番外編:僕、猫です。
みなさんこんにちは。僕、猫です。今、ルギさんの家のソファの上でごろごろしてます。
あのですね、今日は僕の悩みを聞いてください。
あ、ちょっと顔が痒いんで擦ってますけど気にしないでください。
このままで失礼します。ゴシゴシ……。痒い痒い。
「猫ー。」
あ、はいはい。今行きますよっと。
えっと、今僕を呼んでいたのが、拾ってくれたルギさんなんですけど……。
ちょっと今日はルギさんに文句があるのです。
実はまだ名前がありません。
と、言うよりも、拾ってくれたご主人様が名前をつけること事体忘れているような気がしてなりません。忘れているのか、ただののんびりさんなのか……。
「猫ー?」
おっと、忘れていました。呼ばれていたのでした。お散歩ですかルギさん。今日もいい天気ですからね。お供いたしますよ。楽しいですからね、お散歩。
玄関まで来て、ふと思いました。
ルギさん、僕のこと、猫って呼びますよね。
拾ってくれた時は全然気にしてなかったんですけど。
今はとても気になりますよ!? 個体名で呼ばれるってどうなんですかね!?
猫って!! ネコって!? ね、ねこって……。
僕の名前って猫なの!?
そんなぁ……ポチとかは嫌だけど、名前欲しいよー。
ルギさん、名前欲しいよー。
今はりんごよりも名前が欲しいよー。
ガリガリと爪をたててみます。
「いててて……何だ?」
何だじゃありません。持ち上げられたら何もできないじゃないですか。僕のこの研ぎ澄まされた爪をまだガリガリしないと気が済みませんよ、ルギさん。
「そんなにりんごが欲しいのか。」
りんご、好きですけどね。いやいや、今は違うんですよー!! 気づいてー!!
「思ったんだけどさ。」
「何?」
デオルダさん!! あなたはいいところに来てくれます!! さあ、僕の心の声に気づいてください!!
「猫にそろそろ名前つけてやれよ。」
か、神か!! あなたは僕の神様ですか!? もう、鳴きますとも。
「ニャー。」
これしか口から出てきませんけど。
「ほら。」
「名前、か。忘れてたな。」
わ、忘れてたですと!? ルギさんそれはないですよ!!
「お前、それはどうかと思うぞ?」
ああ、神よ。きっとあなたは猫語の翻訳者になれます。
僕が人間だったら土下座でもなんでもして感謝します。
ルギさんには猫パンチですから!!
「歩きながら考えるとするか。行くぞー。」
あ、待ってくださいよー!! 僕、ポチは嫌ですからね!?
「名前か……。つけたことないからなぁ……。」
そうでしょうね、ルギさん結婚してないし。
でも恋人さんいるみたいですね。部屋に写真ありました。
「犬ならポチだったっけ?」
僕は猫です!!
「猫なら……タマか。」
安直だ……この人。
「なんか嫌だな。」
不安なセンスだ……。
「仕方ない、ノッシュの意見を聞こう。クルーニャもいるはずだし。」
おお! それはいい考えです!! もうあなただけに任せられません!!
クルーニャさんは一回しか会ったことありませんけど、きっと大丈夫だって信じてます!!
「ノッシュー。」
「おう、どうした?」
ノッシュさん助けてー!!
「お、猫も一緒か。」
「おいでー。」
クルーニャさんこんにちはー。
「りんごでも買いに来たのか?」
「そう。」
そうなんです。あ、ノッシュさん……あなたも僕を猫と呼ぶのですか!!?
「ルギ、名前は?」
ク、クルーニャさん……!! よくぞ!! 聞いてくださいました!!
「今、考え中。」
「お前、まだ決めてなかったのかよ……。」
「なんかいい案ないか?」
「そうねぇ……。」
何かありませんかね……。
「俺はお前がしっくりくるやつがいいと思うけど……。」
「そう、言われてもな……。」
うう……。決まる気がしない……。
「いらっしゃい。おっと、珍しい客だな。」
「どうも……。」
商店街のリーダー的なおじさんのミルシェさんです。
「お、猫。りんご買ってもらいに来たのか?」
そうなんです。でも今はそれどころじゃないんです。
「名前は?」
「今、考え中で……。」
「そうか。まあ、コイツもお前と会わなかったらどうなっていたことか。そういう意味ではお前ら似た者同士だな。」
「俺と猫が……ですか?」
どこどこ?
