第八章 嵐の予感
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第八章です。
3人を乗せたゴーレムが、ゆっくりとケンタウロスの集落へとたどり着いた。
平原の中央に並ぶテント群からは、炊き出しの香りと子どもたちの笑い声が漂っている。
戦いの余韻が嘘のように、穏やかな時間がそこに流れていた。
そんな中、集落の中央から一人の女性ケンタウロスが姿を現した。
金色の髪を風になびかせ、鋭くも温かい瞳でこちらを見つめる。
その背筋の伸びた佇まいと纏う気配からして――どうやらこの集落の族長らしい。
「随分早かったじゃないか、ガルデア。揉め事は済んだかい?」
低く澄んだ声が響く。
「あぁ、ごめんねサラっ。ちょっとね――この子が坊やたちにちょっかいかけちゃってて。」
ガルデアがそう言ってゴーレムの頭を軽くポンと叩く。
それを聞いたサラは小さく肩を揺らして笑った。
「ハハッ、そうだったのかい。」
「すまんねぇ。人間の坊やたち。後でこの子に喝を入れておくからさー!!」
「ウホ~~~……」
ゴーレムは情けない声を出し、両腕をだらりと下げてしょんぼりとうなだれた。
ゴーレムが三人をゆっくり降ろした。
「…ここがガルデア様が言っていたご友人の野営地…」
ルシウスが辺りを見渡していた。
他のケンタウロスたちが、三人のもとに駆け寄ってきた。
「ガルデア様―!!お帰り―!!」
「あっゴリもお帰りー!!あれー?今朝より小さくなってる!まッいいか。」
「あら、人間の子ね。珍しい。」
「族長――。この子たちはガルデア様の知り合い――?」
「服がぼろぼろ!特に赤い子なんて、上半分ないじゃない!」
「きっとゴリがいたずらしたんだろ。」
「けがしてるじゃないか?」
「おーい誰か、薬と包帯、持って来てくれー!!」
ケンタウロスが心配そうに二人を見つめていた。
「えッ…!あの…。」
彼らの出迎えにビビるルシウス。
「俺ノ、心配、誰モシナイ、ウホッ。」
肩をすぼめるゴリ。
「こら!みんな、駆け寄り過ぎだよ。坊やたちが怯えているじゃないか。」
族長が皆を沈めた。
「…あはは、俺たちは大丈夫です。」
「なぁ、レオン。…レオン?」
ルシウスはレオンの方を見た。彼は俯き、身体を震わしていた。
「レオン…お前大丈夫か?」
「…うッ!うわ――ん!!」
レオンが急に大泣きした。
「…!?レオンッ!どうしたんだ!?」
ルシウスは困惑した。
「ルシウスッ!!俺たち生きてて良かったぜぇ―」
「…馬鹿野郎!急に泣き出したと思ったら、変な事言いやがって!!」
ルシウスはさらに困惑した。
「だって!! あのサラ・ヴァルレッド!に出会えたんだぜ!! “追撃のサラ”じゃねぇかッ!!
ガルデア遊撃隊のNo.2!! 生で見れんのかよッ!!
あぁ~~~すげぇぇぇぇ!!! 俺たち今日まで生きててよかったぁぁッ!! なぁルシウスぅ!!」
―”サラ・ヴァルレッド”―
ガルデアの良き友人であり、ヴァルレッド家の長。
ガルデアが戦時中、アルザリア解放軍とは別に独自の軍隊を結成した。それはやがて”ガルデア遊撃隊”と呼ばれるようになった。この遊撃隊は各種族の豪傑達で結成された少数精鋭部隊。サラはこの部隊の副隊長を務めていた。彼女の”剛脚”で敵を薙ぎ払い、”鉄壁の巨腕”の異名オーク族”グロム・グランデン”と共にガルデアの両翼として戦ってきた。戦後は一部のケンタウロスと共に伝統的な暮らし、つまり遊牧民として穏やかな日常を送っている。道中、ガルデアとゴリに出会い、今は一族と共に旅をしている。
レオンは号泣しながらルシウスに抱きつき、全身で感動を共有しようとしてくる。
涙、鼻水、汗、すべての感情を爆発させて――。
「おいっ!?、やめろ! 離せバカッ!!俺まで変に見られるだろッ!!」
「うえーんッ!!だってッ!!」
「くそッ!さっきまで、平然としていただろッ!!お前ッ!?」
「だって!!だって!!」
ルシウスは顔をしかめ、レオンを全力で剝がそうとした。レオンは今日だけで二人も伝説の英雄たちに出会え、抑えていた感動がここに来て溢れてしまったようだ。
そんな2人を見ていたサイラはぽつりと呟く。
「ねぇ、ガルデア。あの坊やたち……大丈夫?
