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object maker  作者: 舞崎柚樹
2:色のない空
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猫とりんごと

 賑わう商店街の中央広場に多くの子供が集まっていた。

 ジュアの手旗のぼりを見るなり集まってくる。

「ジュアのそれいいなー!!」

「私も欲しい!」

「いっぱいあるよー!!」

 子供同士で話が弾んでいる。

「チビのぼりでよかったんじゃねえの?」

 子供達を見たデオルダが笑う。

「確かに。あれを見る限りは、な。」

 子供達の様子を見ながら二人が話す。

 そして、デオルダとノッシュは自分たちが運んできたダンボールの箱を地面に置き、開けた。

「!! あの馬鹿……!!」

 デオルダが開けた途端に驚く。

「どうした?」

「見ろ。デカのぼりだ。」

 デオルダの運んできたダンボールの中には、折りたたまれたデカのぼりと、チビのぼりが入っていた。

「え? だって……。」

「甘かったか。」

 デオルダが小さく舌打ちをした。

「えっと、どういうこと?」

「あいつ、チビもデカも完成させてたんだよ。」

「でも、なんでわざわざ……。」

 未完成だと言う意味がどこにあるのだろうか。

「運ばなくて済むからな。」

「!! やっぱり……。」

「意地でも引きこもるつもりだ。まったく、頑固だな。」

「お前は、ルギを街に連れてきたい派?」

 ノッシュは最初、デオルダがルギを街まで連れてきたいと考えていないと思っていた。

 それが今回、ここまで積極的にルギを動かそうとしている。

「まあな。あいつは人が好きなんだよ。」

「人?」

「だから、今回こんなにこいのぼり作ったんだろ。」

「……そう、だな。」

 デオルダとノッシュがダンボール箱を見る。

 綺麗に箱に詰められたこいのぼり達。

 色とりどりで、子供の為を考えていないと作れない。そう思わせるものである。

「仕方ない。子供を待たせていいことはなさそうだな。」

 広場の子供たちはもう既に騒ぎ出していた。

「ああ、そうだな。」

 デオルダが子供の元へと歩き出した。

 ノッシュはもう一度、ダンボールの中に入っていたデカのぼりを見る。

 箱に収まるように折りたたまれた三匹のデカのぼり。

 一匹ではない。

 本当に子供のことを理解していないと……できないだろうと、思う。

 少なくとも、自分にはここまでできないと感心しながらも、どこかに寂しさを感じた。

 それは、少し前にルギの闇を感じたからなのかもしれない。

 全てを知っているからこそ、デオルダが舌打ちなどという、いつもでは考えられない行動に出たのかもしれない。


「殴られても……文句は言えない……な……。」

 三人が街に着いた頃。自室のソファーベットに横になったルギ。

 眠気で独り言も途切れ途切れになっていた。

 ジュアが、ノッシュが、デオルダまでもが……機会を作ってくれた。

 それでも、それを潰した。

 逃げてると思われても構わなかった。

 一年が過ぎれば……それでいいと、思った。


「まだもらってない人いるかー?」

 ノッシュの呼びかけに対して、子供達が一斉に返事をする。

「みんなもらったー!!」

「気をつけて遊べよー。」

「はーい。」

 そう言うと、子供達は各々で遊び始めた。

 ノッシュは広場のベンチに腰を下ろす。

 隣にはデオルダが座っていた。

「一段落、だな。」

「予想以上に子供が来てたもんだ。」

「ジュアが集めてきたんだろうな。」

「ルギは今頃夢の中、か?」

「さあな。」

 デオルダが苦笑いを浮かべながら答える。

「デオルダ、ノッシュ。」

「?」

 二人に声をかけてきたのは、商店街で八百屋を営んでいるミルシェ・ポーロである。

「お疲れさん。差し入れだ。」

 そう言うと、ミルシェはお茶のボトルを手渡した。

「すみません、ありがとうございます。」

「いただきます。」

「それにしても、あんなに立派なこいのぼり……本当にもらっていいのかい?」

 中央広場の上空には風に煽られながら泳ぐ三匹のデカのぼり達がいた。

「え、ええ。」

「作った人は?」

「あ、今日はいないんですけど……。」

 デオルダが言葉に詰まる。

 ノッシュと目が合う。

「そうか、もし商店街に来たら教えてくれ。みんなお礼をしたがっているからな。」

「あ、はい。わかりました。」

 そうして、ミルシェは子供達の方へ戻っていった。

「どうすんだよ。かなり喜ばれてるじゃねえか。」

「どうもこうも……あいつが来ないんじゃどうにもならん。」

