その女、凶暴につき。
安い女は全然安全じゃないよ!気をつけろよ! 厚切り兄貴「Why Japanese people!?」
…
皆さんごきげんよう。早良和輝といいます。どこにでもいる少年Aです。
本日は、僕のクラスメートで不良なのにオタクなお友達、黒崎健吾くんが学校をお休みでございます。なんでも「頭痛が痛い」とかで。えーと…意味、重複してるよね。危険が危ない!みたいな。それはさておき、部活動の時間です。僕は新撰部という、一風変わった部活動に所属しています。学内のアイドル、久留米理沙さんと、一年生のハーフ美少女、朝倉浮羽さんに囲まれてプチハーレム状態じゃないか!うっひょー!あ、一年生の大牟田翔平くんもいるか。
チッ…
男子トイレへの引きこもりがなくなって良かったですね。本当に。えぇ、本当に。
「はぁ。健吾いないのかぁ…」
おやおや?本日欠席の黒崎くんに絶賛ホの字真っ最中の久留米さんが黄昏ていますね。しかし、いつの間にか呼び捨ててるし、アタックするのも時間の問題かな?なんて、僕は個人的に思うわけです。
「確かに寂しい感じはしますよね」
屋上に張られたテントの下、長机を囲む中でうきはがそう返した。彼女の手には心理学の本が握られている。それ、大学生とかが読むやつじゃないの?すごいなぁ。
「ところでみんな、今日はどんな活動をしようか」
基本的にノープランですごめんなさい。
「うきはちゃん、また変な生徒とかいないの?」
変な生徒とか言っちゃうんだ!?大牟田くんご本人が目の前にいらっしゃいますけど!?
「よそにはいるかもしれませんけど、さすがにそこまでは分からないですねー」
「そうだよねー。駅前のファミレスで課外活動ってのはどうだっ!」
それはただの寄り道と言います。
「お、大牟田くんは何か無いかな!?」
黒崎くんがいなくてもちゃんとやらなきゃ!いてもちゃんとやれてないけど!
「…黒崎先輩なら、近くにいるみたいですが」
はい!?カタカタとパソコンで何をやってるのかと思ったら、そんなことしてたの君!?
「えーっ!そんなこと分かるの!?見せて見せてー!」
久留米さんが飛びつく。あわわ…うきはがジーッと僕を見てきます。彼女には先日の模擬戦の不正がバレましたね、絶対。ブラチラの恨みは強し…って!悪いのは僕じゃなくて大牟田くんだからね!?
「携帯の位置情報です…距離はここから西に約一キロ」
「ほぉほぉ。これは健吾の身辺調査を開始しなければなりませんな!」
「え、なんで!?」
「外をうろうろしてるって事は、仮病を使ってるって事じゃん!きっと、いかがわしい事をしているに違いないくまぁ!」
あー…それは否定できないから困ったな。
「でも、プライベートをあまり嗅ぎ回るのはよく無いんじゃ…」
「新撰部、黒崎健吾調査団、しゅっぱぁーつ!」
どうやら部長の決定権は皆無のようです。
ガチャン!
「あれっ?みんな揃ってお出かけかな?」
出会い頭に来客があった。後ろ髪を三つ編みで一つに束ねたメガネっ娘、生徒会長の飯塚さおり先輩だ。
「先輩?どうしたんです?」
「んふふー。驚きたまえ早良くんっ!生徒会のメンバー何人かで、クッキーを焼いてきたのだ!君に差し入れだよ!」
おぉっ!何ですかその唐突な女子力アップイベントはっ!そして何してんの生徒会!?
「あ、ありがとうございます!後で部活のみんなといただきますね」
「ぼ、ぼくは君に食べてもらいたくて…ごにょごにょ…」
くっはぁー!何言ってるのか聞き取れないけど、やはりぼくっ娘の愛らしさときたら、他の追随をゆるしませんなぁ!
ふぁっ…!?そう話している間にみんなの姿がっ!?
