二人の理由
「まったく、君も意地悪というか……。」
呆れた声が一人を見つめる。
「そんなことありませんよ。一途って言ってください。」
満面の笑みで答える。
「一途、ねえ……少し意味が違う気がするのは私の気のせいかな?」
「気のせいですよ。」
「そう、か?」
「私が素直に言ったって、向こうはなーんにも言ってくれないんですから。まったく、困っちゃいますよ。」
「あの子は少し口下手だからね。」
「口下手、ですか。」
「なあ、どうして、助けを求めようと思ったんだい? ルベル。」
「それはですね、神様……。」
ルベルは口角を上げて答えた。こんな言葉を口にするのは少し恥ずかしいなんて思いながら笑う。
本当に想ったから、それが本心でいいと感じている。
受け取ったあの人は今、何を思っているだろうか。
個人的には泣いてくれるくらいのことがあってもいいと思うのだが、神様曰くあの口下手が泣くなんてあまりにも考えられなくて少しがっかりした。
だから、真顔で呆れるくらいでいいと思う。寧ろ、その顔が普段の顔のようなところがあると感じていたので、気にしない。こっちが何と言おうと向こうからは何もないし、きっと約束のことなんて忘れてて、ただの口実になってるのかもしれないし……。
気にしないというより、気にしたくなかった。
思い出しているこの時が一番寂しくて。
あの人にだけは忘れられたくないと思った瞬間だった。
「なあ、一つ気になってることがあるんだけど。」
デオルダがルギに声をかけた。
「珍しいな、お前から。」
「どうして、助けようと思ったんだ?」
「へ?」
目を丸くしてルギがデオルダを見た。
「だって、そうだろ? 神様に勝負を持ちかけられて今回のことが始まったわけだ。つまり、それまでは急いで助けようとは思ってなかったわけだろ?」
「ああ、そういうことか。」
「そもそも、あいつを助けてしまったら神の審判の前提が崩れる。国王が何もしないとは考えられないしな。」
「ああ、それについてはジェイズさんから忠告された。」
さすが、勘が鋭いな。とルギが笑う。
「それでも、お前は今回ルベル救出をしようとしてる。」
「ああ。」
「今回、そこまでリスクを負う必要があるのか?」
「リスク、と言われると全くねえな。」
ルギが首筋を摩りながら答える。
「でも、まあ……助けたくないとは思ってない。」
「それは知ってるよ。お前、最初は今年中にどうにかしないとルベルに殺されるからってどうにかしようと考えてただろ。」
「そ、そうだったかなぁ……。」
「そうだったよ。」
「どうして……か。」
少し照れくさそうに笑うルギを珍しいと思いながら見ていたデオルダ。
「まあ、簡単に言うなら……。」
ルギは笑いながらデオルダに答えた。こんな言葉を口にしたことがないからか、少し恥ずかしいとも思う。
それでも、本当に思っているから。これが本心でいい。
伝えようと思ったあの人は今、何を思っているだろうか。
個人的には寂しさの欠片でも感じていて欲しいとか思うのだが、そんな性格ではないことは自分がよく知っているので笑えてしまう。
だから、いつもと同じように笑っているくらいでいいと思う。寧ろ、俺のことを馬鹿にして可笑しく笑っているのが普通なので、気にしない。こっちが何も言わないことを向こうが気にしているのかどうかもよくわからないし、本当は約束をたまたま思い出しただけで、思いつきで伝言にしただけかもしれないし……。
あの時は届かなかった。手を伸ばしても、そこに誰もいなかった。
思い出しているこの時が一番悔しくて。
あの人だけは忘れたくないと思った瞬間だった。
「私が本当にルギを愛しているからですよ。」
「俺が本当にルベルを愛してるから、かな。」
恥ずかしいけれど、それでも断言できる。
伝えることはしてないけれど、それでも断言する。
私はあの人に助けを求めようと思った。
俺はあの人を助けようと思った。
ただ、それだけのこと。
読んでいただきありがとうございます。
今回はお姫様救出大作戦に向けての話にしてあります。
そろそろ魔王も動き出すかと……。
またよろしくお願いします。