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object maker  作者: 舞崎柚樹
1:決意
3/106

二杯目のコーヒー

「どこから言えばいいものか。」

 テーブルの上には新しく注がれたコーヒーが二つ。湯気が上がっている。

「最初から全部だろ。」

「わかってるっての。」

 笑いながら催促するデオルダは楽しそうである。

「“力”の審判に、裏ルールがあるっていうのは知ってるか?」

「知らん。そんなものあんのか。」

「これに関しては、賢者だからこそ知り得たって部分もあるな。」

「おお、さすが世界権力。」

 デオルダの納得は当たり前のことで、裏ルールなど誰が知り得るのか。

「十年前……。ある軍事国家の国に、神の審判のため、神の遣いがやってきた。」

「軍事国家ね……。」

「内容はこの国と同じ。当然、その国の力は(イコール)軍事力になるわけだから……。」

 “力”の審判。この国と違い、その軍事国家においてはちゃんとした力があったわけだ。

「ま、当然だろうな。」

「だけどよ、そんな簡単に神の遣いが倒せるわけないだろ?」

「ん、まあ……確かに。俺もそう思う。」

 この二人の会話は、この国が今回の神の審判をこのままではクリアできないと、遠回しに言っていた。

「そして、神の審判において、挑戦権は決して一回じゃない。」

「まあ、国の努力を見るっていう目的もあるわけだからなぁ……。」

「だからといって、だ。」

「?」

「百回も神を倒そうとするか? フツー。」

「随分と、思い切った国だな。」

「その期間、わずか三日。」

 さすがに、ルギもデオルダも驚きを通り越して呆れていた。

「三日で百回もっていう努力?」

「まあ、その国も全力だったんだろうな。」

「国も全身全霊で攻撃していたわけだからなぁ……。」

「そう、そこなんだよ。」

「??」

 ルギに口を挟まれたが、どこなのかがわからない。

「その軍事国家には一つの王家が存在していたんだが……。」

「王様が?」

「軍事反対派なんだよ。」

「はあ?」

 ルギはソファの背もたれに体を預けながら、笑っていた。

「国のトップである王様が平和主義で、軍縮政策にノリノリで。反発した自分の国の軍に脅されていたわけだ。」

「それ、国としてどうなの?」

 最早、デオルダからして見ると、それは国ではない。いや、誰が見ても国とは思えないだろう。呆れ果てる勢いだった。

「すごいだろ? これで国家が成り立ってたって言うんだから。」

「ああ、逆にすごい。」

「だが、驚くのはまだ早い。」

「まだあんの?」

「今のがミカンくらいの大きさだとすると、グレープフルーツ級だ。」

「ひどい例えだな。」

 ルギは首を傾げていたが、デオルダは無視することにした。話が進まない。それに、この後グレープフルーツ級の驚きが待っているとなると、余計に、だ。

「ともかく、そんな国の内情に気づかない神じゃないわけだ。」

「そうだろうな。」

 国の力を見るための審判のはずだが、その国が分裂しているようでは、審判をする意味そのものがなくなる。

「神の遣いが国王に問い質して明らかになったらしい。」

「でも、国のトップが脅されていたとして、そいつも悪いだろ?」

「ま、一概に誰のせいとは言えない話になった。」

 国王が国民を無視して軍縮政策を行おうとしたのだから、国王にも責任はある。

 だが、その国王を脅した軍側にも何らかの責任があるのだろう。

「だが、審判始まってたからな。」

「ああ、百回も攻撃したもんな。」

 先程のミカン級の驚きを思い出して笑いかけた。

「そこで、神側からの特例の提案がなされた。」

「提案?」

「軍事力も、もう限界にあったからな。これを機に国を立て直すことを提案した。」

「つまり……軍事国家としてか、軍縮を進めるか?」

「そういうこと。だが、時間を無制限にとっていては解決しないからな。」

「まあ、国王とか死んだらそれまでだし。」

 何年もかかって、国のトップが交代してしまえば、また話がこじれてしまうだろう。

「一年の時間が欲しければ、国民一人を人質とせよ。」

「ん?」

「神側の条件だ。」

「そんなのありか?」

 デオルダは神と言えど、少し無理があるのではないかと思った。

「多少は懲罰のつもりもあったんだろ? 何の罰もなしにしておくことはできないから。」

「なるほどね。」

 確かに、特例の提案までして無罪放免はできないか。

「まあ、殺すわけじゃない。あくまでも、国に対しての懲罰目的だからな。」

「ああ。」

「で、国王は誰を人質にしたと思う?」

「え? うーん……。無作為に国民を人質に出していたんじゃ、自分の立場ってものがあるしなぁ……。」

