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高校デビュー!?の巻

ちゅーちゅーちゅぶりら、ちゅぶりらら~パピ(ry

 …


 僕の名前は早良和輝。高校二年生です。今日も愉快な仲間達との部活動が始まります。それでは我が新撰部、部員の紹介をば。

 まずはこの僕。メガネで坊ちゃん刈りのヘアスタイルでナウいイケメン。ごめんなさい、嘘です。割とヲタな部類です。一応、これでも新撰部の部長。

 そして、黒崎健吾くん。僕と同じく二年生。転校生。金髪。元ヤン。でもアニメとかゲームに詳しい新人類。名付けてヤンヲタ。

 次は久留米理沙さん。二年生。通称りさっくま。二階堂高校のアイドル。二つ結び。小柄。鬼カワ。抱きしめたいくま。

 さらに、もう一人の美少女。朝倉浮羽さん。一年生。イギリス人とのハーフ。長くてさらっさらなブロンド。お人形さんみたい。真面目なお利口さん。

 あ、言い方悪いかな?えーと、真面目な優等生。

 最後に、大牟田翔平くん。一年生。元引きこもり。ところどころに赤髪を入れたオサレヘア。超絶パソコンマニア。一人称はわが輩という変わり者。

 以上五名!ウィーアー新撰部!


「さて、本日集まってもらったのは他でもない。この、賞金の使い道についてだっ!」


 僕が十万円という大金を掲げると、一同から「おーっ」とどよめきが起こった。

 き…きもてぃぃー!


「この、賞金の使い道についてだっ!」


「おーっ」


「この…」


 五分程度、続きました。このやり取り。



「えーと、僕はみんなの為にフィギュアを買おうと思うんだ!とびきりかわいい奴をね!」


「はんたーい!」


「反対です」


「断固拒否だ、先輩」


 おぉぅ…黒崎くんだけは理解があるのか何も言わないけど、他の三人から熱烈なバッシングです。これは…絶望的か…


「俺は前にも言ったが、零号機の部品をだな」


「やだくま」


「…」


「わが輩はデスクトップPCの」


「大牟田くん。それは私たちみんなの為になるのかしら?」


「…」


 男性陣。全・滅☆


「じゃあ…久留米さんとうきはの意見は何だい?」


「みんなみたいに個人的な事を言えばキリがないけど、あたしはこの味気ないプレハブ小屋の中を飾りたいな!壁紙とかカーペットとか、かわいいテーブルや椅子も欲しい!」


 なるほど。僕はまったく興味ないけど、確かにみんなの為にはなるような…


「私は、ワンコかニャンコがいてくれたらなぁって思います。ただ、授業中なんか面倒を見てあげられないのは可哀想だから、熱帯魚や観葉植物はどうでしょう?あまり手間もかかりませんし、癒やされますよ!」


 ペットか。これ以上騒がしくなるのはごめんです。熱帯魚とかなら許容範囲内だけど、それは必要だろうか…


「決まらねーなら、いっそ遊ぶ為に使ったらどうだ?部員全員で日帰り旅行とかよ」


「旅行!?いくいくいく!どこ!?沖縄!?ハワイ!?」


 久留米さん、それは金額的に厳しいかと…しかし、旅行か。旅館…温泉…うっ!?こここ、混浴なんか大いに期待!


「お、温泉なんかどうだろうか!リフレッシュ出来そうじゃないか!?あぁ、入りたい!温泉に入りたいなぁ!」


「確かに温泉旅行とかが関の山なのかな。でも混浴とか無理だけどねー。ま、今どきそんなの無いか」


 ふぁぁぁぁ!?


「よし!じゃあ次の週末にみんなで由布院いくぞ、由布院!」


「うふふ、温泉ってお肌にいいんですよね?少し楽しみかも」


「わが輩は何でもいい…」


 とりあえず決定しちゃいましたね。



「じゃあまたねー!」


「お疲れ様です」


 駐輪場。部員達が徒歩や自転車で帰っていきます。


「和輝」


「ん?どうしたの?」


 黒崎くんが零号機という名の中型バイクを駐輪場から出しながら僕を呼び止めます。


「今日、これに乗って帰れよ」


 …は?


