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燃えろ!ピノ野球!

クロマティとバースだけは、バントでもホームランしちゃう仕様。



 …


 放課後。二年三組の教室内。


「っしゃあ!待ちに待ったぁ…部活動っ!」


 転校生で金髪でヤンヲタなクラスメート、黒崎健吾くんがそう言った。待ちに待ってませんけどね、僕は。


「二人とも!聞いて!」


 こちらは学内のアイドルで学級委員長のかわいこちゃん、久留米理沙さん!セミロングの二つ結びがマジで神がかりなかわいさ。


「どうしたの、久留米さん?」


 それと僕、ゲームとアニメが大好きな早良和輝の三人は『新撰部』という部活動を行っているわけです。


「なんと、部室がもらえることになったよ!」


 ほほぉ、Vサインしちゃうあどけなさもまた一興よのう。


「マジか!?部が出来て二日目で!?でかしたぞ、りさっくま!」


「くまぁ…」


 あぁ、なんか頭撫でられてモジモジしてるし…リア充は爆ぜればよい。主に男子側が。


「どこを使わせてもらえるのかな?」


「ま、まぁ…そこが問題、かな」


 おやおや?何やら雲行きが怪しいですな?



 ザァァァ…


 雨ヤバ。雲行きどころか…


「あのここ、屋上なんですけど…」


「うん…」


 そしてどしゃ降りです。


「うぉぉ!最高な場所じゃねーか!」


 そう言いながら黒崎くんが雨の中に飛び出してしまった。なにやってんだか。


「黒崎くん!風邪ひくよ!」


「うぃーす」


 あぁもう、ずぶ濡れだよ…


 ひとまず教室に戻る。濡れた服を着替えた黒崎くんは、文字入りの赤いシャツに下はジャージの体操着。トレードマークでもある彼の赤いTシャツ。本日のメッセージは…?


『ぱないの!』


 どこで買ったのそれ…


「テントだっ!生徒会に頼んでテントを張ろう!運動会の当日以外は使わねーだろ?」


「あぁ!確かにそれいいかも!あたし賛成!」


「うーん…少しはマシになるだろうけど…明かりや空調がないのはちょっとなぁ」


「かーっ!これだから万年インドア少年はよ!屋上だぜ!?開放的でおらワクワクすっぞ!」


 左様ですか。


「んじゃ、その仕事はのび太に任せるぜ。部長だしな」


 ぐぬぬ…早くも面倒事押しつけられちゃったよ。


「ちょ、ちょっといいかな?黒崎くん、久留米さん?」


「あん?」


「なに?」


 二人が僕を見た。勇気をふりしぼる。


「し、仕事は出来るだけ引き受けるけど、部長になっちゃったから…でも、その…きちんと名前を覚えて欲しいな…なんて…」


「なんだ、気にいらねーのかよ」


 そりゃそうでしょ!のび太のまま卒業を迎えるなんてキツすぎるよ!二十年後に妻夫木くんみたいな顔になる保証があるならイイけど!水川あさみ好きだし!


「えーっと、本名じゃなかったんだ…?」


 バカですかこの学級委員長!?


「和輝。これでいいか?」


 し、下の名前!?嬉しいけどくすぐったい…はぅぅ…


「和輝くん…ね。了解しました!」


 久留米さんマジこの世に舞い降りた天使。昇天しちゃいそうです。


「なーにデレデレしてんだ!仕事与えたんだからこなしてこい…よっ!」


 黒崎くんからバシッと背中を強く叩かれる。


「うぉっ!で…デレデレなんかしてないよぉ!てか、何で僕一人なんだい!?みんなで行こうじゃないか、諸君!」


「ファイトー!部長ー!」


「はいよろこんで!」


 ふぁっ!?やられた…久留米さんの声援につい返事を…天使は堕天されたようです。


「あ、ついでに売店でブラックモンブラン頼む」


「やだよぉ!部長はパシりじゃないんだからさぁ」


「あたしも食べたいなぁ」


「はいよろこんで!」


 ぎゃああああ!!このクソ部員共がぁぁぁぁぁ!!!