「頭、打っちゃったんじゃない?」
「うーん……平気!。……たぶん。」
「そうかい……? ならいいけど。」
ガルデアとサラは生暖かい目で二人を見守った。
「俺、コンナ、奴ラ二、負ケタンカ…。」
ケンタウロスたちはその様子を見て、クスクスと笑い声をあげていた。
そんなやり取りが終わると、二人はサラに自己紹介した。
その後、ガルデアから事の経緯を聞き、彼女は二人が休めるテントに案内した。
ガルデアと共にテントのもとに案内された二人。そこは二人にしては広々としおり、大きなテーブルと干し草のベットが用意されていた。
「サラ様、俺たちに快適なテントを貸してくださりありがとうございます。」
「ありがとうございます!」
「よしなよ。様づけなんて。」
「それに、うちのゴリが坊やたちに迷惑かけたんだって!これぐらいして当然だよ。」
サラは笑顔で返した。
「傷はほとんど塞がっているけど、体力はまだ回復してないと思うから、ここでゆっくり休んでね。」
ガルデアが療養を促した。
「まだ、滞在するし、ゆっくり休んでいな。坊やたち。」
「後、食べ物欲しいなら言いなぁ。遠慮することなんてないからね。」
サラが手厚く歓迎した。
「食べ物は大丈夫ッす!持ってきた荷物が無事だったんで!」
「あっそうだ!!ガルデアさん!サラさん!お願いがあるんすけど!!」
「なんだい。レオン?」
「ん?」
レオンは荷物をあさり、本を取り出した。
「この本にサインして欲しいです!!」
レオンが取り出したのは”ガルデア英雄伝説 アルザリア勝利への軌跡”だった。
「「なにこれ」」
二人は思わず声が出た。
「…お前ッ…」
ルシウスは呆れた。
「あッ!これ!ガルデアさんの戦時中の活躍が書かれた本でして!人生のバイブルです!もぉー最高です!
貴方と共に戦ったとされているリグ・ブリンが書いたんですけど、ファンの間だと嘘か本当か議論されていて、本の内容が正しいどうか、二人のお話が聞きたいです!例えばp289のヴァルグラント要塞での――」
「ぐふッ!?」
ルシウスが後ろから手刀で気絶させた。
「すいません。俺が後でしめておきます。」
「あはは…。」
「ほどほどにね。」
二人は引きつって笑っていた。
「そうだ、ガルデアさん…」
「どうしたの、ルシウス?」
「お話の続きなんですけど…」
「あぁ、それ!…今はだーめ。ゆっくり休んでからにしましょう。ね。」
「ありがとうございます。そうしていただけると嬉しいです。」
ルシウスの眼には疲労が溜まっていた。
「ふふッ安静にね。…坊やたち。」
レオンとルシウスの手当をした後、ガルデアとサラはテントから出て夕食の支度を始めた。
二人の歓迎を、一族を上げて行うらしい。
「サラ。ありがとね。」
「気にするな!好きでやっているんだ!」
「ははッ!そうだった。じゃあ私、食料追加してくる!」
「あいよ。食べれる物、頼むよ。」
ガルデアは親指を立て、ゴリを連れて食料を調達しに出かけた。
ひと段落したルシウスとレオン。
「ウーン…。むにゃむにゃ…。」
干し草で快適に寝ているレオン。
ルシウスはマギポットでアミス長官のイーリスと連絡していた。
「そうですか…。ルシウス君。ご苦労様です。まさかこんなに早く見つけてくれるなんて。よくやりました。」
「ありがとうございます。ですが交渉はこれからです。…なんとしてもガルデア様を連れて帰って見せます。」
「無理は禁物です。貴方の生命が第一ですからね。」
「ありがとうございます。…国内の方はどうですか。」
「えぇ、今のところ異常はありません。まるで嵐の前の静けさみたいに…。」
「…一刻も早くガルデア様と共に帰還致します。」
「頼みました。ルシウス捜査官。」
ツーッ
