06.やっぱり人食い鬼だ!
★☆★ おっさんデブータ視点 ★☆★
どさくさまぎれに彼女の血に汚れた衣服や包帯を洗う許可を貰い、俺は部屋を逃げるように後にした。
はっきりと思いだされる彼女の真っ白でけがれのない姿。
見たか?
いや、見てない! 俺は見てないぞ!
見えちゃったかもしれないけど、でも見てないんだ!
ここは記憶を上書きしよう!
どうしよう、そうだ円周率! πを思い出すんだ!
たしか、そう、
妻子のイチゴ食うに……イチゴ食う……イチゴ……、π……。
だめだ円周率! お前は煩悩に溢れすぎだ!
こうなったら記憶を消そう。消去じゃだめだ、フォーマットで完全消去だ!
…………。
……。
ふう、これで良し。俺は見なかった、何も覚えてない。うん。
無理やりひっつかんできた衣服を改めて眺める。
血まみれだ。切り裂きだって一ヶ所や二か所じゃない。
あの若さでどれだけの困難から逃げて来たんだろう。あの華奢な体でどれだけの悲しみを背負っているんだろう。
雪をいただく山上から流れてくる川の水は、身を切るほどに冷たい。
「こんなの、冷たすぎるだろうが……」
でも今の俺にできるのは、この川の水でていねいに、そしてすべてを洗い流すこと、ただそれだけだ。
★☆★ 女騎士アデラ視点 ★☆★
手渡された真新しい包帯を自分で巻き、なめしたての毛皮を頭の上からすっぽりとかぶる。
人食い鬼なのに、なぜ私を食べないの?
あとで食べるためかもしれない。もう少し太らせてからとか。
でも何だか違うような気もする。
頭の剛毛は間違いなく見られた。だから食欲が無くなったのかも。
「ははは、私って食べる価値すらないのか……」
扉を叩く音が聞こえ、返事をすると人食い鬼がゆっくりと部屋に入って来た。
うん、間違いなく人食い鬼だ。でも良く見ると、少し人間のように見えなくもない。
そう感じると、恥ずかしさがぶり返してきた。
「……見ましたよね?」
「え? 何も見てないぞ?」
そんなはずはない。
「もしかしたらちょっとだけ、いや、全然見てない、うん、間違いない!」
え? 見てないの? ほんとうに?
「そ、そんなことより、元気でしっかりとした豊かな髪だな!」
「全部見てるんじゃないですかぁ~っ!」
しばらくして彼が言ってるのは肌のことだと気づき、私はふたたび大きな叫び声をあげた。
このデリカシーの無さ、やっぱりこいつは人食い鬼だ!
オッサンの正体は、本当に人食い鬼なのか!
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