片隅の恋心
卵バズーカ完成から一夜明け、太陽はもう既に真上にまで昇っていた。
「ちょっと外出てくる。」
ルギがデオルダに一言告げてドアを開けた。
ルギが外に出ることは珍しくない。
町には行かないのだが。
「ああ。」
デオルダも特に止めることをしない。
だいたいルギが外に行く時は試作品の実験のためである。
いつもなら「手伝ってくれ」などといい、デオルダを実験台にするのだが……。
今日は一人で外へ行った。
そして、何も持たずに外へ行った。
実験ではない、ということだ。
歩いて五分。おとぎ話に出てきそうな、少し小高い丘にある大きな木。その太い幹に背中を預けて座る。
木々の葉を揺らす風は、静かな音をたてている。
一人でここに来ることは珍しくない。
ここからは、町が少し遠目に一望できる。
街には行かない。
それでも、この国がどんなところか見たいと思い、昔はよくここに来ていた。見ているうちに、ここに来るのが癖になっていた。
「人が好きなくせに、慣れないことしたっていいことないでしょ?」と、何度もここで言われた。
「人が、好きなくせに……か。」
確かに、他人と関わりを持つことは嫌いじゃない。他人と協力するということが好きだったし、自分のできることが役に立つのならそれでよかった。
そう思っていた。
失敗を二度も繰り返すつもりはない。
ふと、昨晩のことを思い出していた。
「恋人じゃねえよ。」と自分で否定した。何度も。昨日も。
昔は、ルベルが笑って肯定していた。
それを、俺が悲しくも否定する。
理不尽なんかじゃない。不合理でもない。
ルベル・シャドルネは自分の恩人。
言い切れない感謝。
その感情の変化に気づいたのは、いつのことだっただろうか。
少しの間、あまりの恥ずかしさにルベルの顔を見ることすらできなかった。
いつしか、感情を棄ててしまおうと一人でもがいていた。
もしもあいつが、ルベルが叶わない恋を望んだとしても。
それが幸せであったとしても。
俺がそれを認めてはいけない。
それでも、片隅に追いやるのが精一杯で、隣で笑っているのを見ているだけで……心苦しかった。
あいつの気持ちも、自分の気持ちも、両方を理解しているからこそ、どうしていいのかわからなくなった。
いなくなって初めて気づくとは、このことだと実感した。
自分の手が届かずに失った。
まだ、手を伸ばせば届く距離にいるのなら、精一杯できることをしなければならないと思う。
一度は諦めかけたと知ったら、怒るだろうか。
無力であることを怒らない。諦めることを怒るやつだ。
きっと怒るに違いない。
自分は決して無力ではないと思っていた。
それが、強がりだと思い始めてしまった。
神の遣いなんて倒せるはずがないと、思考回路が気づいてしまった。
それが、こんなにも悔しいとは思わなかった。
倒せないことが悔しいのではない。
助けられないことが悔しいのだ。
一生懸命片隅に追いやり、いつか消滅することすら望んでいたその感情に、消えかけた感情に、今は自分の中から消えないでくれと懇願している。
心苦しかったあの笑顔を二度と見れないことが……息苦しい。
「……俺も思うよ、ルベル。……叶わない恋が、あったっていいって、思う。」
言葉にしたところで伝わらない、遅すぎる返事。
見上げる空は雲が少ないにも関わらず、曇っていた。
晴れるには、少し時間がかかるようだった。
毎話、読んでいただきありがとうございます。
今回は、ルギの心情的な部分を書かせていただきました。
ちゃんと伝えられているかどうかは別として。
次話は、このすぐ後の話です。
少女との出会いが、ルギの何かを変えていくかどうか。
また読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。