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インしてデニムへ!リュックには戦利品を!

 …


 時は戦国時代。都市部を貫くハイウェイを走る一台のランボルギーニ。軽くステアリングを傾けながら、スタバのコーヒーを一口。スマートフォンから『だんご大家族』が流れると、僕はそれを受けた。


「もしもし」


「殿!一大事にござります!大友の軍勢が!大挙しております!」


 声高な女性の声。まったく騒々しい…


「えー?知らないよ。僕は今から渚ちゃんとデートなんだから。適当に足軽を動員して対応してください」


「殿っ!?もしもし、和輝殿!」


 切りもせずに携帯を助手席に放り投げる。


「和輝殿!?おぉい、和輝くーん!」


 うるさいなぁ。まだ叫んでるよ。このご時世に戦だなんて、どうかしてるぜっ!


 その時、後頭部にハンマーで打ちつけられたような衝撃が走った。


「ぎゃぁぁぁお!?」


「和輝くん、いつまで寝てんの?部活行くよー」


 あ、あれ?久留米さん?ここは…教室?僕のランボルギーニはっ!?渚ちゃんとのデートはぁぁ!?


 えー…こほん、古典的な夢オチを体験いたしました。わたくし、早良和輝でございます。

 職業は高校生。もちろん愛車も彼女もございません。新撰部という部活に所属しているのですが、昨夜は部員の黒崎健吾くんが昔の仲間達とひと悶着!戻るだの戻らないだの色々あって、心配した僕は一睡も出来なかったのです!しかし日が上って登校してみれば、黒崎くんはいつも通り。学校も部活も辞めてしまうのではないかと思われたが、何てことはなく取り越し苦労。安堵した僕は授業中に眠りこけてしまって今に至るというわけだ。

 僕をたたき起こして先に行った女の子は、久留米理沙さん。クラスも部活も僕と同じで、二つ結びのセミロングヘアと小柄な身体が超キュートな学内のアイドル。あぁ…起こしてくれるなんてマジ女神なんだよなぁ…後頭部すごい痛いけど。げ、血出てる…さては辞書の角とかで殴ったな…モズグス様みたく。


 ガチャン!


 屋上の扉を開け、我が新撰部の部室であるプレハブ小屋に入る。中には久留米さんと黒崎くんの二人だけがいた。


「おっす、和輝。今日はずっと寝てたな、お前」


「黒崎くん…」


「ブラックモンブラン買ってきてくれ」


 いきなりパシりですか!?昨日あんなことがあったのにスルー!?


 言われたとおりにブラックモンブランを売店で五つ購入しちゃうあたり、僕の素晴らしい人間性がにじみ出ていると思いませんか。しかし、何度食べてもやはりブラックモンブランは最強のアイスクリームだよ。


「さて、屋上に戻るかな」


「あ、早良先輩。今から部室ですか?」


 …んっ?

 振り返ると、長い金髪に蒼い瞳を持つ美少女が立っていた。か、かわいい…


「あ、アイスクリーム!私、持ちますよ!」


 彼女の名前は朝倉浮羽、イギリス人とのハーフで一つ年下の一年生。そして同じ新撰部の一員だ。


「あ、いいよいいよ。重くもないから」


「ふふ、二人きりで歩けるなんて、久しぶりで嬉しいです」


「そ、そう?あはは…」


「えへへ…」


 うきはが僕のシャツの裾をちょんと指で引きます。ななな、なんですか!?唐突な大しゅきアピールかっ!?いや、しかし以前うきはと歩いた時は黒崎くんに目撃されて冷やかされたからな!油断ならないぞ!


「おや?早良先輩、うきは」


 ひゃんっ!?

 お、お、大牟田くんジャマイカ!?くぅっ…!どうしていつもこうなるんだっ!


 彼は大牟田翔平。一年生の新撰部員で、パソコンマニア。元々は引きこもりだったが、今は僕たちの仲間だ。


「リア充ですか。爆ぜるのを推奨します」


「ち、違うよ!たまたまそこで会ったから…」


「裾を引かれるのはリア充のスペックに含まれます」


 すそぉぉぉ!うきはの人差し指と親指がガッチリホールドぅ!


「う、うきは…?あの…これは何の真似かな?」


「えっ?特に意味は…掴みたいから掴んでるんです。お気になさらず」


 お気にしますけど!


「はは…そっか…」


「写メは撮れたのでいつでも拡散可能です。ではわが輩は先に行きますね。また後で」


 大牟田てめぇこらぁぁ!!



 ガチャン。


「ただいま、買ってきたよ」


 何とかうきはから手を放してもらっての帰還であります。ふーっ、危なかったぜぇ。


「イチャコラしてたってな?」


「いいないいなぁ!ラブラブくま?」


 まぁ、ここの連中には広まりますよね…光の早さで。そこ!無言で親指立てないよ!大牟田くん!


