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object maker  作者: 舞崎柚樹
3:ハルノカゼ
17/106

物体生成

「……あれ?」

 声を出したのは、ノッシュだ。

 自分の手が、今、目の前にある。

 下敷きになると、直感でわかっていた。

 はずなのに。

「どうなってる……?」

 隣のデオルダも驚いている。。

 周りの誰もが手を見ている。

 クルーニャは、瓦礫を見ていた。

「浮いてる……。」

「え?」

 確かに、さっきまで持ち上げられたところで、瓦礫が止まっている。

「なんで? 私の力は切れてる……。」

「なんだこれ……。」

 ノッシュは、自分の足元にある、鉄の塊のようなものを見た。

 これが、支えているようだ。

「こんな鉄の塊が?」

 後ろにいたミルシェも鉄の塊をつついたりしながら見ていた。

「嘘……。」

「どうなって……。」

「?」

 クルーニャとデオルダの反応は、何か違うものである。

「間違ってないよな?」

 デオルダは、何かを確認するようにクルーニャを見た。

「ええ。間違いないわ。」

「やっぱり……物体生成(オブジェクトメーカー)……。」

「?」

 ノッシュだけ聞き慣れない言葉が出てきた。

「なんだ? オブジェクトメーカーって。」

「物体生成って言って、こうやって、物体をピンポイントで作り出せる。」

「へえ……すごいな。でもこれ、鉄だぞ?」

「ああ……。」

「でも、これは誰……。」

 誰が、この鉄の塊を使って瓦礫を支えたのか。おそらく、この二人には何か知っていることがあると思ったノッシュ。

「どこにいるの!?」

「ク、クルーニャ?」

「どういうことか、説明しなさい!!」

 大声を出して周りを見渡すクルーニャを不思議に見るのはノッシュだけではない。

物体生成(オブジェクトメーカー)はな、ルギの能力だ。」

「なっ!? さっき、使えないって……!!」

 ノッシュと同じ反応をする人々。

 さっき、ミルシェが確認した。クルーニャが認めた。

 ルギは能力を使えない、と。

「だから、驚いてるんだよ。ありえないって。」

「!」

「早く出てきなさいよ!!」

「説明よりも、先にやることがあると思うが?」

 瓦礫の塊が見えるくらいの位置にあった路地からルギが出てきた。

「ルギ……!!」

 その目は、橙色の光を映し出していた。

「どういうことよ!!」

「話を聞いてなかったのか。それは後だ。」

「ちゃんと説明してくれるんでしょうね!?」

「お前らには、聞く権利があるだろうな。」

「いいわ。」

「ルギ。」

 デオルダが何か言いたそうにルギを見る。

 ルギは何も言わない。

「遅い!!」

 その横からノッシュが割り込む。

「!?」

「お前ら、変な仏頂面はやめろよ。気色悪い。」

「き、気色悪いって何だ!?」

「俺もか。」

 デオルダが、ノッシュを睨む。

「ルギ。」

 ミルシェがルギを呼ぶ。

「……はい。」

「頼むぞ。」

「はい。」

 短い返事だった。それでも、ミルシェはルギに微笑む。

「何をすればいい?」

 デオルダがルギを見る。

「離れてもらった方がいい。持ち上げるのはなんとかするけど、中の人は引きずり出してもらわないと。」

「わかった。」

「皆離れてー!! 潰されるぞー!!」

 それを聞いたノッシュが手を挙げて声を出す。

「な、なんだって!?」

 ノッシュの声に困惑する人々。

「危ないからこっちこっち!!」

 ノッシュの手招きする方に集まる。

「こんな感じでどうだ?」

「潰されはしないだろうけど……上出来。」

「後は、任せたぞ。創造神(クリエーター)。」

 ルギがうっすらと笑みを浮かべた。

「物体三重生成、接点硬化。」

「え、なんの呪文?」

「呪文ってなぁ……。」

 鈍い音がした。

 支えていた鉄の塊を離れ、少しずつ、浮かぶ瓦礫。離れたとは言っても、瓦礫が見えない距離ではない。先程まで持ち上げようとしていた瓦礫が宙に浮いていくのを見る多くの人々。

