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魔王様の世界征服記録

魔王様、日本征服に失敗する理由が“腐女子”だった件

作者: 櫻井萌咲
掲載日:2026/04/29

 数ある世界の一つ。

神々の加護を受けた勇者や聖女が護る世界。その光に満ちた世界を闇に染めようとする存在――魔王である、この私である。

 

 ……だが、問題があった。


「世界征服の難易度が高すぎる」

 玉座に頬杖をつき、私はため息を吐いた。

 我々、魔族は長寿である。数百年にわたり、人間側を攻めても攻めても、神々の加護を得た勇者達が代替りで現れる。対勇者戦の無限ループ──あまりにも非効率だ。


 そこで目をつけたのが――異世界・地球。


その中でも、どの国とも陸で繋がらぬ孤島があった。

「文明が発達し、心も体も軟弱になった国……“日本”」

 側近が差し出した情報を見て、私は確信した。

「ここを、一晩で落とす」

 作戦は単純。次元を越えた大規模睡眠魔法で人類を眠らせ、無抵抗のまま支配する。こちらの世界では聖女の結界などで通じぬ戦法だが、異世界には魔法は無い。地球征服の足掛かりとしての日本征服だ。


「行くぞ」


 魔法に長けた魔族達が魔力を解放する。


 ――そして、日本は眠りに落ちた。

 

 ……はずだった。

 

「報告しろ」

「はっ……99.98%の人間は睡眠状態にあります」

「残りは?」

「……起きています」

「構わん。順に落とせ」



 まず初めに、“社畜”と呼ばれている種族から目を付けた。

 目の下に隈を作り、ポーションらしき瓶を積み、虚ろな目のまま作業を続けている。

「……寝かせろ」

 術者達が魔力を一点集中させる。

「納期が、〆切が」と唱える抵抗はあったが、数分後――

「……全員が落ちました」

「当然だ」

 あれは単に、生きている人間の限界を超えていただけだ。

 加護持ちの人間や、我がアンデッド部隊でも、あそこまで自身を酷使する姿は見たことがない。

「社畜族──安らかに眠れ」



「魔王様、まだ抵抗している人間達が存在します」

「ほう。私が直々にまとめて眠りに落としてやろう」

 

 対象者達の脳へ、直接意識を接続する。

 

 ――そして、私は言った。

 

「眠れ」

 

 それは命令であり、絶対だった。

 

 だが。

 

「………………」

 

 反応が、おかしい。

 

 静寂なはずの思考空間に――

 

(なにこれ!!魔王!?)

(え、ちょっ、待って待って待って!イケボ!低音のイケボ!)

(顔面が国宝なんだが!!!!)

(無理無理無理無理好き)

(後ろの眼鏡が性癖すぎる!!)

(もしかして側近???)

(主従じゃん)

(((主従じゃん!!!!!!)))

 

 命令が、通っていない。

 それどころか、明らかに興奮している。

 

「貴様ら、眠れ」

 

(命令口調きた!!)

(ヤバいヤバいヤバい!!)

(ご褒美でしかない!!)

(デュフフフフ!!)

(むしろ目覚めた!!)

 

 ざわめきが増幅する。

 

(呟かねば!)

(描かねば!)

(打たねば!)

(縫わねば!)

(今すぐ共有しないと死ぬ!)

(設定をまとめたい!)

(世界観を考察したい!)

(魔王×側近?逆もあり?)

((((捗るーーーー!!!!))))


「黙れ」

 

 魔力をさらに注ぎ込む。

 だが――

 

「……なぜ効かない」

 

 眠らない。

 それどころか、活性化していく。

 

「魔王様……魔力が急激に消費され、術者の中に倒れる者が出てきました」

「なに?」

「この者達、魔王様が命じるほど、思考が増幅し、抵抗力が上がっていきます」

 

(解釈違い……ならば戦争だ)

(公式もっとください)

(集団幻覚だとしても最高の供給)

(ニチャァ)

((((ありがとう世界))))

 

 やがて。

 

「……限界です」

 

 次々と術者が倒れ、側近が膝をついた。

 魔力が、底をついた。

 

 視界の向こうで、人間達はまだ起きている。

 

(徹夜テンションwww)

(最の高!)

(眠れるわけがない!!)

 

 

「…………撤退だ」

 

 

 私は、計画を断念した。

 


 最後まで抵抗したのは、“腐女子”や“腐男子”という生きながらに“腐敗”している種族だった。

 

「日本の……“腐”の者共は……危険すぎる……」

 

 こうして、異世界征服は失敗に終わった。


 

 敗北の原因は、魔王達の知らない概念──“萌え”であった。

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