フルハウス!
ジェシーおいたん、って響きがイイ。
…
こんにちは。早良和輝って言います。福崗県立二階堂高校に通う、ごく普通でちょっぴりゲームとアニヲタな十六歳です。
「おかあさーん、醤油とってー」
妹の彩名が母親を呼んでいます。本日は日曜日。家族みんなで茶の間のちゃぶ台を囲んで昼食を取っているところなんですが…
「ほら、一等兵。醤油だろ?」
「あっ!すみません、黒崎中尉!」
なんでいるの…
そうなんです。なぜか、僕のクラスメートで金髪頭で強面の、黒崎健吾くんが我が家の茶の間にいます。それどころか…
「かーわいいぃ!彩名ちゃんだっけ!あ、でもうきはもかわいいよぉ!くまくまぁ…!」
「ちょっと、久留米先輩っ!あんまり騒いだら、皆さんにご迷惑ですよ!ね?大牟田くん」
「わが輩は別に何も…」
なぜ新撰部が全員いるのですか。
かわいいかわいいとはしゃいでいる二つ結びのロリ娘が、我が二階堂高校のハイスクールクイーンこと、学内のアイドルである久留米理沙さん。その久留米さんからほっぺを指でつんつんされて困った表情を浮かべているブロンド蒼眼の女の子が、イギリス人とのハーフである朝倉浮羽さん。さらに隣でひたすらノートパソコンをいじっている赤髪と黒髪のオシャレさんが大牟田翔平くんです。
賑やかなのはいいですが、この人達はなぜ昼飯時に僕の家に押し寄せてきたのか…あ、でも久留米さんのピンクのワンピースがクッソかわいいでしゅ。うきはも白いブラウスに黒のロングスカートが清楚でよいのぉ…
大牟田くんは学ランだ。ヘアスタイルは遊んでるのに、あんまり服とか気にしないのかな?
黒崎くんはトレードマークの文字入り赤Tシャツ。本日のありがたいお言葉は…
『駆逐してやる…この世から…一匹残らず!』
ご勝手にどうぞ。
「はっはっは!今日は愉快だな!和輝、友達がたくさん出来て良かったな!はっはっは!」
真っ黒に日焼けをした父が昼間っからビールをあおりながら言った。いやいや、僕はなんだか気まずいよ…
「それで、みんなどうして来たのさ?せっかくの休みなのに」
「俺が提案した!」
でしょうね。
「人の仲を取り持つには、まず自分たちから!って事らしいよ。確かにコミュニケーションって大事だよねぇ。んっ…このお漬け物美味しいっ!」
「つまり、同じ釜のメシを食うって事だな!どうだ、お前らも一杯。飲むか?」
父さん、それは本気でダメですよ!?僕らは未成年ですからね!?
「つーわけで、五人で何かやろう!ってわけなんだよ」
「僕に黙って決めちゃうなんてヒドいよ…」
「だったら、何をやるかぐらいは決めさせてやるよ。な、部長!」
そこ丸投げすんのかい!
「早良大尉、皆さんで何かなさるおつもりならば、模擬戦などいかがでしょうか!」
あら、彩名が勝手に提案し始めちゃいましたけど。
「模擬戦?」
「はっ。実戦を想定し、皆さんを二班にわけてモデルガンなどで撃ち合うのです」
なるほど、少し面白そうな気もするな。幸い、ウチの敷地は広い。五人が走り回っても、充分に楽しめるだろう。でも、肝心の銃がないな。
「それ絶対おもしれー!でかしたぞ、上等兵!」
黒崎くん!?なんか我が妹が昇進してないかそれ!?
「バカやろう!女の子がいるんだぞ!水鉄砲にしとけ!それなら裏山の竹で俺が作ってやる!」
父さんが俄然やる気を出して…!?