「おお!!」

「すげえ……!!」

「かなり、重いな……。」

 ルギが眉をひそめた。

「そりゃあ、こんだけ人がいて持ち上がらなかったんだからな。」

「でも、順調じゃねえの?」

 何事もないように、簡単に持ち上げているようにしか見えないノッシュ。

 無意識に口元が緩む。

「これでも、必死にやってるんだけど?」

 ルギが横目で睨んでいた。

「ご、ごめんなさい。」

 その目に、全力で謝らなければならないと、体が反応した。

 その隣でデオルダとクルーニャが笑っていた。

「どのくらいまで持ち上げたらいい?」

「潜り込んで引っ張り出せるくらいだろ。」

「もう少し、か。」

「さすがに、あそこに潜り込むのは難しいと思う。」

「?」

 ルギが首を動かした。瓦礫の何かを確認しているかのようだ。

「どうした?」

「なんか、変だな。瓦礫が動いてる……わけじゃないし。」

「瓦礫が、動く?」

 持ち上げていた瓦礫から、木片が落ちた。

「木片が、落ちた……?」

「まさか……!?」

 ルギが走り出す。

「え!? ちょ!?」

「ルギ!?」

「瓦礫に亀裂が入ったかもしれない!!」

 振り返りながらルギが叫んだ。

「ええ!?」

「ズレ落ちてくる!!」

「はああ!?」

「もっと離れろ!!」

「なんだと!?」

「皆もっと下がれ!!」

 ノッシュは自分の役割は誘導だと、さっきから勝手に思っていたので、手を振って合図をする。

「なっ!?」

「一体何が起こってるんだよ!!」

「いいから下がれー!!」

 たくさんの声がノッシュの耳に届いたが、ノッシュは全て無視した。

「物体五重生成!!」

 ルギが瓦礫に向けて左腕を伸ばし、右手で左腕を支えるように肘の辺りを握る。

 瓦礫を下から支えていた物体が厚みを増し、滑り落ちてくることがないように、瓦礫周りを囲むように新たな物体が現れ始めた。

「無茶よルギ!!」

「今から五重は無理だ!!」

「デオルダ! 一気に持ち上げる!! 急げ!!」

「……くそ!! あいつは注意したところで聞かねぇんだよな!!」

 ルギに呼ばれたデオルダが走り出す。

「ちょっと!!?」

「結局、似た者同士なんだな。」

「え?」

 クルーニャの隣でノッシュが笑っていた。

「デオルダもさ、何だかんだ言って、ああやってルギの無茶に付き合うの嫌いじゃないんじゃない?」

「そうだと思うけど……。」

「?」

「私達だって、一緒に無茶したいじゃない?」

「……同感だね。」

 ノッシュはクルーニャがルギ達の無茶を止めたいのかと思っていたが、そうではなかったことに驚いた。

 それでも、自分も止めたいと思ってる一方で、その輪に入って行きたいとも思っていた。

 瓦礫の中に潜り込むデオルダを見て、自分のやることを確認したノッシュは、荷物を取りに走っていく。

 そのノッシュを見ているクルーニャがどんな表情だったのか、ノッシュは知らない。


 一方、瓦礫の中と目の前では……。

「急げデオルダ!! 重いって言ってんだろ!!」

「うるさいな!! だったらもっと動きやすいように持ち上げろよ!!」

「今すぐおっことすぞ!!」

「俺を殺す気か!!」

 瓦礫の中と外で喧嘩をしていた。

「喧嘩すんな!!」

「そうよ!! なんで喧嘩になってるのよ!!」

 様子がおかしいと思って見に来たノッシュとクルーニャが止めに入る。

「……。」

「な、何よ……。」

 ルギが、振り返ってクルーニャとノッシュを見た後、もう一度クルーニャを見る。

「……いや。」

「何よ!!」

「デオルダー。面白いものあるから急いだほうがいいぞー。」

「予想つくけど頑張るわ。」

「何の話!?」

「??」

 デオルダとルギが理解する中、クルーニャとノッシュが不思議そうな顔をしていた。

 そうしているうちに、デオルダが見えた。

「よい、しょ……ノッシュ、パス。」

 デオルダが、瓦礫の中から中腰で出てきた。ロニスを担いでいる。

「俺にパスしてどうする気だ、お前は……。」

「離れろよ、長くはこんなに持ち上げてられないからな。」

「わかった。」

 ルギの忠告に、デオルダが返事を返す。

 結局、デオルダがロニスを担いだまま、ノッシュと共に瓦礫から離れる。

「一安心ってとこか……。」

 ルギが腕を下ろし、一息つく。

 そして、近くの壁に寄りかかった。軽く息が上がっているようにも見える。

「大丈夫?」

 クルーニャが、隣に立って覗くようにルギを見ていた。

「まあ、な。」

「あれ、どうするの?」

 クルーニャは瓦礫を見上げる。未だに宙に浮く瓦礫。

「まあ、これは頼まれてないけど……。いいよな。」

 ルギは一歩踏み出し、左手を瓦礫に向けて伸ばした。

 下から支えていた物体生成(オブジェクトメーカー)の一部が形を変え始める。少しずつ外側へと広がり、瓦礫全体を包み込む。

「何を……?」

「多い。」

「何が?」

「なんだこれ……使い勝手悪いな……。」

「??」

 どう考えても、ルギとクルーニャの会話が噛み合っていない。

 と、言うよりも、ルギがクルーニャの話を全く聞いていない。

 クルーニャには状況が飲み込めず、ルギの顔を見ているのだが……。

 ルギがどこを見ているのかわからない。

 仕方ないので、瓦礫に目線を動かす。物体生成(オブジェクトメーカー)が作り出した物体は黒く、包まれた瓦礫がどうなっているのか、ここからは見えないのでわからない。

「どうなってるの……?」

「何が?」

「こっちが聞きたいわよ。」

