143話 魔法が使えない俺と邪龍ヴォルゼアス
空を切る。
尻尾から発射される、馬鹿みたいな速さの魔導砲を避けつつ接近する俺。
近づいたと思いきや、後ろからぶん回される2本のでかい尻尾の先端についてる大剣。
それをギリギリでかわしたところで、邪龍の口から黒い火炎放射が俺の行方を阻んでく。
いやー!近づけねえ!もっと速く動かないと!!
空を蹴って、更に加速する。
数うちゃ当たるの精神で放たれる、無数の光線を剣で受け流しながら、速度を何とか殺さずに近づく。
何かを悟ったのか、ヴォルゼアスは4枚のボロボロの翼をなびかせたかと思うと、強風と共に空へと飛びあがる。
こいつ、空中だと自分に分があるって思ってるかんじじゃね?
「なめんなっての!」
苛立ちを若干出しつつも、俺はさらに空へと蹴上がる。
天から降り注ぐ、雨のような魔法の塊。それだけで街を破壊できるのと同義だね。
『剣舞・水鳥流月』
自分に降りかかる魔力の雨を、乱舞によってすべて弾き飛ばす。
俺の剣を滑稽に思うかのように、大剣二本の先端から照射される、魔導砲。それも、さっきよりも威力は2倍近く上がってる感じ。
その二本のぶっといビームに向かって、剣を叩きつける勢いで振りかぶる俺。
うお!クッソ重たすぎなんだけど・・・!
魔法を斬って、ここまで圧感じたことなんてねえよ!!
って、弱音考えてる場合じゃ、ねえよっな!!!
魔導砲をぶった斬ったことで、光線はぱっくりと照射部分まで避けて、魔法は消滅する。
その後に邪龍は、大剣二本を上から叩きつけるような動作で、俺に斬りかかる。
それに対応するように、俺は斜め上方向に跳んで、すれすれでかわす。
しかし、ヴォルゼアスの口元には既に、魔力を収束していたため、尻尾をふり終わってすぐに黒炎を放つ。
やっべ!
すかさず炎を剣で防ぐ。
だが、炎だけではとどまらずに、大剣から再び太い魔導光線を2本照射し始める。
あー!!埒が明かねえなあ!
ちょっとでも油断したら、魔導砲が当たってお陀仏だし、ほんとギリギリだっつうの。
邪龍から放たれる3つの魔法によって、徐々に俺は後ろに後退してく。
この野郎、このまま俺を地面まで落とす気だろ!脳勤野郎め。
「こいつぅ!!もうちょっと歩み寄れっての・・・!!」
このままだとずっとこのままかよ。なんかいい手はないかねえ。
◇◆◇
未だに出ることが出来ない黒い空間。
しかも、身体がかなり重く感じる。
とてもじゃないが、立っていられない。
だけど、諦めたくはない。
「人間、まだ諦めがつかんか」
「何回も言わせないで。僕は出ないといけないんだ」
僕にずっと話しかけてくる、黒い龍。
ずっと一緒に居るからか、少しだけど親近感を覚え始める。
「なにが貴様をそうさせるのだ」
何がだって?
そんなの決まってるじゃないか。
「何がだって?それは仲間の為だよ」
「なかま、とな?」
「そうだよ。仲間は絶対に、僕を待ってる。大切な存在なんだ」
「仲間とは、それほど大切なものなのか?」
「当たり前だ。君にもいたじゃないか、大切なものが」
「・・・」
邪龍は語った。
邪龍はもともと、知能の高い普通の龍だった。
しかし、人間から理不尽に攻撃され、追われた。
逃げた先で、龍は少女と出会った。
少女は疲弊した自分に寄り添ってくれた。
そして、その少女は人間の手によって傷を負い、倒れた。
目の前の光景と、人間への憎しみによって力が暴走した。
それをきっかけに、龍の中で負の側面である、もう一体の邪龍が生まれたのだ。
つまり、今主導権を握っているのは、暴走によって誕生したもう一体の龍。
僕の目の前にいるのは、邪龍によってここに封じ込められた、もう一体の龍だ。
「憎しみを生むくらい、大切な物だったんだろ?なら、僕の気持ちが分かるはずだ」
「しかし、少女はもういない」
「君は諦めるのか?」
「・・・なに?」
僕は考えた。
少女は死んだのか?
聞いてる限り、少女は怪我を追って倒れただけ。
殺されたと思っているのは、邪龍の憶測ではないのかと。
「少女は、死んでいないんじゃないか?」
「ふん、死んでいるだろう。仮に、あの時生きていたとしても、我が暴れた町を破壊した時に、巻き込まれていることは、容易に想像つくだろう」
「そんなこと、確かめてないのに分からないだろ?」
そうだ、僕は一人で出たいとは思わない。
「だから、僕と一緒にここを抜け出して、少女を探すんだよ」
「正気か貴様。それに、人間なんぞの事を信用出来るものか」
「ここを出るのと、信用の問題は結び付かないよ。信用するかどうかは、出てから考えればいいじゃないか」
「・・・不思議な奴だな。邪龍と呼ばれた我に、踏み込んでくる愚か者がいようとはな」
暗い空間の中、ほんの少しだけど明るさが灯った気がした。
・・・いや、違う。
光が、光が見えるんだ。
「「クラン!」」
そして、僕を呼ぶ声と、そして・・・
「りゅーさん」
聞き覚えのある声と、それに反応する邪龍。
目を見開いて、光を凝視する。
「さあ、行こう!ここから出るんだ!」
「・・・我は」
僕は重たい身体に鞭を打って、足に力を入れて立ち上がる。
邪龍に近づき、身体に触れる。
彼から拒絶の意は感じない。
それは、ここから出たいという意思表示にもとれた。
二人で、光へと手を伸ばす。