「俺らがごまかすのも限度があるぞ……。」

「そうは言ってもなぁ……。」

「困ったもんだよなぁ……。」

 二人でため息をつく。

 時間は昼を少し過ぎたくらいだった。


「なんで来てしまったんだか……。」

 呟くルギは、商店街の路地に身を潜めていた。

「こんなところで……何してんだろ……。」

 遠目に見て帰ろうとした。

 だが、子供達が遊び始めてしまい、路地から出るに出られなくなってしまったのだ。

「待つか……。」

 ため息がでた。

 慣れないことはするものではない。

 「ニャー」と、声がした。

「猫……。おいで。」

 掌を見せると寄ってきた。抱きかかえてみる。

「お前も一人か?」

 猫の前足を持って猫に聞く。

「ニャー。」

「お前はニャーとしか言わないからな。」

 猫は大きな欠伸をしている。

「自由だなお前は。羨ましいよ、そういうのが。」

 持っていた前足を放してやると、猫は顔を擦り始めた。

 そして、ルギの顔を見た。

「どうした?」

 そのまま、猫は丸くなった。

「そこで寝るのか?」

 猫は動こうとしない。

「こりゃ、ホントに動けなくなったな……。」

 頭を撫でてやると、猫の片耳が動いた。


 夕暮れが近づいて来たのだろうか。子供の声がほとんどしなくなった。

 猫はあれからずっと寝たままで、ルギは結局身動きができなかった。

「猫、一回起きてくれよ。俺も帰るぞ。」

 頭を撫でてやると、猫がこちらを見ている。

 抱きかかえ、地面に下ろして立ち上がる。

「ニャー。」

 歩き始めると、猫が後ろをついてきていた。

「ついてきちゃったか。」

 一旦路地から出ることにしたルギ。その後ろを歩く猫。

 路地から出たルギの目に映ったりんご。

「りんごでも食べるか?」

「ニャー。」

「お前、なんでも食べそうだな。」

 猫はルギを見上げるだけだった。

「いらっしゃい。」

「あ、りんご三個。」

「あいよ。」

 猫はおとなしくルギの足元に座っていた。

「ほい、りんご三個ね。」

 代金を渡し、りんごが入った紙袋を受け取る。

「どうも。」

「ニャー。」

 足元で鳴いている。

 りんごをねだっているのだろう。

「ちょっと待てって。どこか座るとこ……広場辺りでいいかな……。行くぞ、猫。」

 歩き出すルギの後ろを猫が駆けていく。

「ほどけちゃった……。」

「これ、直るかな……。」

「お母さんに見てもらおうよ。」

 少し先の方で女の子二人が持っていたチビのぼりを見て何やら話していた。

 何かあったのかな。と、ルギは目で見ていた。

「ニャー。」

「あ、にゃんこ……。」

「え。」

 ルギの後ろを歩いていたはずの猫は、女の子二人の足元で尻尾を振っていた。

 女の子が猫に手を出すと、猫は身を翻し、ルギの元に戻ってきた。

「お前は、いつの間に……。」

「ニャー。」

「お兄ちゃんの猫?」

「え、いや……。」

 飼い猫ではない。ただの野良猫である。

「触ってもいい?」

「……いいよ。」

 目を輝かせる子供をがっかりさせるわけにもいかず、笑って答える。

「わあ……。」

「かわいい……。」

 左の女の子が猫の頭を撫でている。

「こいのぼり、壊れたの?」

 右の女の子の手にあるチビのぼりは、手旗用の棒と離れていた。

「ほどけちゃったの。」

「貸して、直すから。」

「できるの!?」

「うん。あ……そのリボン、もらってもいい?」

 ルギは女の子が持っていたリボンを指差した。

「これ? いいよ。」

 ルギはそのリボンを手旗用の棒に結び、チビのぼりも取り付けた。

 リボン付き手旗のぼりである。

「はい。」

「かわいい!!」

「あまり振り回すと取れちゃうからね。」

「うん! ありがとう。」

「ニャー。」

 猫はルギの横で鳴いていた。

「ああ、はいはい、お前はりんごね。」

「じゃあね、猫のお兄ちゃん!!」

「ありがとー!!」

 手を振って駆け出す二人の女の子。

 片方の手旗のぼりはリボンと一緒に泳いでいた。

「……猫のお兄ちゃんになってしまったじゃないか。」

 横目で猫を見ても、尻尾を振るだけだった。

 猫に振り回されている気がしながらも、ルギはりんごの袋を抱え、猫を引き連れて広場へと向かった。


今回も読んでいただきありがとうございます。


今回は、野良猫とりんごでした。

ルギ、街まで来ちゃってましたね。

バッチリ隠れてましたけど。


さて、次話です。

広場で何が起こるのか、怒るのか。

猫の運命は……!!(笑)

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