「生徒会室、生徒会室っと…ここか」


 僕らが通う二階堂高校には校舎が一つしかない。その代わりやたらと東西に横長で、階数は五階建てという超大型の校舎である。 生徒会室はその五階。東側に位置していた。


 コンコン。


「どうぞ」


 引き戸をノックすると、中から女の子の声がした。


「失礼します」


 生徒会室の中は、僕らが普段勉強をしている教室の半分程度の広さ。壁際にびっしりと書類やファイルが並ぶ本棚があり、部屋の一番奥、窓際に生徒会長席が鎮座していた。室内にはその席に座る女生徒が一人だけ。つまり、彼女が生徒会長である。

 しかし、ふた高(二階堂高校の略称)の生徒会長って女子だったのか。全然興味が無かったから知らなかったな。


「二年三組の早良和輝と言います」


「こんにちは」


 生徒会長が席から立ち上がり、入り口にいる僕の目の前へ歩み寄ってきた。銀フレームの細いおしゃれなメガネに三つ編みの長い髪。背は割と高い。僕が162センチだから、彼女は160ちょうどくらいかな。しかし、近くで見るとパッチリ二重のまぶたと大きな目が素敵な人だなぁ。ちょっと、違った意味で緊張しちゃいます。


「ぼくは三年一組の飯塚(いいづか)さおり。二階堂高校の生徒会長だよ」


 ななっ!?ぼ、ぼぼぼ…


 ぼくっ娘だぁぁぁぁ!!


 説明しよう!ぼくっ()とはその名の通り、自分の事を「ぼく」と言っちゃう痛い女の子の事である!しかぁし!個人的な意見を言えばそのアホっぽいというか、痛いところが何ともかわいくて…はぁはぁ…ぼくっ娘だ…リアルぼくっ娘だ…えへへぇ…じゅるり…的な感じなのだ!メガネのぼくっ娘は正義、ハッキリわかんだね!


「たまらんっ!以上!解散!」


「はい?」


 ぬぅあぁ!?声に出しちゃった!?興奮のあまり何してんの僕!マズい!マズい!


「いや、違います違います!今のは聞き流して下さい、先輩!」


「…ふむ?で、君は何をしに来たのかね?」


「あ!そうだった!僕、新撰部という部活動の部長をやらされてるんですが」


 危ない危ない。リアルで見るぼくっ娘のあまりの破壊力に、我を失ってしまったぜ。

 あなおそろしや!ぼくっ娘!ヤマタノオロチの比ではないぞっ!


「新撰部…あぁ、聞いてるよ。幕府を倒す為に頑張ってるんだっけ」


 違いすぎて逆にすごいです。


「はは…いや、まぁ…活動内容については今日は大丈夫です」


「むぅ!君!今ぼくを蔑むような発言をしたなぁ!生徒会長権限で斬首にするよっ!?」


「し、してません!」


 斬首!?斬首って、あの斬首!?打ち首!?


「ならよし!」


 早っ!てか、雑っ!


「ぼくっ…じゃなくて会長。新撰部に部室があてがわれた話はご存知ですか?」


「知ってるよ?屋上でしょ?ぼくが決めたんだもん」


 犯人はコイツかーーーっ!


「えっと…あの、屋根が無いのはさすがにキツくてですね。運動会の時に使うテントを貸してもらいたくてお願いに来ました」


「いいよ!」


 早っ!てか、雑っ!


「あ、ありがとうございます。テントはどこにあるんですか?設置は自分達でやりますんで」


「どこだっけ?」


 そうでしょうね、こんな感じの人なら。


「テントは今日必要なのかい?」


「いえ、今日は雨天なので明日以降でいいですよ」


「では明日、テントの場所を書いた矢文を君の頭か首に向けて飛ばしておくよ。二年三組だったね」


 矢文!?しかも致命傷になる箇所を指定してきているんだが!斬首発言から、なぜか僕の命を狙ってませんかね!?


「いや…メールとかでお願いします…」


「ひぁっ!?」


「え?」


 なんか急に顔を赤くして後退ってる。へんなの。


「君は、ぼ…ぼくの連絡先を所望するのかね?」


「はい?そりゃ、連絡もらわないといけませんし」


「ひぁっ!?」


 めんどくせーな、おい。


 ようやく手に入れた生徒会長、飯塚さおり先輩の連絡先のメモをポケットにしまい、教室に戻る。この紙切れを渡すときの会長の手、凄まじく震えてたな…なんでだろう?


「ただいま」


「おう!おせーぞ、和輝!」


「おかえりー」


 黒崎くんと久留米さんがモンストをしながら僕を出迎える。それ遊んでるじゃん!部活動は!?


「あっ」


「その『あっ』は、『やべ!ブラックモンブランを忘れた!』の『あっ』に百円」


「じゃあ、あたしは『生徒会室に行くの忘れてた!』の意味に百円」


 後者なら僕は今まで何してたんですか、久留米さん?


「ブラックモンブラン忘れてた…」


「ほーらな!りさっくま、百円ー!」


「ちぇ~」


 堂々と賭けをやらないよ、そこ!


