ファイナル!ブンカサイ!
Wow~Wow~争いはStop it!
…
やあ、みんな!こーんにーちわっ!僕の名前は早良和輝、福崗県立二階堂高校に通う、高校二年生さっ!そんな僕はクラスでも地味な存在で、いわゆるオタクと呼ばれる部類の人間だったんだ!ところがどっこい、転校生の黒崎健吾くんとの出会いが僕を変える事になる。
彼は金髪オールバックに派手なゾッキーバイクで現れたんだが、実はその中身は僕と同じオタク、つまりヤンキーでオタク…ヤンヲタだったのさぁ!そして黒崎くんや学内のアイドルでクラスのマドンナ的女の子、久留米理沙さんと共に新撰部という部活を創設したんだ!
他にも一年生でイギリス人とのハーフ美少女の朝倉浮羽さん、同じく一年生でパソコンマニアの大牟田翔平くんを部活メイトとして迎え入れ、僕ら五人の快進撃は現在進行形で続いているぅ!
…うーん。未だに冒頭の紹介のテンションは迷子…うちに帰れず、ですね。
そして僕らはいま、最大の校内行事の一つとも言える文化祭の真っ最中です。本日は最終日。
生徒会から、最も高い売り上げを記録した部活動には十万円の賞金が出るというお達しがあり、俄然やる気満々でございます。当部活動の美少女二人組に加えて、普段から親交の深い生徒会長の飯塚さおり先輩、美人だけとミステリアスな保健の先生にお手伝いをお願いして、キャバクラをやってしまうという型破りな行動により、初日の売り上げは上々。十万円を手にした暁には、ずっと欲しかった渚ちゃんのフィギュアを買うのだよ…げへ、げへへ!ぷひっ!
二日目、開店直前。
前日同様、部室である校舎の屋上に新撰部の五人と飯塚先輩、保健の先生が揃った。
「みんなぁ!昨日の集計結果が出てるぞっ!君たちには特別に発表してあげようではないか!」
飯塚先輩が一枚の紙をおもむろに取り出します。さすが生徒会長!
「えー…昨日の売り上げは三十万円!こちらは校舎の修復や整備に当てられますー。もちろん、他の部活動も一様だから文句なしだよっ!」
そのくらいは承知です。しかし一日で三十万円かぁ…本物のお店に比べればまだまだだろうけど、物凄い金額だな。
「これはいったな。暫定一位だろ?それもぶっちぎりでよ!」
黒崎くんが余裕の表情で腕を組んでいます。久留米さんやうきは、大牟田くんもうんうんと頷いた。僕もその意見に異論は無い!
「そして…気になる順位ですがー?どるるるるるる…だだん!」
セルフドラムロールお疲れ様です先輩。…発表、早よ。
「惜しくも二位だぁっ!ぼくも信じられないぞぅ!」
よっしゃ!ダントツだと思っ…は?
「あん?」
「えっ?」
「「二位ぃぃぃ!?」」
部員全員の悲痛な叫び声が完全に一致。高いシンクロ率を叩き出しました。
「どういうことだよ、ぼくっ娘!てめーの力で数字を改ざんしろよ!」
飯塚先輩に詰め寄る黒崎くん。それはダメだよ!?
「あぐぅ…そう言われてもこれは事実なわけで」
「先輩、どこの部活動に負けてるんですか?差額は?巻き返してやりましょう」
お、大牟田くん!何て前向きな意見だ!元引きこもりとは思えないよ!見直した!
「最悪、わが輩が改ざんしますが」
こらぁぁぁ!?束の間の感動を返せ!
「一位はだね。どるるるるるる…だだん!」
もういいからそれ。
「水泳部による、水着カフェだぁっ!」
「なっ!?」
水着!?僕が言うのもあれだけど、そんなの反則だよ!ビキニを着た女の子はともかく、マッチョなイケメン達が接客するとあれば女性客は取られてしまう。こちらのターゲットは男性だけなので不利だ。
「なん…だとっ…!み、水着…ごくり」
生唾飲んでるの丸聞こえですよ黒崎くん。
「差額はおよそ十万円!これは厳しいぞぅ!」
「うー!悔しいくまぁ!なんとかしてよ和輝くぅん!」
「早良先輩!私たち、負けてしまうんでしょうか…?」
え!?僕!?うぅ…いくら久留米さんとうきはに頼られても、僕には何も…
ガシッ。
「へ?」
「和輝、敵陣視察だ。行くぜ」
えぇー!?