「す、すいません!それじゃまた!」
「はぅっ!…か、感想聞かせてくれたまえよぉ!」
手を振る先輩に頭を下げ、僕は猛ダッシュで階段を駆け下りた。
…
「しかし…おかしいな」
校門を出てすぐ。大牟田くんが首を傾げています。歩きながらパソコンを操作するなんて、神業ですな。
「どうしたの?」
「いや、黒崎先輩は移動しているみたいなんですが…」
一度立ち止まり、みんなが画面に注目する。ふむ。確かに人型のアイコンが移動していますね。
「そう?僕は特におかしいとは思わないけど」
それよりも、君がここら一帯のマップを作っている事に驚きですよ。
「速度が遅いんです。黒崎先輩は…バイクを使うはずでは」
「言われてみればそうかもねぇ。健吾の家からわざわざ学校の近くまで歩いてきたのかしら?」
「バイクが車検中とかで、自転車なのかもしれませんよ」
自転車ぁ!?うきは、冗談だよねっ!?く…黒崎くんが…自転車…!?ぶはぁーっ!想像しただけで腹筋が鍛えられてしまいそうだっ…!ぷぷぷ…っ…!
「とにかく行ってみよう!調査団、ぜんしーんっ!」
元気よく手を前後に振りかぶりながら、久留米さんがズンズンと進んでいった。僕もその行進に合わせて後ろを歩く。なんかオリンピックとかの選手入場みたいでちょっと楽しいです。
「むっ…!標的と接触間近!その電柱に身を隠すのを推奨します!」
大牟田くんの警告で、全員が一列に並んで電柱に隠れた。
シャカシャカシャカ…!
あ…黒崎くんが通り過ぎて…じ…自転車だぁぁぁ!!黒崎くんが自転車をしゃかりきこいでいったぁぁ!!しかもカゴ付きの真っ赤なママチャリであります!
「げぇ!本当に自転車こいでるじゃん!ウケるんだけど!」
「それより追わないんですか、久留米先輩?」
「はっ!そうだった!みんな、走れぇ!」
再び久留米さんの号令で僕らは駆け出しました。
…
「はぁ…はぁ…ようやく止まりましたね」
うきはが息を切らしながらそう言った。うわやらし…じゃなくて、久々にガチで全力疾走しましたよ…
「大牟田くん、ここは…?」
「霊園のようですね」
今度は木陰に隠れて、黒崎くんを観察しております。墓石が並ぶ前に自転車を停めて、カゴから何か取り出していますね。あれは…花束?しかし、学校の近くに霊園があるのは知らなかったな。
「…えっ!?花束持ってない!?健吾、誰かにコクるの!?」
なんでそうなるんですか、久留米さん…告白に墓地を選ぶはずないでしょ…
「シッ!見つかりますよ、先輩!」
「むぐっ!」
うきはに注意されて久留米さんが口を両手で押さえる。
「あん?誰だ!」
黒崎くんは何者かの気配を感じたようで、周りを見渡しながらそう叫びました。
「ほ…ホロッホー!」
えぇ!?久留米さんがハトのモノマネを!?超似てねぇ!
「なんだ、ハトかよ…」
そして騙されてやがる!
ちょうど、誰かが黒崎くんのいるところに歩いてきました。黒装束に金色の袈裟。お坊さんかな?
「よう、ハゲ坊主。わりぃな呼び出しちまって」
「いいのよ別に。それにハゲと坊主が意味的にカブってるわよ?」
ん!?あれは、バスジャック事件の時のオネエ虚無僧じゃないか!そしてハゲ坊主の『坊主』はヘアスタイルの意味合いでは無い気がしますが。
「えぇぇ!?あの人にコクるの!?ショック…うわぁぁん!」
だから違うでしょ!?なんで告白になっちゃうかしら!
「だ、誰だっ!?」
まぁそうなりますよね。久留米さんは泣いてるし…仕方ない!ここは僕がっ!
「ホロッホー!」
「てめぇ和輝!何こそこそ隠れてんだ!」
なんやて工藤!?なんでワイだけバレるんや!?
「仕方ない…出ましょう。早良先輩がヘマしましたから」
あの、大牟田くんっ!?
