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object maker  作者: 舞崎柚樹
3:ハルノカゼ
15/106

創造神と柳姫

 もらった麦茶を少し飲み、クルーニャが口を開いた。

「突然ごめんなさい。何か話していたんでしょ? 構わず続けて。」

「そうも、いかないような……。」

「なんで?」

 ノッシュの言葉を聞き返すクルーニャ。

「話の内容は……二年前の創造神(クリエーター)の称号剥奪についてだ。」

「随分と暗い話、してたのね。」

「ルギは、この国に来てからの二年。ほとんど街に来なかった。」

「どこに住んでるのよ……。」

「町外れの森だ。」

「ああ、そう……。」

 クルーニャは多少呆れた顔を見せた。

 熊がいると、聞いた後だったからかもしれない。

「それを、まあ、俺らが半ば無理矢理連れてきた。」

「完全に無理矢理だ。」

「あ! もしかしてあのこいのぼり……!!」

 クルーニャは広場の空を泳いでいた三匹のデカのぼりを思い出す。

「ああ、ルギが作った。」

「さすがねー。」

「それが、昨日の事なんだがな。」

創造神(クリエーター)ってバレっちゃって。」

「バレたらまずいの?」

「街の人は噂を鵜呑みにしてたからなあ……。」

「な、なるほど……それで街にも来なかったのね。」

 二年前のことに関して、噂を鵜呑みにしている人はかなり多い。

 それだけ、情報が流れなかったのだ。

 そして、称号剥奪という事実が先走ってしまったのだ。

「そういうことだ。」

「それで……ルギは?」

「俺は、あいつの心が完全に折れたと思ったよ。」

「!!」

 デオルダが断言した。

 それを聞いたノッシュもクルーニャも驚かずにはいられなかった。

「こいのぼりを作ったから、まだ大丈夫なのかと思ってたけど……甘かった。」

「デオルダ……。」

 目を伏せたデオルダに声をかけていいものかとノッシュは考えていた。

「決めた。」

 クルーニャが立ち上がる。

「?」

「とりあえず、ルギに会ってくるわ。」

「行動早いな。」

「自分の目で確かめないとね。それに、私からも言いたいことはあるし。」

「賢者には賢者の心があるか?」

 デオルダが笑いながらクルーニャに聞く。

 自分にわからない何かがあったのだろうと言っているのだ。

「そんなものないわよ。」

「そりゃ失礼。」

 だが、クルーニャはその考えをあっさりと否定する。

「とにかく。朗報を期待してね。」

「頼んだ。」

「頼む。」

 二人に見送られたクルーニャはノッシュの家を出た。

「なあ。」

 デオルダがクルーニャがいなくなるの待ったかのようにノッシュを呼ぶ。

「?」

「よく、賢者に握手なんて求められたな。」

「え、まずかったのか!?」

 いきなり言われたので、何かまずいことをしたのかと不安になるノッシュ。

「そんなこと言ってないだろ。見ただろ? クルーニャのあの嬉しそうな顔。」

「そりゃあ……。」

「お前、握手一つであそこまで喜ぶ理由、わかるか?」

「それは、あれじゃないのか? 賢者だから、そういうことするやつがいないとか。」

 敬語の時も同じことを言っていた。

「なんだ、わかってるじゃないか。」

 デオルダがくすくすと笑っていた。

「?? 面白いか?」

「ちょっと面白くなってきただけだ。」

 そうは言われても、ノッシュの頭にはクエスチョンマークがいくつも浮かんだままだった。


 いつもの場所。

 町が一望できる、大きな木の下で、寄りかかるようにして座っていた。

 ただ違うのは、一陣の風が吹いたこと。

「久しぶりね。創造神(クリエーター)。」

「久しぶりだな。柳姫(りゅうき)。」

 軽い、挨拶。

 クルーニャはあえてルギを賢者の二つ名で呼んだ。

「二年ぶりよ。」

「そうだな。何の用だ?」

 木に寄りかかったまま、クルーニャと目線を合わせることなく会話が続く。

「私がこの国に来た理由、わかる?」

「この国の神の審判を支援するため、だろ?」

「よくわかってるようで安心したわ。じゃあ、私が言いたいことも、わかるわね?」

「国民の反応、だろ?」

 何もかも、わかっている。

 それなのに。

「ええ。この国はもう既に神の遣いが来てるはずよ。それでいて、準備をするどころか、審判の話事体知らないかのようなこの雰囲気。」

「当たり前だ。知らないんだからな。」

「どういうこと? 知らないなんてありえないわ。」

「ありえなくなんかないさ。国王が言ってないんだから。」

「言ってないって……この国は“力”の審判のはずよ!? 国民の協力なしにクリアできるほど簡単じゃないわ!!」

「知ってるよ。」

 理解もしてる、現状もちゃんと分析できている。

「そ、そうね。」

「国王は、軍事力でこの国の力を証明するつもりだ。」

「ぐ、軍事?! この国は、商業都市でしょ?」

「見たまんま、商業都市だ。」

「それを、軍事なんて……誰がそんなもの造るのよ。」

「愚問だな。」

「え?」

「俺は賢者じゃない。介入の制限はないんだ。」

「!? 造ってるって……言うの?」

 聞き間違いであると思いたかった。

「……。」

「なんで!? どうして!? そんなことに使うって……わかってて……!!」

「……。」

「答えてよ!!」

 国のために動かないルギがおかしいと思っていた。

 それでも、国のためとは言え、軍事に介入するなど……認めたくなかった。

「ルベルが、人質にとられてる。」

「な、んて……?」

