ファンタジック!ブンカサイ!
必殺!なんでもかんでも明太子味にしたらとりあえず博多名物になるビームっ!
…
「い…いらっしゃいませぇ」
「声が小さいぜ、うきは!もう一回!」
「いらっしゃいませぇ!」
部員でヤンヲタの黒崎健吾くんが、女子部員達相手に厳しいレッスンをしていますね。
あ、こんにちは。僕の名前は早良和輝、十六歳。高校二年生です。今、僕ら新撰部は文化祭に向け、接客の準備をしているところです。キャバクラをやるみたいですが、どうなる事やら。
部室である屋上にはパラソル付きの丸テーブルがいくつか用意され、キャバクラというよりビアガーデンみたいな雰囲気です。まぁ、悪くはないよね。普段僕らが活動しているプレハブ小屋には冷蔵庫が運び込まれて、文化祭当日には飲み物や食べ物を入れておくとの事。僕や黒崎くんはボーイで、一年生でパソコンマニアの大牟田翔平くんは集計や飲み物の在庫管理を担当、女子部員の久留米理沙さん、朝倉浮羽さんはキャバ嬢に扮してお客さんをもてなします。
他に、助っ人として生徒会長の飯塚さおり先輩、色っぽい保健の先生が合流の予定。ところで保健の先生とか図書室の司書さん、事務員さんって名前を訊くタイミングを逃すと分からないままになっちゃうよね…
「健吾ー、衣装ってどうするの?」
当日まであとわずか。会場は整ったけど、確かにキャバクラってすごい煌びやかな女の人がもてなしてくれるイメージだよね。
「あん?制服でいいだろ」
「えーっ!?ドレスとか着て髪もりもりにしないんだっ!?」
あれ?制服なんだ?
「うきはちゃんもお洒落してみたいよね!キャバ嬢なんてなかなかやる機会ないんだし!」
「私ですか?派手なのはちょっと…身体の露出も多そうで恥ずかしいです…」
そんなうきはの照れる顔が見てみたかったとは言えません。
「わかってねぇな、りさっくま。集まるお客さんは現役のJKにそんな色気は求めてねーのさ。むしろ、制服を着たあどけない少女を堪能出来る数少ない場なんだ!そんなの普通の飲み屋じゃ味わえないだろ!」
僕らは高校生なので制服を見ても何も感じませんが、確かに大人になってしまったらなかなか体験出来ませんよね。
「でも、そんなのよくわかるね黒崎くん。お客さんの気持ちなんて全然考えてなかったよ」
「おう。兄者が言ってた」
あの人かぁぁっ!変な入れ知恵したのはっ!
「そ、そうなんだ」
「男が持つ永遠の夢なんだとよ。現役の女子高生と飲めるなんて、普通なら捕まるからな」
はい。そうです。でも生徒会長がいるから大丈夫!多分!
「じゃあ制服でいっかー。ドレス着てみたかったくまぁ」
「卒業後の進路が決まって良かったじゃねーか」
ダメだよ!?何で勝手に就職先決めちゃうのかな!?
遅れて生徒会長の飯塚さおり先輩と保健の先生も合流し、全員が顔を合わせる。いやぁ、これだけの美女達が並ぶと壮観ですな。よく見る人数ばかりのアイドルグループよりよっぽど魅力的だ。
「接客なら任せてちょうだい。大学の頃にバイトで少し経験があるわ」
おぉっ!やはり先生は強い味方になるな!彼女がこのお店のナンバーワン候補か!
「ぼ、ぼくだって頑張るぞ!早良くんの力になるなら…ごにょごにょ…」
ほほう…飯塚さおり先輩もやる気みたいだ。理由は謎ですが。
「そんじゃあ、実践的な練習してみるか。和輝、お前がお客さんの役やってくれ」
「えぇっ!?そんな!僕には務まらないよ!」
むりむり!緊張しちゃって、面と向かって何を話したらいいかなんて分からないよ!
「やれっての!女の子は俺が適当に回すから、キャバクラってもんを堪能してみろ!」
「うぅ…」
結局、黒崎くんの言うとおりの流れになってしまいました。どうしよう…
「おら!早く、向こうから入ってこいよ!みんなも準備はいいな!?始めっ!」
一旦、階段から続く扉の外に出て、屋上に戻ってくる。
「「いらっしゃいませ!」」
ふぁっ!?キャストとボーイが一列に並んでお出迎えだ!これは…確かに世のおじさま方が上機嫌になってしまうのも頷けるな。
「お客様、こちらへどうぞ」
一礼した黒崎くんが席に案内してくれる。
どうやって研究したのか、本格的だな…あ、ゲームか。きっと。
丸テーブルについて、一分も経たない内に、一人目のお相手が現れる。
「失礼します、うきはです」
おぉっと!まずはお嬢様タイプのハーフ美少女、うきはを投入してきたか黒崎くん!
「ご…ご指名ありがとうございます」
いや、指名した覚えはないんですけど。でも、あらためて近くで見ると整った綺麗な顔立ちだな…照れちゃいます。
「え…えーと、こんにちは」
「お飲み物は何になさいますか?」
「へ?あぁ、コーラでいいです」
いくら練習だからって、お酒は頼めません。
「えと、お願いしまーす!」
うきはが右手を上げて、黒崎くんを呼びつける。
「失礼します」
おっ!黒崎くん、それはダウンサービスというやつではないですか!?跪く姿が騎士とか侍みたいでイケメンだっ!
「コーラをお願いします、黒崎先輩」
「うきは、本番ではボーイに敬称なんかつけなくていいんじゃねーの」
「あ、すみません…」
うわー厳しいなぁ。しかし、もっと教育が徹底してるお店って大変そうですね。とにかく、黒崎くんの本気が感じられるよ。
それからしばらく、うきはと二人でゲームの話をしました。きっと分からないんだろうけど、一生懸命話題を合わせようとしてくれているな。文句なしの合格だと思うよ!
