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object maker  作者: 舞崎柚樹
3:ハルノカゼ
20/106

コーヒーマスター

「聞きたいことは二つだ。」

「なんだ?」

「なんでベークバウダーの治療薬を作ろうと思ったのかと、どうやって研究したか、だ。」

 クルーニャとノッシュは、口を挟めずにいた。

 デオルダが真剣な眼差しでルギと話し始めたからである。

「一つ目に関しては、頼まれたから……かな。」

 真剣なデオルダに対して、ルギは頬杖をついていた。

「頼まれた?」

「ベークバウダーという病気の薬を作ることはできませんかーって言われたことがあった。その時は、薬なんてものは作れないって言ったんだが……。」

「作った……んだよな?」

「ああ。まあ、理由として言うなら……。」

「?」

「俺自身がベークバウダー患者だったってことと、もう完治してたってことかな。」

「!?」

「治療方がないのに……完治!?」

「どういう……。」

「言っただろ? 俺は普通の人間より回復力が高いんだよ。」

「だ、だからって……!!」

「言いたいことはわかる。それでも、俺は研究室にいた五年間ずっと、難病患者のサンプルとして観察されてたんだ。」

「なんだと……!?」

「難病患者のサンプル……?!」

 思いもよらぬ言葉に、デオルダは口を開けたままだ。

 一緒に聞いていたノッシュとクルーニャでさえ、驚くのがやっとだ。

「進行状態に応じた難病治療ができるようにな。」

「でも、そんなの……。」

 「正真正銘の人体実験だ。」と、ルギが言った。

 ルギの口調は、研究室の話の時から変わらず、淡々としている。

「五年間ずっと、じゃないよな……?」

「?」

 デオルダが何に気づいてルギに聞いているのか、二人にはわからなかった。

「だから言ってるだろ。俺は、回復力が高かったから選ばれたんだ。骨折だろうが何だろうが、自力で治せたから。」

「じゃあ……!?」

「一通りの難病は経験したらしい。ほとんど覚えてないけどな。記録が残ってるだけだ。」

「!!」

 一通りの難病になったのではない。

 研究者達が研究目的で、観察するために、サンプルとして一人の少年を選び、故意的に罹らせた。そして運悪く、その少年は事ある毎に……自力で回復した。

 だから、研究者達も実験をやめるという選択肢にたどり着かなかったのだろう。

「ベークバウダーは、覚えてたことの一つだった。ただ、それだけだ。」

「じゃあなんで他の病気は……?」

 唯一、創造神(クリエーター)が作った治療薬。それが効くのはベークバウダーだけなのである。

「……俺は医者じゃない。」

「え?」

「ベークバウダーの薬を作ったことで、患者が俺のとこに来るようになった。」

 ルギはため息をついた。

 患者が創造神(クリエーター)を頼った。何か問題があるだろうか。

「俺はあくまでも、自分の記録を元に形にしただけだ。医療の知識はないんだよ。」

「!!」

 ルギは自分が実験台になったその記録を元に薬を作ったに過ぎない。

 創造神(クリエーター)は、ベークバウダーは治せても、普通の風邪は治せないのだ。

「ずっと、気になってたんだ。」

「?」

 デオルダが、ルギを見ていた。

「お前に医療の知識がない。それなのに、薬を作った。どうしても繋がらなかった。」

「繋がった感想は?」

「正直、喜んだ昔の自分がおこがましいよ。」

 口元だけ笑っていた。きっと、彼の心の中では、昔の自分を嘲笑っているのだろう。

「なんだそれ。」

「ねえねえ。」

「?」

 クルーニャがルギとデオルダの間に入る。顔を向けているのはデオルダの方だ。

「結局ベークバウダーとデオルダの関係って何?」

「確かに。それは気になるかも。」

「関係っていうか……。」

 デオルダが困った顔をした。

「コイツの薬完成が三日くらい遅かったら、俺ベークバウダーで死んでた。」

「……はあ!?」

 これはノッシュである。

 クルーニャも驚いて声を出したのだが、ノッシュの声にかき消された。

 ルギにうるさいと一言睨まれる。

「末期患者ってやつだな。」

「薬で末期が治るか俺にもよくわからなかったが……。」

「ま、今はこの通り健康体だ。」

「うっそ……。」

 ただただ、驚くしかない。

 これは、自分が医者だからなのだろうか。

「嘘は言ってないぞ。」

「それで助手やってんの?」

「まあ、そんなとこだな。」

「コーヒーしか入れないけどな。」

 ルギが笑っていた。

 だが、コーヒーしか入れない助手をクビにしていないのも、ルギなのだ。

「いいじゃない。美味しいんだから。」

 クルーニャが振り返ってルギを見る。

「おいコーヒー。珍しく褒められてるぞ。」

「うるさいな。コーヒーの入れ方くらいしか知識がなかったんだよ。」

「お前は一体何になるつもりだったんだ……。」

「喫茶店のマスター。」

 数秒全員がフリーズした。

「わ、わからなくもない……。」

 最初に笑いを堪えきれなくなったのはノッシュだ。

「似合うだろ?」

 腕を組んで得意げな顔をするデオルダ。

「やめろ、その顔……笑う……。」

 デオルダの顔にルギが吹き出したのを皮切りに、全員が大笑いするという状況となり、四人は少しの間笑い続け、大騒ぎになった。

 最終的に、腹筋崩壊寸前で床に蹲るノッシュが完成した。


「そういえば、ロニスって人は?」

