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黒崎健吾の憂鬱

マジで~ヤンキーがモテる♪隣県のH先輩談。


「おーい、のび太。野球しようぜ!」


「…おーい磯野、的なフリいりませんよ。ほら、先生が見てるから!授業に集中して下さい!」


 午後の授業はずっとこんな調子である。もう仲良くなったのか、と満足げな顔をする門司先生以外は、冷ややかな視線がクラス中から突き刺さってきていた。


「授業ってのはどこでも退屈なもんでよ」


 僕の隣の席でそう言いながら大きなあくびをする人物。金髪のオールバックに大量のピアスという強面の不良少年、名前を黒崎健吾。転校生で、僕のクラスメートである。彼が転校してきた本日の昼休みに絡まれてから、友達という事になってしまった。でもやっぱり…怖いです。本人は嫌がるけど、どっからどう見てもヤンキーなんだもん!オタクでメガネで坊ちゃん刈りの僕とは住む世界が違いすぎるのです!


 チャイムが鳴り、授業が終わる。そそくさと帰ろうとしていた僕に、やはり黒崎くんは声をかけてきた。


「のび太、ちょっと付き合ってくんねーか?」


「え?いや、僕帰るつもりなんだけど…」


「つれねー事言うなって!職員室にもじぞーから呼び出しなんだよ!」


 もじぞーって…どこのとんねるずですかね。


「ほらほら、行くぜ!場所もわかんねーんだから教えてくれよ!」


「あぁあぁぁ!ちょっと!黒崎くん!」


 ベルトをやや斜め上に引っ張らないでっ!色々食い込んじゃうからぁ!はぅぅっ!



「失礼しまーす」


 ガラガラ!


 職員室の引き戸を勢いよく開け、黒崎くんが声を張る。なぜかそういうところはちゃんとしてるんですね。


「お、来たか。こっちだ」


 教員のデスクの一角、部屋の奥に近い席で門司先生が手をあげてくれた。


「早良も一緒に来たのか?お前達、友達が出来て良かったじゃないか」


 『お前達』って…つまり、僕に友達がいないのを知ってて…見て見ぬフリをしていたのかこのおっさんは!…しかしまあ、どうこう出来る問題じゃないんですけどね。別に欲しいとも思ってなかったし。そんなセンチメンタルな事を考えるよりも、今はこの股間の痛みをどうにかしたい。


「…?なんか、前屈みだな、早良?」


「い、いえ!大丈夫です!それでは僕はこれで…」


 ガシッ。


「!?」


「寂しいこと言うなよ、友達だろ?とーもーだーちー」


 いや、映画E.T.みたいに指を出されましても。呼び出しは君だけのはずだよ!規定を破った罰だ!さよなら黒崎くん!


「まぁ、呼び出したのはバイクの件じゃないからな。早良も聞いていくとイイ」


「はい!?」


 えぇぇ!?あのバイクを許容するんですか!なんて日だ!いや、なんて学校だ!


「バイクは一応、50ccということになりました」


「お、ラッキー」


 いやいや、おかしいですって!本人もラッキーとか言ってるから自覚ありますよ、これ!?


「ただな…黒崎、金髪は校則違反だぞ」


「金髪?」


「その髪の毛の色だ。少々派手すぎないか?」


 あ、そこは注意するんですね。


「俺は…」


 ん?またプルプルしてるぞ、黒崎くん。マナーモードかな?


「俺は…!金髪じゃねぇぇ!」


 バキッ!


「へふぁん!?」


 えぇぇえぇ!?先生殴っちゃったよ、この人!?てか、金髪じゃん!


「も、門司先生!大丈夫ですか!浦安の某家族みたいな奇声出ましたけど!?」


 吹き飛ばされた門司先生に駆け寄り、僕は上体を起こしてあげた。


「ぐはっ…ぐほぁ…!げろげろ…」


 うわ!血!血吐きすぎなんだけど!絶対そこまでの衝撃無かったよね!


