冒険者ギルドに入会を断られた
初投稿です。生暖かい目で読んでください。
冒険タグはついてますが冒険はしていません。
冒険者ギルドに入会を断られた……。
長年、商会の長として商売に勤しんでいたが、先日、息子に譲り渡し昔からの夢であった冒険者になろうとしたのに……。
意気揚々と受付で入会手続きをしようとしたら、受付嬢に年齢を理由にやんわりと断られてしまった……。
いいじゃないか! ちょっと髪が白髪で腹が出ていたって!
いいじゃないか! 年寄が冒険者になったって!
そうは思ったが、ギルドマスターまで出てきて断られてしまえば引き下がるしかない。
こうなったら冒険者ギルドに復讐だ!
家に帰って、息子に冒険者ギルドの入会を断られたといったら苦笑いされた。
ロマンのわからない息子め!
とりあえず、復讐のための準備だ。
私はいそいそと書斎に籠ると、手紙を書き始めた。
さて、10通ほど書けばいいかな、いや念の為、20通ほど書いて送ろう。
十日後
商会の使っている会議室にぞくぞくと人が集まってきた。
みんな、私が手紙を出した、長年の知り合いや、商会の長、ギルドのトップ(もちろん冒険者ギルドはいない)たちだ。
おお、領主様まで来ていただけるとは、感謝いたします。
幾人か欠席者もいたが、ほぼ招待者は集まったようなので会議を始める。
「みなさま、お集まりいただき感謝いたします。これより会議を始めます。まずはお手元の資料をご覧ください」
彼らには、事前に私が作成した資料が配られている。
内容はこうだ。
『依頼代行及び人材派遣コンサルティングの新規事業について』
そして本命の
『モンスターの定期討伐による魔石事業』だ。
どちらも冒険者ギルドが長年携わっていた仕事だ。
思いもよらない話だったらしく、集まってもらったものの中には、戸惑いや驚きの表情が多い。
「私はこのたび、新しい商会を立ち上げ、この二つの事業行いたいと思っております。つきましては、みなさまにこの件に関しての、ご協力とご理解を得たいと思い、このような場を設けさしていただきました。」
そう、これこそが私の復讐、冒険者ギルドの仕事を乗っ取ってやろうということだ。
「お手ものと資料の『依頼代行及び人材派遣コンサルティング』については、まあ、言葉通りの意味ですね、現在冒険者ギルドで請け負っている雑務を私どもの商会で代行または、人材の派遣業務を行いたいと思っております」
冒険者ギルドでは、モンスターの討伐だけでなく、街や村で発生した様々な問題を依頼を受け、冒険者への斡旋をおこなっっている。
しかし、
「依頼と出した方は皆経験があると思いますが、冒険者ギルドで斡旋している依頼は原則、受けるかどうかは冒険者の自由となっており、特に雑務の依頼などは、ほとんど受けられることがありません」
これは事実だ。
ほとんどの冒険者は金払いのいい討伐任務を受ける。
それ以外の特に雑務は、駆け出しの新人かけがをして討伐を受けられない人間が受けるか、罰則行為のペナルティで強制されるかのどちらかだ。
だから、こういった雑務依頼はギルドの依頼掲示板で埃をかぶっている場合が多い。
しかも
「こういった雑務依頼は、受けた側に満足いく知識や技術がなく、あまりいい成果が残されなかったのではありませんか?」
周りを見渡せば何人もの人間が頷いている。
かくいう私も若いころ、どうしても人手が欲しくて依頼を出したことがあったが、むしろ余計に人手のいる事態になったり、期日までに用意されず、余計な出費を抱えてしまったことがある。
それからは、人件費が多少かさんでも必要な人手を確保したり、各方面へのコネを作り、自力での人手の確保を行っていた。
「知っている方も多いですが、私共の商会では様々な知識や技術を持った人々を抱えており、また、特殊技能をもった方々へのつながりもあります、実際私どもの商会の人手を借りた方や仕事を斡旋された受けた方も多いのでは?」
実際、ここにいる方々のほとんどに人手を貸したり、仕事の斡旋を行っている。
「今回、商会の事業の一部としてやってきたことを、専門機関として立ち上げていこうと思った次第です。」
まあ、これは建前だ。
商会として立ち上げなくても、十分できるが、商会を立ち上げることでより本格的に冒険者ギルドから仕事を奪っていこうということだ。
「詳しい内容と、依頼方法についてはお手持ちの資料に添付されておりますので、そちらをご覧ください」
ここからが本命だ。
「次に『モンスター定期討伐による魔石事業』についてです」
モンスター。
マナの濃い場所に自然発生し、人や家畜を襲う害獣。
