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ツァルカーンの街2

 クロガネは心底後悔していた。

 岩を背に息も荒い。


 戦力差はハッキリとしすぎている。

 見捨てる事も考えた。

 そもそもなんだ、この気持ちは。


 頭の中で考えるのはさっきから同じ事ばかりだ。


 だが、だが。


 「LR掃射」


 身を隠していた岩の陰から唐突に躍り出て、アラハバキの左背面にマウントされた重機関銃が吠えた。

さらにダメ押しで手持ちの少ないハンドグレネードも投げつけ、効果も確認せず一目散に後退する。


 こちらは一発貰えば致命傷。

 あちらは何発当たってもかすり傷。

 それはまるで調整ミスしたゲームみたいで。

 

 バックモニタに写った砂埃の中でいくつもの目が光る。

 無意味、無意味、無意味と嘲笑うかのようにゆっくりとそれがクロガネを駆り立てる。


 こんな事なら登山でもしてりゃ良かったんだと。

クロガネは己の運の無さを呪った。



***



 結局、あの後アヴァタヴァールの申し出を受け入れた一行は、いくらかの資金援助を受け正式にギロシェが案内人として派遣され。


 今はアヴァタヴァールから斡旋された宿で一夜を明かし、

再度、旅の宿へやってきたのだった。


 飴色の使い古された扉をくぐると昨日と同じようにアシャルカが気だるそうに受付をしており、目が合うと『まぁ~ためんどくさそうなのが来たよ』とばかりに目を逸した。


 他の旅人はどうかというと。

順応性が高いのか、はたまた絡むような輩があらかた病院送りになったのかは定かでは無いが、チラチラと物珍しそうにこちらを見てくるばかりで昨日のように絡んでくる者は居なかった。


 昨日より少し暗い室内は割れた窓を板張りして塞いであるからで、板の隙間から差し込む光を横切って数多の依頼が張り出されている掲示板の前まで来ると、前に居た豹の様な''ひと''と、目がいくつも有る蜘蛛の様な''ひと''がぎょっとした様子で立ち退いた。


 筋骨隆々のサングラスを掛けた黒いスーツの黒人。

体を包み込むような黒いポンチョを羽織った褐色の少女に、黒いぴっちりと加圧されたバトルスーツを着たアジア人である。

その怪しさははちきれんばかりだ。


 唯一、レザーメイルに大剣を背負った一般的な装備のギロシェは少し気まずそうであった。


 ここに改めて来たのは依頼主であるシュェリー女史の要望を達成するためだ。

 この新大陸のめぼしい資源をいくつか待ち帰らなくてはならない。


適当に道端に栄えている草やら石コロやらを持ち帰ってもいいのだが。

近い将来、我々人類と交流が始まった時に嘘がバレて信頼関係が崩れるのは避けたいとアイマン博士は考え、自ら現地調達する方向へと舵が取られたのだった。


 つまり今回の依頼を達成するには、ある程度のレアリティが必要なのだ。


 そこで目をつけたのがこの依頼掲示板である。

黒、黄、赤、青、緑、乳白、紫、虹の順に区分けされたこの依頼の中から希少性の高いものを見繕って遂行する。

 

幸いにもギロシェは乳白色のライセンスを持っており、ギロシェが受注した依頼に便乗する形であれば制限はほとんど無いようなものだった。


 別にこの中から選択しなくても良いのだが、何か指標はあった方が良いという事、さらに現地の習慣や文化を体験する為には良い。

先日の夜、宿の中で行った話し合いで決められたのだった。


 『と言う事で、ギロシェ君。

  3日ほどで何とかなるような依頼を見繕って欲しい』


 なにがということで、なのか判らないが。

アイマン博士はギロシェへ見繕いを丸投げした。


 唐突に振られた仕事にギロシェは掲示板を眺めて唸り、アイマン博士とクロガネ、アナの顔を見たり見なかったり。

そして個々の戦力から最適な依頼をいくつか見繕って。


『そうですね。

 まずはこの白産毛草の調達ですが、これを乾燥させて寝る時にお香として使えば望む夢が見られるというものです。

 資産家達の娯楽として人気が高いですが非常に調達が難しい。

 山の頂上付近にしか無く、この辺りでは空を飛ぶ撒き散らしの獣が縄張りにしています。

 彼らの翼から出る毒と鋭い鉤爪は厄介だ』


 ギロシェの説明をアイマン博士がクロガネとアナに伝えると。


 「あー。

  パスパス。

  アラハバキは登山なんて出来ねーし。

  できれば平地がいいな」


 と、クロガネは即答した。


 『ではこの八ツ足の獣の糸袋はどうでしょう?