「ゆ…輸血液が必要…だ…」


 まもなく卒倒されました。



 場所を移して保健室。


 ベッドで輸血を受けながら、意識を朦朧とさせた門司先生と向かい合う僕達。すごい設備だな、この保健室…


 しかし、僕の意識はそんな事よりも、先ほどから門司先生の隣にいる保健の先生が気になって仕方ありません。デュフフ…長い黒髪に胸が大胆に開いたワイシャツ、大きな目に色っぽい唇、女優顔負けの美人先生じゃないか!お近づきになりた…いや、二次元のガールフレンド達には負けるけどね!


「では、ごゆっくり」


 落ち着いた声でそう言い、保健の先生が退室する。あぁ、もっと見ていたかった。


「もう一度言う。俺の髪色はギャッツビーのEXハイブリーチだ。金髪じゃねぇ」


 それ、染め粉の名称じゃないですか。あなた、金髪ですよ。


「ギャッツビーのEXハイブリーチが校則違反だって言われりゃやめてやるよ」


 別のメーカーの染め粉使えばイイもんね。


「もうそれでイイです…」


 うわ、先生負けちゃってるし。


「しかしな、黒崎。一つ、約束して欲しい事がある。お前を黒霧島工業高校からウチに受け入れると決めた時、こちらが出した条件だ」


「え、黒崎くん。黒霧島工業高校からの転校生なんだ?」


 黒霧島工業高校、通称クロキリ工業。ヤンキーの生徒が多数在籍し、我が二階堂高校の生徒とは犬猿の仲と言われている。たとえるならば、麦焼酎好きと芋焼酎好きの間ぐらい仲が悪い。

 ちなみに僕は、麦チョコとさつまいもチップスなら、断然後者派です。マジうま。


「クロキリ工業よりも家から近かったからな、ふた高は」


「厄介ごとでも起こしたの?」


「うるせーぞ」


「あ、ごめん…」


 誰しも、触れられたくない過去の一つや二つあるよね。黒崎くんはそれ以上にありそうだけど。


「で、もじぞー。条件ってのは何だ?誰からも何も知らされてねーぞ」


 あぁもう…直接もじぞーって呼んじゃったよ。いつの間にかタメ口きいてるし。


「ズバリ、部活だ!!…げほっ!げろげろ…」


「わぁ!大声出しちゃダメですよ、門司先生!」


 背中をさする。うわ、めっちゃ出る。


「部活だぁ?野球でもやれってのか!なんだその条件は」


「…げほっ!クロキリ工業では、ろくに友達も作らずにのらりくらりしてたそうじゃないか。それで、ウチで学ぶからには楽しい学校生活を送って卒業してもらいたい。お前の素性を聞いてもなお、受け入れると決めた校長の願いだ」


 粋なはからいだなぁ。しかし確かに、この有り余るパワーで何かに打ち込めれば、黒崎くんは輝けるに違いないぞ!


「仕方ねーな…受け入れてもらった義理はあるからな。筋は通してやるよ」


 なにそれイケメンなんですけど。今度僕も誰かに言おう。


 …あ、言う相手いませんでした。


「部活動自体は何をやっても構わんよ。やりたい部活がなければ設立してもイイ。最低三人の部員が必要だがね」


 あぁ、これが僕を呼び止めた理由か。先生は僕にも何か部活動をやって欲しいんだろうな。


 …やりません。



「さーて、面倒なことになってきたぞ。なんだか憂鬱だなぁ」


 渡り廊下。ズボンのポケットに手を突っ込み、僕の前を歩く黒崎くんがそう言った。


「まぁ、これも何かのきっかけになると思うし、やりたい事を見つけるとイイよ。頑張ってね、黒崎くん」


 うむ。我ながら温かい言葉だ。それでいて必要以上に距離を詰めない冷たさも含んでいる。


「は?何言ってんの、お前?」


「え?」


 ま、間違えた?噛んだ?噛んでないよね?


「お前も一緒に探すんだよ」


「…は?」


 嘘だろ!?まだ僕を巻き込むのか!鬼だ!悪魔だ!大魔王ゾーマだ!


「だって、そういうつもりでお前も残したんだろ。もじぞー」


「ぐっ…それは…否めないが」


「だったらお前も考えろよ!ラグビーかサッカーか、それとも文化系か!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!僕は別に部活なんかやらなくても卒業できるんだからさ!探すのは手伝ってもイイけど、僕は入部しないよ!」


 黒崎くんが足を止めた。


「…そっか。これが俺の…友達…か…」


 えぇぇ!急にいじけだしちゃったよ!?


