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第二章 英雄の手がかり

読んでいただきたいありがとうございます。

第二章です。

列車を降りると、風の匂いが変わった。

首都から約5時間、辺境の駅フロン駅の裏手に広がっていたのは、小さな村――ティア。


舗装もまばらな石畳と、かすれた看板が並ぶ静かな村だ。

戦後の復興から取り残されたような、どこか懐かしい空気が漂っていた。そこの住民の数は数十人。その内訳はご高齢の人間族とゴブリン族とドワーフ族が多くを占めていた。何人かの怪我をしたオーク族もいたが、村のよそから来ていた。今都市で起こっている事態とは裏腹に、落ち着いており、住民達が種族に関係なくお互い助かあいながら営んでいた。


2人の旅人はそのやすらぎを味わい、長い間列車に揺られた身体を解きほぐし、村の方に歩き始めた。


資料によればこの古き良き村こそがガルデアが最後に目撃された場所の事。

ルシウスは「よし、じゃあ、下っ端君、早速罪を償ってもらおうかな?」とレオンをにんまり見た。


レオンは「ッておい~。盗み見た事。まだ根に持っているわけ~。勘弁してよ。それで俺、お前の荷物持ちまでしているからな~」と弱音を吐きながら、自身の背丈より遥かに大きな荷物を持っていた。


「ふんッばーか。ごめんで済むならオーグは要らないって言うだろ。だからお前にも俺の手伝いをしてもらうぜ。」

とにやついた顔をしたルシウスは仕返しを考えていた。


「はいはい、どうせ俺はルシウス様の下僕ですよ。ッて俺は何すればいい?」とレオンは悪態をつきながら言った。


「ふッまぁ冗談はさておき、時間はないんだ。早速手分けしてガルデアの足取りを村の人達から聞いてくれ。特徴は―――」ルシウスは村の広間的な場所でマギポットを取り出し、レオンにガルデアに姿の特徴を伝えた。


「えーと。全身をボロボロの黒いマントで覆い、ぶかぶかの頑丈そうなズボンを履いていて、ダークレットな髪色をしていた…っと。んで肝心の顔は分からないッてわけか。」レオンがメモをとる。

「あぁ、戦時中、この一枚だけ、ガルデアの顔が映った写真があるわけだが…」


「なるほど30年以上前だから当てにできないっつうわけか。」レオンが納得する。


「あぁ、戦時中なんか今みたいに戸籍情報なんかなかったからな。正確な年齢は不明だけど、恐らく、50代後半から60代前半くらいか…」ルシウスは推測した。


「いやッ!”ガルデア英雄伝説”によれば、10代前半くらいから前線で猛威を奮ってたって書いてあったから、40代後半だな!」レオンはある本の情報を基に推理に加わった。


”ガルデア英雄伝説 アルザリア勝利への軌跡”

この本は、ガルデアの下で諜報活動していたゴブリン族の”リグ・ブリン”が書いた本ではないかとされ、「これは史実だぁ!」「いや内容があまりにもぶっ飛んでいており、証拠写真も極めて少ない事から創作の可能性が極めて高い!」とファンの間でも意見が分かれている。勿論、レオンは前者の方である。


「そんな毒にも薬にもならない本を当てにするなよ。」とルシウスはツッコミを入れた。


「じゃあ、そちらさんは、どうやってガルデア様を見つけたんですか~。」指摘され不貞腐れたレオンはルシウスに質問した。


「…今から2日前、この村に怪我をしたオークの集団が運ばれて来たんだ。」


「んッ!」レオンの眼が怪我をしたオーク族に向かう。ルシウスは更に続けた。


「しかも怪我して動けなくなったオーク数人を巨大な丸太二本と古い、巨大な布で急ごしらえに作った担架で同時に連れて来たらしいぜ。1人で…」


「んッ!!」レオンの驚いた眼がルシウスに向いた。


「確証はないが、もしかしたら…なッ」ルシウスがレオンにウインクして答えた。レオンの表情が輝きを増した。


「じゃあ、もしかしてッ…!」レオンが更に興奮する。


「比較的新しい目撃情報だ。もしかしたら。新しい手がかりが聞き出せるかもしれない。…というわけで頼んだぞ。相棒ッ!」ルシウスはレオンの肩を強く掴み彼に自身の厚い信頼を寄せた。