「早良中佐!素晴らしい提案ですね!水風船を買ってきて、手榴弾代わりにするのはどうでしょう!」
「採用する!調達してこい、早良上等兵!」
「ブリッツェンデーゲン!」
すいません、これ、僕の父と妹です…
…
一時間足らずですべての準備が整う。あの、早すぎ。円筒形の竹筒で出来た水鉄砲が六丁…あなたサバイバルの神ですか。それと彩名が駄菓子屋に買い出しに行き、手に入れてきた水風船。パンパンに膨れるまで水を入れれば、色とりどりの手投げ弾の完成だ。
「六丁あるけど…?」
「はい!人数がキレイに割れないので、あたしが参加いたします!」
はいはい、そうですか。
「準備はいいな?まずは西側の納屋と東側の母屋に分かれ、散開したら一分後に開戦だ!」
父さんがちょうど納屋と母屋の真ん中、更地の部分に軽トラを停め、荷台の上から声を張っている。ホイッスルを首に下げているから、審判なのかな?何にしろ、張り切って子供の遊びを仕切る姿は見ていて恥ずかしいです…
さらに、我が家の敷地内いっぱい、ありとあらゆる場所にバケツや桶、洗面器や花瓶、果てはどんぶりさえも総動員して給水ポイントが設けられた。というのも、この水鉄砲、円筒形の竹にサイズを合わせた竹のピストンを組み合わせただけの簡素な作りである。見た目は手動式の自転車のタイヤ用空気入れに近いな。つまり単発式であり、一度撃つとすぐにリロードが必要となるわけだ。そのための給水ポイントである。
くじ引きの結果、僕は西軍。彩名と大牟田くんが味方となった。我々はいろんな農機具がある納屋を拠点とする。あ、違う違う。ここをキャンプ地とする!
そして対する東軍。黒崎くん、久留米さん、うきは。これは手ごわいぞ!しかし、母屋側の室内は進入禁止なので、隠れ場所は無い。防御ならトラクターやコンバインに隠れられるこちらが有利だな。
「ルールは簡単だ!相手から水鉄砲、及び水風船による攻撃を受け、それに被弾したら戦死!つまりリタイアだ!フレンドリーファイアは無効とする!」
味方の水には当たっても大丈夫なのか。頑張るぞ!
「負けねーぞ、和輝!」
「ぼ、僕だって!水に当たっても文句なしだからね!」
黒崎くんとおでこをぶつけて睨み合う。うぅっ…やっぱり顔怖いなこの人…
「では散開しろ!一分後のホイッスルで開戦だ!」
「大尉!こちらへ!大牟田先任上級曹長もどうぞ!」
「えっ、うん?」
彩名が僕の手を引いて納屋の奥へと進んで行く。あまりやる気がないのかと思われた大牟田くんも、しっかりついてきてくれていた。てか、彼の階級名が長いぞ彩名!覚えきれません!
ひとまず僕らはコンバインの後ろに身を隠して腰を下ろした。
「作戦を考えましょう、お二方!一分しかありませんよ!」
「そうだね…って、大牟田くん?なぜここでもパソコンを…」
大牟田くんは、持たされていた水鉄砲や水風船をすべて地面に置き、代わりにノートパソコンのキーボードを叩いている。
「これを、早良先輩」
「ん?」
彼が画面をこちらに向けてきたので、何だろうと視線を送る。
「これは…上空から見たウチの見取り図!?」
「簡単なものですけどね。時間があったんで…」
なんと、彼は航空写真でも写したかのような見事な図面を完成させていた。ほんとに天才だな…!
「この、光は?」
納屋の位置に二つ、母屋の近くに三つ、点滅を繰り返す人型のアイコンがある。
「もちろん各自の位置情報ですよ…携帯電話の電波をこの図面に照合させてあります。全員…きちんと身につけていますね。妹さんだけ番号が分からないので、味方で助かった」
えぇぇぇ!?家族同士ならそういう携帯のプランもあった気がするけど…がっつりハッキングですよねそれ!?さよなら僕のプライベート…あ、だいたいは部屋か学校だわ。
「す、すごいです!先任上級曹長!敵の位置が丸見えじゃないですか!」
彩名が目をキラキラさせる。確かに、これは作戦を立てるまでもないな!ちょっとズルい気はするけど、勝てばよかろうなのだ!ははは!
ピィーーッ!!
ホイッスルが鳴る。同時に、画面上で敵を表す三つの点が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「むむっ!」
すぐに囲まれちゃいました。まぁ、じっとしてればそうなりますよね。
「先輩。コンバイン越し、真正面に水風船を投擲できますか。距離はおよそ10m」
「や、やってみるよ」
そのくらいならばと、隠れたままで、水風船に放物線を描かせる。
パシャン!
「きゃぁっ!」
この声は…うきはか!?