「ちょ、ちょっと黒崎くん!大丈夫?ほ、ほら!もう放課後だし、グラウンドでも見に行かない?いろんな部活が練習してると思うしさ!」


 あぁ…ここで見捨てちゃうのが正解なんだろうけどなぁ…しかし、一緒にどこかに入部するとは言わないからね!


「…」


 うわ、すっごい見てる。じとーっ、とした目ですっごい見てるんですけど!


「ふーん、まぁ…とりあえず行くか」


「う、うん!行こう行こう!」



 数分後。

 グラウンドに出てきたのはイイものの、野球部やサッカー部の練習を見る黒崎くんの眼に光が宿ることは無い。そりゃそうだよね。やりたくない事を無理やり選別させられてるわけだから。


「なんだ?入部希望者かぁ?」


 グラウンドの隅にいる僕達の存在に気づいた生徒が一人、声をかけてきた。白いユニフォームを着た野球部員だ。


「あ?あぁ…どこか部活に入んなきゃいけねー事になってよ。探してんだ」


「ふーん」


 その野球部員が目深にかぶった帽子を脱ぎ、黒崎くんと僕をなめるように見回した。浅黒く日焼けした肌と、短く刈り込んだ坊主頭が爽やかな人物である。


「あっ!お前、今朝校庭で騒いでた例の転校生か?なかなか面白かったぜ、あのパフォーマンス!」


「おおっ?なんだよ、話がわかるじゃねーか。野球部はそんな元気印の俺をウェルカムだってか!」


 二人が肩を組んで笑い合っている。なんだ、僕が心配せずとも黒崎くんはこうやって友達の輪を広げていけるじゃないか!しかし…


「バーカ。お前みたいなグレてる生徒なんて、どこの部活動も煙たがるに決まってんだろ!」


「あぁ?」


 おぉっと!わずか数秒で場の空気が真逆に!フォローせねば!ケンカになっちゃう!


「ま、待ってよ!彼は…黒崎くんは、普通の不良とは違うんだ!」


「はぁ?何がどう違うってんだよ!てか、お前は何だよ?コイツのパシりか何か?」


 彼は黒崎くんから離れ、僕を鼻で笑いながらそう言った。


「僕は…えっと…」


「部活探しも無理やり付き合わされてんだろ?転校初日から目をつけられちまって気の毒にな」


「それは…そうだけどさ…」


「ほらな。結局、こいつは学校中にいるヤンキー連中と変わらねーよ。お前もそのうち金づるにされて、ごふぁぁぁ!!」


 あーーーっと!!

 黒崎くんのミドルキックが野球部員の彼の左太ももに突き刺さるぅ!!…って実況してる場合じゃなくて!畜生、『ヤンキー』という地雷ワードを踏ませてしまった!


「いっ…てぇぇぇ!いてぇぇよぉぉ!」


 ハート様かな?


 一撃で事を済ませた黒崎くんがジッと見下ろす中、野球部員の彼が太ももを手で押さえて転がっている。


 ゴロゴロ。


 ちょっとかわいい。


「おい!どうしたんだ、田川!」


 さすがに騒ぎに気づいた他の部員達が駆けつけてきた。あわわわ、絶対ヤバいっすよこれ。


「おい!お前、ウチの部員に何をしてくれてるんだ!しかも大事な一番バッターの脚を蹴っただろう!?」


 いかにもキャッチャーです、というような体格の良い生徒が怒鳴り散らす。どうやら彼がキャプテンのようだ。


「俺らは見てただけだ。文句言ってケンカ売ってきたのはコイツだよ!」


 地面に転がる一番打者、田川くんを指差す黒崎くん。


「クソッ…いてぇ…お前らが悪いんだろうが…」


「ピノは黙ってろ!」


 ピノ!?ファミスタ!?ナムコオールスターズ!?


