141話 魔法が使えない俺と餌
何だこの化け物は!
偶々この町に寄っただけなのに、 めちゃくちゃな奴がいるじゃねえか!
目の前には、黒いシルエットのドラゴンみたいなやつ。右手に剣、左手に龍の頭、そして、歪に伸びた尻尾に先端が黒く鋭い刃。
冒険者になってから、この3人であらゆる魔物を倒してきた。
恐らく俺達は、間もなくS級に上がるはずだ。
そんな俺達ですら、このよく分からないやつには危機感しか持てねえ。
というか、普通にやられちまいそうだ。今までの冒険者としての経験が、俺に危険だと知らせている。
「オリ!ベリ!俺が前に出る!気を抜くなよ!!」
「アーリ!相手は未知数だ!慎重に行け!」
「上級魔法の準備をするから、時間稼ぎ任せたわよ!」
魔法剣士の俺が前に出て、化け物と怠慢を張る。そして、オリが中距離からの弓での狙撃。その間に、ベリが魔物に向かってドカンと一発喰らわせる。
これが俺達の戦闘セオリーで、大体の魔物はこれで蹴散らしてきた。
街の人は外に避難させて、これから街の警備兵だって来る。
勝ち筋は確実にある!
「行くぞ化け物!『ブリザード・スラッシュ!』」
「穿て!『エア・アロー!』」
氷を纏う剣を化け物に向かって振りかぶる。さらに、オリが放つ風属性で強化された強弓による追撃。
まずはこれで、出方を窺う。
S級になるまでは死ねねえ!王都に戻るまではな!!
◇◆◇
歩いてから何時間か経ったかなー。
北に向かって、ひたすら平原を歩いてるけど、草と木と川しかねえなあ。
「師匠、こっちであってんの?」
「なーに言ってんの!私の魔力感知を舐めんじゃないよ。真っすぐ進んだ先に、 町が見えてくるはずだよ」
町・・・。これを聞くだけで、邪龍の考えが手に取るように分かるわ。
要は、町の住人の魔力を片っ端から吸い取る気だろ?やべーことこの上ねえってな。
「あの町は、魔道具の製造にオモキを置いてるからね。喰らいつくされたら、簡単に元の姿に戻っちまうかもねー」
「や、やばいのですー!」
「まだ、その街にはつかないのですか!」
ニナとサリスは焦りの表情を露骨に出してるね。師匠は「もーすこしかなー」って言いながら、真っすぐ遠くを見つめてる。
そう、俺と師匠は気付いてる。
やばい気配がどんどんしてきてるんだよね。
「たくやさん、どうしました?」
「なんかあったのー?」
アンジェとミュラの問いにただ俺は「うん」と答えるだけ。
なんとも言えない気持ち悪さを、言葉で表現するのが難しいんだよ。
すると、ちょっと遠いけど建物やら倉庫やらが、小さいながらも見えてきた。あれが師匠の言ってた町かも。
「師匠、もしかしてあれ?」
「そうだよ。たくやも感じるでしょう?」
「うん、邪気が来たね」
この気配、恐らく邪龍のものだと思う。でも、対峙した時とは比べ物にならないくらいの、どす黒くてどでかい気配。
雰囲気だけど、町が黒く染まってるように感じる。
多分だけど、事態は悪い方向に向かってるかもね。
◇◆◇
俺達は町に入ったけど、人の気配はまるでないね。かといって、死体が転がってるわけでもないから、多分非難が完了したとも思える。
町には、魔道具の工房と思しき建物が至る所に建ってて、師匠の言った通り魔道具の町ってのは本当の事なんだろうね。
荒らされてる形跡はない。ただ、俺と師匠は感じ取ってる。
この先に、10人くらいの人の気配と、邪龍の気配。でも、10人くらいの魔力でこんだけ邪気が強くなるもんなのかな?
「急ごうみんな、危ないかも」
俺の声に一同は賛同して、駆け足気味に目的地まで進む。
師匠?
「師匠どうしたの?」
「ああ、ちょっと先に行ってて!やることあるからー!」
あーもしかして、王都と連絡でも取るのかね?でも、どうやってやるんだろ。ちょっと気になるかも。
っと、そんなこと考えてる場合じゃねえな、急がないと!
俺達は走る。
俺自身は先に行くことできるけど、アンジェ達を置いてくのも思うところがあるし、歩調を合わせてね。
邪気がどんどん強くなって、目標地点に近づいてく。
男の声が聞こえてくる。
そして、到着。
目の前の光景に驚愕するみんな。
無理もないね。9人が地面に倒れてて、1人が辛うじて立膝で踏ん張ってるからさ。
内7人は多分この町の憲兵?だと思うけど、あと3人は誰だ?
その向こう側には、俺達が目にした邪龍の姿があるね。
でも様子が少し違う。黒いオーラみたいなものを空に伸ばしながら、天を仰いで立ち尽くしてる。
とりあえず、彼らの元に近づくか。
「大丈夫?」
「き、君は・・・?ゴフッ」
ひでえ怪我だなあ。こりゃ、邪龍にこっぴどくやられたんだろうなぁ。
「か、回復します!『オーロラ・サークル!』」
カーシャが、怪我してる奴らに対して、広範囲の回復魔法をかけ始める。すると、倒れてる奴らを囲むように、虹色の円が出現して発光。みるみる怪我が治ってくね。
やっぱ魔法って便利だよなあ。
回復してる途中の剣士っぽいおっさんに、状況を聞いてみるか。邪龍は突っ立ったままっぽいし。
「ああ、君は冒険者か?・偶然任務の帰りにこの町に来たら、あの化け物に襲われたんだ。戦っても全く歯が立たなかった。魔法が、効かないんだ・・・」
・・・まてよ。魔法が効かないって言ったか?
ということは、こいつら邪龍に向かって魔法を使いまくったんじゃ・・・
瞬間、辺りが真っ暗になったような感覚に襲われて、まるで無重力の中にいるような錯覚に陥った。
あ、やばいかも。




