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HERO  作者: awa
Ugliness and confession
13/48

SCENE 13

 階段をおりる途中で、ライアンもジャックに追いついた。

 リビングに行くと、二人はさっきと同じようにソファに並んで座り、今度は雑誌を広げてなにかを話していた。さっきとは服装が変わっているエレンの首には白いタオルがかかっている。

 「母さん、ちょっと訊きたいことがある」

 ジャックが言うと、二人はまたも同時に顔を上げた。エレンはぱっと笑顔になった。

 「ライアンじゃないの。今日はもう会えないと思ってたわ」

 クリスも微笑む。「やあ、ライアン。ひさしぶり」

 「おじゃましてます」

 いつもはこんなことは言わない。

 ジャックが二人の向かいのソファに腰をおろすと、ライアンもそれに続いた。

 「訊きたいことって?」

 エレンはライアンのことを、レイシー以上に家族のように思っているので、彼の前では“母さん”と呼ばれてもなにも言わない。ライアンは彼女にとって、時々帰ってくる可愛い息子だ。

 ジャックは切りだした。「もし母さんが、嫌ってる男に突然キスされたら──どうする?」

 苛立ちと衝動に任せて意見を訊きにきたはいいものの、両親相手にキスだのなんだのという言葉を使うのは、あまり気分のいいものではない。

 とっさにクリスが身を乗り出す。

 「ジャック、お前、まさか──」

 言葉を遮った。「僕がそんなことするわけないだろ。例えばの話だよ」

 そう答えると、クリスは安心したようにソファに背を預けた。

 エレンは質問を返した。「キスだけ?」

 「そうだな、突然抱き上げてキス」

 彼女は脚を組み、腕も組んでソファに背を預けた。

 「蹴っ飛ばすわね。平手打ちもするわ。二、三発殴ってから暴漢だって叫んで、警察に突き出してやる」

 ジャックはふきだしそうになるのをこらえた。エレンの隣で、クリスも笑みを隠すように口元に手をあてて顔をそむけた。考えたことは同じだろう。“エレンならやりかねない”。

 ジャックは補足を入れた。「赤の他人なら暴漢だろうけど、知らないわけじゃないんだ。むしろよく顔を合わせるし、話もする。同じ仲間の中にいる。ただ、母さんは相手をよく思ってない」

 「同じことよ」彼女は即答し、身を乗り出した。「私に訊くってことは、被害者は女性よね」

 被害者。ジャックは横目でライアンを見た。彼は目の前にナイフを突き出されたような顔をしている。

 身を乗り出したままエレンが続ける。「ほとんどの女性にとって、キスは大事なものよ。愛する人への気持ちを伝えるものでもあり、相手と気持ちを確かめ合うものでもあるわ。私があなたたちにするキスは、男と女が唇にするキスとは少し違うけど、根本的な部分は同じものなの。時には愛情がなくても、流れだとか雰囲気だとかを言い訳にする人もいるけど、私はそうは思わない。家族でも友人でも、私は自分が愛してない人間には、たとえハグをしたとしてもキスはしない。頬にもね。キスに関して言えば、唇は自分の心の一部だもの」

 同意のしるしにクリスも静かにうなずいた。

 なにも言わずにライアンが立ち上がり、無言のままドアへ向かってリビングを出た。ジャックは追いかけずに話を続けた。

 「じゃあ、暴漢だの警察だのはなしにして、ひっぱたいたあとは?」

 「どうするかってこと? ──そうね。一週間は口をきかないわ。顔も見たくない。そういうのは、二人の気持ちがあってはじめて許されることだもの。あやまるまで許さないし、あやまっても許さない。一週間も経てば気持ちは落ち着いて話はできるかもしれないけど、許しはできないでしょうね」

 ふいにクリスが微笑み、エレンの頭を引き寄せて額にキスをした。エレンもそれに答え、彼の頬にキスを返す。クリスはエレンの手を握った。

 「こういうことだ」

 そう、こういうことなのだ。キスにしても他のことにしても、欲に任せて自分勝手にするものではない。たとえ恋人でも。

 「ありがとう」

 ジャックは立ち上がり、ドアへと歩き出した。

 「ねえ、ジャック。なんなの?」エレンが訊いた。

 「だから、カエルの王子様だよ」

 ジャックは部屋に戻ったが、そこにライアンの姿はなかった。ゲストルームのドアを開けようとしたが、内側から鍵がかかっていて開かない。なるほどと思った。打ちのめされて閉じこもったわけだ。

 彼は声をかけずに眠ることにした。時刻はすでに午前零時を過ぎている。ベッドに入り、目を閉じた。

 レナもきっと、エレンが言ったのと同じようにしたかったはずだ。殴って、蹴って、叫んで。そういえば、殴ったり蹴ったりはしてたようだが。だがそれ以上のことは、みんなの前だからか、自制心が働いたのか、もしくは驚きのほうが多かったからかで、そうはしなかった。

 ──できなかったのか? 彼女の手は震えていた。

 ジェニーが電気を消さなければ、どうなっていたのだろう。ライアンはもしかすると、電気が消えないほうがいつものノリを維持しやすかったかもしれない。もちろんレナにとっては、ジェニーの行動は唯一の救いだっただろうが。

 頭の中に、ライアンの言葉が浮かんだ。

 “ジェニーって、オレのこと好きなんかな”

 “ありえない”と思った。だが、どうしてそう言いきれる? レナはともかく、ジェニーと恋愛について話したことなどない。ライアンが抱きついた時、彼女は嫌な顔ひとつせず、笑顔だった。友達だからだと思った。

 だが、嫌でなかったというより、むしろ嬉しかったのだとしたら? 彼女がとっさに電気を消したのは、レナを気遣っただけではなく、ライアンがレナにキスするところを見たくなかったからだとしたら?

 ジャックは起き上がった。納得がいく。説明がつく。

 ──なんだか、もやもやする。これが三角関係というものなのか。ジェニーはライアンのことが好きなのか。

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