「裏ルールの人質だ。どうにかしないと、あいつはこっちには帰って来れない。」

 裏ルールについては、聞いている。

 それでも実際に使う人がいたことに驚くクルーニャ。

「あれをまだ使う人が……いたのね。」

 ルギが、ルベルのために軍事に介入したと言うなら……認めるしか、ない。

「そうだな……。」

「勝率は……?」

 一年が制限時間であったはずだ。

 それ以内にできなければ、この国の国王が次の人質を選ぶであろうことは想像できた。

「ない。」

「え?」

「無理だよ。できるわけがない。」

「待ってよ……!! どうにかしないとって……。」

「俺だってどうにかできるならしたい。」

「!!」

 それほどに、ルギは……行き詰まっていたのだと、感じた。

「街の人に頼んで、軍事力以外で審判をどうにかしようとも……考えた。」

 こんなに、弱々しく聞こえる声だったかと、思う。

 これは、二年前の時と同じだ……。

「それでも、やっぱりダメだった。」

「ダメって……。」

「俺は、この国の人に必要とされてない。そんな人達に、協力を頼むことなんか、できない……。」

「ルギ……。」

「ニャー。」

「え?」

 ルギの足元からこちらに歩いてくる、猫。

「猫、あまり遠くに行くなよ。」

 猫はクルーニャの足元で座って尻尾を振っていた。

「猫のお兄ちゃんって、ルギだったんだ。」

 クルーニャは屈み、猫を撫でる。

「子供達が言ってたか?」

「うん。」

「悪いことしたな……あんなもの作らなければ、期待なんかさせずに済んだのに。」

「そんなこと……!!」

「見てみろよ。」

 町が一望できるこの場所からは、三匹のデカのぼりがよく、見えた。

「昨日の昼間まで街の人々はあれを見て喜んだ。それが半日経って破壊者の象徴だ。見向きもしない。笑える話だろ。」

「笑えないよ。」

「……もう一度聞くぞ。……何の用だ。」

 ため息混じりに、ルギが聞く。

 クルーニャは全く歓迎されていない。

「どうして、噂を否定しないの?」

「またその話か。もういい。」

「よくないっ!!」

 予想通りの反応。

 自分のことなのに、ルギが興味を持っていない。

「俺の問題だ。」

「そうよ! ルギの問題!! でもね、ミルシェさんはルギのことを信じて……ルギが本当のことを話してくれるのを待ってた!!」

「!」

 ルギが反応した。

 予想外のことだったのだろう。

「仕方ないのよ!! 事実は変わらないのよ!! それでも、真実があるなら主張しなさいよ!!」

「……変わらないよ、何も。」

「だとしてもよ!! いつまでも自己犠牲に逃げてるんじゃないわよ!!」

「……いいよ、俺は。」

「っ!!」

 もう、我慢がならなかった。

 クルーニャがルギの前に立つ

「!?」

 ルギが驚いて自分の前に立ったクルーニャを見る。

 歯を食いしばって、泣いていた。

「いい加減にしてよ!! あなたが苦しんで悲しむ人だっているのよ!! この、わからず屋っ!!」

「!!」

 少なくとも、こんなルギを見たくはなかったのだ。

 ここで出会えたのが、本当に偶然だったから。

 会えるなんて思ってもいなかったから。

「あなたは……あなたを信じた私達も馬鹿だったって笑い飛ばす気なの!?」

「そ、それは……。」

 ルギが目線を落とす。

「もう、やめようよ……そんなの、悲しいだけだよ。」

「……。」

 ルギは言葉に詰まった。

「踏み出せる。きっと……。また……。」

「……。」

 ルギは何も言わなかった。

「ルギ……。」

 クルーニャが次の言葉を言いかけたその時。

 大きな音が、した。

 クルーニャが音の方を見る。

 ルギも顔を上げ、立ち上がる。

「!?」

「何の音!?」

「煙だ……!!」

 街から煙が上がっていた。

 中心部に近い場所。位置的に商店街と考えていい。

「火事!?」

「火は見えない……となると……!!」

「な、何!?」

「建物が、崩れた……!?」

「そんな!? 急いで行かないと!!」

 ルギの横を通り過ぎ、走り出すクルーニャ。

「先に行くからね!! ルギ!!」

 少し振り返り、声をかける。

 ルギは、振り返らなかった。

「っ……どいつもこいつも……一言も二言も……余計なこと言いすぎだ!!」

 何かから解放されたい一心だった。

 もう、何も考えずに生きていきたいとも思った。

 感情なんて捨ててしまえたら……よかったのに。

 諦めることができたなら、どれだけ、楽だっただろうか。

 悲しみも、苦しみも、存分に味わった。

 逃げたいと、思ったことは……間違いじゃないとさえ、思う。

 自分の行為を、正当化したかった。

 それでも、また踏み出してしまった自分の足に、その判断をした自分の思考回路に、思いつくままに、精一杯の悪口を。大声で叫びたい。

 そして、未だ自分を信じてくれている人に……心から感謝を。

 今はただ、大きく一歩を踏み出せていたら、それでいい。

 後のことは……後で考えればそれで、いい。

 街までの道を、普段は通ろうともしない、この地をルギは全力で蹴り飛ばした。

読んでいただきありがとうございます。


今回は、ルギとクルーニャのお話をしました。

まあ、ちゃんと話し合いになったかと言われると、何も言い返せませんけど。

そして、街で何が起こったのか。


そして、次話。

街を救うために動き出すクルーニャ、デオルダ、ノッシュ。

賢者の、力とは一体何か。


またよろしくお願いします。


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