 デオルダにとって、ルギの質問はなかなかに難しかった。

「そう。そして、俺としてはこれがグレープフルーツ級の驚きだった。」

「え。これなの?」

 思っていたよりも小さな驚きになりそうだった。

「ああ。国王は、一人しか人質に出さなかったよ。」

「一年しかないじゃん。」

「そう、そして、一年で国を立て直したんだ。」

「マジかよ!? すげえな国王! ……でも、なんでそんな力量あるのに脅されたりなんかしたんだ?」

 分裂した国を一年で立て直したのは感激ものだ。それでも、疑問も残った。

 俺は、これがグレープフルーツ級だと勘違いをした。

「俺は軍事国家として立ち直ったなんて言ってないぞ?」

「?」

 驚くデオルダを見て、不思議そうにルギが言う。

「軍縮成功で、その国は立ち直ったんだ。」

「……よく反発されなかったな。」

「当たり前だろ。反発できなかったんだから。」

「なんでだよ。さっき反発されたから……。」

 反発されたから分裂していたはずだ。反発できないわけがない。

「組織にリーダーってやつは必ず必要だ。」

「そりゃそうだろ。組織ってことは大所帯だ。統率ってもんが……。」

 デオルダは自分で言って、あることに、自分で気づいた。

「わかったか?」

 ルギの笑いは俺の考えが間違っていないと言っているようだった。

「反発、できなかった……?」

「そうだ。……かなり信頼されていた人物だったみたいだな。」

 ルギは残りわずかのコーヒーを飲み込んだ。

「じゃあ、その国の人質にされたのは……!!」

「ああ。その国の軍を率いていた司令官だ。」

「!! な、なんだよ国王は!! 軍縮をするために軍の牙を折ったって言うのか!?」

 答えは直前にわかっていたが、こうもあっさり、簡単に肯定されると、その国王が許せなくなってきた。

 自分でも早口になっていることに気づいたが、驚きを隠す余裕もなく、思うがままに文句を言った。

 これが、グレープフルーツ級だったわけだ。

「そういうことだ。結果的に軍縮成功、国も立て直した。」

「そんな……国が……。」

 そんな国が存在していいのかと、ルギに問うところだった。

 ルギに聞いたところで答えが出るわけでもないのだが……。

「潰れたよ。」

「え?」

 ルギは、また俺にグレープフルーツを投下してきたようだ。

「結局は、国王が独断で進めた政策。国民はついていかなかった。」

「じゃあ、神の審判に……?」

「クリアしなかった。できるはずもなかったんだろうが、な。」

「……。」

「結局のところ、国民が求めていたのは軍の司令官の方だったのさ。」

「でも、軍事……なんだろ?」

 軍事力を国民が求めていたというのか。

「後から聞いた話になるが、軍は力はあれども戦争なんてする気はなかったらしい。」

「どういうことだ?」

「国軍というより、自衛軍を目指していたんだと。」

「自衛……。」

「地形と気候からか、自然災害が多い地域だったらしい。それで、自国を守るための軍事力とかいうやつ。」

「国民は、それを……支持していた?」

 デオルダとしては、それを軍事力とは言わないのではないかと思う。

「そ。それを知っていたのか、勘違いしたのか……国王は間違った方向に動いたのさ。」

「なんとまあ……。」

 哀れな国だ。

「司令官も、“力”の審判の意味を取り違えなければ……違う結果にもなったんだろうな。」

「?」

 司令官も間違っていたと言うルギが、デオルダにはわからなかった。

「軍事国家を自分で否定しながら、自分達には軍事力しかないと思ったのが全ての始まりで、終わるきっかけになったんだ。」

 あくまでも、戦うためではなく、護るための力とした。それを、司令官自らが信じられなかったのだ。

「国民は、軍の味方になっていたのに……か?」

「言ってしまえばそういうことだ。」

 なんとも、不憫な国の話だ。

 感傷に浸りそうになって、ふと我に返った。

「おい。」

「なんだ?」

「俺さ、お前にかわいそうな国の話をしろなんて言ってないんだけど。」

「かわいそうだったか?」

 くすくす笑いながらルギが言うので、少し腹がたったが、いいとしよう。

「不憫だな、とは思ったけど。」

「その不憫な国に、今この国がなりそうなんでな。いい例えかと思ったんだが?」

「わけがわからん。」

 不憫になるのは国じゃなくて、国民だと思うのだが……。

「そうだな、この国の審判後、裏ルールが多くの国々の王達の間で話題となった。」

「最初に言ってた裏ルールか。」

「内容は言わずともわかるだろ?」

「え? そんなこと言ってたか?」

 ルギは裏ルールに関して何か言ってたか? 言ってないだろ?

