みんなで和気あいあいと今回のようなイベントを企画したり、毎年の文化祭や体育祭の指揮を執る、とてもやりがいのある組織なのだ!是非ともぼくらと一緒に、この二階堂高校を引っ張っていこうではないかっ!」
ふむふむ。生徒会は五人の体制なのか。案外少ないんだな。しかし楽しそうに感じた!…おっと、早くも興味を持ったらしい男子生徒が手を挙げているぞ!丸々と太ったファットボーイだ!
「ややっ、質問かな?元気があるね!」
「はい!」
「だが断る」
なぜ!?
「質問コーナーはPRの最後に設けてあげるよ!」
「あっ!す、すいません…」
「はい。では以上で簡単ではありますが、生徒会の説明を終わります。何か質問はありますか?」
うわ…ひどい嫌がらせを見た…
しかし、それに負けじと数人の一年生が挙手した。もちろんファットボーイも再挑戦だ。まだ部活動を決めていないのに、そこは積極的なんだね。
「はい、ではそこのかわいい女の子!」
当ててあげないんだ!?ガタンと音を立ててファットボーイが崩れ落ちた!他人事とは思えない理不尽な扱いだ…
「こんにちは、生徒会長。一年六組の朝倉浮羽です」
そう言って立ち上がったのは、黒崎くんと比べても大差ない程輝かしい金髪と、蒼い瞳を持つ美少女であった。あの子は…両親か、少なくとも祖父母が外国籍に違いない。その容姿端麗さときたら、フランス人形に命が宿って話しているかのようである!ビューティフォー!
「はーい、質問をどうぞ!」
「生徒会と新撰部の勧誘だと聞きましたが、新撰部とは?」
ギクリ。これはもう、自然と僕に矛先が向きますよね。
「あぁ!そうだったね!それじゃあ、回答の代わりに新撰部の部長からみんなに話してもらおう!早良くん、よろしくね?」
「うっ…!」
飯塚先輩がウインクを向けて手にしていたマイクを渡してくる。そんな、上手くパス回せただろ?みたいな顔されましても、僕にはすべてキラーパスですよ…
「あ、えっと…こんにちは…」
『金髪娘を座らせろ』
ん?黒崎くんのカンペが…あぁ、そうか。
「朝倉さん…でしたっけ。説明しますので、座ってもらって大丈夫ですよ」
「いえ、結構です!気にせず私の質問の回答となる説明をお願いします!」
むむっ、強情というか気の強い子だな。まぁいっか…勝手にどうぞ。しかしそこのファットボーイ!フランス人形を見て鼻の下を伸ばすんじゃぁ、ない!
「えー…」
チラッ。
『自己紹介しろ!僕の名前は早良和輝』
おっと、忘れていた!ありがとう、黒崎くん!
「僕は新撰部の部長の早良和輝です」
チラッ。
『フリーのカメラマンさ』
「フリーの…カメ…はぁぁっ…!?」
何を言わそうとしてるんですかね!?
「あの、早良くん?何してんの?」
「あっ!失礼しました」
『(笑)』
やかましいわ!!もういい。自分が用意してきたこのメモで…
「はっ…!」
あ、汗でインクがにじんでいるぅぅ!!これはピンチであります!おそるおそるチラッ…
『新撰部の説明せんかい!』
了解だ!しっかりしろ僕!頑張らなくっちゃ…!親指を立てて黒崎くんに合図する。
『(笑)』
だからやかましいわ!
「我が新撰部は…学内にはびこる、生徒間の不仲を取り持ち、学校全体の活性化を図る事を…最大の目的としています。生徒会とも連携を取り、学生みんなが笑顔で高校生活を送れるようサポートしていく、誇りを持てるような部活動です…」
チラッ。
『/(^o^)\』
遊んでやがるな…
「生徒間での差別、ケンカ…つまらないいざこざを無くし、互いに尊重し合える素晴らしい仲間を作るお手伝い。もちろん自分自身がそうなれるように、僕達と頑張っていきましょう…」
チラッ。
『免許皆伝』
はいはい。ありがとうございます。
パチ…パチパチパチ…
ん?朝倉さんが、拍手をしてくれている…?どういうことだろうか。
「すごいです!まさに私が理想としていた活動です!」
「…えっ?そうなんだ?」
「はい!見ての通り、私はイギリス人とのハーフです。どこにいても何をやっても、白い目で見られてしまいます」
あ、親がイギリス人なんだ。フランス人形とか思っちゃって、なんか申し訳ないな…
「確かにあの子、フランス人形みたいだね」
だからそのマインドスキャンやめてくれませんかね、生徒会長!?
「私、入部したいです!差別的な日本の世の中を変えたい!その夢に、少しでも近づける気がします!」
おおっ、と体育館にどよめきが起こる。何か、とてつもなく高い目標を僕ら新撰部に期待されちゃってますが…チラッ。
『合格』
分かりましたよ…
「ありがとうございます。歓迎しますよ。…他にも朝倉さんのように僕達の活動へ興味を持たれた方がいたら、校舎の屋上にいらして下さい。そこが我々の部室です。もちろん、入部希望者でなくとも、ご相談をお待ちしております。えっと…以上で終わります…」
まばらな拍手と共に、僕と飯塚先輩は壇上をあとにした。あ、他の質問者は…まあいいや。
…
「和輝、よくやった!パツキンのねーちゃんゲットだぜ!」
黒崎くんが駆け寄ってくる。いろいろ語弊がある発言どうもです…
「良かったね!入部希望者が出て!生徒会にも顔を出すように伝えておくれよ!」
「もちろんです。ありがとうございました、先輩!」
「ひぁっ!?」
だからなぜ避ける!?
「早良先輩…ですよね」
「ぬぉ!?あ、あぁ…朝倉さん?」
いつの間にか、僕らがいる体育館の隅に、朝倉浮羽さんの姿があった。近くで見ると、やっぱり美少女だなぁ…フランス人形って喩えは間違いとは言い切れないぞ!あ、イギリス人形?いや、そんなの聞いたことないし…
「…あの、私の顔に何かついてますか?」
「え!?べつに!」
「かわいいから見とれてたんだろーよ」
黒崎くん!マジでやめて下さいよ!
「えっ…」
「おっ!照れてやんの!かわいい新入部員だぜ!」
「ち…違いますよぉ!先輩も新撰部なんですか?」
「おう。黒崎健吾だ。よろ」
黒崎くんが差し出した右手を、朝倉さんは何の躊躇もなく握った。
「はい!よろしくお願いします!明日から部室に顔出しますので、入部届もその時に持っていきますね!」
「あ…うん!」
「それでは失礼します!早良先輩!黒崎先輩!」
タタタッ…!
軽やかに去っていく朝倉さん。彼女も元気印の看板娘になりそうだ!久留米さんといい、朝倉さんといい、新撰部は美人揃いで幸せだなぁ。
「むぅぅ…」
あれ…?なんか飯塚先輩が唸ってるけど…
「飯塚先輩…?」
「はっ…!いや、別に君を狙うライバルが増えたとか考えてないから!」
いきなり何の話ですか!?
「じゃ、じゃあね!」
「…?」
「ほぉー…ぼくっ娘に狙われるとか、マジうらやまっ」
「はぁ…?」
「けっ!おら、部室行くぞ!りさっくまとモンストやらねーと」
黒崎くんに背中をグッと押される。え!?久留米さん学校にいるの!?…僕に部長としての威厳は、いつの日かつくのでしょうか…不安です。