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object maker  作者: 舞崎柚樹
7:炎華の祭
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フェイクフェイス

「それにしても、どうしたんだあいつは。」

 食後の食卓を囲む四人。ルギはデオルダに向かって唐突に話を向けた。

「ノッシュか。」

「変だったな。」

「最近はそんなにギクシャクしてなかったはずなんだけどな。」

 デオルダも気にはしているようで、考え込むものの、はっきりとした答えは出てこない。

「ギクシャクって言うより、あれじゃあノッシュがクルーニャを避けてる感じだな。」

 チーシェは、今日見た限りで感じたことを口にするが、デオルダは何かを肯定するようにため息をついた。

「そこがおかしいんだよな。」

「おかしいって?」

「ノッシュは元々、人を避けるようなやつじゃない。」

「まあ、それは見ていればわかるけど。」

 確かに、自分もそれほどノッシュと長い付き合いではないと、チーシェが思い返す。それでも、拒否という態度をノッシュにとられたことは一度もないのだ。

「変と言えば……。」

 ルギはエデンの方を見た。視線に気づいたエデンは顔を向けて話に参加する姿勢をとる。

「スティスとノッシュだ。」

「なんか、知り合いみたいだったな。」

「そうだったのかい?」

 これにはエデンも意外だったようで、目を丸くして聞き返す。

「ああ、しかもノッシュはスティスに……お前、賢者だったのかって言ったんだぞ?」

「賢者だったのかってことは、それ以前に会ったことがあるのか。」

「そうなるな。」

 状況を整理するチーシェの言葉をデオルダが肯定する。ルギは珍しいことじゃないとは思うけど、と肯定しつつも困惑を示す。

 だが、デオルダにはもう一つ疑問に持っていることがあった。

「なあ、お互いに知り合ってるのに、片方が名前を覚えてないなんてこと、あると思うか?」

「ノッシュ……か。」

「どういうこと?」

 チーシェは首を傾げて二人からの返答を待つ。

「スティスはノッシュって名前に疑問を持ってた。」

「名前に疑問を持つって、前に似た人がいたとか?」

「知り合いだっていうなら、それはないだろ。」

「あ、そっか。」

 自分の考えをあっさり否定されたものの、状況が飲み込めていないのも確かで、もう一度考えを巡らせようとするチーシェの隣から声がする。

「……偽名だと感じているのかい?」

 そう言うエデンは、ルギをしっかりと見つめていた。

「前会ったとき、ノッシュとは名乗ってなかった……考え過ぎかもな。」

「確かに、ただの憶測だからな。」

「まあ、そこまでするとなると相当な理由だろうな。」

 考え過ぎってことにしておこうか、とルギが言い、デオルダもそうだな、と話を打ち切ろうとすると、エデンは楽しそうに笑った。

「なんだよ。」

 当然のように、ルギが嫌そうにエデンの方を見返す。

「相当な理由、ね。」

 笑う理由としてはなんとも説得力がないとデオルダは感じたが、ルギは不貞腐れたようにテーブルに肘をついた。

「悪かったな、“偽名”で。」

「は?」

「え?」

 ルギの突然の告白に、デオルダとチーシェは一言声を出すので精一杯だった。ルギを見つめたまま、固まってしまう。その視線がさらにルギを不機嫌にさせたのだろう。そっぽを向いてため息をつく。

「あーはいはい、すみませんねー、嘘つきでー。」

「いやいや、そういう話じゃないだろ。」

「えっと、どういう理由?」

 これに関しては流せる話題ではないとばかりにデオルダとチーシェが食い下がると、ルギは隠す素振りも見せずに話しだした。

「単に覚えてないだけだ。忘れたっていう方が正しいのか。」

「聖域、か……。」

 デオルダの言葉に、チーシェがハッとする。本人の口から聞いたわけではないにしろ、聞いたときは背筋が凍るほどの衝撃を受けたのだ。その時と、それ以前の記憶があやふやだというのも聞いていたので、ここは納得するしかない。

 聖域という言葉で暗くなったデオルダとチーシェの表情をルギがどう捉えたのかわからないが、ルギは口を開いた。

「別にいいんだよ。今の名前別に嫌いじゃないし。偽ってるわけじゃないし。覚えてないだけだ。」

「……嫌いだったら変えるのかよ。」

「そういう問題じゃねえ。」

 デオルダの反応に呆れるルギを見て、エデンがまあまあと言いながら、間に入る。

「ノッシュにだって何か理由があると思うならそれでいいじゃないか。」

「ですね。」

「あまり深入りしていい内容じゃない、か。」

 エデンの言葉に同意するようにデオルダとチーシェは頷くが、ルギだけは怪訝そうな顔を示したままだ。

「……掘り返したの、父さんだからな。」

「あ。」

 確かに、ノッシュの話から偽名で終わるはずだった話をここまで広げたのは……エデンである。


 ノッシュの家で、借りている部屋のベットの上にはクルーニャとアモリアの二人が体育座りをして並んでいた。長いことその姿勢で、膝に顔を埋めたままのクルーニャを見ていたアモリアがその膝をつつく。

