第八話 前へ
朝の七時より少し前、あんずが身じろぎをした。
目を開けるより先に体が起きる。時間を覚えている。
散歩の前にご飯を出す。
待て、と声をかけると、あんずはきちんと座ったまま動かない。
視線だけが器に向いている。
合図を出すと、静かに食べ始めた。
外に出ると、あんずは横に並ぶ。
前を歩かせない。引っ張らせない。
それは普段からそうしつけてきた。
自然公園に近づき、規制線を越えたあたりで、歩き方が変わる。
速くなるわけじゃない。
ただ、横に並んでいた位置から、自然に半歩前へ出ようとする。
ダンジョンに入ると、その傾向がはっきりした。
あんずは前に出たがる。
本能なのか、理由は分からない。
一層の広場に出る。
ゴブリンが一体、こちらを見つけて走ってきた。
声はかけない。
あんずが先に動いた。
地面を蹴って距離を詰め、真正面から飛びかかる。
前足で体勢を崩し、そのまま噛みつく。
俺はその間、枝を構えたまま動かない。
頭の中で、動きをなぞる。
踏み込みの角度。
間合い。
次に自分が出るなら、どこか。
あんずが引き倒し、首を振る。
ゴブリンの動きが止まり、体が淡く光って消えた。
終わった。
二体目も同じだった。
あんずが先に出る。
俺は距離を保ち、邪魔をしない。
あんずの戦い方を見ながら、イメージだけを重ねていく。
自分が出るなら、どこで、どう動くか。
三体目が現れたところで、声をかける。
「待て」
あんずは一瞬だけこちらを見て、その場で止まる。
今度は俺が前に出る。
踏み込ませ、顔を突き、体勢が崩れたところで喉。
倒れたところに、あんずは手を出さない。
終わるのを見ている。
光が消えたあと、あんずがこちらを見る。
朝の散歩としては十分だ。
そう判断して、引き返す。
外に出ると、あんずはまた横に戻る。
ダンジョンの外では、前に出ようとしない。
家に戻ると、あんずは水を飲み、クッションに体を沈めた。
そのまま、すぐに動かなくなる。
昼前、今度は一人で出る。
枝は同じものを持つ。
一層の広場。
ゴブリンは一体ずつ。
あんずがいない分、間合いを慎重に取る。
踏み込みを待ち、顔を突き、喉を狙う。
昨日より、動かしやすい。
数値を思い出す。
器用。
知覚。
上がった分が、こういうところに出ているのかもしれない。
夕方前に切り上げ、家に帰った。
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