「いや、俺…ファースト…」


 なぜか外野手じゃないところだけ否定してきてるし。さすがに野球ゲームは詳しいのね。


「とにかく!これは大問題だ!先生に報告させてもらうからな!」


 鼻息荒いキャプテン(仮)が、田川くんを引き起こした。


「大丈夫か。ピノ」


「…え、田川っすけど」


 田川くんのあだ名が確定した模様です。


 そして、両肩に手を回され、担がれるようにして田川くんが連れていかれた。


「ま、まずいよ!黒崎くん!絶対先生に怒られちゃうよ!」


「だって…ムカちゅいたんだもん」


 いや、かわいくないっす。


「…って、ふざけてる場合じゃないよ!?」


「だったらどうしろってんだよ!バカにされたんだぞ!」


 その時。


「てーんーこーうーせぇぇぇぇ!」


 …っ!?


 そんな声を上げながら、もの凄い勢いで駆けてくる人影が一つ。


 ドドドドド!!!


 ヤバいヤバい!雨で湿ってたはずなのに、グラウンドの砂埃がハンパないんだけど!紺色の短いスカートにブレザー…女子だ!


 彼女は空高く跳躍し、黒崎くん目掛けて飛び蹴りを放ってきた。


「黒崎くん、危ない!」


 ひらり。


「あぶっ!?」


 あ、屈んで簡単にかわすのね。…ん?…という事は。


「わぁぁぁ!」


 僕の眼前に、彼女のパンツの映像が広がったかと思うと、僕の鳩尾に強力な飛び蹴りが完璧な形でヒットした。


「し…白…がくっ」


 未だかつてない大ダメージを受けた僕は、いとも簡単に気を失った。



「ううん…渚ちゃん…僕と一緒になろう…」


「渚ちゃん?」


「…はっ!?」


 幸せな気分だった僕は、突然の野太い男の声にハッと目を覚ます。僕の顔を覗きこんでいたのは、門司先生だった。


「うおっ!?」


 飛び起き、周囲を確認する。こちらチームアルファ、オールクリアだ。


 保健室…そうか、僕は白いパンツから飛び蹴りを食らって…てか、門司先生まだここにいたの。


 ガラガラ。


 廊下側から引き戸が開く。


「おーう、のび太。起きたか?」


 先生と二人きりだった保健室に、黒崎くんが入ってきた。


「あ、うん。今起きたとこ。参ったよ…」


「災難だったな」


 うん、元はと言えば誰のせいですかね。


「あの…」


 ん?よく見るともう一人、黒崎くんの後ろに誰かいる。声からするに、女子?


「いつまで隠れてんだよ!出てこい!」


「あっ!ちょっと!」


 黒崎くんがむんずとその人物を僕の前に差し出した。


 二つ結びにしたセミロングヘア。華奢で小柄なこの愛くるしいロリ娘はっ!学内のアイドル!ウチのクラスの学級委員長!久留米理沙(くるめりさ)さんじゃないか!


「久留米さん…?」


「うん…具合、どう?」


「え?あぁ、大丈夫だけど」


 やば、かわ。リアル世界において、彼女を上回る存在などいないに違いない。そのくらいかぁいいんですよ、これが。ボキャ貧でごめんなさいね!あ、でも僕には渚ちゃんが!あぁでもこの目の前にいる女神も捨てがたい!そりゃあもうこの人のかわいらしさときたら!


「ごめんね。蹴ったりして…」


「へ?」


「痛かったよね?えっと…野比のび太くんだっけ」


 えーーーー!?


 さっきの悪魔超人的な攻撃はこの人からの贈り物でしたかっ!?しかものび太って!名前覚えられてねぇし!!進級後のクラス替えから1ヶ月経ってるのに!同じクラスなのに!黒崎くんに吹き込まれた名前鵜呑みにしてるんですか!?

 親を恨むよガチでそんな名前だったらぁぁぁ!