 ルギが椅子に座るノッシュに聞く。疲れ果てた笑い上戸がそこにはいた。

「あの人ならお前より元気だった。」

「ならいいや。」

「大丈夫かノッシュ。」

 デオルダが水の入ったコップを手渡す。

「お前の顔のせいだ。」

「笑いすぎだ、お前は。」

「俺、笑いすぎで死ねるかと思った。」

 真剣な顔でデオルダに言うノッシュ。

「残念な死因だな。」

 呆れたのはルギだった。

「まあまあ……。私もびっくりしたけど。」

「可笑しくて仕方なかったんだよ……。」

 クルーニャの慰めに、少しは反省の色を見せた。

「ルギ、そのことで思い出したことがあるんだ。」

 デオルダがルギを呼ぶ。

「なんだ?」

「お前、骨折治るんだったよな?」

「まあ、時間はかかるけど治るな。」

「それ、他人にもできるな?」

「……鋭いな。」

 ルギは頬杖をついたままだったが、デオルダの言葉に反応するように少し顔を上げた。

「やっぱり、お前か。」

「何? 何の話?」

「ロニスの手当をしてたんだけど……。」

 クルーニャの質問に答え始めたのはノッシュである。

「怪我してないんだよ、ほとんど。」

「いいことじゃない。」

「多少の切り傷があったとは言え、傷の大きさに対して浅すぎたりとか……。」

「?」

「俺が診たときはもう治ってたって言ったほうがいいな。」

「すごいわね。」

「あの時はなんのことかと思ったけど、さっきの話を聞いたら納得だ。」

 つまり、ルギの回復力を他人に譲渡することができたのならば、考えられない話ではないということだ。

「足が瓦礫に押し潰されたかもしれないって思ってたけど、骨はなんともないし。」

「よかったってことにしといて。」

 ルギがノッシュに向かって笑いかけた。

「俺としては、別のこと気になるんだよな。」

「別?」

「ノーリスクで他人の回復なんぞしてたら医者はいらん。」

「なるほどね。」

 ノッシュの言葉に同意したのはクルーニャだった。

「ノーリスクなわけないだろ、さすがに。」

「どんなリスクだ?」

「なんだと思う?」

「またクイズかよ。」

「冗談だ。」

「あのな……。」

 からかわれていたことは最初から気づいてはいたのだが、いい気はしない。

「俺の回復力は遺伝だ。これに関しては間違いはない。」

「ああ。」

「そうなると、何が遺伝の影響を受けているか。」

「血液って言ってなかったか?」

「そういうことだ。俺は、血液を媒体にして他人の傷を回復できる。」

 わからなくもない。曽祖父の能力の影響を受けている血液が他人の傷を回復する薬だと思えばいいのだ。

「でも、それじゃあ物体生成(オブジェクトメーカー)は?」

「あれも似たようなものだ。能力の使えない俺にとって、媒体になるのは血液だけだからな。」

「血液を媒体に、って言っても限度ってものがあるだろ……。」

 デオルダの一言にノッシュが反応した。

「もしかしてお前、貧血で倒れたの?」

「だろうな……。」

「そりゃあふらつくわ。」

「血液で物体生成したら大きさにも限度があるし、付加もほとんどつけられないから、五重に頼ったりとかしなきゃならなくなる。」

「……あれはやりすぎかと思ってたけど。」

「強度の限界があるからな。」

「ねえルギ。」

 クルーニャが話を打ち切るように声をかける。

「なんだ?」

「もう一度考えて欲しいの。」

「考えたってなぁ……。」

「誰も反対してないのよ? あなたが賢者に戻ることに。」

「そうなんだ。」

「そうらしいな。」

 ノッシュはデオルダに聞いたのだが、デオルダも知らなかったらしい。

「わかったよ、賢者長には俺から連絡しておく。」

 その言葉に、クルーニャは笑って頷いた。

「さてと、そろそろ帰るか。ルギ、猫は?」

「置いてきた。」

「家に?」

「家で待ってろって言ったから、多分家にいると思う。」

 ルギの言葉に、猫がそこまで言うことを理解しているのか疑問だったデオルダだが、帰ってみなければわからないので何も言わない。

「あの猫どうしたの?」

「路地裏で拾った。」

「拾ったって……。」

 呆れ顔のクルーニャ。

「晩飯の買い出ししてから帰るか。」

「ん。」

「食べるなら何か作るけど? どうする?」

「もちろん、ご馳走になります。」

「私も!」

「ルギ、歩けるか?」

「頼むから走らせないでくれよ。」

 そうして、四人はデオルダの買い出しについていくことになった。

 夕暮れ時の涼しい風は、広場のこいのぼりを大きく揺らしていた。


 ルギ・ナバンギに残された時間はあと338日。

読んでいただきありがとうございます。


今回はちょこっとデオルダの話をしたようなしてないような。

ベークバウダーはまた機会があれば詳しくやりたいかなーとか思っていますので、気長にお待ちください。断言できませんが。

ノッシュは笑いすぎです。


次話なんですけども……。

今回で20話目となりましたので、単なる思い付きですが、番外編をしたいなぁと。

いつもとは違うテンションでやります。きっと。

明日、投稿予定です。

最近毎日時間帯はバラバラながら、投稿できているので。

たぶん大丈夫かと思います。


週別ユニークユーザ141人となりました!

いつも読んでくれる皆様のおかげです。

ありがとうございます。

これからも楽しんでいただけるように頑張ります。

またよろしくお願いします。

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