「すぐ買ってくるから…ん?」


「その『ん?』は、財布ないや、の『ん?』に百円」


「もういいってば。それより、僕らにお客さんみたいだ」


 僕が足をとめたのはその来客があったからである。


「よう」


 そう言いながらズカズカと教室に入ってきた男子生徒。坊主頭に浅黒い日焼け肌。


「あー…ピノ?」


「田川だよ、クソ転校生!」


 田川くん。黒崎くんが転校初日に蹴りを入れちゃった野球部の一番打者。通称ピノ。


「何の用?ブラックモンブランで忙しいんだけど」


「ご挨拶だな、パシりくん。しかし、俺の用があるのはコイツだよ」


 黒崎くんを指差し、田川くんは彼に近づいた。


「雨天で練習は中止か、ピノ?だが俺からは用はねーぞ」


「蹴りの詫びくらい入れちゃどうだ」


「やだ」


「あぁ!?」


「はいはい!ノーモア、ケンカ!一緒にブラックモンブラン食べよ!それともアイスはピノ派?」


 久留米さんが田川くんをなだめてくれている。なんかちょっと後半が煽りに聞こえないでもないけど。


「ゆ…雪見だいふく派…」


 乗るんかい!


「和輝くん?」


「はいはい、買ってきますよ…」


 結局僕にとばっちりだよぉ…



 うむ。ブラックモンブランうまっ。考えた人はマジで天才だよ。


「なんで俺、ピノなんだ…」


 田川くん、ざまぁ。だって雪見だいふく売り切れだったんだもん。大好きなピノを与えてやりました。たんと召し上がれ。


「ブラックモンブラン部にすりゃ良かったかな?」


「どう学校に貢献するのさ、それ…」


「バーカ!売店の売り上げがうなぎのぼりだろーが!」


「くまぁ…」


 さらっと、呼ばれなくてもふわふわし始めてないかい、久留米さん!?


「お前ら…これ、部活なの?」


「部外者は爆発しろ」


「当たり強くね!?」


 田川くんへ激しいバッシングが一票入りました。


「しかし、なんだ…文句を言いに来たのにアイスご馳走になっちまって、悪かったな」


 いや、黒崎くんに話しかけてるけど、僕のお金なんだよね…


「ピノ」


「田川だっての!」


「…お前、脚が速いのか?」


「あ?そりゃまぁ、打順は一番だからな。脚で稼ぐのが仕事だよ」


「すげーな。俺はかけっこは案外苦手でよ」


「なんだよ気持ちわりぃ」


 田川くんは照れくさそうにそっぽを向いてしまった。


「逆にてめーからはどう見える?俺は。やっぱりつまんねぇヤンキーか?」


「どうだろうな。おかしな奴ってのには変わりないと思うぞ。ただ…」


「ただ?」


「不思議な感じがするな。なんつーのかな、お前は目立つから俺みたいに突っかかってくる奴も大勢いるだろう。でも、それもすべて飲み込むっつぅか、巻き込むっつぅか…」


 何とも歯切れが悪い意見だが、僕も同意できる部分がある。黒崎くんは他人に多大なる影響を与えているのだ。良くも悪くも、すべて。


「だったら俺はお前の思ってた不良とは違うって事だ。そりゃあ見た目くらいはトゲトゲしててそんな感じかもしれんが、中身は別物。このブラックモンブランみたいにな。だから、コイツとつるんでる理由だって、パシりとして使う為じゃないって分かったろ。マブダチなんだよ」


 黒崎くんが僕の肩に腕を回す。最後の言葉だけおかしいです、絶対。たった今、僕パシらされましたよね。


「…俺も、次からはブラックモンブランを選ぶよ」


「ピノでも食ってろ、カス」


「だから何でそんなに当たりが強いんだ!?」


 馴れ合うと見せかけて突き落とすのが黒崎くんスタイルらしいです…田川くん…ざまぁ!

 …はっ!いやいや…僕はそんな腹ぐろ眼鏡じゃありませんし、ここは放蕩者の茶会ではなく新撰部ですよ!ご覧のチャンネルは『ヤンヲタ!』です!


「ピノ」


「田川だ!」


「パピコ」


「やめろ!もっと嫌だぞ、それ!」


「くまぁ…」


 あぁっ!どうでもいい事を考えている間にまたくだらない言い争いになってるし!いい加減仲良くしましょうよ!?


「ちっ、ヤンキー擬きがよ!」


「あぁん!?てめぇピノ!」


「田川だっ!」


「くまぁ…」


「ピノ食ったんなら早く帰れよ!パピコ!」


「そこはピノだろっ!あぁっ!?認めてしまったぁ!」


「くまぁ…」


 あわわ…なんか黒崎くんと田川くん掴み合っちゃってるし、久留米さんふわふわ感増して覚醒してるし、教室内がカオスな事に!

 だが止めには入らない。りさっく…久留米さんの顔がかわいいから。



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