表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
object maker  作者: 舞崎柚樹
2:色のない空
8/106

片隅の恋心

 卵バズーカ完成から一夜明け、太陽はもう既に真上にまで昇っていた。

 「ちょっと外出てくる。」

 ルギがデオルダに一言告げてドアを開けた。

 ルギが外に出ることは珍しくない。

 町には行かないのだが。

「ああ。」

 デオルダも特に止めることをしない。

 だいたいルギが外に行く時は試作品の実験のためである。

 いつもなら「手伝ってくれ」などといい、デオルダを実験台にするのだが……。

 今日は一人で外へ行った。

 そして、何も持たずに外へ行った。

 実験ではない、ということだ。


 歩いて五分。おとぎ話に出てきそうな、少し小高い丘にある大きな木。その太い幹に背中を預けて座る。

 木々の葉を揺らす風は、静かな音をたてている。

 一人でここに来ることは珍しくない。

 ここからは、町が少し遠目に一望できる。

 街には行かない。

 それでも、この国がどんなところか見たいと思い、昔はよくここに来ていた。見ているうちに、ここに来るのが癖になっていた。

 「人が好きなくせに、慣れないことしたっていいことないでしょ?」と、何度もここで言われた。

「人が、好きなくせに……か。」

 確かに、他人と関わりを持つことは嫌いじゃない。他人と協力するということが好きだったし、自分のできることが役に立つのならそれでよかった。

 そう思っていた。

 失敗を二度も繰り返すつもりはない。


 ふと、昨晩のことを思い出していた。

 「恋人じゃねえよ。」と自分で否定した。何度も。昨日も。

 昔は、ルベルが笑って肯定していた。

 それを、俺が悲しくも否定する。

 理不尽なんかじゃない。不合理でもない。

 ルベル・シャドルネは自分の恩人。

 言い切れない感謝。

 その感情の変化に気づいたのは、いつのことだっただろうか。

 少しの間、あまりの恥ずかしさにルベルの顔を見ることすらできなかった。

 いつしか、感情を棄ててしまおうと一人でもがいていた。

 もしもあいつが、ルベルが叶わない恋を望んだとしても。

 それが幸せであったとしても。

 俺がそれを認めてはいけない。

 それでも、片隅に追いやるのが精一杯で、隣で笑っているのを見ているだけで……心苦しかった。

 あいつの気持ちも、自分の気持ちも、両方を理解しているからこそ、どうしていいのかわからなくなった。

 いなくなって初めて気づくとは、このことだと実感した。

 自分の手が届かずに失った。

 まだ、手を伸ばせば届く距離にいるのなら、精一杯できることをしなければならないと思う。

 一度は諦めかけたと知ったら、怒るだろうか。

 無力であることを怒らない。諦めることを怒るやつだ。

 きっと怒るに違いない。

 自分は決して無力ではないと思っていた。

 それが、強がりだと思い始めてしまった。

 神の遣いなんて倒せるはずがないと、思考回路が気づいてしまった。

 それが、こんなにも悔しいとは思わなかった。

 倒せないことが悔しいのではない。

 助けられないことが悔しいのだ。

 一生懸命片隅に追いやり、いつか消滅することすら望んでいたその感情に、消えかけた感情に、今は自分の中から消えないでくれと懇願している。

 心苦しかったあの笑顔を二度と見れないことが……息苦しい。

「……俺も思うよ、ルベル。……叶わない恋が、あったっていいって、思う。」

 言葉にしたところで伝わらない、遅すぎる返事。

 見上げる空は雲が少ないにも関わらず、曇っていた。

 晴れるには、少し時間がかかるようだった。


毎話、読んでいただきありがとうございます。


今回は、ルギの心情的な部分を書かせていただきました。

ちゃんと伝えられているかどうかは別として。


次話は、このすぐ後の話です。

少女との出会いが、ルギの何かを変えていくかどうか。

また読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