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object maker  作者: 舞崎柚樹
1:決意
2/106

一杯目のコーヒー

―ねえ、ルギ。叶わない恋があったっていいと思わない?―


 お前はそれで幸せだったのか……? ルベル。

 今でもはっきりと覚えてる。あいつが、ルベルが……殺された時のことは。

 ソファの上に寝転がって天井を眺めながら思う。本当はこれからどうしようかを考えなければならなかったルギだが、そんなことはどうでもいいと思うようにもなっていた。

「ルギ、コーヒー飲むだろ?」

「ああ……。」

 返事を聞く気が本当にあったのか、キッチンから顔を出したデオルダがマグカップを二つ、トレイに乗せていた。

「なーに考えてたんだ?」

「別に何も……。」

「まったく。いきなりいなくなって、いきなり帰ってきて? それで有罪判決のオマケ付き。お前、何悪いことしたんだよ。」

 デオルダは少し呆れ気味にコーヒーを一口。

「俺だって好きで死刑くらったわけじゃねえよ。」

 ソファから体を起こし、ルギもコーヒーを一口。

「で。お前の説明をまとめると、この国の王様は神の審判を無事に終わらせたいんだろ?」

「そうだ。」

「でも、ここで問題が出てきた。」

 デオルダの人差し指が立った。

「この国は運悪く“力”の審判があたったってことだ。」

 神の審判には数種類あり、その時、その国ごとに内容が変わる。

 デオルダの言ったように、今回この国にあたった審判が、“力”であった。そういうことになる。

「さらに、それに関連して問題が出たんだな?」

「ああ。独裁主義者様はこの審判に関してとんでもない勘違いをしてらっしゃったってこった。」

「“力”の審判は、その国の力を神に示すものであって、軍事力で神の遣いを倒せというわけじゃないってとこか。」

「そういうこと。」

 つまり、国王は力=軍事力であると誤解しているのだ。だが、この国の軍事力の規模は決して大きいものではない。なぜなら、この国は商業都市として繁栄してきたため、軍事に力は入れていないのだ。そのため、ルギは運悪くという表現をした。

 しかし、デオルダが言うように、あくまで“力”の審判は国の力を見せるものであり、神の遣いを倒すものではない。

「それに巻き込まれるお前も随分と運悪いな。」

「ほっとけ。」

 デオルダが声を上げて笑うので、ルギは頬杖をついたまま目をそらした。

「でもよ、こうなった以上、何もしないわけにも行かないんだろ?」

「それは……わかってるけど。」

「一年しか、ないんだろ? 時間は。」

 ルギはデオルダに、自分のわかっている状況を全て話してある。最初はかなり怒っていたようで、怒鳴り散らしていた。次の日、一発殴らせたらスッキリしたようで全面協力体制にデオルダ自身が切り替えたようだった。

「一つ、思うことがあるんだけど。」

「なんだ?」

 ルギがいきなり切り出したので、マグカップに口をつけたままデオルダが目で聞いていた。

「俺、別に兵器職人でもなんでもないんだよ。」

「兵器職人なんて職業聞いたことないぞ?」

「一般人に神殺しの武器なんぞ作れるかよ。」

 国王はルギに、神の遣いを倒すための道具を作れ、と言った。だが、そう簡単に神の遣いを倒すための武器が作れるはずもない。そもそも、簡単に倒せるはずがないだろう。

「ま、ごもっともの指摘だが……。」

「?」

 デオルダがコーヒーを飲むために言葉を区切ったので、何を言いたいのかルギにはよくわからなかった。

「知ってたんじゃねえの? お前のことを、さ。」

「二年も前の話だぞ?」

 向かい側に座ったデオルダの顔が少しにやけていたので、何を言いたいのかルギは全部理解した。

「ご謙遜だな、賢者様?」

「うるさい。元、だ。」

 賢者というのは、神に認められた人間のことである。世界の中心にある聖域でその功績が認められると、賢者という世界権力になれるのだ。

 そして、数少ない、神に会うことができる人間でもある。

創造神クリエーター、ルギ・ナバンギ。まだまだ人類の記憶の中にいらっしゃるようですね?」

 これはルギの“二年も”という発言に対してだろう。

「その呼び方やめろ。からかってんのか。」

「もちろん。このにやけが止まらない顔が見えないのか?」

「見えてるから余計に腹が立つ。」

 ルギは明らかに嫌な顔をデオルダに向けていた。

「そこまで嫌うことないだろ? 自分のことなんだし。」

 ルギが嫌いな理由を知ってはいるものの、明らかすぎることに疑問も感じていた。

「自分のことでは……ある。」

「それで? 何作るんだ?」

 全面協力体制のデオルダは、一応、ルギの助手として同居している。そのため、何をするか確認のつもりで聞いたのだろう。この後に思いもよらぬ回答が返ってくるとは考えもしないで。

