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object maker  作者: 舞崎柚樹
2:色のない空
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食後のコーヒー

「ところでさ。」

 卵バズーカの話が一段落したところでルギがノッシュを見た。

「あ、俺?」

 いきなり話を振られて驚くノッシュ。

「そうだ、お前。まあ、俺らのせいだろうけど。」

「何が?」

「お前、今日飯食いに来ただけじゃねえだろ?」

 確かに、ノッシュが来るタイミングが悪かったのも事実だが、話を切り出せる雰囲気ではなかったのも事実である。

「ああ、忘れてた。」

「それこそ忘れちゃならないと思うけどな……。」

「じゃあ、思い出したところで言うけど。」

「聞くけどさ。」

 一つの咳払いを挟む。これはわざと、だが。

「実は、最近子供が一人で森をさまよってるらしいんだ。」

「一人で?」

「子供が?」

 各々の質問はとりあえず無視してノッシュが続ける。

「で、お前ら見たことない?」

「なんで俺ら?」

 別に答えたくないわけではないのだが、なぜ聞かれたのかルギには疑問だった。

「何ボケたこと言ってんだよ。町外れの小高い丘の上みたいなところに住んでるくせに。」

 笑いながらノッシュが言う。

「どこのおとぎ話の世界だ。ここは。」

「厳密には町外れの森の手前だ。」

 町外れしかあっていない。

「街の人からして見れば、ここは森だからな?」

 ルギもデオルダも特に嫌な顔はしなかった。

 ある程度森であると認めているのだ。

 それもそのはずで、周りは言うなれば木々の生い茂った自然豊かな町外れなのである。

「でも、俺は見たことないな。」

 デオルダがノッシュに言う。

「そっか。街の人もお前に会いに行ってるなら別に心配しないって言ってたんだがな。」

「信用してもらってるようで安心したよ。」

「そう言うなよ、来てもう二年経つんだろ?」

「それくらい、だな。」

 ルギとデオルダはクリングルという国にとって、まだまだ新参者なのである。そのため、デオルダとしてみれば信用されていることはとても嬉しいことであった。

「それに対してお前。」

「?」

「幽霊扱いだ。」

 にやりとしながらルギを見るノッシュ。

 ノッシュとしては、ルギが少しふてくされるであろうと思っていたのだが。

「構わねえよ。そんなもんだからな、実際。」

「は?」

 真顔で幽霊を肯定されてしまった。

 そもそも、ルギは滅多に街に来ない。だから街の人は、ルギを知らない人の方が多い。

「なんだ? 否定すると思ったか?」

 ノッシュは逆にルギに笑われてしまった。

「普通さ、自分が幽霊扱いされてそれを認めるか?」

「幽霊だろうがなんだろうがいいけど。別に。」

「そういうもん?」

「……だと思うけど。」

「本人がいいって言うなら。」

「いい。」

「あっそ……。」

 どうやら、幽霊の友人がいたようだ。とノッシュは気づいた。

「そんなわけで、俺も見てない。」

「わかった、ありがと。」

「で、その子供は?」

「ちゃんと毎回帰ってくるんだよ。」

 これが街の人、並びに子供の両親を困らせている原因でもある。

 いなくなったわけではない。帰ってくるのだから。

「へー。」

「でも、いなくなってから騒いだって仕方ないだろ?」

「まあ、そうだよな。」

 ノッシュの言葉に二人が納得する。

「とにかく、見たら教えて欲しいんだ。」

「ああ。」

「わかった。」

「飲む人。」

 デオルダがマグカップを持ち上げた。

 コーヒーのおかわりを促すいつもの行為だった。

 ルギとノッシュはいつも通りそれに応じた。


 湯気が途切れることなく上がっている。

「なあ、ルギ。」

「んー?」

 ルギはコーヒーにミルクを入れていた。

「それ、熊が倒せることはよくわかったけどさ。」

「卵バズーカ?」

「ああ、確かに。熊は倒せたな。」

「弾丸が卵の時点できっと、神様は倒せないだろ。」

 デオルダがコーヒーを一口。

「そこが何においても一番の問題だ。」

 ルギが一口。

「なんで神様倒すんだよ。」

 その流れでノッシュがコーヒーを飲むことはできなかった。

「あ、言ってなかった……っけ?」

「おい、ルギ。次は何をやらかしたんだ?」

 笑いながら、肘でルギをつついてみた。

「俺がいつも何かしら悪いことしてるみたいに言うな!!」

「悪いこととは言ってない。」

 さすがに怒られた。

「でも、ノッシュには全部話しておいたほうがいいな。」

「だな。」

 デオルダの頷きで、ルギは事の顛末をノッシュに話し始めた。


 全部を説明し終わり、ノッシュの感想は……。

「ヘンテコ面倒事に巻き込まれてるわけか。」

