表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
object maker  作者: 舞崎柚樹
2:色のない空
13/106

切ない夜に

 街から離れ、森を歩くデオルダとルギ。

 一言も喋らない。

「今晩食べたいものでもあるか?」

「なんだよ、いきなり。」

 歩く足を止めて振り返るルギ。

「いや……なんとなく。」

「なんでもいいよ、いつも聞かないくせに。」

「いや、まあ……そうなんだけど。」

「別に落ち込んでなんかいねえよ。」

 ため息混じりにルギがデオルダを見て言う。

「へえ。」

「心配すんな。」

「?」

「もう、失敗はしない。」

「!!」

 ルギの顔は、表情がないような、真顔のような顔で……言った。

 いつからだっただろうか。

 この男の表情がここまで、暗くなったのは。

 出会った頃、コイツはいつもヘラヘラしていて、それでいて、他人に思いやりがあって。

 信用していいのかと、悩んだほどだった。

 それが、今では……表情が枯れてしまったかのようだ。

「それで、いいのか?」

「いいか悪いか、そんなの関係ないんだ。」

「関係ないって……。」

「今重要になるのは……この国の民の意志だ。」

「そりゃあ、今日の様子を見る限り……。」

 いいとは到底言えないだろう。

「真実を知り得ない人にとっては、それが真実だ。何も間違いはない。」

「そうかもしれないけどよ、お前だってもう少し言い訳するとか……。」

 何も言わず、ただ争いを起こさずに帰ってきただけある。

「言っただろ? 俺の個人的感情は重要じゃない。」

「あの目は久しぶりに見たよ。正直恐ろしいな。」

「それでいいんだ。向こうから遠ざけてくれた方がいい。」

「……。」

「きっと……。」

「?」

 ルギが空を見上げる。

 暗くなってきた空は、うっすらと星が見えてきている。

「俺はこの国を救うことすらできずに終わるよ。」

「え……。どういう……。」

 デオルダは目を丸くした。

 一体、ルギは何が言いたいのか。

「神の審判。」

「それは知ってるけど。」

「この国において、力となるのは商業力。それを俺一人で形にできるはずがない。まして、国王は軍事で対抗する気だ。」

「軍事は、無理だろ。」

 ルギに武器を作らせているとはいえ、神の審判で簡単にいくはずがない。

「そう、どっちにしろ……無理なんだ。」

「商業も? ……無理なのか?」

 軍事に関してはわかる。

 だが、商業までもが無理と言い切る理由がわからなかった。

「この国の人は、俺を必要としていない。そんな人に……俺の都合で協力は頼めないだろ。」

「でも……それじゃあ……。」

「ああ。俺がいない一年を過ごすことになるな。」

「!」

 つまり、一年という時間内に審判をクリアすることができない。

 そして、次の一年の人質として、ルギが選ばれることになる。

「仕方ないさ。」

「し、仕方ないで片付けんなよ!!」

 デオルダが叫ぶ。

「なんでだ……お前は、いつも……諦めるって言っても口だけで……!!」

 ルギが、諦めたことなんて……なかったはずなのに。

「最後までやれよ!! ルベルを見捨てるのか!!」

 デオルダが思いつくままに、言葉をルギにぶつける。

「何も、何もしないまま……他人に投げて自分はどっかに行くって言うのか!?」

 そんなことは認めない。

 デオルダはわかっている。自分に力がないことは。

 それでも、ルギが諦めてしまったら、何もかもが終わってしまう気がした。

 ルギに諦めて欲しくなかった。

「そうだ。」

 デオルダが叫び始めてから、何も言わなかった。

 何も言おうとしなかった。

 そのルギが、こちらを見ている。

 一言だけ、言葉を発すためだけに。

「そうだ……って、言ったか?」

「ああ。」

「どうして……そこまで……。」

 自分の過去を否定するのか。

「納得は、しなくていい。説得も、しなくていい。」

 ルギの言いたいことが、手に取るようにわかる。

 その先を、言わなくても、わかる。

「だから、俺をこれ以上……庇わなくていい。」

「俺は……!!」

 言いかけた言葉を全て飲み込んだ。

 この言葉をルギに向ける意味は、ない。

「わかったよ!! 勝手にしろ!! 俺も、好きにさせてもらう!!」

 デオルダは、歩き出す。

 ルギの横を通り過ぎる。

 怒りで頭が狂ってしまいそうだった。

 怒りで頭が狂ってしまいたかった。

 それほどに、ルギに怒りを感じていた。

 それほどに、自分が言いたくなかった言葉をルギに言い放ったと、後悔していた。


 その日のその後、二人が顔を合わせることはなかった。


 次の日の早朝。

 街に向かう、陽気な風。

「いい天気、いい天気。雲一つないあおーい空。いい感じね。」

 立ち止まり空を見上げ、頷く。

 くるくると回りながら街への道を行く。

「ちょーっと朝早いけど、これくらいの風が気持ちいいのよね。」

 また立ち止まり、髪を揺らす静かな風を感じて笑う。

「あーあ。これが仕事じゃなかったらもっともっと楽しかったのにー。あら?」

 視界に街の入口が見えた。

「まあ、文句ばかりじゃ始まらないわね。さてと、楽しくお仕事、お仕事。」

 そう言うと、腕をまくる。

 右腕の緑色のブレスレットが太陽の光に反射して輝く。

 そして、栗色の髪を揺らしながら街に向かって走り出した。


 彼女は、“柳姫(りゅうき)”と呼ばれる、世界権力の一人。

 賢者である。


読んでいただきありがとうございます。


今回は、称号剥奪に関して、ちょこっとルギが喋りました。

やっと、ですね。

それでも、少ししか喋ってませんね。

トライアングル以上のゴタゴタになりそうですけども……。


さてと、次話。

最後に登場しました賢者・柳姫。

彼女が国に来た理由とは……?


またよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