花咲かせ職人
「久しぶりですな、創造神。」
男は笑いながらルギに近づく。
「どうも。すみませんね、急に。」
「いえいえ。祭りに花咲かせるのは俺らの仕事ですから。それに、あんたからの頼みとあって、断る奴は俺の組にいやしませんよ。」
「そう言っていただけるとありがたい。」
ルギは男から求められた握手に笑いながら応じた。
「なあ、どちら様?」
「おや、お二人さんは初めてですな。」
「あ、はい。」
ノッシュがルギに尋ねると、男の方が答えた。
「炎華組七代目をしております。ギン・セイアーノという者で。どうぞよろしく。」
「炎華組って、花火師の……。」
「おお、俺らのことはご存知でしたか。ありがたいことだ。」
クルーニャの言葉にギンは大きな声で笑ったが、ノッシュが勢いよくルギの方を振り返る。
「待て待て、花火師?」
「そういうことだ。時間も金もかかるから、ギンさんに頼んだ。」
ふてくされたようにベンチに座るルギから返事が返ってくる。
「まさか、あんたから頼まれるなんてびっくりだよ。しかも……。」
「あああ!! そこは言わなくていいって!!」
笑いながら喋るギンを止めるかのように慌てて立ち上がるルギ。
「そうなんですか? まあ、いいですが。」
「??」
そのルギの慌てふためく様子に驚くノッシュとクルーニャ。
「よく花火師の知り合いがいたものね。」
「そこはまあ……なんというか……。」
「俺はエデンと昔からの仲で。」
言葉に詰まったルギを助けるようにギンが話す。
「父さんとギンさんが知り合いだったから……会ったことはあったし……。」
「え、じゃあ……賢者長にお願いしたの!?」
「う、うるさいな!!」
驚くクルーニャの言葉に反射的に声を出すルギ。どうやら図星のようで、ノッシュもただ驚くしかなかった。
「マジか。」
「信じられない。ルギが賢者長に頼みごとなんて……。」
「だから言いたくなかったのか。」
唸り始めたルギを見る限り、苦渋の決断だったのだろう。
「じゃ、創造神、俺は街を下見させてもらいますよ。」
「あ、お願いします。」
そう言って、ギンは街の方へ歩いて行った。
「賢者長、喜んだでしょ。」
「チーシェの話だと、昇天しそうな勢いで号泣してたって。」
「どういうこと?」
「お、俺が知るか!!」
「そうムキになるなって。」
ノッシュがルギをなだめる。ノッシュの目の前にはどうにかしてこの話を終わらせようとしているルギがいた。
「もう、絶対に頼み事なんかしない……。」
「しなさいよ、喜んだんでしょ? 賢者長。」
「……らしい。」
ルギが目線をずらして答えた。
「まあ、花火に関しては納得できたな。」
「そうね。」
「他に何か納得できないことあるのかよ……。」
「心配すんな。お前を問い詰めたりしないから。」
嫌そうな顔をするルギ。目で作業の邪魔をするなと訴えていた。その目線を感じながらノッシュは笑いながらライオを抱く。
「ライオが教えてくれるらしいし。」
「お任せ下さい!!」
「……勝手にしろ。」
尻尾を振るライオを見て、ルギがため息をつく。
「お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。」
ノッシュの言葉に何も言わず、ルギは作業を再開した。
場所を移し、飾り付け作業場。
「紙束になるまで考えてたってこと?」
「じゃあ、あいつまだ具体的な案は浮かんでないのか……。」
「そんな感じに見えますね。」
ライオは淡々とルギのことを二人に説明していた。
「だからと言って、俺らが何を手伝えるかというと、何もないんだよな。」
「そう、ね……。お前らはいいから祭りのことを第一に考えろーとか言いそうだし。」
「確かに……。」
もう既に言われたことがあったような気がしてならないノッシュ。
「ルギさんが今回のことをどういうふうに考えているのかすらわかりませんからね。」
