第3話
西宮くん。
フルネームは西宮和真くんという。
私のクラスメイトだ。
西宮くんは私のクラスの中心人物ともいえる人で、男女問わずとても人気があっていつも誰かとお喋りしていて、囲まれてる。
顔もなかなかにかっこいいと思う。
少し茶色がかった髪はサラサラで、いい長さで切られている。目はどちらかというとくりっとした目をしている。
おまけに性格も優しく温和で人懐っこい。
うちの姉ほどではないと思うが、当然のことながら彼もモテる。何人もの人に告白されているのに、中学の頃も含めて1度もその首を縦に振ったことがないらしい。
もったいなーい。
うちの学年で、姉の次に可愛いと言われてる女の子でさえも、迷うそぶりを見せずに振ったという噂だ。
硬派だということで、またそこが女子のツボらしい。
そんな人気者の彼とは朝に挨拶するくらいで、まともに話したことなんてなかった。
部活も違うしね。
だから、あの時怒ってくれたことにすごく驚いたんだ。
その出来事の後、西宮くんはちょくちょく話しかけてくれるようになった。
そしてある日の昼休み。
「へえー、中原って弓道部だったんだ。意外だなぁ。文化部かと思ってた」
「あ、それよく言われるー。西宮くんはバスケ部だったよね。すごく合ってると思う!違和感ない感じ」
「そうかー?サッカー部だと間違われることが多いんだけどなー」
「なるほど、言われてみれば…」
西宮くんとの会話はとても楽しかった。
すると。
「あの、さあ。中原さん。会話中ごめんけど、ちょっといい?」
ん?この感じは…。
……なるほどなるほど。
「いいよ。西宮くん、ちょっとごめんね」
「うん」
着いたのは人のいない空き教室。
「あのさ、これ…」
「わかってるよー。夏希に届ければいいんだよね?」
「そうそう!さすが中原!ありがとう。頼んだ」
「はーい。了解です」
やっぱりねー。昨日に引き続き今日もですか。
流石は夏希。やりますなぁ。
教室に戻ると、西宮くんはまださっき話していたのと同じところにいた。
「あれ?ごめん、もしかして待ってた?」
「うん、まあ。他に話す人いなかったし」
嘘つけ。西宮くんいっつも他の人に囲まれてるでしょ。
待ってくれたことは素直に嬉しいけど。
「あのさ、中原」
「うん?」
珍しく戸惑ってる様子。なんだろう。
「あの…、さっき出て行ったのって、その、もしかして……、告白、だったりする?その、ごめん!ほ、本当は聞いちゃいけないことなんだろうけど気になって…」
しどろもどろしながら彼は問いかけくる。
あー、この手の話題は確かに聞きにくいかもねえ。
「うん、そうだよー。ラブレター預かってきた」
西宮くんはぽかんとしていた。
「そ、そっか…」
「どうしたの?」
「そんなにあっさり答えてくれるとは思わなくてびっくりした」
隠すようなことじゃないのに。
だって夏希がモテモテなのは周知のことだろうに。
「中原って人気あるよな」
「そうだねえ」
夏希の人気は確かに凄まじいねー。
同中の人は慣れてると思うけど、高校からの人はびっくりしただろうねー。
そう思って西宮くんを見ると、変な顔をしていた。
「何か、勘違いしてない…?」
「え?何が?」
何かおかしなところがあっただろうか?
「夏希の話してたんだよね?」
「何でそっちにいっちゃうかな…」
「え⁉︎違うの⁉︎」
「違うよ!お前の話してるの!だからあんなあっさり答えたのか…」
うわー。見事に食い違ってたなぁ。
「今のは、夏希当てのラブレターを預かってきたの。だからさっき告白されたのは私じゃなくて夏希の方だよ」
「夏希…って、中原の姉のことか」
「そうそう!」
夏希のラブレターを私が預かるのはみんな知ってることだと思ってた。
主語は大事だね。
「中原は告白されたことないの?」
「あはは、ないないー」
「そうなの?ふうん」
ええ、ありませんとも。この人生で1度も!
けどもう諦めてるからいいんですーっ!
その時ちょうど予鈴がなったので、西宮くんとの会話はそこで終わった。