第七章 旅のひととき
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第七章です。
時刻は昼下がり――
三人を乗せ、颯爽と草原を駆けるゴリ。
揺れに身を任せながら、三人は並んで腰を下ろしていた。
「なぁなぁガルデア様ッ!」
沈黙を破ったのは、やはりレオンだった。
「さっきの光!あれ何なんすか!?」
「すーッて入ってきてッ!!身体が、ぼわーッて温かいのが湧いてきてッ!!」
「一瞬で傷が塞がったと思ったら、身体まで軽くなって…!」
「とにかく理由が分からない事が一気にきた感じでした。」
興奮気味に身を乗り出すレオン。身振り手振りで伝えようとした。
「落ち着け、レオン。」
「…俺も、気になります。」
「魔法じゃない”何か”が、…俺たちの身体の内側にあった、”潜在能力”って言うのでしょうか。そんな力を呼び覚まさされた――。そんな感覚がしました。」
ルシウスが論理的に説明し、ガルデアに視線を送った。
「そう、それ!それが言いたかったっす!」
レオンの期待度が更に増した。
ガルデアは困ったように笑った。
「うーん……それはね、…秘密!。」
「えぇーッ!?」
「…ッ!。」
二人の抗議をよそに、ガルデアは笑顔で返した。
「いいのよ。坊やたちが知らなくて良いことなの。」
「まぁ、そうね。強いて言うなら、”おまじない”ってことで。ね。」
「うー!知りたかった!」
レオンは頬を膨らませた。
ルシウスは、気を取り直し、次の質問を投げかけた。
「じゃあ、俺から…」
「あなたと、このゴーレム――“ゴリ”との関係を教えてくれますか。」
ルシウスはゴリの広い背中を見つめた。
ガルデアの表情が、少しだけ柔らかくなった。
「……そうね。家族かな。」
「家族……?」
ルシウスが声を漏らす。
ガルデアは遠くの地平線を見ながら、ゆっくりと語り始めた。
「ゴリがまだ、今よりずっと小さかった頃の話よ。」
「この子は密猟者に狙われてた。」
「密猟者……」
「確か、ここ数年で、稀少価値の高い魔獣が狙われているって、アルザリア国内でも問題に上がっていました。」
ルシウスの眉がわずかに曇る。
「密猟!?こんな凶暴な奴を捕まえようとしたのか!」
レオンが背中をバンバン叩いて驚いた。
「ウホッ!!」
ゴリが怒ったような声を上げた。
「あははッ!!凶暴ね。」
「でも、ゴーレムはね。本当はおとなしい魔獣なの。」
ガルデアが説明した。
「おとなしい!?こいつが!?」
「…想像できない。」
二人は困惑した。
「ウホッ!!!」
ゴリが今度は二人に怒りを示した。
「まぁ…。この子の場合は、私の影響かもね。」
ガルデアが頭をかいて言った
「なるほど…あの強さは、ガルデア様譲りか…。」
ルシウスが納得した。
「へへッ!”親は子に似る”ってよく言いますからね!」
「あら。それ嫌味?」
レオンを睨みつけたガルデア。
「いッ!!??…ち、違います!?も、もちろん、良い意味ですよ。あはは…」
全身の鳥肌がたち、冷や汗を搔きながら、弁明するレオン。
「…馬鹿。」
ルシウスが辛辣な言葉を呟いた。
「あははッ!冗談!」
「…それで、ゴリの話だけど…」
ガルデアのトーンが低くなった。
「……その時ね。ゴリの家族は――」
ガルデアは一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。
「……皆、殺されたわ。」
レオンとルシウスが息を呑んだ。
「私が見つけた時、ゴリは瓦礫の中で必死に家族を庇ってた。」
「震えながら、それでも立ち向かおうとしてね。」
ガルデアはゴリの背を、そっと叩いた。
「密猟者は私が追い払った。」
「……でも、残ったのは、この子一人。」
「……」
二人は何も言えなかった。
「だからね。」
ガルデアは微笑んだ。
「それから一緒に旅をすることにしたの。」
「育ての親、ってやつかな。」
「だから、レオンが言った事は正しいかもね。」
ガルデアはレオンに微笑みかけた。
「うぐッ!?あはは。」
レオンは笑顔が引きつっていた。
「じゃあ、俺たちを襲ったのって」
「…家族を守る為に…」
