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HERO  作者: awa
Race game and lost child
18/48

SCENE 18

 気づけば昼になっていた。窓にかかった白いカーテンの隙間から、今日も真夏日ですといわんばかりの太陽の光が差し込んでいて、近所の家の木に止まっているらしい蝉が元気すぎるほどの勢いで合唱している。

 三人掛けソファには、ライアンの茶色いボサボサの髪がある。どうやらけっきょくここで寝たらしい。しかもいつのまにか、ゲストルームのベッドから上掛けまで持ってきている。取りに行くくらいならむこうで寝ればいいと思うのだが。

 ジャックはシャワーを浴びようと立ち上がり、ライアンの顔をのぞいた。よく見ると顔がにやけていて、なにか言っている。動画でも撮ってやろうかと思ったがやめた。それよりもシャワーを浴びたい。冷蔵庫の中を確認して、なにか適当に食べることにした。

 彼はライアンを残し、部屋を出てバスルームへと向かった。

 ぬるめのシャワーの中で、ジャックは昨日の自分の行動を思い出していた。

 ライアンが来る前、メールでジェニーの名前を見た時。なぜ飛び起きた? まさか喜んだのか? だが、なぜ今さら?

 おかしくなったのは、おそらくレナが送ってきた写真を見てからだ。可愛いとは思っていた、最初から。入学式の時ではなく、入学試験の時から。それでも、特別に意識したことはなかった。友達のひとりだ。なのに、あの写真を見て、試験の時のことを思い出して──。

 最近、彼女の存在に、行動に、妙に反応している気がする。去年に比べれば、会う機会も話す機会もぐっと減ってるが。

 この数ヶ月、知らなかった彼女の一面を見た。意外にもレナの悪戯に便乗し、涙が出るほど笑っていた。高校二年生にもなってブランコで遊ぶ。いや、これはレナもだが。実は男友達が多い。それは知っている。男からのハグに慣れている。ライアンのはハグというレベルではないが。モテるだろうに、恋人はいない。おそらく。

 レナはジェニーの恋愛話、なにも知らないのか。それに関して言えば、一度も話題になったことがないような気がする。聞かないほうがいいような気もするが。

 以前、ライアンに言った。レイシーとのことをちゃんと終わらせない限り、次には進めない。

 だがそもそも、ちゃんとした終わりというのがどんなものなのかがわからない。仮にレイシー以外の誰かを、ジェニーを好きになって、つきあえたとしても、またレイシーから連絡があるかもしれない。そうなれば、話の内容がどんなだったとしても、二人とも傷つけることになるかもしれない。そんなのは嫌だ。そんなことはできない。だからといって、携帯電話にあるレイシーの電話番号を消すことも、拒否することもできない。

 正直、ジェニーのことが気になっているのかというのはよくわからない。

 だいいち、友達に対しての“好き”と恋愛の“好き”はなにが違うんだ。どんな違いがあるというのだ。誰か具体的に説明してくれ。もしジェニーのことが気になっているとして、それはレイシーに対する“好き”と同じか、似たようなものだということか? さっぱりわからない。

 両親は、“愛してる”という言葉を使う。愛ってなんだ。結婚したから愛なのか? それなら、結婚するまえは愛していなかったのか? いや、愛し合っているから結婚したのだと言われたことがある。

 それなら、どこからが愛なのだ?

 ああ、もう、ダメだ。なにがなんだか。

 こんなことを考えはじめると正直、レイシーのことだって、異性として好きだったのかはよくわからない。一緒にいて楽しい、大事にしたいと思う、それだけでいいと思っていた。とんでもなく最低なのはわかっているが。

 彼女の両親が別居してからは、心配のほうが大きい。ただ、もう一度、彼女が心から笑うところを見たい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 バスルームを出てリビングに入ると、なにかの香りがした。トマトソース?

 L字型になったLDKの奥にある対面式のキッチンを覗くと、ライアンがエレンの派手なエプロンをつけ、なにかを作っていた。

 ジャックは白いタオルで濡れた髪を拭きながらキッチンのほうへ近づいた。

 「なにしてるんだ」

 「おせえよ。一時間もなにしてんだ」

 一時間? そんなに入っていたのか。「ちょっと考え事。それよりなにしてるんだよ」

 「見りゃわかるだろ、スパゲティ作ってるんだ。昨日言ったろ、俺は料理役なんだって」

 そういえばそんなこと、言っていたか。

 ライアンには七歳下の、今は小学生の妹がいて、共働きの両親の代わりに昔から、妹の面倒をひとりで見ている。妹が幼い時は目に入れても痛くないというほど可愛がり、中学にあがるまえには誰に言われるまでもなく、妹のために料理を覚えた。最近は妹もそれなりに自分でできるようになり、家で作る機会は減っているらしいが。

 ジャックはカウンタースツールに腰掛けて笑った。

 「相変わらず、エプロンも料理も似合わないよな」

 「なに言ってんだ。今の時代、男が料理するのだってあたりまえだぞ」

 彼はそう言うと、食器棚から選んだ皿に手際よく、ミートスパゲティを盛りつけた。しかもミニトマトつき。

 主婦か。

 ライアンの料理は何度も食べたことがある。妹に食べさせるまえにと、よく味見をさせられたものだ。そこに彼の妹もやってきて、ライアンが止めるのも聞かずに彼女にそれを与え、二人で顔をしかめて笑ったこともある。今はそんなことも夢だったのかと思うほど、彼の料理の腕はあがっているが。

 ライアンの用意した昼食を食べ、再びテレビゲームで時間をつぶしていると、あっという間に夕方になった。

 服選びにはなぜか、三十分もかかってしまった。人ごみでも涼しい格好、などというのはないと思うが、ライアンと騒いでいるうち、あれこれ悩んでしまったのだ。

 ジャックはタクシーで行きたいとごねたが、ライアンが許さなかった。もしかしたら女の子たちに会えるかもしれないだろう、と。

 が、そんな都合よくはいかなかった。

 メイン・ストリートからバスに乗ると、約三十分間、バスに揺られることになる。少し考えればわかることだが、夏休みだし、同じバスの中にだって、祭りに行く人間がいるかもしれない。

 なぜかほとんどが男ばかりという熱のこもった車内でなんとか席を陣取ったものの、ジャックは不機嫌そうに、ライアンは後悔にうなだれながら無言で到着を待った。

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