「あの…ほんとごめんね」


 あ然とする僕に、もじもじしながら久留米さんが再度、謝罪した。し、仕方ねぇな、バーロー。かわいいツラしやがって…うっわ、クソかわ。


「学級委員長として、暴力を奮う生徒を許してはおけなくて。それであたしもつい、蹴りを…」


 それ、僕じゃないんで。しかもかわいい見かけによらず、随分過激なんですね…座右の銘は絶対『目には目を、歯には歯を』だよこの人…


「ま、こうして謝りに来たから許してやれよ」


「きっ!君が田川くんを蹴るからこうなったんだろ!ねぇ、先生!」


「…」


 …あれ?うわ、寝てるし。もう輸血液も見当たらないんでそのまま逝って、どうぞ。


「わりぃわりぃ。あの後、俺もこの『りさっくま』からこっぴどく叱られたからよ。許してくれよ」


 りさっくま?また誰にでも変なあだ名つけて…


「りさっくま…?うふふ、りさっくまかぁ…」


 本人、なんか気分がふわふわしてちょっと気に入ってんじゃん。…チッ。


「おう、お前は今日から『りさっくま』な」


「ふわぁ…」


「りさっくま」


「くまぁ…」


 何見せられてんの、これ。



「あ、あのさっ!もう一つ話があったの。ちょっといいかな?」


 ややあって、りさっくまがそう切り出した。


「僕に?どうかした?」


「うん…あの、転校生?のび太くんと二人で話したいんだけど、少し外してもらえる?」


 むむっ!?なんだこの展開!胸きゅんすぎるっ!欲を言えば名前をちゃんと覚えてください。

 しかしなんだと言うんだ!?なんかりさっくまの頬がほんのり赤いんですけど!


「あー。じゃあ、廊下にいるから終わったら教えてくれよ。俺もソイツに話があんだ」


 黒崎くんが退室する。門司先生は…寝てるからいいや。生きてればの話だけど。


「あのね、あたし…」


「うん」


「…好きになっちゃったみたいなの」


「…!?」


 き…キターーーー!!!

 マジすか!なんかよく分からないけどきっとあれだよね!廊下でぶつかった二人が恋に落ちる的なやつ!実際には飛び蹴りだけど、んなこたどうでもイイ!やはり僕の青春ラブコメに間違いなど無いのだ!はっはっは!!


「転校生の事を…なんだけどさ」


 盛大に間違ってました。


「は…はは…そうなんだ…」


 声が上擦る。しかし一体あの後何があったんですかね!蹴ろうとしてた相手になぜ惚れるし!女心ってわかんねぇ…


「もちろん本人にはまだ内緒だよ!?いつか、気持ちを伝える日が来るまでは!それでね。のび太くんは転校生とすでに仲良しみたいだから、これから色々相談に乗ってもらいたくてさ」


 うーむ、複雑な心境の僕。しかし、ほっとくわけにもいかんでしょう。とほほ…


「わかった。力になれるかは分からないけど、それでよければ」


「本当に!?ありがとう!」


「あのさ、り…りさっくま」


「あぁ?」


 あれ!?やっぱり僕は呼んじゃいけないんだ、これ!?顔こわっ!


「ご、ごめん!久留米さん」


「…なに?」


「僕の名前は…早良和輝。そして、転校生の名前は黒崎健吾くんだよ」


「そ、そうなんだ!ありがとう、のび太くん!黒崎、健吾…くまぁ…」


 やっぱり知らなかったんですね。あぁ、またふわふわしてるよ、ポンコツ学級委員長め…


 かわいすぎる。


 …っていうか黒崎くんの名前しか覚えるつもり無いですよね、あなた。


「おーい、まだかあ!?」


 外から黒崎くんが叫んでいるのが聞こえた。ハッ、と久留米さんが我に返る。


「あ!そ、それじゃあたし帰るからっ!」


「うん、さよなら」


 ぶんぶんと両手を振りながら、彼女は去っていった。


「おう、のび太。もう六時近いから帰ろうぜ」


「あれ?話があったんじゃ?」


「おぉ!そうだそうだ!今度、お前ん家に遊びに行くから!ポテチの用意よろしく!」


「うん…えっ!?なんで!?」


 えぇぇぇ!?黒崎くんが家に!?マズいマズい!絶対部屋中を漁られてメチャクチャにされてしまうぞ!


「ダチだろ!遠慮すんなよ!んじゃ、お先!」


「遠慮してるわけじゃないんだってばぁ!」


 高笑いを残してのしのしと歩いていく黒崎くんの背中を見つめる僕。…これはまたひと波乱ありそうな予感しかしません。



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