…
僕らが木陰から黒崎くんとオネエ坊主の目の前まで歩いていく。
「ごめん…さっき自転車こいでる黒崎くんを見かけてさ」
「ほう?それで俺をつけてきた、と?」
「はい…」
「まぁ別に構わねーけどよ!こそこそすんなよ!」
良かった。怒ってるわけじゃなさそうだ。
「で、りさっくまがべそかいてるのは何でだよ?」
「くまぁ…うぅ…」
「あ、これは気にしないでイイよ」
「くまぁ…らぁぁっ!」
久留米さんの突然の飛び蹴りがなぜか僕を襲う!固い靴底が顔面にヒット!
「ぐはぁっ…!み…水色…ガクッ」
ちーん。
「もう!健吾のバカバカバカ!なんでオカマの坊主を呼び出して告白しようとしてんのさ!」
「はぁ!?告白!?」
「あらぁん?ボウヤ、そういうつもりだったのかしら?」
「殺すぞハゲ!」
現場は大混乱です。
「花束持ってるじゃん!告白じゃん!ふぇぇ…!」
「意味わかんねーよ!墓参りだから花くらい用意すんだろ!」
「ふぇ?」
はぁ…ようやく久留米さんにも状況が理解できたようですね。
「知り合いが亡くなって48日だか50日だか過ぎたんだよ!だからついでに坊主呼んでんだろ!」
華麗に四十九日をピンポイントで避けていくあたり、さすがですね。なるほど、オネエ坊主を呼んでいたのは、お経を唱えてもらうためだったんだな。
「このお墓でいいのかしらん?」
「おう、頼むわ」
花束を墓前に添え、黒崎くんが手を合わせた。
『春日家之墓』
お友達か誰かかな?
「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」
オネエ坊主の経文が始まる。僕らも黒崎くんに習って、お墓に手を合わせた。
…
「それじゃあ、あたしは帰るわね」
十分程度でお経も終わり、オネエ坊主がそう言った。
「おい、お布施くらい持って行けよ」
黒崎くんが茶封筒を取り出す。
「いらないわよ。高校生からお金なんて取らないわ」
なんてイケメン!いや、イケオネエ!
「そうか。ありがとな、クソ坊主」
呼び方が悪化している件について。
「そのかわり、今度あたしのお寺にいらっしゃいな。おいしい精進料理でおもてなしするわよ!もちろんデザートは、あ・た・し!」
精進料理でナンパする新たなスタイル!?ヘルシー思考な男女に大うけ…するかぁぁぁっ!!
「デザート以外は食ってやる」
行くんだ!?
「うふっ。それじゃまたね、ボウヤ達!ケンカしちゃダメよー!」
クネクネと腰を振ってオネエ坊主が去っていった。うわ、すっげぇ内股歩きだ。
…
「健吾ぉ」
「あぁ?」
「その…ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ、りさっくま?」
頭を雑にくしゃくしゃっと撫でる。
「くまぁ…」
お、これで少しは久留米さんに元気が戻ったかな。
「むしろ俺のほうこそ、病気だなんて言って心配かけて悪かったな」
黒崎くん…なんだか…じん、ときちゃいますね。
「か、身体が何もなくて良かったよ!ところで、このお墓に眠ってるのは?」
「…元カノだよ」
えっ…?う、嘘だろ…黒崎くんにそんな辛い過去が…?
「ま、明日からはいつも通り部活にも行くからよ!」
「ごめん、何か悪い事訊いちゃったね」
僕もそうですが、うきはや大牟田くん、さらにはせっかく機嫌がなおった久留米さんの顔まで曇らせちゃいました…
「そうでもないぜ?コイツが…景子が死んじまったおかげで、こうしてお前らと仲良くなれたわけだしな」
「それはどういう…」
訊いちゃダメだと分かっていても、そんな言葉が出てきてしまう。だって…多感なはずの高校生が恋人を失うだなんて、常人には耐えられない傷痕が残るはずだよ。それなのに…君はいつも明るく笑って…僕を、友達が一人もいない暗い水の底から引き上げて…
「長くなるぞ。ウチにでも来るか?」
みんな頷く。なんだか今までにないシリアスな展開…
「ずっとうんこ我慢しててよ」
本人がぶち壊しました。