表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HERO  作者: awa
Real intention and preparation
41/48

SCENE 41

 レイシーに少し休みたいと言われ、ジャックはひとり病室を出た。

 ふらふらと談話室に向かい、そこに並ぶうちのひとつのチェアに座った。テーブルに顔を伏せ、両腕で顔を隠し、目を閉じる。

 なにをしたても、傷つける。誰かにやさしくしても、誰かを好きになっても、どちらにしても傷つけるのだ。レイシーはそういう立場にいる。恋人として、元恋人として、そういう立場にいる。

 レイシーの家族をどうにかしたいなどと考えはしたが、そのあとのことまでは考えていなかった。レイモンドに会って、キャシーに会おうとした。レイシーがまた家族三人で暮らせればいいと思っていた。だが、彼女に言う時のことまで考えていなかった。

 好きな女の子がいる。

 マイクに宣言した。両親に宣言した。なのに、レイシーに言う時のことまで考えていなかった。バカだ。

 泣くか怒るか、というのは考えたことがあるのだったか。

 怒らない、と言われた。でもきっと、泣いている。また泣かせた。こんな状況で。

 ふいに、ジェニーの顔が浮かんだ。

 彼女が笑う。彼女が泣く。ジェニーの泣き顔は、どうかとは思うが、好きだ。──泣かせたいとかではないのだが。

 けれど、レイシーには泣いてほしくない。彼女が泣くのを見るのはもう嫌だ。レイシーの涙はいつも、自分の手が届かないところに理由がある。抱きしめたところで、いくら拭ったところで、彼女の涙を止めることなどできない。

 「こんなところで寝てると風邪ひくわよ」

 伏せていた顔をあげると、エレンが向かいの席に座っていた。上半身だけをこちらに向け、右肘をついた手にあごを乗せて微笑んでいる。

 ジャックは体を起こし、指で眉間を押さえた。

 「早くない?」

 「そう?」彼女は腕時計を確認した。「六時四十分。朝だからか車が少なかったのよ」

 「飛ばすなって言ったのに」

 「大丈夫。せめてあなたが結婚するまでは生きてるから。レイシーは?」

 結婚、ね。「病室で寝てると思う。キャシーも寝てるから、起こすなって」

 「そう。じゃあ先に、先生のところに行って話を聞いてくるわ」エレンは立ち上がろうとしたが、やめて彼へと視線を戻した。「大丈夫? 疲れてない?」

 力なくもジャックは微笑を返す。「若いから大丈夫」

 「そういう意味じゃないんだけど」

 「そういう意味以外は受けつけない」

 顔をしかめ、唇を尖らせる。「ま、いいわ。行ってくる」

 そう言って席を立つと、エレンはエレベーターへと向かった。

 いつのまにか、窓に設置されたクリーム色のブラインドの隙間から朝日が差し込んでいる。

 チェアに背をあずけ、ジャックは腕時計で時刻を確かめた。六時四十五分。そろそろ他の患者たちも起きる──起こされる時間か。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ジャックはテレフォンボックスに入った。壁にもたれ、携帯電話の電源を入れて、ライアンに電話をかける。

 ──六回、七回。出ない。ライアンの寝起きが最悪に悪いことは知っている。一度電話を切り、またかけなおした。メールでもかまわないが、どうせまた電話がかかってくる。でもこちらは電源を切っている。延々とかけてきて、あげく説教される。で、理由を訊かれる。ただでさえ、最近は行動が怪しいと思われているのに。

 と、思ったところで、彼は電話を切った。

 ──プレゼント。土曜日。誕生日。すっかり忘れていた。どうしよう。

 そもそも、どうしようとしていたのだったか。いや、なにも考えていなかった気がする。手に入れることで頭がいっぱいだった。家に送るのが彼女の地元の慣わし──手に入れたのは昨日の夜だ。今からは当然無理。

 というか、なぜ昨日考えなかったんだ。キャシーのことを考えていたから。ああ、もう、今日中になんていうのは無理な気がする。いや、夜なら話は落ち着いているか。どこかで時間を見つけるしかない。最悪、夜中でもしかたない。

 深い溜め息をつき、ジャックは再びライアンに電話した。

 ──三回、四回。ボックスの外では、何人かの看護師や患者が行き来している。そろそろキャシーも起きるかもしれない。早く戻らないと。

 ──八回、九回。そこで呼び出し音が止み、低く不機嫌そうな声がした。

 「うるせえ」

 「ごめん」

 「土曜だぞ。もっとゆっくり寝かせろよ」そう言うと、ライアンはこちらにもわかるような大きなあくびをした。「で、なに」

 「起きてるか?」

 「起こしたのはお前だろ。ふざけてんのか」

 最高に機嫌が悪い。「頭を起こせって言ってるんだよ。今日一日、もしかしたら連絡とれないかもしれないから」

 「は? わかりやすく言え」

 「今日、ジェニーのバースデーパーティーには行けない」

 「なんで」

 再び腕時計で時刻を確かめる。七時を過ぎた。

 「どうしても。でもお前は行けよ」

 「わけわかんねえ。理由を言えよ」

 「言えな──」ジャックの目に、エレベーターのほうへと歩いていくレイシーの姿が映った。「レイ──」どこに行くのだ。

 ジャックはテレフォンボックスのドアを開けた。

 「レイシー?」

 彼女は視界から消えた。

 「ちょ、おい、今──」

 「悪い、ライアン。また連絡する」

 ジャックは電話を切って電源をおとし、エレベーターのほうへ走った。

 彼女はエレベーターの前に立っていた。

 「レイシー」

 声をかけると、彼女は眠そうな目で振り返った。

 「ジャック。どこにいたの?」

 「ごめん、電話してた。どうした?」

 「売店──喉が渇いて」

 なんだ、売店か。「財布、持ってないだろ」

 「あ」

 「一緒に行こう」

 二人はエレベーターに乗りて一階におり、売店で適当なものを買って病室へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