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object maker  作者: 舞崎柚樹
4:秘めた想い
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幼い弾丸

「聖域に連絡って言っても、お前がいた方が何かと……。」

 部下に指示を終えたチーシェがルギと話している途中。

「その必要はないわ。」

 二人の会話を遮るように現れた声。

「え?」

「お前が来たのか。」

「あら、嬉しい?」

 ルギの声に笑顔で聞き返す。

「どういう思考回路してるんだ。」

「えっと……。」

 どうやら、ルギの知り合いのようだが……。チーシェを無視して話が進んでいく。

「ね、手伝ってよ。」

「なんで俺が……。」

「いいでしょ?」

「……。」

 ルギが嫌そうな顔をした。しかし、その後の念を押すような一言でルギが少し照れて顔を背けた。

「ルギ、そういう関係?」

「違う!! コイツは……!!」

 チーシェは驚きを隠せなかった。そういうやつだとは思っていなかったのだが……。

 ルギの慌てた声に、確信するしかなかった。

「あら、チーシェ騎士隊長。」

「?! 俺のこと、知ってるんですか?」

 自分が知らないだけで、相手が知っていることは珍しくはない。

「まあね、仕事柄。」

 仕事柄知られているということは、この女性(ひと)は他国の軍人なのだろうか。

「初めまして、かな?」

「俺に聞くな。……初対面だろ。」

「聞くなって言っときながら答えるのかよ。」

「ルベル・シャドルネよ。聖域上級職と言ったらわかるかしら?」

「!」

 聖域内の情報は基本的に聖域外に伝えられることはない。

 一般的な知識として知られていることは、神の存在を始めとする数少ない事実だけである。

 その中に、神の遣いについて知られていることが一つある。

 神の補佐官である彼らは、賢者とは別の力を与えられている、と。

 誰が呼び出したのかは誰も知らないが、上級職という名前で呼ばれるようになっていた。

 各国の上層部ではよく知られた名前だ。

「……賢者とは違うタイプの能力者、という解釈でいいんですか?」

「そうね、間違ってないわ。」

「間違ってないっていうか……。」

「?」

「それ以上はナンセンスよ。」

 ルベルはルギの言葉を遮る。

 何か問題でもあったのだろうか。

「……それで、俺を怒鳴りにでも来たわけか?」

「あら、冴えてるわね。」

「マジか。」

「なんで怒鳴りになんか……。」

 ルギの冗談は冗談では終わらず、ルベルはため息をつく。

 だが、今日の行動に関してはずっとチーシェは見ていた。

 怒鳴る理由がわからない。人を殺しかけた……わけではないのだ。

「この馬鹿が賢者以外に賢者の力を渡したからに決まってるでしょ。」

「あれな、力の譲渡って言って能力者以外にやったら結構怒られるんだよ。」

「お前!! 知らないって!!」

 ルベルの言葉に驚いたが、ルギの一言でそれが怒りに変わる。

「そんな不確かなことするわけないだろ。一国の王様に。」

「俺は、お前を殴り飛ばしてもいいよな?」

 これはもう神に頼むまでもないことだ。殴ってやる。

「なんでだよ。」

「いいわよ。」

「え。」

 ルベルが笑顔でチーシェを見ていた。

「私に蹴られるのとどっちがいい?」

「チーシェ殴ってくれ!!」

「正直すぎるわ……。」

「そ、そう言われると殴りにくい……。」

 ルギが必死な顔で迫ってきたので、わけがわからないが、殴りにくい。

「あんたの処遇は後でいいんだけど、騎士隊長。」

「はい?」

「ここの担当者には私から話を通しておくことでいいかしら?」

「お願いします。」

 それが一番手っ取り早い。

 それに、自分から話すよりずっと効率的だ。

「国王と話ができたらしたいんだけど。」

「確認してきます。」

「お願いね。」

 ルベルの頼みを聞き、部屋を出て行くチーシェ。

 その後ろ姿をルギが無言で見ていた。

「あなた、完全に嵌められてるわよ。」

 ルベルがチーシェが部屋を出て行くタイミングを見計らったようにルギに声をかけた。

「知ってるよ。」

「知っててやったの!?」

「まあな。」

「ば、馬鹿じゃないの……?」

 気づいていないと思って来てみたルベルにとっては、衝撃発言であった。

「何とでも言え。ただし、無意味ではなかったとだけは言っておく。」

「え。」

 ルギが目を細めてルベルを見る。

 その口元は軽く笑っていた。

「俺があいつらの策略に乗らなかった場合、あいつらは審判最中に中心部を爆破する計画を立てていた。」

「爆破……!?」

「それこそ、大量無差別だ。それだけは避けるべきだとは思ってた。」