「うきはさん、お願いします」
「はい」
再び現れた黒崎くんが、うきはに席を外させる。
ほんの十数秒待たされ、黒崎くんが久留米さんを連れてきた。
「お待たせしました、りさっくまだよぉ!」
うっひょー!やっぱ元気印の学内のアイドルはたまりませんなぁぁ!ささっ!はよぅこちらへっ!あわよくば僕の隣に密着してくれ!と言いたいのは山々ですが、丸テーブルに備え付けてあるのは教室内から借りてきた椅子なので厳しいですね。ベンチシートじゃないのが非常に残念だ!
「早速ですが、あたしも何か飲みたいなり!」
「あ、うん。どうぞ…」
「わーい!お願いしまーす!あたしの分のコーラ下さい!」
容赦ないおねだり!これは売り上げに貢献出来そうだ!
「それじゃ、りさっくま…」
「は?」
練習中でも僕にはあだ名で呼ばせてくれない鉄壁の守備力に乾杯…さっき自分でそう名乗ってたよね…?
その後、会話が盛り上がるはずもなく、久留米さんは黒崎くんから交代させられてしまいました。あの…僕のせいじゃないですからね。決して。
「失礼します。さ、ささ、さおりです!」
続いて生徒会長が来ましたが、のっけから様子がおかしいです。緊張してるんだな。僕だってそうだから仕方ないよ!
「先輩、落ち着いて下さい。まずは座りましょう」
小声でそう諭す。かちこちに固まって棒立ちになっちゃってますよ。
「お、おお、お邪魔しましゅ」
ダメだこりゃ。僕なんかより何倍も重症です。黒崎くんから怒られちゃうんだろうな…
横目に彼を映すと、さっきまで練習していた久留米さんに対して「ちゃんと盛り上げろよ、りさっくま!」って言ってるのが見えてますもん。当の本人はなぜかくまっちゃって呆けてますけど。
「何を話しましょうか」
「ぼくの名前は飯塚さおりです!」
「あ、はい。自己紹介からですね。僕は早良和輝です。よろしくお願いします」
「はひゅぅ…」
どういうリアクションなのかなそれ!?頑張れ!飯塚先輩!ぼくっ娘!
「えーと、先輩はどうして手伝ってくれる気になったんですか?」
お客さんが気をつかって会話をリードしなきゃいけない状況ってどうなのかとは思うけど、助け舟を出さずにはいられません。
「へ!?なんでって…?あの…その…ごにょごにょ」
なるほど、ごにょごにょですか。よくわかりました。
「でも、苦手な事をすすんでやってくれるなんて、頭が上がりませんよ。僕はいつも逃げてばっかりだから」
「苦手…ではないんだけど…君から何かしらお礼をしてもらえると思うと…はぁぁん!」
はっ!?さては、何か高価なものを期待していらっしゃるのか!?
「ちょっ…先輩!賞金は僕らの部活の為に有意義に使わせてもらいますからね!」
フィギュア…!フィギュア…!渚ちゃぁぁぁぁん!
「ほぇ、賞金?好きに使ったらいいジャマイカ。ふふん、新撰部が優勝出来ればの話だけどね…」
「えっ?」
どういうことだ!だったらどんなお礼が目的なんだっ!
「ふぅ、少し疲れてしまったので、ぼくは交代を所望するよ…はぁ」
「それ、本番では絶対に言わないで下さいよ!」
あらら…勝手に席を立ってしまいました。謎な人だなぁ。
あ、やっぱり黒崎くんから怒られてる。
「お待たせしました。美咲です」
最後は保健の先生だ!今日もタイトなミニスカートに胸元の開いたブラウス。それに白衣とくれば、悩殺コンボの完成である!これぞまさに、かいしんのいちげき!
「美咲さん…っていうんですね。よろしくお願いします」
よっしゃ!何気に名前をゲット出来たぞ!訊きそびれてたからこれは嬉しい!
「うふふ、残念だけど源氏名よ。さっき言ってた学生時代のバイト先で使ってたの」
くそぉぉぉぉぉっ!!
「そ、そうでしたか…」
「あらあら、本名が知りたくて仕方がないって顔してるわね」
「うっ」
きれいなお姉さまから何もかも見透かされて、手のひらで転がされてる感が尋常じゃない!だが、それがいい!
「そうねぇ…なんだか蒸し暑くて喉が渇くわ。ボトルの一本でも飲み干してしまえそう」
そう言いながら、先生の胸元のボタンが一つ外される。
プルン。
ひぃぃぃぃ!胸がこぼれてしまいますぞっ!?爆乳投下目前!総員退避!総員退避ぃ!
「ま、練習だからこのくらいにしておきましょうか」
先生がボタンを止めていじらしく笑った。いや、本番だったら脱いでたんですかね…
「失礼します。そろそろお時間となります」
黒崎くんがやってきてそう言った。その手には伝票らしき紙きれが握られている。僕はそれを受け取り、目を丸くした。
「さ、三千円!?そんなに取られるんだっ!?」
こんな短時間で…いくらなんでも高いよ!
「何いってんだ、和輝。かなり良心的な金額だぞ。セット料金とお前のコーラ、りさっくまの飲み物の分でそれだけだ」
「そ、そうなの…?」
「普通なら五千円以上取られるぞ」
えー!キャバクラって恐ろしいところだな!
「またのご来店お待ちしております」
「「ありがとうございました!」」
最後に全員から見送られ、僕らのこの日の練習は幕を下ろした。