長官との連絡が終了した。使用していたマギポットをテーブルに置いた。
「はぁー。」
長官の報告が終わるとどっと疲れが押し寄せてきて、干し草のベットに横たわった。
「後は…俺…次第――。」
そう呟くとルシウスは深い眠りについた。
「本日付で配属されました、ルシウス・ノルドと申します!」
…なんだこれは…懐かしいな――
「君かぁ!。ルシウス君って!俺はエリオット!」
「年は、君より上だけど、アミスに所属し始めたのはそんなに変わらないから。お互いタメってことでッよろしく!!」
「はッ…はい。」
「はははッ固いぞ―!ルシウス君ッ!!」
最初は苦手だったんだよな――
「はッ!」
「うぉ!?」
「どうしたんですか、エリオット先輩ッ!訓練だからって手加減はなしですよ!!」
「ははッ!言ってくれるじゃなの!!とうッ!!」
「えッ!?先輩ッ結婚してたんですか!」
「えッとは何だ!…しかも、もうすぐ赤ちゃんが生まれるだ。えへへ…。」
「おめでとうございます!先輩!少し不安ですが、良い父親になれますよ!」
「いぎッ!不安って、一言余計だろ…。それ妻にも言われたし…。」
「あははっ!!」
「もう笑うなぁ!!」
この頃が一番楽しかったなぁ――
「ルシウス!聞いたかッ!例の聖堂爆破事件の新情報!!」
「もちろんです!手掛かりが見つかったらしいですね。」
「あぁ!!これで奴らを捕まえられる!!」
「じゃあ、先輩も選ばれたのですね…。」
「その口ぶりじゃあ、お前もかッ!お互い気合いを入れようぜッ!!」
「…。」
「どうした、ルシウス?」
「先輩…奥様、もうすぐ出産ですよね。遠征任務、降りた方が…。」
「ばーか。お前一人で行かせられるか。…それに生まれてくるわが子に見せたいんだ。平和を守るカッコイイ父親の姿をさ。」
「…先輩!…みせましょう!一緒に!」
「おうッ!!」
ガァ――――ッ!!
ウゴォ――――ッ!!
「はぁ!はぁ!何だ…。こいつらは!?」
「本部!!本部!!くそッ連絡がつながらねぇ!!ルシウスッ!!しっかりしろ!!まだ敵が襲ってくるぞ!!」
「仲間が…次々と…。」
「はぁ!はぁ!くッ来るな。来るな――ッ!!」
ゴガァ―――ッ!!
「ッ!ルシウス!!」
グサッ―――――――
「先輩?…先輩ッ――――!!」
ここで回想が途切れた。
…だが、ルシウスはまだ暗闇に取り残されていた。
「どこだ…ここは?」
「あれはッ!」
その暗闇で見覚えのある背中を目にした。
「先輩!」
その男が振り向いた
「よう…ルシウス。」
しかしその男の顔には生気が感じられなかった。
「先…輩?」
その瞬間だった。
男が全身から血を噴き出し、ルシウスにとびかかり肩を掴んだ。
「…ッ!?先輩ッ!!何を」
「なぁ…ルシウス、俺、こんなになっちゃったよ…」
「家族も、いたのになぁ…」
「全部…全部…お前のせいだぁ…」
男の瞳から光が消え、異様な憎悪だけが残る。
「ひッ!!ちッ違うんです!先輩…俺…」
振りほどこうとしたが、手が震えて力が入らない。
必死に抗うルシウス、次第にその男の胴体に巨大な穴が空き、そこから大量の血が噴き出し、あたり一面を覆った。
「せッ…先輩…おッ…お願いです。許して…ください。」
全身が震え、目に涙をためる。
その男の身体が崩れ、やがて血だまりと同化した。
「待って!!」
ルシウスが必死に救おうとしたが間に合わなかった。
「先…輩…。」
泣き崩れるルシウス。
次の瞬間だった。
「ルシウスゥゥッ!!!」
血だまりから化け物が現れ、ルシウスを捕まえた。
その顔は、怒りと恐怖で歪み、目がどこまでも続く暗闇を宿していた。
「あぁッ!!あぁッ!!嫌ぁだぁ――――ッ!!来るなぁ――――ッ!!」
ルシウスが必死にもがく、しかしもがけばもがく程、深みにはまっていく。
