表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HERO  作者: awa
Over and over
48/48

EPILOGUE

 「ジェニー!」

 その声に、教室に残っていた生徒──ほとんどクラスメイトで、その全員が、戸口に立つ彼のほうを見た。

 彼は、立っている私を見つけ、こちらに歩いてきた。

 彼は、微笑んだ。

 「帰ろう」

 昨日、彼の家のポストに走り書きをした紙を入れ、家に帰った。

 そしてすぐ、彼から電話をもらった。

 好きだと言われた。

 あきらめようとしたのにと私は泣いてしまい、それでも好きですと伝えた。

 恋人になってほしいと言われ、はいと答えた。

 しばらく話をして、今日、一緒に帰る約束をした。

 「ええと──」

 顔が、火照るように熱い。

 何人かの女の子が、こちらに駆け寄った。 

 「ちょっと、ジェニー? もしかして──」

 親友のレナが言った。

 「ジェニー。みんなには私から言っておく。いいから行って」

 彼女にだけは、昨日の夜電話して、つきあうことになったと伝えた。

 驚いていたけれど、喜んでくれた。

 「ありがとう、レナ」

 彼は、彼女に微笑むと、机の上にあった私のカバンを持ち、私の手を引いた。

 「行こう」

 クラスメイトはみんな、ぽかんとしていた。

 おそらく、私も。

 彼は、私の手を引いたまま、教室を出た。

 何人かの生徒が廊下にいて、やはりぽかんとした顔で表情でこちらを見ていた。

 「あの、ジャック──」

 「うん。とりあえず、学校を出よう」

 そう言われ、階段をおりた。

 彼が教室に来たのはベルが鳴った直後のことだったので、まだ、中庭に他生徒の姿はなかった。

 彼は、言った。

 「学校出たら、抱きしめていい?」

 「ええ?」

 「昨日からずっと我慢してるんだ。休み時間、会いにくるつもりだったんだけど、ことごとくライアンにつかまっちゃって」

 彼の表情が見えない。ゆっくり歩いているけれど、彼は一歩前にいる。

 抱きしめる。ハグってこと? していいか、なんて訊かれると、なんだか恥ずかしい。

 中庭を抜け、彼が言う。

 「ハグじゃないよ。それ以上」

 「ええ?」

 「いや、今していいならするけど。でもキスしちゃうかもしれない。君がいいなら、今するけど」

 こういう時、私は頭をフル回転させることができるはずだった。

 彼に対して自然な態度をとること、気持ちを悟られないよう、うまく表情を作ること。嫌われないよう、変に拒否しない方法。

 そんなことを考えるのは、得意だったはず。

 なのに、今はできない。なにも考えられない。

 正門の手前で、彼が立ち止まった。

 「あ」

 彼は、こちらを向いた。

 「ごめん、また勝手に、手つないでた」

 昨日の電話で、手をつないだことや抱きしめたことを、彼にすごくあやまられた。

 心配する気持ち以上のものがあった、と。

 すべて心配してくれる気持ちのうえでだと思っていたから、驚いた。

 でも、いやではなかった。ただの一度も。

 嬉しいっていうのを、伝えたほうがいいのかな。

 そうは思っても、どう言えばいいのかがわからなかった。わからなかったので、彼の手の中にある自分の指を動かし、応えるように彼の手を握った。

 彼は、微笑んで手を握り返した。そして、いたずらっぽく笑った。

 「そんなことしたら、抱きしめるよ」

 考えてみれば、ちゃんと会って話をするのは、一週間以上ぶりなんだ。

 というかさっきから、私、まともに喋っていない気がする。

 「ええと──」

 「うん?」

 彼の目を見ていられず、うつむいた。なにを言えばいいのだろう。こういう時、どうすればいいのだろう。

 「ダメだ。もう限界」

 彼は、私を引き寄せ、抱きしめた。

 でもおかしなことに、つないでいた手はそのままだった。

 「どうしよう。抱きしめたいけど、手も離したくない。欲張り」

 思わず、彼の右腕の中で笑った。

 「笑うとこじゃないけど」

 そう言われ、ますます笑ってしまった。

 嬉しさと恥ずかしで、胸がいっぱいになる。

 「好きだよ、ジェニー」

 彼が、囁くように私に言った。同時に、私を包む腕にも力が入る。

 「──私も」

 自然と、言葉が出た。

 昨日はマイキーに、彼のことを友達だと言っていたのに。

 その一時間と少しあとには、彼に好きだと言われ、私も好きだと伝えて、恋人になった。

 恥ずかしさよりも嬉しさのほうが大きくなって、好きな気持ちがもっと大きくなる。

 もう、表情を作らなくていいんだとわかる。

 彼に嫌われない応えかたを考えることはやめないと思うけれど、彼に気持ちを悟られないようにすることは、もうしなくていいのだと。

 言いたいだけ、言えばいい。

 「私も、好き」

 そう言うと、ぎゅっとしたあとで彼が身体を少し離し、額を私の額にあてた。

 「もう無理。ごめん」

 伝えたいだけ、伝えればいい。

 彼の顔が近づき、私は、目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