表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HERO  作者: awa
Eagerness and joyride
23/48

SCENE 23

 九月一日、始業式の日。

 もう三日も前から、ジャックが自分に散々言い聞かせていた言葉。

 自重しろ。見かけても、話せる状況でも、バカなことはするな。平静だ。平静を保て。

 ──なのだが。

 寝過ごすほど平静を保ってどうするんだ。もう九時だし、今から行っても朝のHRどころか始業式にも間に合わない。両親は仕事がたまってるとかで朝早くから出かけたらしいし、始業式の日だというのに、始業式に間に合わなければ行っても意味がないような気がする。しかも昼前で学校は終わる。

 いや、でも──ジェニーに会いたい。

 ジャックは一限目と二限目のあいだの休憩時間を狙うことにし、猛スピードで支度をすると、家を飛び出してバスに乗った。

 二時限目開始のベルと同時に教室に入ってきたクラス担任と目が合い、溜め息をつかれたものの、特に怒られたりはせず、進路説明会だのなんだのという連絡事項をうわの空で聞いていた。

 よく考えれば、学校が昼前に終わる日に学校に来たところで、ジェニーに会える確率などたかがしれている。

 普通の学校なら夏休みが終わると、文化祭だの体育祭だので騒ぐところだが、この学校にはそれがない。というか体育祭はそのものがなく、文化祭は三年に一回だ。次は来年。自分たちは高校三年生になっていて、つまり受験か就職活動に主な精力を注ぐはずで、それどころではないような気もするのだが。

 「ジャック、寝てんのか?」

 腕に顔をうずめたまま目を開けると、前の席のライアンが覗き込むように自分を見ていた。ジャックは身体を起こした。

 「ん、寝てない」と言いつつも、あくびが出る。

 「いい度胸だな。遅刻してきたうえに二時限目の後半までそんなだから、担任も呆れてたぞ。っつーかオレなら絶対怒られてんのに、なんでお前は怒られないんだ」

 「日頃の行い」

 彼は思いきり背伸びをした。いつのまにか二時限目が終わったらしい。

 ライアンは自慢げな顔をした。「ここ、いい席だろ。俺がクジで引き当てたんだ」

 休憩時間の間に教室に行くと、教室の中央付近にあったはずの自分の机が、いつのまにか窓際の、一番うしろの席に移動していた。

 ジャックが小声でつぶやく。「ジェニーと同じ席」

 「あ? なんか言ったか?」

 「なんでもない」

 ジーンズのポケットの中でバイブレーションが震えていることに気づき、ジャックは携帯電話を取り出してそれを確認した。メールだ。レナから。

  《ヒマヒマヒマ。さて、ヒマは何度言ったでしょうね?》

 なんだこのメール。三回と答えれば四回が正解で、四回だと答えれば三回が正解になる。というか、まだ授業あるし、暇だとか言う時間ではない。

 メール画面を見ながら返事を考える彼にライアンが訊いた。

 「どした?」

 「女友達からメールなんだけど、なんて返せばいいかわからない」

 「相手はなんて?」

 「“ヒマヒマヒマ”」

 「誘ってんじゃねえの? バカっぽいけど。そんなもん、じゃあ一緒にホテル行こうかでいいだろ」

 ふむ。

 《じゃあ、一緒にホテル行こうか。ライアンより》

 「え、マジで送ったの?」

 キーを押してるのに気づいたらしい。「うん。しかもお前の名前を入れて」と、ジャック。

 「相手誰だよ?」

 「返事を見てからのお楽しみだな。──ほら」

 ジャックは届いたばかりのメールを彼に見せた。

  《ファック ユー》

 彼の顔はみるみるうちに真っ青になった。メール本文に対してというより、メールの送信相手がレナということにだろう。

 「シャレにならねえ」

 「シャレじゃない、と」

 ジャックはその言葉をそのまま打ってメールを送信した。

 ライアンはさすがに焦っている。「いやいやいやいやいや」

 「ごめん、もう送った」

 彼はこの世の終わりを見たような表情で頭を抱えた。

 「お前、オレが殺されてもいいのかよ」

 「刺されたら病院に連れてってやる」

 「刺されんのか、オレ」

 「盾にはなれないよ。返事きた」

 画像ファイルが添付されている。

 不安げな様子でライアンが訊く。「なんだって?」

 「ちょっと待って」

 ファイルのダウンロードが完了し、添付画像が表示されたとたん、ジャックはふきだした。顔をそむけ、肩を震わせながら声を押し殺して笑った。

 「見せろ」

 ライアンは彼から携帯電話を奪った。

 ジャックは彼の反応を確かめた。ぽかんとしている。本当にわからないらしい。

 「なんだこれ?」

 「お前だろ、原型はないけど」

 添付されていたのはライアンと思われる顔写真で、黒と赤のマジックで彼の顔がわからなくなるほどの落書きが施されていた。それを携帯電話のカメラで撮ったのだ。

 「こんなんオレじゃねえ」ライアンは投げたい衝動を抑えるかのように携帯電話を机の上に置いた。「なんでオレだってわかるんだよ」

 「左手が写ってた。レナとジェニーからもらったブレスレット、つけてただろう」

 そう答えながらジャックは笑いをおさえ、写真を見ないようにクリアボタンを押した。

 彼が不機嫌につぶやく。「人のハンサム顔を」

 自意識過剰だと言いたいところだが、間違ってはいない。黙っていれば、だが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