第1話
「あの、さ…。これ…」
そう言って渡されるラブレターと思わしき手紙。
「夏希ちゃんに渡してくれないかな!」
「うん。いいよ。わかった」
…だと思った。
夏希というのは私、中原瑞希の双子の姉のことである。
姉はそれはもう凄まじくモテる。
高校生になって3ヶ月と経っていないのに、告白された回数は数え切れないほど。
そして正面きってラブレターを渡せない男子は私の所へ来る、というわけだ。
対して私は1度も告白されたことがない。
というか、15年と数ヶ月生きてきて1度も告白なんかされたことがない。
中学のときにちょっといい感じになった男子はいたけど、姉がニコッと笑ってその男子に向かって「私も瑞希の友達なら仲良くしたいな」なーんて言ったら、その男子はあっさり姉に落ちた。
世の中理不尽だよねー。
その出来事はさすがに心にグサっときた。
高校は姉とは別のところに行ってエンジョイしようと思っていたのに、姉は私の心を知ってか知らずか、私と一緒の高校に行くと言い出した。
姉は頭がいいから、もっといい高校に行きなよ!とか言って必死に抵抗したけど無理だった。そして現状に至る。
中学の時点で比べられることは諦めの境地に達していたが、高校では…!と仄かな期待を抱いていた私が馬鹿だった。おそらくこの姉は一生私について来るだろう。
そして私は今日も姉の引き立て役を務める。
***
中間テストの結果が返ってきた。
…古典のテストが少し良かった程度で、あとは平均点より少し上くらいだった。
私の学校は、合計点数の上位20名の名前と点数が張り出される。
姉はなんと学年3位。びっくりだ。
「夏希ちゃんすごいねー!3位だって」
「瑞希は載ってないの?」
…うおお。これは思った以上にくる。
おそらくこの友人は悪気があって言っているわけではない。
平静を装っていつもみたいに笑顔で答えよう。平静平静。
「まあねー。私は夏希みたいに頭よくないから」
「双子なのにここまで違うとは…」
「そうなんだよねー。私ももっと頭良かったらなぁ」
「瑞希はちょっとぽけっとしてるとこがかわいいんだよー。夏希ちゃんみたいに完璧超人なんて似合わないよー」
「えー、どういうことー?」
「親しみやすいって意味よー。褒めてんの!」
そして一緒に笑う。
時々苦しいと思う時もあるが、今のところ高校生活は楽しめてると思うので良しとする。
大丈夫。慣れてるから。
いつもそう心に言い聞かせて。