「おうッ!!」レオンもルシウスの厚い信頼と憧れの人に会える喜びを沸き立たせ、全力な返事を返した。今この瞬間凸凹コンビの捜査が始まろうとしていた。


「ところでよ。」レオンが言った。

「ん?なんだ。」

「その写真…いくら―――」

「やらんぞッ!」ルシウスはがんを飛ばし、レオンのお願いを却下した。

「…ケチッ」レオンは小声で文句を言った。

ちょっとしたいざこざがありながらも、二人は村の住民や怪我をして療養しているオーク達に声をかけていき、ガルデアの手がかりを捜索した。



ルシウスサイド――――

最初、ガルデアと思われる人物が運んできたオークの元へ聞きに言った。巨体を誇るオーク族は村の仮説テントらしき所で休んでいた。どうやら仮説のテントは担架に使用した布を再利用していた。


「(担架し使用された布、これは間違いない、ケンタウロス族が集団で寝泊まりする為のテントだ。恐らく柱もそれに使われた時のもの。…ここの村の住民達が作ったとは思えない。しかし―)」ルシウスは一抹の不安を覚えながらオーク達に聞いた。


「悪いねぇ人間の兄ちゃん!俺んたちも気を失ってて気づいたら、この村にいたのさー!あッはッはッ!」


「そうですか…(やっぱり覚えていないか)」ルシウスは頭をかきながら少しがっかりした。


「あんでも、不思議だよなぁー運ばれた時にはもう怪我がほとんど治っててさー!」


「んだんだ。あっでも少し覚えておるぞッ!」一人のオークが身を乗り出す。


いつの間にか魔獣がいなくなっていてな。そしたら小さい人間さんが優しい光出して、オラの体に触れたんだ。

ぼわーとその光が包んでまるで、体に優しく流し込んでくる感じでよ…あんれは暖かったなぁ。すぐにおいら眠くなっちまってなぁ。んで気がついたら、この村の世話になってたんだよ。」


「…光、ですか」

オーク達の語る不思議な体験にルシウスは眉をひそめた。胸の奥に、説明のつかない違和感が残る。


続いてに看護にあたった老婆にも話を聞いた。


「わしぐらいかねー。その人とちゃんと話したのは。この子たちが運ばれてきたときにはもう傷がふさがっておってな。細長い薬草を包帯代わりにしてね。わしはなんもしとらんのだよ。」


老婆は懐かしむように目を細める。


「それでね。お礼をさせてって私が頼んでも、『大丈夫だよ。』って優しく遠慮してたんだよ。まるで助けるのが当然だった感じで、ふふッわしが若かったら告白していたさ。」と少しほほを赤らめて答えた。