 腕を組みながらルギが自分の知り得た情報をルベルに伝えていく。

「まあ、国王に怪我はさせたけどな。」

「全部救えたらそれこそ神様よ。」

 ルギが目を伏せたので、国王も助ける気であったのだとルベルは感じた。

 全部救えるはずがないことをルギも十分知っているはずである。

 だからこそ、一番いい慰め言葉だと思った。

「そうだな……。それに、俺がどうなろうとこの国には影響ないからな。」

 「……それはどうかと思うけど。」と、ルベルが小さく呟いた。

 自分が賢者であること、どれだけ世界に影響を与えてきたのかを本人が忘れているような発言だ。

 いつものことなのだが。

「ん?」

「独り言よ。それで? どうやってその計画を知ったのよ。」

「俺には耳のいい助手がいてな。」

 ルギが誇らしげに笑ったのだが、ルギの助手は一人しかいない。

「……盗み聞きしたのね、デオルダが。」

「おう。」

 デオルダは耳がいい。

 ルギと出会うきっかけになったベークバウダー病の後遺症。

 あまりいい顔をしていないデオルダを思い浮かべながらルベルは話を続けた。

「じゃあこの後どうなるか……知ってるのね?」

「まあな。それこそ向こうの本当の狙いだろうからな。」

「騎士隊長には何も言ってなさそうね。」

「それどころか、デオルダにも言ってねえよ。」

「それはどうなの?」

 敵側の計画を盗み聞きさせておいて肝心なことを言ってないとは……。

「あいつに矛先を向けるわけにはいかないだろ。」

「怒るわよ、きっと。」

「予想の範囲内だよ。」

 ルギがため息をついた。

 怒られることを前提に黙っているのだから、もう何も言うことはない。

 そして、チーシェが部屋に戻ってきた。

「お待たせしました。こちらへ。」

「ありがとう。」

「お前も行くだろ?」

「おう。」

「……どうかしたか?」

 何かあったのだろうか。

 気のせい、だろうか。

 なんとなく。少しだけ……ルギの表情が曇っていたようにチーシェは感じた。

「何が?」

「あ、いや……なんでもない。」

 首を傾げたチーシェだったが、気のせいであると思い、身を翻して前を歩き出す。

 その背中に笑いかけたルギの顔を見たのはルベルだけである。


 チーシェが奥の部屋へと案内した。

「失礼します。」

 ルギとルベルがチーシェの後に続いて部屋の中に入る。

 ベットの上の国王が身を起こしていた。

「申し訳ない、まだ動けなくて……。」

「いえ。無理なお願いをしているのはこちらですので。」

 ルベルが一礼する。

 おそらく、チーシェからルベルのことは既に聞いていたのだろう。

「それで……このままだとどうなるのでしょうか。」

 話を切り出したのは、チーシェであった。

「それに関して、俺からお伝えしたいことがあります。」

「ルギ?」

 ルベルが話をしてくれるのだと思っていたチーシェ。

 だから、国王にはルベルが話したいことがあるとしか伝えていない。

「なんだ?」

 それでも、国王はルギの話も気になるようであった。

「……ここまで、反国王側の計画通りに進んでいます。」

「なっ!?」

「本当だな?」

 ルギの言葉に驚くチーシェと国王。

「おそらく。」

「な、なんで言わないんだよ!!」

「悪いな。この計画の要は、俺だったから……自由に動きたかったんだ。」

 ルギの目は笑ってはいなかった。

 本気で悪いと思っているらしい。

「敵側の計画の要がルギ、お前だというのか?」

「ええ。計画は最終段階に移っています。このあと、向こうは直接俺を狙ってくるかと。」

「なんで?」

「俺から物体生成(オブジェクトメーカー)を取り上げたいんだろ?」

「だから、なんで?」

 わざわざルギを狙う理由がチーシェにはわからなかった。

 自分が敵ならば、絶対に戦いたくない相手だ。

 たとえ、物体生成(オブジェクトメーカー)が使えなかったとしても、だ。

「力の使えない賢者ほど殺しやすい人はいないと思うけど?」

「っ!?」

 ルギが笑いながら言う。目は真剣なままで。

 賢者を殺そうとしているなど、普通の人間にできることではない。

 反国王側に、別の協力者がいるということだ。

「狙いは、ルギ……。」

「本当の目的は国王暗殺と、創造神(クリエーター)の殺害または称号剥奪であるのは間違いありません。」

「ルベルさんも知ってたんですか?」

 ルベルが補足説明をしたことで、ルベルもこのことを知っていたのだと気付く。

「ええ。こっちは別件で追ってたのよ。」

「別件?」

「賢者候補が現賢者を殺して賢者になろうとしてるんだとさ。」

「その標的がお前だってこと?」

「そ。利害が一致したから反国王側と手を組んだんだろうな。」

「でも、なんでお前……?」

「そんなのは俺が知りたい。」