「だから違うって言ってるのに…はい、ブラックモンブランね」


「サンキュー!」


 しばしのおやつタイムです。


「昨日はみんなに心配かけたな。一応、昔のツレとは話通したからよ」


 お、本題ですね。やっぱり、みんなの身が危険に晒されるのは怖いからね。


「和輝、翔平、痛かったろ?悪かった。俺で良ければ思う存分殴れ」


「そんなことするわけないだろ!もう大丈夫だから!」


「わが輩も暴力を奮うのには興味ありません」


 頭を下げる黒崎くんに、僕と大牟田くんはそう告げた。


「りさっくまとうきはも、怖かったろ?本当にすまねー」


「怖かったけど、もう終わったならいいじゃん!」


「私も気にしてません!でも、話を通したというのは?黒崎先輩に何か負担がかかるんじゃないですか?」


 うきはの質問に黒崎くんは首を横に振った。


「いや、大丈夫だ。俺も千佳って女の捜索に協力するってとこでお互いに合意した。聖飢魔Ⅱの活動時間は夜だからな。学校や部活に来るのに問題はない」


「えっ?キツくないそれ?」


 丸々一日稼働じゃないか!


「平気平気。授業中に寝るからな。リミットは七月末。一学期の終業式」


「リミット?」


 何の?あと少ししかありませんが…


「そこまでに解決出来なきゃ俺は完全にあっちに戻る。それがアイツらの出した最低条件だ。もちろん、そんなことにはならねーようにするけどな」


 えっ!?そんなっ!


「いなくなっちゃうくま?」


 むむっ!久留米さんの目がうるうるしてるっ!これは天使!そしてそんなこと考えてる僕には天罰が下るだろう!


「大丈夫ですよ!みんなで協力して情報を集めれば…!黒崎先輩を失うわけにはいきません!」


「わが輩のネットワークを駆使すれば、あるいは…」


 うきは!大牟田くん!


「ぼ、僕も手伝うよ!黒崎くん、終業式までに必ずその娘を見つけ出そう!」


「お前ら…」


 あ、黒崎くんプルプルしてる。振動パックかな?


「だが断る」


 なんでやぁぁぁ!?


「これは俺の問題だ。せっかくお前らに被害が及ばないようにしたのに、わざわざ首を突っ込んで何かに巻き込まれたら、それこそ俺が一番望まない事態になっちまうじゃねぇか」


「ぐっ…それは確かにそうだけど…でも!」


「何かあっても遅いだろ。守ってやれないんだから、足手まといになる。それとも、よそのチームだかなんだかとやり合うつもりか?相手は分かってねーが、千佳を攫うような連中だぞ。和輝や翔平はぶん殴られて大怪我するだけかもしれないが、りさっくまやうきはまで攫われちまったらどうすんだ!いいからお前らは大人しくしてろ!」


 黒崎くんの言葉で、しんと静まる部室。これはさすがに言い返せないな…


「わかったよ…」


「俺だってこの学校や部活が好きなんだ。必ず戻ってくる。あ、とりあえず温泉旅行は一学期終わってからに延期してくんねー?土日も出っぱなしだと思うからよ」


「あ、うん!もちろん!みんな待ってるよ!」


「そんじゃ、俺は早めに帰るわ」


 黒崎くんの背中を見送る。

 それからしばらく、長い沈黙が続くのでした。



 数日後。黒崎くんは宣言通りに登校し、授業中に寝てから部活に出てくるという生活リズムを作りました。体調を崩したりはしていないようだし、活動中も元気なので僕らは何も訊いたりはしませんでした。

「心配すんな。お前らは大人しくしてろ」この言葉を信じていたからです。

 しかし、次第に彼は学校に遅刻してくるようになり、担任の門司先生も困り果てている様子。何度か職員室に呼び出されているのを見かけましたが、改善されません。

 先生に対して黒崎くんは「終業式まで家族の用事で忙しい。二学期以降は落ち着く」と説明しているらしく、門司先生もそれ以上は踏み込めずにいました。もちろん暴走族とつながっている事を伏せているわけで。真実を知るのは、僕ら新撰部だけです。

 そして徐々に授業は休みがちになり、部活にだけ顔を出すような形になりました。出席日数を心配するほどの事ではないのですが、あまり状況はよくありません。それは、千佳さんという女性が見つかっていない事を意味しているのだから。


 ついに、黒崎くんは部活にも来れないと連絡をしてくるようになりました。こうして電話はつながるので、彼の身に何かあったというわけではありません。しかし、賑やかだった新撰部も嘘のように静まり返って、みんなの表情も明るくはありません。活動はしているのだけれど、ただ集まって、時間が経って、帰る。そんな感じです。あぁ…情けない部長でみんなに申し訳ない…


 刻一刻と迫ってくるタイムリミット。やがて、一学期の終わりを告げる終業式の日がやってきました。



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