「そう。猫はお前に会わなかったら餓死していたかもしれない。お前は猫に会わなかったら帰っていただろう?」
想像するだけ恐ろしいですが、否定できないのもまた、怖いです!!
「いや、帰ったほうがよかったような……。」
「子供のリボンだってあっただろう?」
こいのぼりですね? あの時のルギさんとても楽しそうでした!!
「ま、まあ……。」
「一概に全て悪いとは言えないさ。」
「そ、うですかね?」
「猫、ルギにとってお前は特別なんだ。ま、お前にとってもそうかもしれないけどな。」
どういうことかよくわかりませんが、鳴いておきましょう。
「ニャー。」
「特別、ですか?」
「だからわざわざ猫連れてきたんだろ?」
「えっ!? あ、いや……まあ……。」
「お前はわかりやすくていいな。」
それに関しては僕も同感ですよ、ミルシェさん。
ルギさんはわかりやすいです。とても。
「勘弁してください……。」
「ほら、りんご。」
「ありがとうございます。」
「名前、決まったら教えてくれよ。」
「はい。」
おお! 名前が決まったら皆さん僕のことちゃんと呼んでくれるんですね!! これは早く名前が欲しくなりました!! お願いしますよ!? ルギさん!?
「名前かぁ……。」
悩みすぎですよ!! もう夕方じゃないですか!! 安直だった午前中はどこ行っちゃったんですか!?
「特別、なんて言われたら簡単に決められないな。」
うむむ……そうは言っても、ですね。
「…………。」
? なんですか? そんなに僕を見たって鳴くか尻尾を振るくらいしかできませんよ?
「ライオ、とかは?」
え……?
「うーん、だめか。」
ちょっ!? ちゃんと考えていてくれたんですか!? 本当にっ!? ルギさん!!?
「ニャー。」
「え。」
僕は猫ですけどお手します!! この僕の嬉しさを感じてください!!
「いいの?」
いいですとも!! 嬉しいんですよ!! ちゃんと考えていてくれたなんて!! 絶対ポチとタマの次だからクロが来ると思ってたんです!! 僕、黒いから!!
とんでもない勘違いでした!! ごめんなさいルギさん!!
鳴きますとも!! 尻尾を振りますとも!! この猫、感動を伝えますとも!!
「じゃあ、帰るか。……ライオ。」
「ニャー。」
僕、たった今からライオです!!
「ライオ?」
「ニャー。」
そうなんです! 僕をそう呼んで下さい神様!
「よかったな、ライオ。」
「ニャー。」
一時はどうなるかと思いました!! 一安心です!!
「で、由来は?」
おお! それは僕も気になります。
「……秘密。」
「は?」
え?
「なんで?」
そうですよ! 僕だって気になります!!
「いいだろ、別に。」
「珍しく頑固だな。」
教えてくださいよ!! ガリガリガリガリ……。
「俺とライオの意見は一致してるぞ?」
そうですとも!!
「ここぞとばかりにお前は……。」
おっと、持ち上げられたら何もできません。
「別に、俺の親友をそうやって呼んでたんだよ。」
「ライオって?」
「そ。ただそれだけ。」
おお、ライオさん、お名前お借りしてます。
「珍しいな、お前に友達がいたのか。」
神様、さすがに……。
「どういう意味だ。」
「しかも、親友とは……。」
「俺だって親友の一人くらいいるって。」
「ふーん。」
「気になるなら自分で調べろよー。おやすみ。」
あ! ちょっとルギさん待ってー!!
「調べろってことは、知ってる奴がいるんだな。」
ああ、ドアが閉まってしまいました。
ルギさんが、おそらく部屋に逃げてしまったのです。
「あいつも自分のこと喋りたがらないよな。ライオ、りんご食べるか?」
食べますとも!!
読んでいただきありがとうございます。
今回は、宣言通りといいますか……。
番外編と題しまして、猫中心で書いてみました。
いや、あの猫テンション高い。高すぎるね。
書きながら楽しくなったり……しました。
ライオ君です。
さて、次話です。
ノッシュが鈍感すぎるっていう話です。
またよろしくお願いします。