「はは…なるほど。」ルシウスは何とか相槌を合わせようとした。


「ありゃ、あんたッ!なかなかカッコイイじゃない。どうだい私とランデブーなんか…♡」老婆の熱い視線がルシウスに向く。


「うえッ!?い、いやッ…俺は、その…遠慮しておきッ…します。」


明らかに動揺するルシウス。それを見て助舟を出したは療養中のオーク達だった。

「よう、兄ちゃんもその人探しているんだろう?役に立てなかった俺たちが言うのもあれだが、その人にあったら代わりにお礼を言っておいてくれ。」


「俺たちはこのばあちゃんや村のためにいろいろしたいからさ!」

「おうッ!」

「んだッ!」


3人組オークはマッスルポーズを決め、元気よくルシウスに挨拶をした。


「役に立たたないなんて思っていません。

こちらこそ療養中押しかけてしまって申し訳ありませんでした。あなた方の感謝。しっかり伝えます。」ルシウスも彼らの誠意に答えるように返事しその場を去った。



レオンサイド――――


レオンはゴブリン族とドワーフ族の2人の中年に聞いていた。

「ガルデア?あぁ勿論知ってるぜッ!俺たちゴブリンやドワーフ族のそいつにとっては正に、一族の救世主ッ!、神様みたいなもんだぜッ!」


「あぁッ!大恩人様だよッ!俺たちが足を向けて寝られないお方さ!」


「くう~ッ!ガルデアは他種族の架け橋…

いやカリスマだった。ってのは本当だったんだな~ッ!!

それで!?その本人様が来た瞬間ッ!どうだった!?」


眼をキラキラと輝かせながら身を乗り出して2人を見つめるレオン。しかし、2人は気まずそうに視線を逸らした。


「ははッ実はな、前の晩?2人で酒盛りをしててよ。」

「あ~、二日酔いで思いっきり寝てたぜ。ケツ向けてな。」


「思いっきりッ、足向けてんじゃねぇかッ。」レオンの全身から、ぷしゅう、と音を立てて空気が抜けたように縮んだ。


「悪いねッ♡」2人は手を合わせ、深々と頭を下げた。



その後も2人はガルデアの足取りを住民達から聞こうとしが、印象的な出来事にも関わらず、彼女が深く関わらないようにしていたのか、みな顔を見合わせ、曖昧に首を振るばかりだった。


次第に2人の顔に諦めの色が滲み出る。そんな中、村外れの井戸のそばで、白髪の老人の姿が目に入った。

「ダメもとで…」

「行ってみるかッ!」

2人は顔を見合わせて、老人のもとへ歩み寄った。


ルシウスはマギポットを取り出し、ガルデアの写真を空中に映し出し、彼女の事を聞いた。


すると、皺だらけの手が、空中に映し出された彼女の写真をゆっくりと指さす。


「……ああ、話したよ。

フードを深く被っておったが。少しだけ顔を見たんじゃ。」


「本当ッ!?」

驚きの情報に身を乗り出しそうなレオン。

老人は驚いたように目を瞬かせ、それでもゆっくりと口を開いた。


「あぁ、そうじゃあ。こんな感じの人じゃったよ。そりゃあ優しいお嬢さんじゃったわい。ちょうど村から出るところでな。わしが食料を運んでおったら。その荷物を代わりに持ってってくれてな。」


「なるほど…」


「その後、わしの家の建付けや井戸の修繕まで、してくれてな。ありゃあ、よくできたお嬢さんじゃったよ。」


「うんうんッ!」

彼女の善行にレオンが興奮して勢い良く頷く。


「その後、わしはお礼として食料を分けようとしたんじゃが、遠慮してな。その直後くらいじゃったかな…。1人のケンタウロスが迎えに来たんじゃよ。」老人が笑顔で答えた。


「ケンタウロスッ!」ルシウスが思わず声を漏らす。


「2人の話によると…確か…あの子がまた道草を食っているとか。あと数日で移動するとか…そんなことを言っていたなぁ」


「ッ!その2人どこにいったか分かりますか!」

ルシウスが食い込むように質問した。


「うーむ…すまんの。場所までは…、ただ村から出て、この先の峠を越えると、森に入るんじゃ。そこを抜けるとな。大きな草原の方に出るんじゃよ。恐らくケンタウロスの民達はそこで野宿しているはずじゃ。あそこは、それに適しているからなぁ。」


