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HERO  作者: awa
Race game and lost child
20/48

SCENE 20

 「あそこに輪投げがある」

 前を歩くベラが言うと、なにがなんでも勝負に勝ってレナになにかを奢らせてやると息巻いていたライアンは、彼女と一緒に屋台へと向かった。

 ノリノリだな。

 「ごめんね」いつのまにか隣にいたメリッサが、うつむいたままジャックに言った。「レナたちとパーティーのこと話してた時、あなたのことをかっこいいって言ったの、レナが覚えててくれたみたいで。夏祭りにあなたを誘うから、一緒に行こうって」肩下まであるウェーブのかかったブライト・ライト・アーバンヘアを持つ彼女の頬は、レトロな色合いのピンクの浴衣と同じくらい、ピンク色に染まっている。

 素直だ。「いいよ、楽しいし」

 彼が微笑んで言うと、彼女も照れたように笑った。メリッサはどちらかといえば地味なタイプだ。特別可愛いというわけでもないが、メイクも薄く、おとなしい。レナやベラとはほとんど正反対のタイプのような気がするし、ジェニーやハンナならまだ近いタイプと言えるかもしれないが、彼女たちと違ってメリッサはおそらく、男友達が多いわけでもないだろう。

 「ジャック、見ろ!」

 前方でライアンがテディベア型のプラスチックの貯金箱を誇らしげに見せた。彼の隣に並んだベラも、ゼンマイで動くらしい手の平サイズの赤いロボットを持っている。なぜか顔をしかめて。

 「射的で軽いもん狙って落とすほうが大量にとれる気が──」

 まだ射的をやりたいらしい。

 「お前らもやれ!」

 ライアンに急かされ、ジャックは輪投げの屋台に立った。テントふたつ分の広さで、ご親切に舞台は階段ではなく、木製の低く平らな台だ。

 一回、リング五本。五本?

 ジャックは振り返ってライアンとベラに訊いた。

 「五本投げて、ひとつずつ?」

 彼らは顔をしかめた。

 はいはい、すみませんでした。左隣にいるメリッサに訊ねる。「なにか欲しいものはある?」

 「え、ええと──」

 彼女が答える前にベラが言う。「ジャック、あれ。奥の棚にある、サングラスかけたモコモコの四角い犬のぬいぐるみ」

 ジャックは彼女が示すものを探した。おかしな物体がある。あれが犬なのか。紫色で、赤い舌を出していて、サングラスかけていて、顔が四角い。

 テント内の左端でパイプ椅子に座っている店主らしき男性が言う。「あれは三十八番、そこにある棒に入れればゲットだ」

 彼にお金を渡して、ジャックは輪を五本受け取った。

 「他は?」

 背後でライアンが言う。「お前、自信満々だな」

 自信があるわけではなかった。だが、はずす気もしない。五本のうち三本でも取れればいいほうか。

 ベラが店主に言う。「ハンサムな店主さん、彼が景品五個取れたら、もう一本おまけして」

 ジャックは少々ぽかんとした。店主はシワだらけのおそらく五十代の男性、どう見てもハンサムではない。お世辞にもそうは言えない。

 だが店主はそれに乗った。「いいぞ、五個取れたらな」

 べつにいらない気はしたが、くれるならと思いジャックはうなずいた。

 「とりあえず、三十八番ね」

 横長の台の上には白い布がかけてあり、その上に直接置かれた景品に直接輪を通すか、それ以外は番号つきの縦置きの木製キッチンペーパースタンドの棒を短くしたものに輪を通すようになっている。