「でも、俺たち、ゴリと今まであった事は――。」
「オレ、身体ノ、一部、色ンナ、所二、オイトク。」
「特二、人ガ、多イ、所二ハ、積極的二、置ク。」
「そうなのか!…でも何で。」
レオンが興味津々で聞いた。
「オレ、宝探シ、好キ。人間、ソノ、情報、イッパイ、話ス。」
「なるほど、情報収集の為か。」
「…じゃあ、あの村にも、お前の一部が。」
「ウホ。」
ルシウスの話にゴリが肯定した。
「聞イテ、イタラ、ガルデア、事ヲ、聞ク、放浪者イタ。」
「ソイツラ、都会ノ言葉、使ッテ、イタ。」
「都会ノ、奴ラ、嫌イ。俺ノ、家族、奪ッタ…!」
ゴリの最後の言葉には感情がこもっていた。
「…。」
「ゴリ…、お前、家族を守る為に…。」
ルシウスとレオンがゴリを見つめた。
「この子ったら…」
ガルデアはゴリを優しく撫で、微笑んだ
「ウホッ……」
ゴリが小さく声を出した。背中にいた三人の優しさを感じた。
「ガルデア、悲シマセル、奴ラ、許サナイ…。」
「ガルデア、本当ノ、家族ッ!」
ゴリが何かを察したようにガルデアに思いを伝えた。
「デモ、俺、勘違イ、シテタ。」
「レオン、ルシウス、悪イ奴ラ、ジャナイ。」
「ダカラ、オ前ラ…ゴメン。」
ゴリが二人に謝った。
「へへッ気になるな!ゴリッ!俺だって、同じような事をしたさッ!」
「あぁ、お前の気持ち、凄く分かるよ。」
レオンとルシウスはゴリの謝罪を受け取り、同情した。
それを見守っていたガルデアは健やかな顔をしていた。
「ゴリ…大きくなったね。」
その言葉はまるで、我が子の成長を見守る母親のように優しかった。
「ウホッ!!」
ゴリは誇らしげに吠えた。
「貴方たちも…ありがとう。」
「この子の事を許してくれて…。」
ガルデアは二人に感謝した。
「えッ!?…いやー!当然ですよー!!あははッ!」
ガルデアに感謝させて舞い上がるレオン。
「レオン…お前なぁ。」
「ガルデア様、感謝なんてとんでもありません。俺たちだって、ゴリの事、傷つけましたし。」
「ははッ、そうね。」
「じゃあ、お互い様ってことで…。」
「はい!」
ガルデアが手を叩き、お互いのわだかまりが解消した事を示した。
「ところで、二人とも、よくゴリの攻撃に耐えたわね。」
ガルデアが二人の戦いを誉めた。
「ははッ…耐えてたんですかね。」
ルシウスが苦笑いした。
「へへッあんな攻撃!へでもなかったッすよ!」
「それより、ガルデア様!!ゴリを遠くから攻撃した奴!!あれ――」
とレオンが言いかけた時、
「俺モ、本気、ジャナカッタ。」
ゴリがレオンの言葉に反論した。
「なッ!へへッつっ強がるなよ。ゴリ」
「オ前ノ、ヘナチョコ、パンチ、痛クモナカッタ!」
「何!?お前痛がってたろッ!!」
「演技ダ。気ズケ、ナカッタ、オ前、馬鹿。」
「何だと!!この類人猿もどきッ!!」
「ウホッ!!」
「ガルルゥッ!!」
動物同士ような喧嘩に呆れるガルデアとルシウス。
「ちょっと!?二人ともッ喧嘩はよしなさい!」
「そうだぞ!お前ら!いい加減に――」
二人の制しを無視し、レオンとゴリは言い合いをする。
「お前、ルシウスの剣に痛がっていただろ。」
「アンナ、陰険ナ奴!ヘデモ、ナイ!」
「誰が…陰険だって…」
ルシウスの額に青筋がたった。
「ルシウスッ!それは本当の事だろ!それより、こいつは俺たちの戦いを貶して――」
「どういうことだレオン!!」
「あっ!?えっと…」
「馬鹿…。口ハ禍ノ元…。」
「この…!エテ公が…!」
二人の喧嘩にルシウスが参戦し、収拾がつかないと悟ったガルデアは青空を見上げ呟いた。
「私の感動…返してよ。」
その時だった。
前方に、いくつもの天幕と焚き火の煙が見えてくる。
人影――いや、人馬の影が動いている。
「見えてきたわ。」
バチンッ!!
ガルデアが立ち上がり、火花が出るほど強い威力で指を鳴らした。
「うおッ!」
「…ッ!」
「ウホッ!!」
三人が驚き我に返った。
ガルデアが言った。
「さぁ、あんた達!もうすぐ着くわよ!」
「おおッ!!ケンタウロスたちがいっぱいいる!!……」
レオンの目が輝く。
ゴリは歩みを緩め、草原の奥へと進んでいった。
第八章 嵐に続きます。




