魔王様、日本征服に失敗する理由が“腐女子”だった件
数ある世界の一つ。
神々の加護を受けた勇者や聖女が護る世界。その光に満ちた世界を闇に染めようとする存在――魔王である、この私である。
……だが、問題があった。
「世界征服の難易度が高すぎる」
玉座に頬杖をつき、私はため息を吐いた。
我々、魔族は長寿である。数百年にわたり、人間側を攻めても攻めても、神々の加護を得た勇者達が代替りで現れる。対勇者戦の無限ループ──あまりにも非効率だ。
そこで目をつけたのが――異世界・地球。
その中でも、どの国とも陸で繋がらぬ孤島があった。
「文明が発達し、心も体も軟弱になった国……“日本”」
側近が差し出した情報を見て、私は確信した。
「ここを、一晩で落とす」
作戦は単純。次元を越えた大規模睡眠魔法で人類を眠らせ、無抵抗のまま支配する。こちらの世界では聖女の結界などで通じぬ戦法だが、異世界には魔法は無い。地球征服の足掛かりとしての日本征服だ。
「行くぞ」
魔法に長けた魔族達が魔力を解放する。
――そして、日本は眠りに落ちた。
……はずだった。
「報告しろ」
「はっ……99.98%の人間は睡眠状態にあります」
「残りは?」
「……起きています」
「構わん。順に落とせ」
◆
まず初めに、“社畜”と呼ばれている種族から目を付けた。
目の下に隈を作り、ポーションらしき瓶を積み、虚ろな目のまま作業を続けている。
「……寝かせろ」
術者達が魔力を一点集中させる。
「納期が、〆切が」と唱える抵抗はあったが、数分後――
「……全員が落ちました」
「当然だ」
あれは単に、生きている人間の限界を超えていただけだ。
加護持ちの人間や、我がアンデッド部隊でも、あそこまで自身を酷使する姿は見たことがない。
「社畜族──安らかに眠れ」
◆
「魔王様、まだ抵抗している人間達が存在します」
「ほう。私が直々にまとめて眠りに落としてやろう」
対象者達の脳へ、直接意識を接続する。
――そして、私は言った。
「眠れ」
それは命令であり、絶対だった。
だが。
「………………」
反応が、おかしい。
静寂なはずの思考空間に――
(なにこれ!!魔王!?)
(え、ちょっ、待って待って待って!イケボ!低音のイケボ!)
(顔面が国宝なんだが!!!!)
(無理無理無理無理好き)
(後ろの眼鏡が性癖すぎる!!)
(もしかして側近???)
(主従じゃん)
(((主従じゃん!!!!!!)))
命令が、通っていない。
それどころか、明らかに興奮している。
「貴様ら、眠れ」
(命令口調きた!!)
(ヤバいヤバいヤバい!!)
(ご褒美でしかない!!)
(デュフフフフ!!)
(むしろ目覚めた!!)
ざわめきが増幅する。
(呟かねば!)
(描かねば!)
(打たねば!)
(縫わねば!)
(今すぐ共有しないと死ぬ!)
(設定をまとめたい!)
(世界観を考察したい!)
(魔王×側近?逆もあり?)
((((捗るーーーー!!!!))))
「黙れ」
魔力をさらに注ぎ込む。
だが――
「……なぜ効かない」
眠らない。
それどころか、活性化していく。
「魔王様……魔力が急激に消費され、術者の中に倒れる者が出てきました」
「なに?」
「この者達、魔王様が命じるほど、思考が増幅し、抵抗力が上がっていきます」
(解釈違い……ならば戦争だ)
(公式もっとください)
(集団幻覚だとしても最高の供給)
(ニチャァ)
((((ありがとう世界))))
やがて。
「……限界です」
次々と術者が倒れ、側近が膝をついた。
魔力が、底をついた。
視界の向こうで、人間達はまだ起きている。
(徹夜テンションwww)
(最の高!)
(眠れるわけがない!!)
「…………撤退だ」
私は、計画を断念した。
最後まで抵抗したのは、“腐女子”や“腐男子”という生きながらに“腐敗”している種族だった。
「日本の……“腐”の者共は……危険すぎる……」
こうして、異世界征服は失敗に終わった。
敗北の原因は、魔王達の知らない概念──“萌え”であった。