「スべテェッ!!オォ前ノ、セイダアァ―――ッ!!」
化け物が叫び、ルシウスを血だまりへ引きずりこませる。
「あぁぁぁ――――ッ!!!」
ルシウスが叫びながら手を伸ばすが、暗闇がすべてを飲み込んだ。
「はぁッ!!!」
悪夢にうなされ、跳び起きたルシウス。
荒い呼吸と共に、全身から大量の汗を噴き出した。
「はぁ!はぁ!くそッ…最近見なかったのに!」
悪夢の再来に怒りと恐怖が湧いた。
ルシウスは一旦深呼吸し、辺りを見渡した。
外は既に暗くなっていた。横を見たら、レオンの姿はなかった。
――外か。
そう判断しルシウスはテントを出た。
一瞬眩しさのあまり目を閉じた。
すると、そこでは一族上げての大宴会が開かれていた。
大きな焚火を中心に、大人たちが飲めや歌えやの宴状態。
長テーブルには、色とりどりの郷土料理が並んでいた。
その料理のなかに巨大な食材を使用したと思われる料理が二つあった。
あまりの巨大さに、ルシウスは目を疑う。だが気を取り直し、焚火の方に視線を送った。
そこに、子どもたちと踊るゴリとレオンの姿があった。
「ウッホ!ウッホ!」
「ほいッ!ほいッ!ほーい!!」
ゴリが高らかに腕を上げ、踊っていた。その手には巨大な黒い角らしきものがあった。
あの戦いの荒々しさがまるで嘘のように満面の笑みをしていた。
「あの子また変なもの拾ってきたみたね。」
サラがお酒を飲んで笑いながら、呟いた。
「レオ―ン。子どもたちに、変な踊り教えないで―!」
ガルデアがからかったに声をかけた。
ルシウスはその光景を見て、微笑ましそうに呟いた。
「いつの間に仲良くなったんだ…。」
すると、ガルデアは、ルシウスが目覚めた事に気づく。
「ルシウス!こっち――!」
手を振って誘うガルデアの姿。
「ガルデアさん。」
ルシウスは小走りで近づいた。
「体調は、どう?」
心配するガルデア。
「えぇ、おかげさまで――。」
ルシウスは悪夢を見たことは話さず、気丈に振舞った。
「そう!じゃあ、宴!楽しんでね!一杯腕を振るったんだからね!」
ガルデアが嬉しそうに伝えた。
「…あれもガルデアさんが…」
ルシウスが恐る恐る指を刺したのは、二つの巨大な料理だった。
「あぁ!ッあれ。」
「ロックバードのローストとバジリスクの蒲焼!ここから結構離れた森にね。いたのよ!」
ガルデアが嬉々として伝えた。
「えッ!じゃあ、二匹とも…ガルデアさんが捕まえたのですか!?」
思わず声が出たルシウス。
「そう!私ね。旅をしながらね各地の魔獣を使った料理のレシピを収集しているの。その中でも、あの二匹は自慢料理なの。一杯食べて頂戴。」
「え…。是非…。」(その二匹って確か、危険度Aの魔獣だった気が…。)
*危険度Aは、その魔獣の住処から半径数キロには近寄ってはならないと規定されている。
内心で戦慄しながらも、ガルデアに促されるまま、ルシウスはガルデアの料理を食べた。
「ッ!美味い!全然生臭くない!皮のパリパリした食感と淡白でジューシーな味がマッチしている!味付けのハーブも絶妙だ!」
「バジリスク…蛇ってこんなにも食べやすいんだ!筋っぽいと思ったのに、飲み込めるようだ。しかも、この甘辛いタレが肉の味を引き立ててくれている!」
ルシウスは美味しさのあまり、言葉が止まらなくなる。
「へへッ!うまそうに喰っているじゃねえか。ルシウス!」
「うぐッ!?いッ、いつからいた…。」
横でニヤニヤしながらレオンが座っていた。ルシウスの顔がほほを赤らめていた。
「へへッすごいよな!ガルデアさん!料理の腕も超一流だぜ!」
「かぁ~やっぱり天才は何やらせても、凄んだなぁ~。」
レオンは関心していた。
「おッお前も、料理の腕ッ!見習え!」
「へいへい、何ならレシピ聞いてこようか~?。」
