第壱話 入学
「これにて、入学式を終了します。みなさんは、出るときに自分のクラスを確認してください」
やっと式が終わった。けど、俺はここからが憂鬱だ。人によっては楽しいイベントであるであろうクラス分けなのだが、俺にとってはイベントですらない。なぜなら、俺の入るクラスは分かっているからだ……。
ここは、天使が絶対的な力を持ち管理する世界<アムストリア>。そこに、いくつも存在する魔法学校の一つ<ドボルザーク魔法学園>である。魔法学園の中では、割と有名な学校である。ここには、A、B、C、D、E、Fの六つのクラスがある。このクラスは、生徒たち自身が使える魔力の量で決まる。
周りで多少話をしながら出口へ向かっている中、一人足取りが重くなりながらもみんなが向かっているであろうクラス発表の掲示板の元へと歩いていた。少し歩くと、目の前に人だかりができている。おそらくあそこに、張り出されているのだろう。ゆっくりと歩いていたので、先に確認した生徒はもう教室に向かったのだろう。ありがたいことに、掲示板の前はそこまで人が多くはなかった。掲示板の前まで来ると、ゆっくりと張り出されている紙を見上げて自分の名前を探した。
「やっぱりか……。」
名前を見つけたが、自分の入るクラスは予想通りだった。自分の入るクラスはF。周りからは底辺やごみだめと呼ばれており、絶対に入りたくないと言われている。
「とりあえず、行くか」
自分のクラスの確認も終わったので、そのまま何事もなかったかのように教室へと歩いて行った。
教室に着き、中に入るとちらほらと生徒がいた。そこにいる全員がうつむき、一言も言わなかった。
「当然か」
まだ、自分のクラスがFクラスであると認めたくないのだ。予想はしていたので、周りほどの動揺もなく自分の席へと歩いて行く。席は、窓際の後ろから2番目だった。そのまま、暇そうな顔をして窓の外を見始めた。
どのくらい経ったのだろう。教室の前の扉が勢いよく開いた。すると、廊下から一人の女性があらわれた。歳は20代半ばくらいだろうか、身長は175cmくらいで服装は上下ピンクのジャージ。そして、髪は栗色のポニーテールでジャージの襟まで長さがある。その女性はそのまま教卓まで歩いていき、たどり着くと口を開けた。
「みんな、入学おめでとう。今日からこのクラスを担当する、エカテリーナ・クロエです。明るく楽しくがモットーです。気軽に、クロ先生って呼んでね」
突然クラスの雰囲気など気にせず明るく話すクロエにクラス中がぽかんとした。やがて、気持ちの整理をした一人の男子生徒が手を挙げた。
「エカテリーナ先生、ひとついいですか」
「いいわよ。えっと、君は…?」
「ディルヴィーナ・マルコスです」
「よし。じゃあディル君、何かな?」
「明るく楽しくと言われましたが、このクラスに配属された時点でそれは不可能ではないでしょうか」
ディルヴィーナと名乗った生徒は、クラスの声を代弁しているかのように話している。
「それは何でかな?」
ディルを試すかのように、クロエは問いかけた。
「このクラスに入った時点で今後の学校生活での僕たちの立場は決定されたようなものでしょう」
ディルは熱の入った口調で話している。クロエは頷きながら話を聞いていた。そして、一区切りがつくと口を開いた。
「今の子は何でそうやってすぐにあきらめるのかしら?」
クロエの言葉にクラス全体が動揺した。
「でも、魔力のない僕たちにあきらめる以外の選択肢なんて……」
ディルが口ごもると、クロエは話始めた。
「魔法学校のクラスは今使える魔法の種類や、魔力の量で決まります。つまりは、潜在的な魔力や、運動能力などは考慮されていません」
「だとしても……」
「あなたたちは知らないだろうから、今説明しておくね。大事になるのは、ランクです。ランクはS~E-まであります。このランクは、学校のクラスは反映されません」
その言葉に、うつむきがちだったクラスの皆が顔をあげ始めた。
「ランクは、精神の強さ、肉体の強さ、魔力の強さの3つで決まります。まぁ、決定するのは天使たちなんだけどねぇ。だから、学校生活ぐらいであきらめないで」
その言葉に、クラスの皆の顔にもちらほら笑顔が生まれ始めた。まだなんとかなるかも知れないという、希望が生まれたからだろう。その言葉に、別の生徒が声をあげた。
「魔力もないのに、体の強さだけで他の連中を見返せるとは思えません」
その言葉にクロエは微笑んで答えた。
「それは、どうかしらねぇ?ねぇ、窓際で外ばっかり見てる君?」
クロエは、こちらを見て言ってきた。ちらっとクラスの方を見ると、クラスの大半が見ている。
「はぁー、めんどくさいな」
小さい声で、ぼそっと呟いた。そして、クラス中を見回してそのまま窓の外に目をやった。
「なるほどー、自分は関係ないですよーって感じかな?」
クロエが、自分を煽って来ているのだろう。だが、それには全く反応しなかった。
「はぁ、これから大変になりそうだな」
だるそうにため息をつき、ゆっくりと目を閉じた。