「いやいや、無理だよね。どうして?」


「ちょっと墓にな。無理って、まさか乗れないのか?」


 あぁ、お墓参りか。確か黒崎くんの元カノの春日景子さんだっけ。不良をやめたって安心させる為に時折、自転車で通っているそうだ。


「バイクなんて乗った事ないよ…」


「何っ!?それは一大事だぜ!ヤンキーとオタクの橋渡し役の新撰部部長が、不良文化の象徴たる単車にも乗れないなんて、理解をしていないのも同然だ!」


 ぐっ…!一理ある。だが、誰しも君と同じようにハイブリッドではないぞ!


「そんなぁ!免許だってないし、僕には必要ないよ!」


「ダメだ!よし、和輝、明日から空き地で運転の特訓だ!そんで、後々免許を取って、女の子とピッタリ密着タンデム走行でも楽しむがいい!」


 ピクッ。

 密着…だと…?


 次の日。部活動が終了すると、すぐさま僕らは河原へ向かいました。土手沿いにある駐車場は利用者も少なく、夕方以降ならば安全に練習が出来るという黒崎くんの提案です。キレイに整地されているし、外灯もあるので完璧だ。


「よーし、準備はいいか?」


 ふっ。背中に柔らかな感触を受けるイメトレなら完璧さっ。


「う、うん…頑張るよ」


「まずは押して歩くか」


「自転車みたいな感じでいいの?」


 零号機の左に立ち、ハンドルを両手で持つ。黒崎くんが反対側から付き添ってくれているし、ハンドル自体は妙な角度で持ちにくいけど、何とかなりそうだ。


「そうだな。重さが違うけどそんな感じだ。あと、左手のレバーはクラッチだから、車体を止めたい時は右手の奴な。それが前輪のブレーキだぜ」


 クラッチ?なんですかそれ?お菓子かな?


「ニュートラルだから押せばもう動くぞ。万が一の為にサイドスタンドはまだ出しとけ」


 黒崎くんが車体を少しだけ起こして地面と水平にしてくれた。


「いくよ…せーのっ」


 クッ、と足先に力を入れてやや前傾の姿勢になる。あれ…?動かないな。


「黒崎くん。そっちから押さえてる?」


「は?触ってねーよ」


 えっ!?これ、重くないかい!?


「う、動かないんだけど…」


「バカ言うなよ。ほら」


 右側から、片手でひょいひょいと前後にバイクを動かす黒崎くん。


「嘘ぉ!?バイクってこんなに重たいの!?何キロあるのさ!」


「さぁ…二百キロくらいじゃねーの?」


 無ぅぅ理っ!


「別に俺が力が強いからとか、そんなんじゃないぜ?ちっちゃい女のライダーだっているんだからよ。要はコツだコツ」


「うぅ…!」


「そんなへっぴり腰じゃなくて、しっかり腰をバイクに密着させて押してみろ。腕力が足りないなら体重で押せばいいんだよ。タイヤが回り始めるのに二百キロの重さなんて関係ねーから。そんで、転がり出したら少し身体と車体を離して腕で制御しろ」


 すごい丁寧に教えてくれるな…さすがに全力で乗り気ではなかった僕も、黒崎くんの優しさに心打たれました。


「うぅ…ぉぉ!」


 正義超人的な火事場のクソ力を発揮し、全身に力を込めるっ!


 スッ…


 お!?おぉ!?動いた!動いたぞぉ!とてつもなく重いこの鉄の塊がっ!


「やった!やったよ!黒崎くん!」


「よそ見すんな。倒さねーように気をつけろよ」


 はっ!そうだ、今このバイクは僕の手中にある。一瞬でも気を抜けば…あ、あれ?左に、左に傾いてきたよ!?


「あわわわっ!」


 ガシャン!


 あまりの重さに、バイクから手を離して僕は倒れてしまった。


「ほーらな」


「ごご、ごめん!バイクは無事!?…あれっ?倒れてない」


 サイドスタンドのおかげで、バイクは倒れず停車している。良かった…


 しかし…やっぱりめちゃくちゃ怖いよ!超怖い!押しつぶされたら大変じゃないか!