  この糸で編んだ布は周りの景色を映し出して己を隠します。

  もちろん彼らもその糸で編んだ繭に隠れている為見つけるのは困難ですし、奇襲の危険もありますが…』


 「その虫みたいな響きは絶対にダメ。

  絶対にダメ」


 今度はアナが即答し、ギロシェは少しモヤモヤとしたが、一度咳をすると気を改めて3つ目の提案をした。


 『ではこの巨角獣退治はどうでしょう?

  ひとの味を知った獣が近くの集落へ度々現れるようで、それを倒してほしいとの事です。

  この獣は雑食で石材も食べるのですが、食べた石材によって生えた牙に特色が出るのです。

  その牙の切断面はいくつもの種類の石が年輪の様に積み重なって非常に美しく、様々な装飾品に加工されます』


 更にギロシェは掲示板の隣にある日に焼けた地図を指差した。

 そこにはヴィムと名付けられた集落と周囲を囲む無名の石森と言う名が書かれており。


 『ちなみに集落の周りは石森に囲まれていますから、そこから迷い込んできているのでしょう。

  森の外まで誘き出してしまえば開けた場所でも戦えますし、八ツ足の獣の様なものも居ません』


 そう言ってギロシェは口を開きかけたクロガネとアナを牽制した。

 

 「私は異存は無いよ。

  それに光り物の類は女性の良しとする所だろう。

  後は君達がやりやすい相手であれば良い」


 とアイマン博士はクロガネとアナに言うと、二人は少し考えた後に肯定の意見を示した。


 「因みにその巨角獣とか言うのはどんなやつなんだ?

  大きさは?

  特徴は?」


 ギロシェはそうですね……と少し考え。

 手をいっぱいに広げて。


 『大きさはこれくらいです。

  そして特徴としては非常に硬い毛皮を持っていてなおかつ油で塗れています。

  刃物は慣れていなければ通り辛いでしょう。

  そして特に気をつけるべきはやはりその牙でしょうね。

  石は非常に光を通しやすい。

  星の主からの祝福もより強く発揮されるでしょう』


 その答えにクロガネは手を広げたギロシェを見てざっくりと2メートル3メートルの猪の様な獣を想像し。

 アナや博士も含め、まぁやれるだろうと結論づけた。


 『ではギロシェ君、私達はその依頼を行おう。

  私たちは巨角獣のサンプルを貰いたい。

  まぁ毛皮だとか牙だとか肉だとかだね。

  金銭的なものは全て君に渡そう。

  それでどうかな?』


 『問題ありません。

  私は貴方達に雇われの身ですからね』


 そうこうしている内に話はまとまり、さぁ次はどうしようかと一同が考え始めた頃。

 狼人じみたアヴァタヴァールがやって来て。


 『星の光あれ旅人。

  あれからどうかな?

  ここに来たということは何かしらの依頼を請け負うと見たが……』


 アヴァタヴァールがちらりとギロシェが手に持つ依頼票を見ると、察したようにギロシェがアヴァタヴァールへと依頼票を手渡した。

 ふむ、ふむと頷きながら依頼票をしげしげとみると。


 『なるほど、ヴィムへ行くか。

  あれならばこの街から出ている荷車に乗っていけば半日も掛かるまいよ。

  そして旅の準備であれば裏通りの夜闇の白灯籠がおすすめだ。

  間違ってもここの反対側にある店は良くない。

  あれらが良いのは立地だけだ』


 ギロシェとアイマン博士はそのアドバイスにお礼を言うと、アヴァタヴァールは快活に笑い。

 

 『なぁに。

  ギロシェならば分かっていた筈だ。

  彼は有望株でね。

  今回の依頼も安泰だろう』


 と持ち上げられたギロシェは謙遜をした。

 そして片手を上げて去ってゆくアヴァタヴァールは背中越しに。


 『しかし君たち光無きひとが現れてから、ひと達だけでなく獣の動きもおかしい。

  気をつけ給えよ』


 そう忠告をするアヴァタヴァール。

 一行からは見えないが、その独眼は鋭かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

かつて無音の同胞と呼ばれる者達が居た。

星の主への敬意を忘れ力を喰らい尽くす者達。

言葉無きもの。

彼らとの闘争は長く続いており、常に均衡していた。


しかし現れたのだ。

かの無音の同胞の当主を討ち果たし均衡を崩したひと。

名を千里眼のアヴァタヴァールと言う。


「語り部 琴のシャリウム」


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