その強さは様々で、強いものであれば一国を滅ぼせる程、弱ければ子供でも倒すことができる。
モンスターは必ず『魔石』と呼ばれる石を持ち、その魔石は現在では様々な生活の場で使用されている。
「私どもはモンスターと狩る特殊訓練をした人を雇い、現在冒険者ギルドからの購入に頼っている魔石を自力で確保したいと思っております」
ふーむ、だいぶ戸惑っているようだな、まあ無理もないか、魔石事業はもともと冒険者ギルドの独占事情。
ここ百年以上誰もその事業に参戦しなかったのだから、いや、参戦したものもいたがすぐに立ち行かなくなったというほうが正しいか。
なぜなら
「ふむ、魔石事業に参入するのはいいとしよう。しかし魔石の『加工』はどうするつもりじゃ?」
魔術師ギルドのマスターがいい質問をしてくれた。
そう、冒険者ギルドが独占している魔石事業、それを支えているのが『魔石の加工技術』だ。
モンスターからはぎ取った魔石は、それだけではほとんど使えない、加工を行うことで、初めて使える魔石となるのだ。
しかし、この加工技術はギルドの超極秘事項に分類され、まったく技術の流出を許していない。
この技術によって、冒険者ギルドは現在の地位を築いてきたのだ。
が
「問題ありません、……おーいアレを配ってくれ」
会議の隅に控えていた従業員に、例の物を配らせる。
「これは魔石か?」
領主様正解。
「これは私どもが加工した『魔石』でございます」
周囲から驚きの声が上がっている。
当たり前だ、百年以上冒険者ギルドが秘匿していた魔石の加工技術を手に入れたというのだから。
「それは本当か?」
「誓って、私の首に賭けて」
領主様が疑いの目で聞いてきたが、誓って本当のことだ。
「むしろ、なぜ不思議に思うのです? 100年以上前の技術を再現できたことに?」
これは本当に不思議なことだと思う。
たった一人だけの技術ならともかく、100年以上の間継承してきた技術がなぜ盗めないと思うのだろう。
まあ、おそらくは昔失敗してきた者たちを見て聞いて、できないと思ってしまったからだろう。
私からすれば愚かなことだ。
失敗を繰り返さないことは大事だが、失敗したことがいつまでも失敗し続けていることは限らない。
特に成功例があるにも関わらず、失敗しかしないなんてナンセンスだ。
「みなさんの手元にある通り、多少質は劣りますが魔石の加工技術の再現は成功いたしました」
まあ、なかなかに再現は大変だったが。
これは、昔から疑問に思い長年情報を集めてきた。
ギルドマスターの会話の端からやギルド職員の日記や手記などをかき集め、断片的な情報から実験を繰り返し、時にギルドから大量の魔石を買って、それを調べつつようやく再現できたものだ。
まあ、個人的に趣味でやってきたことなので、息子でさえ知らず、先日教えたらひどく驚いていたが。
そんなわけで、このたび初お披露目したわけだが。
「みなさん、静粛に。」
魔石の加工で騒がしくなっていたのを鎮める。
「見せました通り、魔石の加工技術はここにあります。見ただけではお疑いの方もいるようですし、そちらは差し上げますので、ご存分にお調べください」
まずは先に進めるとしよう。
「私どもはこの加工技術と専門の討伐チームで魔石の安定供給と価格の安定化を行いたいと思っております」
ここにきて、企画が現実味を帯びてきたのが、誰もが真剣に聞いている。
「現在、冒険者ギルドで魔石の流通を独占していましたが、この独占で不具合をこうむった方も多くいると思います」
こころあたりがあるのか何人か苦々しい顔をしている人たちがいる。
「生活に必要不可欠になっている魔石ですが、冒険者ギルドが独占で販売していますが、価格も量も非常に不安定です」
これは、ほとんどその日暮らしの冒険者が元となるモンスターを狩っているわけだが、冒険者は懐が潤っていれば仕事はしない。
それゆえ、需要に比べて供給が不安定であり、その上、在庫が少なくなればギルドは魔石の値段を高く吊り上げてくる。
普通の商品なら、ほかで買うこともできるが魔石だけはギルドでしか買うこともできず、みな泣く泣く高い値段で買っている。
「そういった、価格と供給の上下をなくし、安定した魔石の供給を行いたいと思っております」
ふむ、何人かの人間は結構乗り気になってるな。
特に領主様が一番目を輝かせている。
当然か、なにせ魔石の供給を盾になかなか不利な契約をギルドに課せられているのは、領主様なのだから。
「なにか、ご質問があればお答えしますがいかがですか?」
そこからいろいろな質問が飛び交った。
Q 魔石はいくらくらいで販売するのか?