「確かに。あいつ何も言わねえからな、いつも。」
「でも、聞いたところで無駄足というか、逆効果というか……。」
クルーニャも考えるが、なかなかいい案が思い浮かばない。
「どう思う?」
不意にノッシュが最初から黙って聞いていたデオルダに向かって問いかける。
「どう、と言われてもな。」
「は?」
何かいい案があるのかと思って話を振ったのだが……まるで興味を持ってない素振りだ。
「状況を知ってる俺らに何も言わずに朝になるまで考え込んでるんだから、今俺らが何言っても無駄だと思うけどな。俺は。」
「さすがですね、デオルダさん。」
「……お前が一番状況把握してたよ。」
ノッシュが苦笑いを浮かべながらデオルダに言った。
「だから俺らは平和に祭りの準備しておけばいいんだよ。で、失敗した時にはみんなで殴ってやればいいんだよ。」
「殴るの?」
「例え話だ。失敗したときのことなんて知るか。」
「お前が一番酷いよ!!」
ノッシュが驚いて声を大きくする。失敗したやつを殴るやつがどこにいるんだと。
「ま、俺からは特に何も言うつもりはないな。今回に関しては特に。」
「そこまで無関心なの?」
頬杖をついたままデオルダが言う。素振りからもわかっていたのだが、ここまで関わろうとしないデオルダも珍しく、クルーニャが不思議そうに聞いた。
「俺らが議論する意味はないだろ? 誰が一番ルベルを助けたいって思ってるか、考えるまでもないからな。」
「それは……そうだけど。」
デオルダは表情を変えることなくクルーニャに答える。クルーニャは何か言いかけたが、デオルダが立ち上がった。
「……俺はそろそろ向こう戻るからな。」
「あ、ちょっと……。」
「せいぜい、お前らは今のままでいろよ。」
デオルダはノッシュとクルーニャを見て言った。少し笑っていただろうか。
「どういうこと?」
「別に。大した意味はないさ。」
「??」
「じゃあな。」
デオルダは困惑する二人に手を挙げ、行ってしまった。
「あ、ちょっと……。」
「なんだ? 最後。」
「さあ、わかんないけど。」
未だにわからない二人と一匹が、そこに取り残されてしまった。
「話には聞いていたが、まさか炎華組が来るとは思っていなかったぞ。」
ノッシュ達がいなくなった広場には、ミルシェがやってきていて、ギンの登場に驚きを隠せずにいた。
「あははは……。」
「まあ、あんな有名どころが来るんだ。こちらも負けないように頑張るさ。」
「はい。」
ルギは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「話は変わるが、ルギ。」
「はい?」
「ジェイズが見張ってるだけではあまり効果があるとは思えないぞ?」
「聞いたんですか。」
これはルギにも予想していたことで、ジェイズがミルシェに何も言わずに祭りの準備を手伝い、ルギに近づいていたとは考えられなかったのだ。
「まあな。聞いたところで手伝いにもならんがな。」
「えっと……。」
ため息をつくミルシェに何と言っていいか考えるルギ。
「お前が祭りに全力でいてくれることは感謝してる。だが、自分の大事なものまで諦めるなよ。今は、一人ではないんだからな。」
「ええ、わかっています。」
ミルシェに背中を優しく叩かれ、もう一度頷く。
「ならいい。」
笑うミルシェはルギの目を見て笑う。
もう、決めたんだ。一人で全てをどうにかしようと思うのはやめるって。
たとえ、一人でやることがあっても、それは結果的にほかの人々のためになることをしようって。
改めて思う。この国の審判を必ず……成功させてみせる。
読んでいただきありがとうございます。
花火の謎(?)が解けたような気もしながら、準備はどんどんと進みます。
祭りまでもう少しですが、魔王登場もお姫様登場も一緒に近づいているような近づいていないような。
またよろしくお願いします。