「今度は力みすぎかもな」


 黒崎くんがスタンドを蹴り上げてバイクを押します。8の字にターンさせ、元の場所でスタンドを下ろす。


「どうしてそんなに軽々と…」


「ま、練習あるのみだ!ほら、立て!」


「ひぃぃ…」


 その後丸一時間ほど、ひたすらバイクを押し続けるという地獄の特訓を経て、くたくたのまま僕は帰宅したのでした。



 次の日の朝。二年三組、教室内。


「おっはよー!あれ、和輝くん、ぐったりだねぇ?」


 机に突っ伏している僕の背中を、久留米さんがぐいぐいと人差し指で押してきます。


「あぅ…痛い痛い、全身筋肉痛だからやめて下さいまし…」


 普通なら喜ぶところなんだけど、今日だけは触らないでいただきたい…


「ほぇ?昨日の体育そんなに激しかったっけ」


「あはは…僕にはちょっとハードだったのかもね」


「ふーん?えいえいっ」


 だから痛いっすよ。


「おーす。なんだ、和輝。しおれちまってよ。おいしいエロDVDでも見つけたのか?」


 やめなさい!僕は健全な高校二年生だっ!


「え…キモ…」


「久留米さん!?僕、何も言ってないよね!?」


「キモ…」


「だぁぁぁ!黒崎くん!変なこと言わないでくれるかな!?僕は昨日の練習で疲れてんの!」


 あ、言っちゃったし…!


「練習…?って、なぁに?」


「あ、あはは…ちょっとね」


「あぁ。昨日の帰りから、和輝に単車の乗り方教え始めたんだよ」


 あぁぁぁ!!黒崎くんのKY!


「えーっ!?和輝くん、バイクに乗るの!?意外ぃー!いいじゃん!カッコいいと思う!あたしも見に行く!」


 ちょ…!声が大きいですよ!?久留米さんのおかげで、僕が高校二年生にしてヤンキーデビューをするという変な噂がクラス中に広まってしまったのは言うまでもありません…



 小雨がぱらついていたので、中止を期待していたのですが…


「よし、今日はエンジンかけてみっか」


 くっ…逃げれないか。


「頑張れー!和輝くん!」


「先輩、ファイトです!」


「わが輩は必要ですかね?」


 そしてなぜか、新撰部が全員見学に来てるんですよね。傘をさしてまで駆けつけなくていいんだよ!?


「翔平くんは録画係なのだ!はい、早く携帯出して!」


「あ…なるほど。早良先輩の弱みを握っておくんですね。いくら駐車場とはいえ、立派な無免許運転ですし、ふふふ…」


 やめてぇぇ!!


「ほら、早く跨がれよ!みんな応援してくれてんだぜ!漢を見せろ!」


「う、うん…!」


 もうどうなっても知らないぞっ!乗車ぁ!

 

 た、高い…!両足のつま先がギリギリ地面に届くぐらいだ!


「スタンドは…まあいいか。車体を真っ直ぐにしてキーを回せ」


「えっと…こう?」


 パッとヘッドライトが点灯し、目の前のメーターランプが光る。おぉ…ちょっと感動。


「ライトは消す?それに、エンジンかからないけど…」


「ライトが点くのは仕様だ。車みたいに消せないから気にすんな。エンジンもそうだ。キーを回しただけじゃかからねーぞ。セルのスイッチを押してやる必要がある」


 ふむふむ…やっぱり、バイクは車よりも乗り手を選ぶ機械なんだな。エンジンかけるだけでもこんなに手順が多いなんて。


「左手のクラッチレバーを引きながら、セルスイッチを押せ。そう、ソイツだ」


 キュキュキュ…


 おおっ?


 ウォン!!


 おおぉぉぉっ!?か…かっちょいいいいぃぃ!!


 これは確かに、数多の若者の心を奪う代物だよ!跨がってエンジンをかければ、自己陶酔してしまうのも頷けるっ!この排気音と振動…た、たまらん…!


 ウォン!ウォン!


 ブォォ…!


 ブォン!ブォン!