「あー、やられちゃいました。ごめんなさい」
「うきは!大丈夫か!」
「きゃっ!うきは、ブラウスから下着透けてるよぉ!」
ななななな、なんですと!?
「うおっ!マジじゃん!」
「く…黒崎先輩!?」
「健吾は見るなぁ!」
み、見たい!しかしここは我慢だっ!
「隙ありと見たっ!」
彩名がそう叫びながら、コンバインの陰から飛び出した。
「お!妹じゃん!撃て!」
「彩名ちゃーん!死ねっ!」
パシャ!パシャ!
久留米さん、今のセリフはダメじゃないかなっ!?
激しい銃撃戦が止む。そして…
「お兄ちゃん…あたし…ビチョビチョに汚されちゃった…」
彩名が負けたようですね。しかしなぜいちいち卑猥な言葉を選ぶのか…
「和輝!翔平!出てきやがれ!」
「勝負だぁ!」
黒崎くんと久留米さんが挑発してくる。
「おーい、彩名!お前はアウトだからこっちに来い!その金髪のお嬢ちゃんにTシャツ貸してやれ!」
「はーい」
父親の声に呼ばれて、二つの足音が遠ざかっていった。うきはと彩名だろう。
「ど、どうしよう、大牟田くん!?」
「慌てないで大丈夫です…もう一度同じポイントに投擲を。わが輩の水風船を使って下さい」
「わ、わかった!」
藁にもすがる思いで、大牟田くんの指示に従った。水風船はもうない。外れたら直接撃ち合うしかなくなるぞ!
「ぎゃぁ!また水風船が!当たっちゃったよぉ…はぅぅ…!」
仕留めた!?久留米さんごめんね!
「おい!てめーら卑怯だぞ!だいたいなんでこっちの位置がわかんだよ!」
ダダダッ!
残った黒崎くんが、なりふり構わず突進してくるのが分かる。マズいな!
「移動します…反時計回りに…このコンバインを半周」
「り、了解」
僕たちが東側、黒崎くんがさっきまで僕たちのいた場所へと入れ替わる。
「あぁ!?いねーじゃんか!どうなってんだ!」
黒崎くんは大混乱だ。しかし、僕らはここで一つのミスを犯してしまう。
「おっ!銃みっけ!二丁拳銃だぜ!」
「し、しまった!」
大牟田くんの水鉄砲が置き去りになっていたのだ。
「ん!?おい、水鉄砲がないならアウトだぞ!攻撃できないだろう!」
父さんが軽トラの荷台から大牟田くんの失格を告げた。えぇぇぇ!?ヤバいよヤバいよ!
「先輩、ご武運を…」
「そんなぁ!くそぉ…!」
とにかく、裏から出てくるであろう黒崎くんとの距離を取るため、敷地内中央に位置する軽トラの前まで移動した。
「よう!一騎打ちだな!和輝!」
対面する僕たち。リタイアしたみんなは母屋の玄関前からそれを観戦している。じりじりと距離が縮まってきた。
「くっ…!」
「こいよ和輝!銃なんか捨ててかかってこい!」
いやいや!君はそれを二丁も手にしているんだがっ!?
「おらぁ!」
パシャッ!
まず、黒崎くんの水鉄砲が火をふいた!あ、あれ?おかしいかな?えーと…水をふいた!
「わわっ!」
左にダッシュ!ギリギリのところで僕はそれを回避する。
「それっ!お返しだよ!」
パシャッ!
一発しかない貴重な弾薬だ。渾身の力を込めてピストンを押す。
「へっ!ちょろいぜ!」
あぁっ!僕は必死だったのに、簡単によけられちゃったよぉ!
「とどめだ!…ん?」
このままではやられてしまう!そう思ったが、黒崎くんの動きが止まる。あれ…頬に水が…?
ザァァ…!
雨!?
「こ、航空支援っ!?全員、基地内に避難だっ!」
父さんがそう叫びながら一目散に母屋へ駆け込んでいく。雷まで鳴り出しちゃって…とんでもない豪雨です。
「チッ!決着は後日だな、和輝!」
「はは…助かった…のかな?」
もちろん僕はずぶ濡れです。
「行こうぜ。次の勝負は何にするか、考えとけよ!」
「えー!?もう勝負事はこりごりだよぉ!」
こうして、僕たち新撰部の模擬戦は強制的にその幕を閉じたのでした。