「いつから怒ってんだよ。」

「怒ってなんか……あれ?」

 噛み合っているような、いないような会話。

 ただ、少なくとも、ルギがクルーニャの話を聞いていた。

「私の話、聞いてた?」

「聞いてたけど?」

 ルギが首を傾げる。

「聞いてなかったでしょ? 使い勝手が悪いとか言ってたくせに。」

「あ……そこは聞いてなかったな。」

「ほら。」

「悪い悪い。で……何だ?」

「何をしてるのか聞いてたの。」

「あれがここにあっても邪魔だろうから……。」

 数人の近づく足音が聞こえた。

「おい、あれ見ろ!!」

「家が……!!」

「すげえ……。」

「あんなことも、できるのか……。」

「え?」

 数人の声を聞き、クルーニャも瓦礫を見る。

 包まれていた瓦礫はルギの物体生成(オブジェクトメーカー)の力を纏い、欠けた部分は修復され、パズルのように組み立てられていく。

「家が、元に戻っていく……。こんなことが、できるなんて……!!」

 クルーニャは、無意識に呟いていた。

 それほどに、この光景に魅了されていた。

 これをルギがやっている。

 さすが、だと思った。

 昔と何も変わっていないと感じたことに喜びを感じた。

 少し変わっていたことに寂しさを感じていたから、余計かもしれない。

 なんだか、自分のことのように嬉しくなってきた。

 後ろに立っていたルギを振り返る。

 この嬉しさをそのままに、褒めようと思っていた。

 後ろに立っていない。

 ルギは壁に寄りかかっていた。

「ルギ……?」

 返事がない。肩で呼吸をしている姿が目に映る。

 下を向いているので、横から回り込むようにして、顔を覗き込む。

 額に汗をかいているのが見えた。目は閉じている。

「ルギ、大丈夫?」

 そっと、小さく声をかけると、ルギは目を開けてクルーニャを見た。

「家を元に戻すくらいならできるさ……。」

「でも……。」

 家は組み立てが始まったばかりで、未だ形を見せてはいない。

 完成させる気があるのはわかるが、本当にルギが最後までもつのかと心配になるクルーニャ。

「さすがに……まだかかるか……。」

 瓦礫を見上げるルギ。

「一回能力解いた方が……。」

「また持ち上げるのは勘弁して欲しい。」

「そうだけど……。」

「いって……。」

「?」

 ルギが左手の指で左のこめかみを抑えている。

「頭どっかに打った?」

「そんなわけあるか……。」

「そ、そうよね。」

「やっぱり、五重が無茶だったか。」

「……言ったじゃない。」

 ため息混じりにクルーニャが言う。

 クルーニャが言った。デオルダも言ったのだ。五重生成は無茶であると。

 それを、聞かなかったのは、ルギである。

 注意を聞いたことがないのは知っているのだが。

「はは……。」

 力のない笑い声。

「笑ったって許さないわよ。」

「怖いよ……。」

「……家は、あと半分くらい?」

「……。」

 ルギに聞いたつもりだった。

 瓦礫が纏っているのは、ルギの物体生成(オブジェクトメーカー)で作り出された物体である。ルギはどこまで把握しているのかも含めてクルーニャは聞いたつもりだったのだ。

 軽い、何かが軋むような音が、返事だった。

「ルギ……?」

 俯くルギは両手で頭を抱えている。

 耐えるように歯を食いしばっていた。

「ル、ルギ……!?」

 声が、届いていない。

 ルギの腕が、自分の頭を押し付けるように力を入れている。

 その手が、震えているようにも、見える。

 どうしていいのか、わからなかった。

 ただ、どうにかしてくれる人なら、知っていた。

「す、すみません!」

 クルーニャは、瓦礫の前で家の完成を待っていた数人に声をかけた。

「どうかしましたか?」

「あの、ノッシュはどこに……。」

 クルーニャの頭の中では、ノッシュしか頼れる人物がいなかった。

「ロニスの手当だと……。」

「十字街だよな?」

「多分。呼んで来ましょうか?」

 数人がお互いの意見をまとめ、そのうちの一人が提案した。

「お願いしても……いいですか?」

「ええ。少々お待ちください。」

「すみません。」

 そういうと、走って呼びに行った。

「どこかお怪我でも……?!」

「い、いえ違います。私じゃなくて……!!」

 残った二人に心配されたクルーニャだが、物音で言葉を止めた。

「ん? 何の音だ?」

「家か?」

 その言葉で三人が作りかけの家を見る。

 何も変化がない。

「気のせいか?」

「ん……?」

「どうした?」

「あれ……あいつ……。」

 一人が指を差した。

 クルーニャが勢いよく振り向く。

 なぜ、家よりも先に真後ろを振り返らなかったのか。

 その可能性を一番感じていたはずなのに。

 だからこそ、ノッシュに助けを求めようと思ったのに!!

 三人の後ろで、静かに瓦礫の建築者が地面に崩れ落ちていた。

読んでいただきありがとうございます。


今回は、ようやく物体生成を出すことができました。

瓦礫を持ち上げて、家を建てる能力です。今のところ。

最後、力尽きてしまいましたが……。


はい、次話です。

力尽きたことによる、瓦礫への影響は……?

賢者ではないルギが、能力を使えた理由は……?

あ、二つ目までいかないかもしれません……。

できなかったら、その次に。


またよろしくお願いします。

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