 ジャックは三十八と書かれた紙が貼ってある棒に向かって輪を投げた。

 入った。

 「おお、すごい」と、ベラ。

 「次は?」

 「あれ、ベラ」ライアンが口をはさんだ。「あれ、銃型のライターじゃね?」

 彼の示す方向を見た彼女は唖然とした。「マジだ。あった。最悪」

 「なんでそっちに行ったんだ」

 「似たようなの持ってんの。昔友達にもらったやつなんだけど、友達に見せようと思って」

 「んじゃオレのぶんあれにする」ライアンが店主に訊く。「おっちゃん、あれは? 棚にある箱、銃型のなんか」

 店主は商品と番号を確認した。

 「銃型のライターだな。二十七番だ」棚の右のほうを指差す。「そっちにある」

 「ジャック、二十七番だ」

 お前かよ。「はいはい」

 ジャックは再び輪を投げた。

 入った。

 ライアンがつぶやく。「すげえ」

 コナーのことを考えればさすがに、ハンナになにかを渡すのは気まずい気がした。「ライアン、もうひとつ、お前の妹に」

 「ああ、じゃあ──」彼はまじまじと景品たちを観察した。

 「あれは?」メリッサが箱を指差す。「猫型メモホルダーって書いてある」

 彼も乗った。「お、んじゃあれにするか」

 こういう場所に喜ばれそうなものなどほとんどない。

 メモホルダーは縦長で、箱を直接狙うものだったが、ジャックはそれもなんなくクリアした。店主らしき男性の笑顔は少々ひきつっている。

 「メリッサは?」

 ジャックがやさしく訊くと、彼女は慌てて景品に目を向けた。

 「じゃあ、あれ、いいかな? 万華鏡」

 「わかった」

 そう言うと、ジャックは彼女が示した箱に向かって輪を投げた。

 「あ」

 全員が同じタイミングで言った。輪は万華鏡ではなく、隣にあった二十三番の棒にかかった。

 店主は苦笑っている。「お得だぞ。それはペンとメモ帳の二点セットだ」

 いらねえよ、と素直に思った。「もう一回」

 ジャックは再び輪を投げ、今度は万華鏡の箱にかけた。

 頬を赤くしたまま、メリッサは笑顔になった。

 「すごい、ありがとう」

 「あとは──」ジェニーとレナに、と言いたいところだが。

 「兄ちゃん、あともうひとつ取れば一本オマケだ」店主が言った。

 「ジャック、なんでもいいから取れ!」とライアン。

 ジャックは無言で台の上の景品と棚に並んだ景品を見やり、輪を投げた。水色のストーンブレスレットだ。

 メリッサが手を叩く。「すごい!」

 「ああ、おれの負けだ。ほら、もう一本」

 ジャックは店主からオマケの一本を受け取った。だが直接狙う景品にはもう、たいしたものがない。よく考えれば、五本投げきるまで新しい景品が出ないというのも、なんだか微妙だ。最終的にわけのわからない必殺名が書かれたゲームカードとわさび味のガムが並んだとしても、それを取るしかなくなるのだから。

 奥の棚を目を細めて凝視したジャックは、偉そうな顔をしたみかんのぬいぐるみの脇にある紺色の箱のようなものを見つけた。

 「おじさん、あれは? なぜか顔があるみかんの右にある、紺色の」

 「ええと──」店主は立ち上がり、棚を確認した。「ああ、見つかっちまった。これは今日一番の高級品だ」

 そう言うと、彼は箱を取って中を見せた。ゴールドの細いネックレスで、チェーンの先には小さな一対の羽根がついている。

 「それ、何番?」

 「本気か? まあいい、十番だ」

 「十番ね」

 ジャックが最後の輪を投げた約一秒後、店主が天を仰ぐと同時に後方から歓声があがった。

 歓声?

 振り返ると、数人のギャラリーが集まってジャックを見ていた。勘弁してください。

 「まったく、参るよ」

 店主は回収した景品を白いビニール袋に入れてジャックに渡し、肩を叩いた。

 「どーも」

 彼ら四人は輪投げの屋台を離れた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 メリッサが嬉しそうに言う。「すごいね、全部取っちゃうんだもん」

 「ホント、どっかの誰かさんとは大違い」と、ベラ。

 ライアンはぎょっとした。「オレ!? オレか!?」

 ジャックはメリッサと笑い、袋からメモ帳とボールペンのセット、ブレスレットとネックレスを取り出して、袋をライアンに渡した。

 「ブレスレットはレナだろ」ライアンが言った。

 「ま、そうだな。水色だし」

 「あいつ、なんで水色好きなんだろな。ワタシは氷の女王ですって自分で言ってるようなもんじゃん」

 なんだそれ。

 メリッサに万華鏡を見せてもらっていたベラが彼らに声をかけた。

 「次行こ。次こそ射的」

 そんなに射的がやりたいか。

 だがライアンは当然乗る。「よし、次は射的だ。今度は負けねえ」

 「お前とは勝負、してないよ」

 再び三番街を少し進んだところで突然、ベラが立ち止まった。

 「ねえ、あれ。Dがこっちに来てる」

 彼女は“ディラン”と呼ぶのが面倒らしく、ディランのことをDと呼ぶ。もちろん本人には了解をとっているが。ちなみにライアンは“ライライ”という愛称をつけられかけたが、全力で拒否したらしい。そういう部分でもベラの性格は謎だ。

 「ホントだ。あいつ、こういうところではいい目印になるな」ライアンが言った。「っていうか、どうしたんだ?」

 人ごみをすり抜け、慌てた様子のレナが顔を出した。

 「ジャック!」

 「レナ」

 彼女はジャックに駆け寄るとすぐ、息を切らしながら彼の両腕を掴んだ。彼は彼女の両肩を支えて受け止めた。

 「どうした?」

 「ジェニー、こっちにきてない?」

 「いや、きてないけど。はぐれたの?」

 彼女のあとを追って、ディランとギャヴィンも駆けつけた。

 慌てた様子のレナが説明する。「私たちのほう、なかなか景品があるような屋台がなくて、気づいたら三人で歩いてて、ものすごく人が多かったんだけど、ディランがいるから大丈夫って言ってたのに、私が途中で小銭を落としちゃって、三人でそれ拾ってるうちに、いつのまにかジェニーがいなくなってることに気づいて──」目に涙を浮かべている。「どうしよう、どうしよう──」

 「落ち着け、レナ。電話は?」

 彼女は首を横に振った。

 「ダメなの、あの子今日、携帯電話を家に忘れてきてて。なにげに方向音痴だし、すぐなにかに気をとられるし、待ち合わせの場所にも行ってみたんだけどいなくて、ハンナにも電話したけど見てないって言うし、こっちまできたんだけど、全然いなくて──」

 「わかった」ジャックは半泣き状態のレナの頭を撫でた。「僕が探してくる。大丈夫だから、ちゃんと見つけるから。みんなと一緒に噴水のところで待ってて」

 「ならオレも──」

 「いや、ライアン。もうすぐ花火がはじまるし、そうなったら音で電話もしづらくなる。闇雲に捜してもしかたないし、みんなと一緒にいて、広場を見ててくれ。ジェニーが来たら電話してくれればいい。こっちも見つけたら連絡する」

 そう言うと、ジャックはポケットからブレスレットを出してレナに渡した。

 「なに?」

 彼は答えず、微笑んだ。

 「レナを頼む」

 ライアンの肩をぽんと叩き、ジャックは来た道を戻った。

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