「ねえ? 聞いてもいい?」

「聞いてた印象とかなり違うって言うんでしょ……?」

「そうね。あれじゃあ別人よ。」

 ようやく顔を上げたクルーニャは今にも泣き出しそうだった。

「おかしいよ、今日のノッシュ……。」

「まあ、私は初めて会ったから多くは知らないけれど、イカを買い終わった後のノッシュと今のノッシュは別人よね。」

「イカ……。」

「原因は、スティスと砂屑(すなくず)かなぁ。」

 アモリアが困ったようにクルーニャを見ると、ため息をついていた。

「どうしちゃったのかな……。私、避けられてるよね……。」

「明らかにね。」

「うぅ……。」

「追い出されてないだけいいと思いましょ。」

「うん……。」

 確かに、避けられているのに居候として家に入れてくれているだけいいと思うしかないのだ。今はいいと思えと、クルーニャは自分に言い聞かせる。

「それとも、確認しに行く?」

「……うん?」

 隣で何やら楽しげな声が聞こえて、嫌な予感もして、聞き返した時にはもう腕を掴まれている。

「よっし!! 覗きに行きましょ!!」

「何言ってるの?!」

 抵抗する暇もなく、クルーニャはアモリアに腕を引かれ、無理矢理立ち上がり、そのまま連行された。


 一方、同じ屋根の下で体育座りする青年。周りの空気すら巻き込んで黒いオーラを放っていた。

「なんか……悪かったな。」

 さすがに、この黒いオーラを十分も見続けると罪悪感というものがスティスにも生まれてしまう。声をかけると、微動だにしなかったノッシュが重い腰を上げるように顔を少しだけ上げる。半目がスティスを捉えた。

「お前が謝ることじゃないさ……。俺が逃げてるから……夢になんかに縋るんだ。」

「どう、するんだ?」

「祭りの間は……どうもできないよ。」

 ようやくノッシュが顔を上げた。天井のライトを見ながら何かを考えている。

 これ以上は何も言わない方がいいかと思い、スティスは「そうだな」と一言だけ返した。

「避けてる、かな……俺が。」

「それはもう、明らかに。」

「何やってんだろ……最低だな。」

 ここにきて、先程とは違う落ち込み方を見せたノッシュ。スティスは笑いを堪えつつ、昼間からずっと言いたかった言葉をぶつけた。

「……初恋は甘酸っぱいな。」

「うるさい……。」

 ノッシュの言葉は怒っていても、その声はまったく怒っているようには聞こえない。まして、そっぽを向いた顔が恥ずかしそうにしているのだからスティスは面白くて仕方がない。

「やっぱりお前のせいかもしれない。」

「えー?」

 聞こえてはいたが、わざと聞こえないふりをするスティス。夜はまだまだ長い。からかうネタは探せばまだまだありそうだった。

「あのなぁ……。」

 ノッシュが呆れたようにスティスに顔を向けた瞬間に、勢いよく部屋のドアが開き、そこには楽しげな笑顔でノッシュを見るアモリアが立っていた。

「ちょっと!! 初恋だったの!?」

「ノックなしに男の部屋に入るなよ。」

 アモリアの行動力の高さを知っているスティスも、ドアが開いた瞬間は驚いたものの、アモリアの姿を見るなり、驚きもキレイに消えてしまった。

「何よ何よ!! 面白可笑しく聞いてたけど……。」

「い、いつから……。」

 ノッシュは驚きの顔を未だに引きつらせているため、全く笑えてない。寧ろ、ノッシュにとっては笑える話題ではないのだろう。

「強いて言うなら最初から!!」

「うぐっ……。」

「トドメだな。」

 ノッシュが音もなく崩れる。ご愁傷様と、スティスが付け加えると、アモリアは笑いを堪える気がないようで、豪快に笑い出した。

「なーんだ。別に嫌いになったわけじゃないのね。」

「そ、そんなわけないだろ!! あ、いや、そういうわけじゃ……。」

 勢いよく赤い顔を上げて叫ぶノッシュは、自分の言ったことに気づくと、両手を顔の前で振り回し始めた。

「お前、もう言ってることおかしいぞ。」

「まあ、反省してるようだから許してあげな。」

 ドアの辺りに立っていたアモリアが顔を横に回している。それを見たノッシュの両手は動くのを止め、スティスも状況がわからず固まってしまう。

「初恋なんて聞いて茹でダコになってるの?」

「ちょ、ちょっと!! アモリア!!」

「って、クルーニャまでいるのかよ?!」

 部屋の中からはクルーニャは見えないが、声だけでドアの近くにいることはわかる。そして、アモリアと一緒にいたということは、クルーニャもノッシュとスティスの会話の一部始終を聞いてしまったということになる。

 クルーニャまでアモリアについてきて盗み聞きをしていたことに驚くスティスだったが、掠れた笑い声が耳に届き、背筋が寒くなるのを感じながら声の主を恐る恐る見る。

「あ、あはは……ダメだ、俺もう死にたい……。」

「お前も何言ってんだ!! しっかりしろ!!」

 動ける体を残して魂だけ昇天する勢いのノッシュの肩を掴んで大きく揺する。

「ほら、茹でダコもしっかりしな!!」

「ゆっ!? 茹でダコって言わないでっ!!」

 ドアの外では、アモリアがクルーニャをからかっているのだろう。声だけでスティスは全てがわかった気がして、ため息をついた。

「もう、収拾つかねえ……。」

 ノッシュの肩を揺すりながらスティスは一体いつまで続くのだろうかと、ふと考えてしまう。

 そう、夜はまだまだ長いのだ……。


読んでいただきありがとうございます


アモリアさんの行動力が何とも無茶苦茶だと思っていたのですが、それくらいの方が元気良くていいかなって。

これからも元気に無茶苦茶やってもらいたいです。

次話からお祭り二日目を始めたいと思います。

今回、夏祭りは二日構成なので、一応最終日となりますが、午前と午後で色々事件を起こす予定でいます。

どうぞお楽しみに。


またよろしくお願いします。

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