人形爆弾
いつも通り、コーヒーを飲んでいる二人。
「試作品ができた。」
「唐突だな。見たい。」
「じゃーん。」
そういうと、ルギは自分が座っていた横に置いてあったウサギのぬいぐるみ……らしきものを掲げた。
「何かと思ってはいたが……ウサギのぬいぐるみ、だと思う。」
「かわいいだろ?」
ルギが顔の横にぬいぐるみをずらした。
この男、年齢の割に顔が幼いというか、こういうものを持たせると少年と言っても過言ではないというか……。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。それが、試作品、なんだな?」
「そうそう。」
ルギが試作品と言うんだから、兵器的何かがあるんだろうが……。デオルダはそうは思っていても、見た目がぬいぐるみということもあってなかなか信じられずにいた。
「その目、信じてないな?」
ルギの企むような顔。賢者の称号を失ってからは見ることがなくなっていた顔だ。
「ん……まあ……。」
「実は、パペット人形なんだよ、これ。」
そういうと、ルギは右手で人形を動かして見せた。
「ああ、人形劇でよくあるやつな。」
「そうそう。大きさもこれくらいがちょうどいいかと思って。」
「まあ、パペット人形としての大きさはいいけども……。」
「?」
「試作品って言うんだから、一応兵器的なやつだと思ってたんだが……。」
「ああ、そういうことか。」
「違うのか?」
「いや、試作だから怪我はしないだろ。」
「……無害ではないのか?」
ルギがにやりとした。あの顔は何かある。
「さあお待ちかね。びっくりウサギ人形ですっ!!」
なんだか、一人で盛り上がってきたらしい。
「ほら、ウサギちゃん。ご挨拶。」
「お前の演技力が恐いよ、俺は。」
多分、ルギは芝居しても食べていけると思う。
「はい、こんにちはー。」
ルギは笑顔でそう言いながらパペット人形を動かし、ウサギ人形にお辞儀をさせた。
「……。」
お辞儀をされたわけだが、その様子をデオルダは見ているしかない。それよりも、この一人芝居というより、茶番がいつまで続くのか疑問だった。
「なぁ……。」
デオルダがため息混じりに声をかけると、ルギは右腕をデオルダに向けて突き出した。
デオルダの眼前にはウサギ人形がいた。
「っ!?」
何のホラーかと思うほどの驚きを感じたデオルダだが、さらに驚いたことがある。
少し前に見たウサギ人形とは、何かが違う。
口が、開いている……。
「……。」
わけもわからずウサギ人形を見つめるデオルダは、その後ろで黒い笑みを見た。
次の瞬間、激しい光と音がした。
「うわっ!?」
デオルダは慌てて腕を目の前に出して光を遮ったが、音はどうにもならなかった。
「あはは!! 悪い悪い。耳はまずかったな。」
恐る恐る目を開けると、悪気を認めて笑うルギがいた。
「なんだ、今のは……。」
デオルダはまだ感覚が麻痺している気がした。
「人形の中に閃光弾の小型版を仕込んでた。」
「いきなり口が開いてるから驚いた。」
「まあ、試作品だからな。驚かすくらいはできただろ?」
「神様驚かしてどうすんだよ。」
閃光弾で神様が驚くとは到底思えない。
「最初はダイナマイトの予定だったんだが……それやると、きっと俺の腕が無くなるんだよなぁ……。」
ルギはまだパペット人形の口を動かしていた。
人形に仕込んだまま爆発させるということは、爆弾とルギの距離が異様に近いということになる。爆弾を仕掛けるやつが、爆発に巻き込まれるなど、爆弾を使う意味がない。
「人形にダイナマイト仕込むな。」
「俺も、腕無くなるの困るし。却下した。」
「じゃあ、なんでウサギ作ったんだよ。」
「第二案は、とにかく、人形の中に武器を仕込んでみようと。」