老人の有益な情報を聞いた2人の表情は明るくなった。そしてレオンとルシウスは老人に感謝を述べた。 


「ありがとな、おじいちゃん! あっこれお礼!村で買ったりんごッ!あげるよ!」

「ありがとうございます。おじいさん。」

「えぇんじゃよ。わしも話しを聞いてくれて嬉しいかったよ。」


3人の温かなやるとりが終わり、2人はガルデア捜索に向け、老人と別れを告げようとした。

すると老人は2人に話しかけてきた。


「なぁお前さんたち…」

「なんだい。おじいちゃん。」

「ん?」

「お前さんら首都から来たんじゃろ…。最近、あそこで”怖い事件”が続いとるじゃろ。

流石にこんな田舎には被害は及ばんと思うんじゃが、道中気をつけるんじゃよ。」


「…。」

「どうした?ルシウス。」レオンが気にかけた。

「いや、何でもない。」

「…そっか。」

その言葉を聞いたルシウスはお辞儀をして老人に別れを告げた。その瞳の奥に、不安の影が宿っていた。


支度を終えた2人。

「いろいろありがとな!おじいちゃんも元気で―ッ!」

レオンは改めて感謝の言葉を言い、老人に手を振って、2人は村を出発した。


――その後のことだった。


「ふぉッふぉッ良い若者たちじゃったのぉ…。ん?」


老人が2人を見送り、家に戻ろうとした時、奇妙な小石を見た。その小石は風に吹かれるのではなく、ふわりと宙に浮き、自らの意思を持つかのように、遥か彼方に飛んで行ったのだ。


「はて…?不思議じゃのう?」

老人は立ち止まり、少し不思議がった。そして2人の遠くの背中を見つめてぽつりと呟いた。


「…気を付けるんじゃよ。」




風が吹き抜け、草の匂いが流れる。村を出て、数分2人は峠を歩いていた。


レオンはいつもの調子で口を開く。

「やったな! もうすぐ会えるッ! 英雄ガルデアにッ!」

ルンルン気分のレオンにルシウスが釘をさす。


「あんまり浮かれるな。おじいさんが言っていた事が間違っている可能性だってあるんだぞ。」


「なんだよ。あのおじいちゃんの事疑っているか~?」


「そうじゃないが…、年齢があってないだろ。おじいさんが昔のガルデアの写真見て、この人って言っていただろ。他人の空似って可能性がある。」ルシウスの論理的な分析にレオンの言葉が一瞬詰まる。


「うぐッ!でも実年齢より若い人だっているだろッ!それに優しい性格の人は他人から良く見られるぜッ!」


「まぁ…確かに…。」レオンの経験談に納得しかけるルシウス


「だからさッ。グダグダ考えても仕方ないってことだ。前向きに行こうぜ。ルシウス!。」


「…ふん。そうだな。」

友人の励ましで少し前向きになったルシウス。2人の足取りが力強くなった。


しばらくしてレオンがルシウスに尋ねた。


「なぁルシウス。もし、ガルデア様に会えたら……なんて言うんだ?」レオンはウキウキ顔で言ってきたがルシウスは冷静に答えた。


「……別に、”祖国の為に、戻ってきてください。”と誠心誠意頼むだけだ。」


「相変わらず固いなぁ。」レオンはルシウスをおちょくる。


「俺は仕事で来ているんだ。」ルシウスは淡々と答えた。


「オレなら“まじ感動っす!会いたかったっす!サインお願いしますッ!!”って言うねッ!あッ後握手とかッ!ハグしてもらえれば、うれしいなぁ!!」


恋する乙女のように語るレオンにドン引きするルシウス。彼は少し焦った様子で牽制した。


「ッ!!……それ、本人前でするなよッ!こっちまで恥じをかく…。」


「んぐッ!?わかってるってッ!冗談だよ!冗談…はははッ」


二人の何気ない会話が小道に消えていった。



――そのはるか後方。

丘の上で、岩肌のような“それ”が、じっと二人を見下ろしていた。

先ほど村を飛び去った小石が、吸い寄せられるようにその巨体へと張り付き、

鈍い音とともに一部が脈打つ。

まるで、眠っていた何かが――ゆっくりと目を覚まし始めたかのように。


第三章 追憶に続きます。

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