レオンがルシウスをおちょくるように言った。
「…ッ!いらんことするなッ!」
ルシウスが顔を赤らめ、目を逸らした。
「じゃあ、俺!ゴリのところに戻るわ!」
「楽しんで食べてね。ルシウス君ッ!」
レオンが去っていった。
「あいつめ…。」
「…これ…家でも作れるかな…。」
和やかな空気がしばらく続いた――その場には笑い声が溢れていた。
ガルデアがその光景を静かに見つめていた。まるで、それがいつまでも続いて欲しいと願うような眼差しで。
その瞳に薄く涙が滲んだ。――その時だった。
そこにルシウスがやってきた。
「ガルデアさん。少しいいですか?」
「えッ?あぁッ。いいわよ。」
ガルデアが慌てて目元を拭い、いつもの調子に戻った。
「…ガルデアさん、料理!本当においしかったです。内側から溢れるような元気の出る料理でした。」
「あら!それは嬉しい!」
「…ところで話が変わりますが、例の件の続き、宴が終わった後でもよろしいでしょうか。」
「…急ね。私も気になっていたし、いいけど。貴方は大丈夫?」
「はい!本当はゆっくりしたいのですが…時間が勿体ないので。」
ルシウスの声が一段と低くなった。
「…分かった。その代わり。条件が二つ!」
「一つはその話し合い。サラも参加させて貰って良い?」
「えぇ。構いません。お二人の意見を、ぜひ伺いたい。」
「ありがとね。…じゃあ二つ目は、片付けの手伝いをしてもらうこと!」
ポカンとするルシウス。
「…ええ!もちろん。何ならあいつにも手伝いさせます。」
ルシウスは笑って頷いた。
「ふふッ。よろしく!」
――宴はもうじき終わる。
それを知ってか知らずか、皆全力で楽しんだ。
宴会の後、ルシウスとレオンは片付けを手伝った。
そして皆が寝静まった夜。そこは静寂が広がっていた。
その暗闇を灯すように焚火が優しく照らしていた。
――その傍に二つの人影。
ルシウスはアミスの制服に着替え直し、その空気を切り裂くように現れた。
その顔は、宴会で見せていた柔らかい顔とは違い、信念と覚悟で満ちていた。
彼は焚火の番をしていたガルデアとサラのもとにやってきた。カップが4つ用意されており、そのうち2つからは湯気が立ち上がり、闇夜に消えた。
ルシウスが話の場に来た。
「ルシウス。片付けありがとね。」
ガルデアの言葉に、無言で頷く。
サラが聞いてきた。
「宴は、どうだった?」
「えぇ。凄く良かったです。心が暖かくなりました。」
普段よりも落ち着いた声色で言った。
「そうかい…。」
満足そうに微笑むサラ。
「ガルデアさん。サラさん。話の続き…。いいですか。」
二人に覚悟を問うた。
緊張感が走る。
「…是非、聞かせて頂戴。」
「あぁ。頼むよ。ルシウス。」
二人が承諾した。その顔は、戦場臨む戦士のそれだった。
ルシウスもゆっくりと頷き、覚悟を決めた。
すると――。
「よっこいしょ。」
レオンが平然と話し合いの場に参加した。
「ッ!!レオン――。」
レオンは手でジェスチャーをしてルシウスの発言を静止した。
「ルシウス。言いたいことは分かる。でも俺だって、この旅に命をかけてついてきたんだ。聞く権利はあるぜ。」
今日の激戦の数々が蘇る。
ため息を呟いた。
「…分かった。…ただし、口外するな」
「へへッ。もちろんだ。」
二人のやり取りを、ガルデアとサラは静かに見守っていた。
ルシウスは彼女二人の向かい側に座った。
着ていたコートの内ポケットから、マギポットを取り出し、テーブルに置いた。
そして、深く一度だけ呼吸を整えた。
「これから、皆様に見ていただきたいのは…アルザリアで起こった悲惨な事件です。」
「その主犯と思われる組織の名は―――」
「”ピュア・ブラッド”」
第九章 ピュア・ブラッドに続きます。




