悪魔の旦那と仏の嫁
悪魔はため息を吐き、頭を抱えていた。
新婚生活3ヶ月目。
嫁に自分は悪魔だと告白した。
人の皮を被っちゃいるが、地獄から来たのだと。
人々に不安と絶望を与えるのが俺の人生の目的だと。
すると嫁も自分は仏だと告白してきた。
人の姿を借りて天国から舞い降りたと。
人々に幸福と希望を与えるのが自分の生きる目的だと言った。
俺たちはお互いに自分の無いものに惹かれ合い、結婚した。
しかし、ここまでかけ離れているとは。しかも神レベルの良心の持ち主じゃねーか。
離婚も考えたが、仏と結婚したことを知られたら、地獄になんて戻れる訳が無い。
仏の嫁は悪魔である俺をすんなりと受け入れてくてた。
悪魔であっても、そんなあなたに私は惹かれたし、今でもあなたを好きだと言いやがった。
良く出来た嫁だ。
いやいや!悪魔な俺にはダメだろ!
それから俺は悪の人生をまっとうしようと心に決めた。
そしていつか仏に悪意を植え付けてやる!
いつか仏が俺色に染まって、お互いに世間を不安や絶望に陥れ、笑いあえる。そんな理想の夫婦間を
築く事が悪魔の夢になった。
まず、俺は夫婦間を壊すことが先決だと思った。仏に不安や疑惑を植え付けようとした。
その日から俺は、毎晩会社が終わると深夜まで飲み歩き、キャバクラで女の匂いを付けて帰る事を
日課にした。
仏は毎晩、俺の帰りを起きて待っていてくれた。食事はいつも暖かかった。シャツの香水の事など
一言も聞くことなどなかった。
次にギャンブルにハマってやろうと思った。しかし悪意あるパチンコの設定など、悪魔の俺には丸見えで
負けることが出来なかった。人をギャンブルに陥れるのは好きだが、人間ごときが作ったゲームに悪魔の俺が負けるというのが許せなかった。
そうだ!浮気をしよう。忘れてた。浮気こそ嫁を不安と疑惑に陥れる代表格じゃないか。
そらから俺は2度に渡って浮気を試みた。
普段よりおしゃれに気を使うようになり、携帯を見られないようにし、電話があるとテンパって
トイレで話したりした。
嫁に誰から電話と聞かれれば、ん?あっ!間違い電話!と挙動不審に答えた。
どうだ!仏!
俺は心でほくそ笑んだ。
ねぇ、あなた・・・・・あなた、もしかして、浮気してるの?
キターーー(゜∀゜)ーーーーーーーwwww
俺が浮気?そんな事するわけないじゃないか!
そうなんだ・・・・・でも私は浮気をするぐらいの器量もあなたには持っていて欲しいな。
えっ(・∀・)???
一度目の浮気はそれでやる気がなくなり、あえなく撃沈。
2度目の浮気がバレた時は、その子連れてきて、皆でパーティーしましょ!などと言い、
本当に浮気相手とパーティーをしていた。
嫁はあっという間にその浮気相手と仲良くなり、浮気相手が帰り際に、あんな仏のような素敵な
女性がいるのにあたしと浮気しちゃダメでしょ。と、関係を切られた。
その浮気相手と嫁は今でも仲良く遊んでいる。
俺は自分の悪意に少しずつ自信が無くなってきた。
俺がいくら悪を振りかざしても赦される、仏にとってそれは悪ではないのだ。
悪って何なんだろう。
衰弱していく僕の悪意。赦しの前では悪は無力なんじゃないか。
僕は一人Barでそんな思いにふけっていた。
一人の女性が話しかけてきた。僕には珍しく、その子に弱音を吐いた。
その子は優しく話を聞いてくれ、僕も酔った事もあり、深くその子に惹かれてしまった。
その日僕はその女性と一夜を共にし、連絡先を交換し別れた。
朝方、家に帰ると嫁はまだ起きていた。
一瞬で分かった。空気が澱んでいる。ピリピリと何かを感じる。
嫁はソファーに座ったまま、こちらを向かず、静止している。
何かが起きる!悪魔の感がそう言った。無意識に神経に緊張が走り、ツバが音を立てて喉を通った。
座って・・・・・
嫁はそれだけ言うとまた沈黙した。
僕は、嫁の正面に座り膝に手を置いた。手の平からは嫌な汗が染み出していた。
続く沈黙に我慢できず、ツバを飲んでから、なに?と聞いた。
また浮気・・・・・・・した?
その事か!うん、したよ。僕は少しほっとした。今までの事もあるし、そんな事で怒る嫁じゃないこと
を僕は知っていたからだ。
ピシッ!
何故か窓ガラスにひびが入った。
嫁はゆっくりソファーから立ち上がった。僕を見下す嫁の目の奥に、紛れもない殺意を感じた。
僕の目は逆だっていく嫁の髪の毛とサタンに似た殺意の目に瞬き一つできず、動くことすら出来ない。
空気が薄くなっているのか、僕の呼吸が止まっているのか分からないほど息苦しい。
なのに冷たい汗だけは溢れ出て止まらない。
でも・・・・・
口の中には水分というものが無くなり、カサカサのかすれるような声しか出なかった。
でも・・・・・?
嫁がその声を発した途端、家の外にいる鳥たちが一斉に飛び去った。
何故かテーブルに置かれた食器が細かい刻みでカタカタ振動している。
嫁の瞳には光一つ入らない漆黒の闇だけが僕を見ている。
ま、前にだって浮
その瞬間、嫁は僕の首根っこをつかみ、片手で僕を持ち上げた。物凄い力で僕を壁まで持っていき
僕は息一つ出来なかった。
僕の思考はぐるぐる巡った。なぜ今回はこんなに怒っているんだ?いつもと同じ浮気じゃないか。
何がいつもと違うんだ。なんでこうなったんだ!!
グチャっと音がした。
僕の喉笛が潰され、体を床に落とされた。
嫁は僕の首に右足を置いた。そのままボキっという音と共に僕の視界が真っ暗になった。
首を折られたのだ。
そして息絶えていく僕の耳元で、嫁が一言呟いた。
仏の顔は何度まで?
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