「ちょっと!行ってどうするのさ!?お店は!?」
「リピーターもいるだろうから今日は客引きが要らない。俺たちが戻るまでくらい、店内はキャストと翔平に回してもらえばいいだろ。多少回転率が落ちるのは覚悟の上だ」
「行きたいだけなんじゃ…はぐぉ!」
久々の鉄拳制裁を頂戴いたしました。本当にありがとうございます。
「善は急げだ!並んでる時間なんか無駄なだけだからな!」
あぁぁぁ!ベルト!ベルトを引っ張られるぅぅぅ!
そんなわけで、僕と黒崎くんは水泳部がカフェを営むプールへと向かいました。
校庭の隅、金網で仕切られたプールサイドには、僕らのキャバクラと同じようにパラソル付きのテラス席がいくつか準備されています。すでに10人程度のお客さんが店内にいて、その席でコーヒーやお茶のカップを片手にくつろいでいる。
そして、やはりいました!カラフルなビキニを着た女子水泳部員と、面積の狭いパンツに肉体美を見せつける男子水泳部員がっ!けしからん!けしからんぞぉ…ぐふふ。
「ん、お前ホモなの?息荒いぜ?」
違うよ!?そっちじゃないよ、僕が見とれてるのはっ!
「そ、そんなことより、一つ気づいたんだけどさ」
「おう」
「圧倒的に働いてる人数が多いよね。いくらカフェの客単価が安くても、これだけのキャパがあればかなりの数を回せる」
ざっと見ただけでも、二十人以上の部員達の姿がある。僕らのおよそ三倍だ。
「それは痛いところだよな。俺は、必ずしも客席にキャストがついていないのが気になる」
「あー、カフェだしね。それ、アイデアとして取り入れられない?席を二つくらい増やして、純粋にお酒やソフトドリンクだけを楽しめるスペースを作るとか。もちろんキャストをつける人よりも値段を安くしてさ」
「多少は売り上げにつながるな。カウンター席にして翔平を立たせとくか。そういう客はバー感覚で飲みにくるだろうから、口数の少ないアイツでも充分対応できると思う。昨日は裏方ばかりじゃ手が空いてる様子だったしな」
「いいね!それじゃすぐに戻って…ぐぇっ!?」
引き返そうとした僕の襟首を、黒崎くんが引き戻す。何ですか!?
「おいおい、茶くらい頼んでみようぜ!水着を間近でガン見するチャンスだろうが!」
そんなぁ!…い、いいんですかい、旦那?
「いらっしゃいませ、二名様ですね。こちらの席へどうぞ」
水色のビキニを着た女子水泳部員が僕らを席に案内してくれた。黒崎くんがガン見を有言実行!前を行く彼女の尻にロックオンだ!エマージェンシー!エマージェンシー!
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
そして次は一礼する胸元にロックオン!君こそエリートスナイパーだ!
「…だいたいのメニューは五百円前後か。お前の案を取り入れれば充分巻き返せるな。俺はウーロン茶」
なにっ!あれだけの攻撃を仕掛けておいて冷静さを保っているだとっ!
「ぼ、僕も同じ物にしようかな!…すいません!」
「はい、お決まりでしょうか」
プルン。
うおっ!今度は花柄の敵影を確認!先ほどより大物だぞ!直ちに撃破せよ!
ウーロン茶を二つ注文して、すぐにそれが運ばれてくる。
とどめは純白のビキニを着た女の子だぁっ!はぁ…はぁ…!僕はもう、身体に力が入りませんっ…!
「お待たせしまし…きゃっ!」
「ふぁっ!?」
彼女はなんと、両手に持っていたお茶を自らの胸元に盛大にこぼしてしまいました!
お分かりいただけただろうか。これはきっと、確信犯である。
「す、すいません!すぐに代わりの飲み物を用意しますので…!」
あぁぁ…真っ白な生地が汚されてしまったよぉ…僕はあのお茶になりたい。
「構わねーよ。こっちに被害は無いからな。それより、透けてるぜ?今すぐ脱がねーと」
「えっ!?嘘っ!?」
「はい、冗談です」
ふぇぇ…やめたげてよぉ…!
「大変!どうしよう!」
あれ、冗談だって聞こえてないのかな?すんごい慌ててる。
「ホックが…あっ…」
…ん?
うっほ!そびえる二つの山に、桃色のツンとした頂上部分…って…?
お、お、おぱぁぁぁぁぁい!?ここここれは大変ですぞ!