「また口から武器出てくるのかよ。」
「最終案はバズーカだったんだけどな? これまた問題が……。」
ルギはため息と一緒にウサギの肩も落とした。
「次は何だ。」
「大きさ的に口に入らない。」
「……だろうな。」
デオルダにとっての問題は、ルギのアイデアが斬新すぎることにあった。
「まあ、閃光弾の小型版に関してはまあまあ?」
ルギは今回の成功は閃光弾であると思っているようだ。
「小型とは思えない威力だったが?」
正直死ぬ思いをしたのはでオルダである。
「室内で使わないほうがいいな。」
「使ったの、お前だけど。」
「悪かったって。そんなに怒るなよ……。」
デオルダの機嫌があまりよくないので、本気で謝り始めた。
「で? 人形使う意味は?」
「油断するだろ?」
「……人間に対しては多分効果あるだろうけど。」
「まあ、結局お前を驚かすためだけにウサギ人形作っちゃった。」
「……。」
静かな怒りがデオルダの中にあった。
ウサギ人形のジェスチャーつきなので、余計に腹がたつ。
「許してくれって。悪かったと思ってますー。」
ルギは笑ってみたが、なんだかデオルダがさらに怒ってしまった気がしたので、ヤケクソになってきた。
「お前よりそのウサギが腹立つ。」
「はあ!? 何!? お前、人形に腹たててんの!? 大丈夫か!?」
「何を心配されているかわからないが、落ち着け。」
「閃光弾の光がお前に何か悪影響を与えたか?」
「何をわけのわからんことを……。」
「頭、大丈夫か?」
ルギに本気で心配されていることはわかっているデオルダだが、これだけは言っておきたかった。
「今回に関しては、お前より大丈夫だ。」
「……俺のこと、遠回しに馬鹿って言ってんな?」
「よくわかったな。」
「やっぱり怒ってんじゃねえか!!」
「誰も、許したなんて言ってねえだろ。」
懐かしい、と思ったら笑えてきた。
「なっ……何笑ってんだよ!!」
ルギは、突然笑い出したデオルダに驚いたのか、声が大きかった。
昔は試作品を作る度に実験台にされていた。その都度とりあえず文句を言ったりしていた。それも、賢者の時の話。
「あれから二年も経ってるんだな。」
「う……悪かったな。反省してるよ、これでも。」
話の内容を理解してか、ルギが言葉に詰まった。
「反省なんてしてんのか?」
「お前が初めて殴ったんだろ。あの時。」
「そういや……そうだったか。」
「殴り返せばよかったかな。」
ボソッとルギが呟いた。
「え。」
「あの時は相当痛かった。」
相当という言葉に妙に力が入っていたのをデオルダは感じた。本当に痛かったのだろう。
「まあ、それに関しては俺も反省……しておこう。」
「お前、怪我してる俺を殴ったんだからな?」
ルギの目は怒っているようだ。
「自分のせいで怪我したんだろうが……。」
「い、言い返せない……。」
ルギはあっさりとデオルダに言い負かされた。
「それで? その人形が使い物にならないことが証明されたわけだが……。」
「次か?」
「お前、一応タイムリミットあるってこと、忘れんなよ?」
「わかってるけども……。バズーカでも作るか。」
腕を組んで考えていたルギだが、答えはあっさりと出た。
「なんだ、その紙ヒコーキ作るかのようなあっさりさは。」
「さっき言っただろ? 最初からバズーカは案の中にあったんだし。作っても無駄にはならないかと思ってな。」
最初は人形の口に詰め込もうと思ったくせに……と、デオルダは言わなかった。
「お前、ホントに兵器職人になれる。」
「……褒めてんの?」
「……どうだろうな。」
ルギは絶対褒めてはいないと確信していた。
ルギ・ナバンギに残された時間はあと356日。
読んでいただきありがとうございます。
次回はバズーカ作る予定です。たぶん。