 固まってしまったデオルダを見て、ルギが不思議そうにしていた。

「ちゃんと話きいてたよな?」

「聞いてたよ。」

「じゃあ、お前はこの状況が変だとは思わねえのか?」

「どこが変だって言うんだよ。」

 デオルダには何が変なのか、検討もつかない。

「人が一人死んで? 一年以内に神の遣いを倒せって言ってる国王がいるこの状況だよ。」

「!!?」

 デオルダは声が出なかった。いや、出せなかったという他にない。

「じゃあ、ルベルは……?」

「厳密には殺されちゃいないだろうな。」

「お前に課せられた……一年って……。」

「来年までに自分がどうにかできなきゃ、次は俺が殺されたことになるんじゃねえの?」

「おいおいおいおい……。」

 何が違うのかルギに聞きたい。

 何か違うことがあると、ルギに言って欲しい。

 この国の未来が不憫でないことを今すぐ神に祈りたい。

 ここまで考えて、デオルダにはルギに対して気になったことがあった。

「な、一ついいか?」

「何だ?」

「どうして、そんな普通でいられる?」

「は?」

 ルギは「何が?」と言いたい雰囲気でデオルダを見ていた。

「俺なら気が狂ってる。」

 本心だった。自分だったら絶対に耐えられない。気が狂ってる。

「……。」

 ルギはきょとんとして、何も言わず、デオルダを見ていた。

「?」

 そんなルギが不思議になってきた。

「……あはははっ!!」

「な、なんだ!?」

 きょとんとしていたルギがいきなり笑い出したので、慌ててしまった。

「なんで気が狂うことがあるんだよ。馬鹿だな、デオルダ。」

「ば、馬鹿って!!」

 ルギに馬鹿と言われた。なんか納得がいかない。

「言っただろ? ルベルは死んでないんだって。」

「あ。」

 デオルダはそこまで言われて、ルギが言いたいことがわかった。

「気が狂う理由がどこにある?」

「ない……のか。」

「そういうことになるな。」

「……。」

 納得できたような、できなかったような……。

「まあ、どうでもいいって言うのは撤回しておくとして、だ。」

「撤回すんのか。」

「喋ってたらやらないとならない理由を見つけてしまったからなぁ……。」

 ルギが前髪を掻き上げながら言うその顔が嫌そうだった。

「やりたくないのに……やるのか?」

「やる気よりも恐ろしいものを思い出してしまった。」

 ルギが腕を組んだまま天井を見上げた。

「は? そんなものどこに……。」

「いいか? 俺らの紅一点様、人質のままなんだよ。」

「あ。」

 つまり、ルギが神の遣いを倒さなければ、審判をクリアすることもできず、ルベルが解放されないのだ。

「それで何もしないで一年経ってみろ? バレた時点でボコボコにされる。」

「さ、されるのお前だけどな。」

「死刑より恐ろしい……。」

「殺されてんじゃねえか。」

 なんだか笑えてきた。

「あいつ、無力に怒らねえのに。」

「何もしないと怒るんだろ?」

「そういうことになるんだよな。」

「結局、お前は自分の意思と関係なくこの国救うわけか。」

「救えると決まったわけではないんだがなぁ……。」

 体を起こし、デオルダを見るルギの顔はまんざらでもなさそうだ。

「ま、頑張ろうぜ。ルギ。」

「そうだな。頼りにしてるよ、デオルダ。」

 二人の空になったマグカップが宙でぶつかった。

 開戦だ。


 ルギ・ナバンギに残された時間は、あと360日。


次話から、ちょこちょこモノづくりをスタートしていきます。

少しでも笑っていただけると嬉しいです。

コメディではないのですが……。


読んでいただきありがとうございました。

また、よろしくお願いします。


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