「えっ?なにこのサービス」
「いやぁぁ!」
いやいや、自分で外しましたやん!?すぐにその子は水着を上げて隠したわけですが、これには黒崎くんも口をあんぐり。他のお客さんの視線も一手に集まってしまいます。
「な、なんで脱いだの…冗談だってわかんだろ…」
「あなたがそう言ったんじゃないですか!バカ!」
バチィン!
あぁっと!痛烈なビンタが黒崎くんの頬に飛んできたぁ!
バチィン!
なぜ僕にも!?冤罪だっ!不可抗力だっ!
ピピィー!ピピピィー!!
ホイッスルを吹き鳴らしながら、生徒指導のゴリラみたいな先生が颯爽とプールサイドに現れた。やたらと騒ぎを嗅ぎつけるのが早いな…
…
結局僕らは追い出されてしまったのですが、すぐに天然爆裂ポロリ娘にも非があるとわかってもらえました。他の部員達の話によると、どこでも着替えちゃう癖があるそうで…なんですかそれ。まあ、生徒指導室に連行されたりはしなかったので良しとするか。
屋上へと戻る僕たち。一時間くらい無駄にしちゃったな。早くカウンター席を作らないと。
「いやぁ…大変な目にあったね…」
「そうか?ビンタとおっぱいなら俺は迷わずおっぱいを取る」
意味分かんないよ、それ。
「黒崎くんが脱げなんて言うから…」
「だがこれで水泳部の店はしばらく営業に支障が出るはずだぜ!水着も学校指定のやつに変えるように指導が入ったから、売り上げにも響くだろ」
そうなんです。ポロリのおかげで、なんだかんだ僕らには有利な方向に転がりました。素直に喜んでいいのか…
…
ガチャン。
ふう、ようやく屋上に到着です。
ガシッ!
「た、助けて下さい!」
「え…?大牟田くん…?」
すごい勢いで駆けてきた大牟田くんが、僕の肩を掴んで懇願してきます。彼がこんなに取り乱す事ってないよね。…やだなぁ…怖いなぁ…嫌な予感しかしないなぁ。
「うぉぉ!酒だ酒だ!もっと酒を持って来い!」
何やら叫んでいる野太い声がありますね。
「兄者…?あのヤロウ…また湧いて出たか!」
黒崎くんのお兄様、再来!よく見たら隅のほうで血を流している門司先生が!さては黙らせようとしてやられたな。
「ひぃぃ…また来てるの!?」
「おらぁ!兄者ぁ!ご来店ありがとうございまぁす!」
違う違う!追っ払って下さいまし!
「あー?健吾かぁ?邪魔してるぜ!テヘペロ!」
こんなに可愛くないテヘペロがかつてこの世の中にあったでしょうか。
「翔平…コイツの伝票を」
「は、はい!」
「ほう…」
黒崎くんはお兄様の飲食代金を確認すると、それをポケットにしまった。あれ!?強制的にチェック出すんじゃないの!?周りのお客さんも恐る恐る席についているという様子で、店の雰囲気は明らかに悪い。
「く、黒崎くん?僕、カウンター席の準備に取りかかるね…」
一瞬でも早くこの場から離れたいです、はい。
「いや、そのプランは必要ねー。世紀末覇者が世紀末救世主に変わる日がやってきたのだ!」
か…カモる気だぁぁぁ!実の兄だよね!?いいの!?
そして、しばらく経って…
「兄者、時間だ。サービスで少しばかり伸ばしてやったぜ」
「む?確か、延長は無いんだったな」
「会計だ」
「うむ…はひゅん!?二十五万三千円!?ば、バカなっ!」
ぎゃぁぁ!なんて額だ!圧倒的高額!
ざわざわ…
お兄様が怒り狂わないかと、店内はざわついています。
「ぼったくってなんかいねーぞ。しっかりボトルやフード、ドリンクも記録してある。まだ飲み足りないなら、行列の最後尾に並んでくれ」
「ぐぬぬぬ!おのれぇ!謀ったな!」
「だからそんなことしてねーっての!払わねーなら通報だかんな!」
「…分割で」
ついに出たぁ!アメリカンエキスプレス様々ですな!そしてなぜゴールドなのだろうか…ニートなはずなんだが…
「「ありがとうございました!」」
従業員一同に心からの一礼を受けながら、お兄様が店を出て行かれました。大勝利確定!賞金は我らのものだ!はっはっは!…あれ?大牟田くん、顔色が悪いな。
「早良先輩、黒崎先輩…さっきの人…最後尾にまた並んでますけど…」
えぇぇぇ!?
こうして、僕らの文化祭は終わりを迎えました。