A 現状は、冒険者ギルドの値段よりやや安い値段を考えております。
Q 供給としてはどれくらいできるようになる?
A 現在、すぐに大量にはご用意できませんが、魔石狩人チームの一日の収獲量から考えますと、1年ほどで、十分な在庫を持てると試算ができております。
Q 高位ランクの魔物討伐はどうするのか?
A 現在でも高位ランクの魔物討伐は、ギルドの仲介による指名依頼になっておりますので、先の人材コンサルト業務の一環として、有能な冒険者との専属契約で賄う予定です。
Q 冒険者ギルドの職務が減ることで、職にあふれるものが出るのではないか?
A 当然出ます。がそういった者たちの受け皿としての人材コンサルティング業務です。
Q 付近のモンスターによる治安の悪化の可能性は?
A 定期的な討伐を行うので、悪化の可能性は少ないと思います。
などなど、とりあえず、事前に質問の内容を予想できていたのでスラスラと答える。
まあ、当然後付けの理由だ。
本来の理由は、冒険者ギルドへの復讐だ。
ギルドから仕事を奪って、閑古鳥を泣かせてやろうという計画だが、
正直。思いつきで計画したんだが、結構儲かりそうな予感がする。
その後も質問は続き、後日改めて返答するということで解散となった。
数日後
会議に出席したほとんどのギルドや商会、それに領主様からの賛同を得て新事業の開始と相成った。
冒険者ギルドめ! いまに見ていろ!
5年後
「社長、冒険者ギルドのグランドマスターがお見えです」
ふむ、案外早かったな。
秘書から連絡にここ数年の怒涛の日々を思い出す。
初めのうちはなかなかうまくいかず、各方面に頭を下げ、貯金を切り崩していたが、
半年後には安定し、1年たった頃には崩した貯金も戻ってきた。
初めは笑ってみていた冒険者ギルドも、だんだんと笑みが消え、次に怒り、最後に見たときは青ざめていたな。
いろいろな妨害もあったし、邪魔もされたが、新事業は現在も成長を続け、いまでは国中に広がっている。
冒険者ギルドには閑古鳥が鳴き、いくつかの街の冒険者ギルドの支店は閉鎖されたと聞く。
おそらく今回の訪問は、事実上の冒険者ギルドの降参宣言だろう。
さて、どうしてくれるか。
後日、私は自分が立ち上げた人材コンサルト会社の受付に来ていた。
あのあと、私は冒険者ギルドのグランドマスターの救済要請に応じ、冒険者ギルドを吸収合併した。
閑古鳥を泣かせたことで、私としても満足したし、これ以上の復讐は不要に思えたからだ。
その後私は、後任に社長を任せ、社長を引退した。
邪魔者もいなくなったし、これでやっと夢の冒険者業を始められる、ああ、今はハンター業と名前が変わったんだったか。
受付でひと悶着あったが、元社長としてごり押しし、ハンターとして雇われる事となった。
わたしはウキウキ気分で憧れの冒険者ルックに身を包むと、モンスター退治に出発した。
さあ、これから私のハンターとしての伝説の始まりだ!
ゴブリンに殺されかけた……。
なぜか近くにいた同業のハンターに助けられたが、どうなってるんだこれは。
こんなにもカッコイイハンタールックに身を包み、ハンターとしての心得も本でばっちり予習したのに。
こんなにもハンター魂にあふれている私がゴブリンに殺されかけるなんて、納得がいかん!
こうなればゴブリンに復讐してやる!
その後、ゴブリンが全滅したとかしないとか
おわり
9/20感想にて指摘された部分の修正を行いました。
相手を思いやって断った話が大事になったって話。
主人公の設定としては、国中に支店を持つ大商会の元会長。
戦闘訓練もしてない老人か戦えるわけないよね~(笑)
セカンドライフは計画的に