始まりの法廷
「静粛に。」
音のない空間に響く裁判長の声。傍聴席には誰もいない。
被告人は係官に体を支えられ、立たされている。時折口元から滴る血は、もう乾いてきていた。
そんな俺を見下ろす、裁判長よりも高い位置にいる、国王。
ホント、いいご身分だな。
「本件は被告人ルギ・ナバンギが自らの恋人であるルベル・シャドルネを殺害した罪を問うものである。しかし! 被告には自らの罪について何も語らず、自殺を図った。さらに、提出された証拠から、被告が殺害したことは明白である!」
恋人じゃねえよ。殺してもいねえ。自殺? あんたらが勝手に俺に毒を飲ませたんだろうが。まったく、都合のいいことばかり言いやがって。
これが、王宮裁判か。
「情状酌量の余地もない。我が国、クリングルの法に則り被告を有罪とし、この場で死罪を……」
「少しいいかな? 裁判長。」
裁判長の言葉を遮ったのは、国王である。
そう、ここであんたが口を出す。全部、シナリオ通りなんだ。そうだろ? 独裁主義の国王様?
「どうかなされましたか? 国王様。」
「裁判長、あなたも知っているはずだ。今、我が国は神の審判の最中であると。」
「存じております。」
この世界の中心である聖域に存在する神。その神が世界の秩序を守るために定期的に行う視察。しかし、神直々に国を見て回るわけではない。神の遣いと呼ばれる者が国にやってくるのだ。そのため、神の評価を下げたくない国の長たちは必死だ。
「聞いたところによると、被告の余命は一年。その命を今すぐに絶つというのはあまりにも心苦しい。」
「そのお心、痛み入ります。」
偽善者め。
「被告人の罪は重い。だが、この男はこの国を救う力がある。」
「この者に、ですか?」
「ああ。一年だ罪人。残された時間でこの国を救って見せろ。それが、釈放条件だ。どうする?」
喋る力がないやつに何を問うているのやら。あんたの中で、俺を釈放させることは決定事項だろうに。
「わかりました。国王様のご配慮により、特例として、ルギ・ナバンギを釈放とする!! 本日はこれにて閉廷!!」
鈍い木槌の音が、静寂の法廷に響き渡った。
本人の了承なしに国の救出劇はこうして始まったのだ。
ルギ・ナバンギに残された時間は、あと365日。
読んでいただきありがとうございます。
少しずつですが、これから書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。