 ルギはここでも笑わなかった。

 本当になぜ自分が標的になったのかまでは知らないらしい。

「とにかく、これから俺らがやるべきことは……いかに国民に被害を出さないか、だ。」

「もちろん手伝うけど……。」

「けど、なんだ。」

「おとなしく殺されるつもりはないんだな?」

 これだけは確認しておきたかった。

 無抵抗で死んでいくなんてことをさせるつもりはなかった。

「俺だって死にたくはない。称号はどうでもいいけど。」

「お前、それは賢者としてどうなんだよ。」

「どう思おうと俺の勝手だな。」

 死にたくはないけど、称号は別に失ってもいい。

 他の賢者が聞いたら怒るだろうと思いながらも、それが創造神(クリエーター)であると知っていた。

 きっと、人を助けるためなら、喜んで全てを投げ捨てることさえするだろう。

 この、ヘンテコ賢者様は。

「とーにーかーくー。騎士隊長、ルギが狙われることがわかってるから、連れ回したらきっと向こうから出てくるわよ。」

「な、なるほど。」

 ルベルは楽しげに笑っていた。

 ルギを餌として街中を歩き回れと言うのだから、ルギの心配はしていないのだろう。

「私がここに残るから、彷徨いて来なさい。」

 国王の護衛を引き受けたルベル。

「わかった。さてと、行くぞチーシェ。」

 二つ返事で部屋を出ていこうとするルギ。

 ルベルの力を知っているからこそ、ここは安心だと確信したのだろう。

「ああ。」

「ルギ、チーシェ。悪いが頼むぞ。」

「はい。」

 国王の言葉に、二人は短く応え、部屋を出て行く。

 ルベルが小さく呟いた言葉は、ルギには聞こえなかった。


 街の大通りでは、審判のための準備が順調に進んでいた。

 昼間であるということもあってか、人が多い。

 ルギとチーシェはその様子を確認しながら歩く。

「あ! 賢者さん!!」

 後ろから声が聞こえ、振り返る二人。

「あ、ラグ。」

「さっきの……。」

 ラグが走ってルギの前までやってくる。

「ラグ、もう危ないことはするなよ。」

「う、うん。」

「これからどこか行くのか?」

 ラグの背負っているリュックを見て、ルギが尋ねた。

「うん! 友達の家!!」

「そうか、気をつけて……。」

 話の途中で、近くの物音に気付く。

「賢者さん?」

「ちょっと待ってろよ、ラグ。」

 ルギはラグの頭に手を置いた。

「お早い行動だな。」

「まったくだ。」

 チーシェの呆れた声に、ルギも笑うしかない。

 路地から一人の男が出てきた。

 見かけない顔である。

「こんにちは、創造神(クリエーター)。」

「……どちら様?」

「漣と申します。」

 漣と名乗った男は、丁寧にお辞儀をした。

「……用件は?」

「あなたを殺すように頼まれてましてね。」

「こんな昼間の街中で?」

 頼まれた、ということは……コイツは能力者ではないのだろうか。

 街中で襲わせるなど、何か他に目的でもあるのだろうか。

「その方があなたにはやりにくいはずですが?」

「間違ってないかもな。」

 笑うルギ。負けるつもりは毛頭ないのだろう。

 チーシェも、ルギが簡単に負けるとは思っていない。

「俺としては街中は勘弁して欲しいんだけど。」

 ただし、こんな街中で騒がなくてもいいだろうに。

「……。」

 恐怖からか、無言でラグはルギの左腕を掴んだ。

「大丈夫だ。」

 その言葉に、ラグはルギの腕を掴む手に力を入れた。

「さてと、その子供を離したほうがいいのでは?」

「やりにくいとわかっていながら、そんな助言を俺にするのか?」

 何か、おかしい。

 昼間に襲わせるのは、人が多いからではないのか?

 子供を遠ざけるということは、ルギが自由に動くことができるということにほかならない。その、子供を遠ざけろと……敵から助言などするだろうか。

「ええ、愚問ですか?」

 漣はルギに向かって微笑む。

「何が言い……?」

 腹部に何かが押し付けられている感覚。

 見ると、ラグがルギの腕にしがみついたまま震えていた。

「ラグ……?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……。」

 ラグの握られた手から見える黒い銃身が、ルギの腹部に押し付けられていた。

「え……。」

 小さな指が、引き金を全力で引いた。

 大きな破裂音と、弾けるルギの血が昼間の街中を染めた。

読んでいただきありがとうございます。


ルベルがちょっと出てきました。

ホントにちょっとだけ。

子供には弱いルギ。


さて、次話。

創造神を狙ってるやつは誰なのか。


またよろしくお願いします。

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