「全然考えてなかった。」

「は?」

「なんか、どうでもいいって思ってたな。」

 デオルダが数秒固まった。

「どうやら、俺はもう一発お前を殴っても良さそうだ。」

「やめろ、次は歯が折れる。」

 腕を回し始めたデオルダにルギは訴えた。

「次とか言うな。怪我してないだろ最初も。」

「お前、あれは痛かったんだからな?」

 とりあえず、腕を回すのをやめたデオルダに、一応文句を言っておく。

「いいか? あれは誰が考えてもお前が悪かっただろ。」

「いや、だから無抵抗に殴られたんじゃないか。それとこれは別だろ。」

「いいや、今回もお前が悪いからな。」

「なんでだよ。」

 二度も殴られるなど、理不尽だ。

「お前の説明には肝心な部分がない。」

「はあ? 全部説明しただろうが。……お前が怒鳴り散らすから。」

 実のところ、ルギは全て黙っておこうと思っていた。

 それを許さなかったのが、デオルダの怒鳴り声だったわけである。

「お前の、想像も絶する雷よりも激しい、あの……怒鳴り声が、俺の恐怖心を呼び覚ました。」

 つまり、デオルダにビビって全て口走ったのだ。

「お前に俺の姿はどう映ってたんだ。」

「……雷様?」

「架空の存在になってんだろうが。……あの、な? 考えても見ろよ。」

「何を?」

「お前、俺がいない間にルベルといなくなっただろ?」

「まあ、お前が買い出しに行ってたから……。」

 この家の炊事係はデオルダの仕事になっているので、買い出しも基本的にデオルダが行っている。

「それはまあ、仕方ないとしておこう。今までなかったことではないからな。」

「??」

 ?がいくつあっても足りないくらいわからない。

「問題は、その後だ。」

「その後?」

 まだわからない。

「その後といえば、ルベルが殺されて、ルギが有罪判決を受けて、国王に無茶振りされたわけだ。」

「そう、だな?」

 間違っていない。無茶振りという表現はどうかと思うが。

「俺が言ってるのは、それよりも後だ。」

「え、それよりも?」

「いいか? お前、自分がどういった状態で帰ってきたか自分で説明してみろ。」

「あ、ああ……それか。」

 なんとなく言いたいことがわかったような……わからないような。

「そりゃ、血塗れで帰ってきて……何も言わないうちに気絶したからなぁ……。」

 裁判の後、ルギはそのまま解放された。解放されたと言っても、裁判中は一人で立つことすらできない状態だったわけで……。城の兵士に家の近くまで運ばれて投げ捨てられた。あとは自力で這いつくばって家にたどり着いたはいいものの、そこで力尽きてしまったのだ。

「普通なら、追い出しても文句言われねえよ?」

「……いや、追い出すなよ。」

「それほどひどい状態だったってことを自覚しろ。」

「……すまん。」

 これに関しては素直に謝る。自分が悪いことが明確だからだ。

「でもよ、それに関しては……お前、俺を殴ったじゃねえか。」

「俺が何でもかんでも殴って解決してるみたいに言うな。」

「え、違うの?」

 ルギが驚いた表情を見せた。

「俺がお前をいつも殴ってるってことになるじゃねえか。」

「……殴られたのは三回目だ。」

「いつもではないと言っておこう。」

「まあ……そうなる、か?」

 ルギとデオルダは五年ほどの付き合いだ。五年で三回は……多くはない、だろう。

「話を戻す。」

「戻すって、お前、俺に説明が足りないって言ったんだろ。なんで俺が帰ってきた時の話になるんだよ。」

 ルギが少しぶっきらぼうに言った。

「順を追って説明してんだろうが。」

「……すみません、戻ってください。」

「わかればよろしい。」

 もう一度言うが、デオルダは助手である。

「お前、俺に全部黙っておくつもりだっただろ?」

「な、なんでわかる……?」

 ルギは明らかに動揺した。なぜここまで簡単にバレているのか。

「五年の付き合いだぞ? お前が嘘下手なことくらい知ってるよ。」

「そりゃ、悪口だな?」

「単純で素直だって言ってんだ。」

「ほら見ろ、やっぱり悪口じゃねえか。」

「俺が殴ったのは、全部黙っておこうとしたことについてだ。」

「そこ!? そこなの!? それだけで俺殴られたの!?」

 ルギは勢いよくソファから立ち上がって身を乗り出した。

「それだけって……よく言うよな。」

 そんなルギをどうとも思っていないようにデオルダが言う。

「なんだよ……。」

「俺は、お前がルベルを殺したなんて思っていない。」

「……。」

 ここまできて、ルギは理解した。

 それは、説明し忘れたのではなく……単に、無意識で言葉にすることを避けていたのだ。

「お前は、なんでルベルが殺されたか。それについて一言も俺に説明してないんだぞ?」

「……そう、だな。」

 淡々としたデオルダの態度に押し戻されるかのように、ルギはソファに座り直した。

「お前、それを俺に説明した後でも……どうでもいいなんて言えるのか?」

「ホント、お前には負けるよ。」

 本心から、思った。こいつには口では勝てない。よっぽどこいつの方が頭は回る。なんで俺の助手なんてやってるんだろうかと、何度も思うんだ。

「お褒めに預かり光栄ですな、創造神(クリエーター)。」

 空になったマグカップを顔の前で揺らし、二杯目のコーヒーを促しながらデオルダが言った。

 彼にはこの後の話がまだ長くなるという予感を、直感的に感じていたのかもしれない。

読んでいただきありがとうございます。

おそらく、これからも不定期になるとは思いますが、気にかけていただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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