 って…あれ?なんか急にやかましく…僕はもちろんエンジンをかけたまま、何もしていません。


 カッ!と僕らのいる駐車場が複数のヘッドライトに照らされる。


「な、なにっ!?お巡りさん!?」


 突然の出来事にみんながあたふたとする中、複数のヘッドライトが爆音と共に近づいてきた。


「げっ!お前らか…!」


 黒崎くんが相手の正体に気づきました。そのリアクション…僕も分かります。彼らはおそらく…聖飢魔Ⅱ!黒崎くんが以前所属していた暴走族だ!


「ようようよう!どこのどいつが族車で遊んでんのかと思えば、てめーかよ、健吾!」


「オサム!どうしてこんなとこに来たんだ?」


 新撰部の面々も、文化祭の時に遊びに来てくれた黒崎くんの知り合いだと気づいて、ホッとしている様子だ。


「昨日、ウチのメンバーから学生服着た二人組が単車に乗る練習をしてるのを見たって話があってな。つまらねー奴が粋がってデビューしようとしてんなら、ちょいと叩いてやろうと思ってよ」


 ち…治安維持活動ご苦労様です…


「デビュー?バカか。単車は不良だけの乗り物じゃねぇんだよ。普通の奴が免許取る前に練習することだってあんだろ」


「で、ソイツに教えてんの?」


 リーゼント頭のオサムくんが僕をギロリと睨みつける。ご…ごめんなさいっ!


「…健吾、そんなわけのわからん奴らより、俺達とつるむ方がイイんじゃねぇ?」


「おい、何度も言わせんな。俺はもう不良じゃねーんだよ」


 彼の意志は固いぞ!諦めたまえ、オサムくん!帰れ帰れ!

 …黒崎くんの背中越しに、愛を込めて。


「それに今、俺達はお前の力を必要としてるんだ」


「あー?なんでだよ?」


 ふぅ、とため息をついてオサムくんが続ける。


「…千佳が見つからねぇんだ。もうすぐ一週間になる」


「千佳…?確か、お前の女だよな」


 なんだって!拉致か!?これは大変な事じゃないのか!?


「景子の時と似てるな…また、繰り返すのか」


「あの時の奴らは徹底的に潰したはず。俺達は別の誰かが関わってると見てる。頼む!健吾!お前の力が必要なんだよ…!頼む…っ!」


 その場にいる聖飢魔Ⅱの全員がバイクから降り、黒崎くんに向けて頭を深々と下げた。


「オサム、てめーの気持ちは痛いほどよく分かる…だが、俺はやっぱり、もうそこに戻るわけにはいかねーんだ。今の俺に大切なのは、コイツらだ。俺は…二度と大切なものを失いたくない」


「そうかよ…なら、これならどうだ?おらぁっ!」


 はぶっ!?えっ!?なぜかいきなり僕が殴られ…っ!?


「コイツもだっ!」


「うわっ!?な、なんですか!?痛い痛い!」


 あぁっ!次は大牟田くんがっ!


「オサムぅ!てめーどういうつもりだ!あぁ!?」


 黒崎くんの表情が鬼の形相に豹変した。


「どうもこうも、こうでもしねーとお前は首を縦に振らねーだろ!次は女をさらうかぁ!?どうなんだ、健吾ぉ!?」


 苦肉の策か…それだけ追いつめられてるんだな、彼らも。


「ぶっ殺す!」


「おっと、やり合うなんてやめておけよ?最強と謳われたお前でも、さすがに俺達相手に一人で勝てるわけねーだろ!」


「…クソがぁ!コイツらに手ぇ出すんじゃねー!」


「だったら戻ってこい!大切なものを失いたくないんだろ!?」


「…」


 倒れ込んだ僕と大牟田くん、そしてガタガタと震える久留米さんやうきはを見て、黒崎くんが目を瞑る。


「…考えておく」


 ダメだよ!?黒崎くん!


「とにかく今日は帰れ」


「イイ返事を期待してるぜ。俺達には時間がない…千佳を一秒でも早く見つけ出さないと」


「…」


「それと同時に、俺達には容赦なくソイツらを襲う覚悟があることも忘れんなよ。じゃあな、健吾」


 ウォン!ウォン!ブォォ…!


 雨が少し強くなる。



 僕たち新撰部に、部員が欠けるかもしれないという最大のピンチが訪れてしまいました。


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