「一言で表すとそうなるけど……。」

「いつものことだろうが。」

「それでルベルいなかったのな。」

「ああ。」

「でも、なんでわざわざルベルを人質にとってまでルギにやらせようとしてんの? なんか、他にもやり方ありそうだけどね。」

 ノッシュが不思議そうに聞く。

創造神(クリエーター)様だからな。」

「それやめろ……わざとだろ。」

 ノッシュは本当に呼ばれるのが嫌いなのかと、毎回不思議で気になるけど、聞けないでいた。

「ああ。」

「いや、そういうことじゃなくて。」

 だが、ノッシュの言いたいことは創造神(クリエーター)のことではないようだ。

「?」

「だってさ、ルベルはデオルダと同じでルギのことよく知ってたじゃん。俺、ルベルも助手だと思ってたし。」

「あいつは、助手じゃないけど。」

「うん、デオルダに聞いたことある。でもルギに、今みたいに武器作らせるんだったらルベルはルギと作業させたほうが効率いいと思うけどね、俺は。」

「まぁ……。」

「素朴な疑問だけど、さ。」

 答えは誰にもわからないんだろう、そう思ってノッシュがコーヒーを一口。

「俺はその答え知ってるけど。」

「へ?」

 ノッシュの声が少し裏返っていた。

「簡単なことだよ。」

「そんなに?」

「にやけが止まらないほど。」

「確かに、顔が緩んでんぞ……。」

 デオルダは楽しげに笑っていた。

「なあ? ルギ?」

「うっさいな……。」

「?」

 ノッシュはルギも答えを知っていると感じた。

 だが、ルギは浮かばない顔をしている。

「さっき言っただろ? 有罪判決の話。」

「ルベルを殺したってやつな? でも死んでないんだろ?」

「ああ。だが、ルギはルベル殺しで捕まったわけじゃないんだ。」

「??」

 ルベルを殺したから捕まったという話を聞いた直後に違うと言われると、一体どうなっているのかわからなくなる。

「恋人、殺しで捕まったんだよ。」

「っ!?」

 デオルダが最初をゆっくりと強調するように喋るので、ノッシュはすぐに理解して、笑いが止まらなくなってきた。

「わかったか? 有罪判決はある種の脅しなんだよ。」

「おお……。脅しよりも、そういう関係に……。」

「恋人なんかじゃ……ねえよ。」

「え。」

 冷め切った返事が返ってきた。

「いいねえ、思春期は。」

 だが、デオルダはものともせず、ルギをからかい始めた。

「っ!? ふざけんな!!」

「まあまあ、落ち着けよ少年。」

 便乗するノッシュ。

「誰が少年だ!!」

「おっさんがいいか?」

 さすがに、ノッシュもデオルダの言葉に対しては何も言えなかった。

「……もう少し表現ないのか?」

「くくく……。」

 ノッシュの笑いは、止まらない。

「お前はいつまで笑ってんだ。」

「お前も人間だったか。」

「あいつとは、そういうのじゃない。」

「なんでそこまで真顔で否定すんの?」

「うるさいな、この話はここまでだ。」

「……へいへい。」

 ルギには何があっても言うつもりがなさそうなので、諦めるノッシュ。

「そんなわけで卵バズーカができたんだよ。」

「バズーカで神を倒そうとするお前の考えがすごいよ。」

「次はどうするかな……。」

 腕を組んで考え始めたルギ。

「ミサイルでも作れば?」

「完全に兵器じゃねえか。」

 ノッシュの提案に呆れ気味ではあった。

「バズーカだって立派な兵器だ。」

「そう、だけど。」

「ま、面白そうだから何かできたら教えてくれよ。」

 ノッシュはルギの実験に何かと立ち会っている。

「好きだな、お前も。」

「俺は物好きだからな。」

「悪口のつもりで言ったはずなんだけどな。」

 会った最初の頃は、ルギにしつこく迫っていたことから、ルギは悪口のつもりで言った。

「通用しなかったな。」

 笑うデオルダ。

 それが事実であることを知っているからか、ルギはそれ以上言わなかった。

「さてと、そろそろ俺も帰るかな。いいだけご馳走になったことだし。」

 ノッシュがマグカップの中のコーヒーを飲み干し、立ち上がる。

「いつものことじゃねえか。」

「今日、お前そればっか……。」

「気のせいだ。」

 三回目である。

「じゃ。たまには森から出てこいよ。」

「心霊現象になるから行かん。」

「頑なだなあ。」

「全くだ。」

 そして、明かりの少ない夜道をノッシュは街へ帰って行った。

今回も読んでいただきありがとうございます。


申し訳ないですが、今のところ、ミサイルを作る予定はありません。

軽いジョークだと思っていただけたら……。


次話に関してですが。

次話はちょこっとルギの独り言のようになる感じ……です。

もしかすると、二話連続で投稿するかもしれません。

気になる方がいらっしゃればまたよろしくお願いします。

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